【14-06】年後半の経済政策
2014年 8月 4日
田中 修(たなか おさむ):日中産学官交流機構特別研究員
略歴
1958年東京に生まれる。1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信 州大学経済学部教授、内閣府参事官を歴任。2009年4月―9月東京大学客員教授。2009年10月~東京大学EMP講師。学術博士(東京大学)
主な著書
- 「2011~2015年の中国経済―第12次5ヵ年計画を読む―」(蒼蒼社)
- 「検証 現代中国の経済政策決定-近づく改革開放路線の臨界点-」
(日本経済新聞出版社、2008年アジア・太平洋賞特別賞受賞) - 「中国第10次5ヵ年計画-中国経済をどう読むか?-」(蒼蒼社)
- 「中国経済はどう変わったか」(共著、国際書院)
- 「中国ビジネスを理解する」(共著、中央経済社)
- 「中国資本市場の現状と課題」(共著、財経詳報社)
- 「中国は、いま」(共著、岩波新書)
- 「国際金融危機後の中国経済」(共著、勁草書房)
- 「中国経済のマクロ分析」(共著、日本経済新聞出版社)
- 「中国の経済構造改革」(共著、日本経済新聞出版社)
はじめに
本稿では、1-6月期のGDP成長率の動向と、これを受けた年後半の経済政策の方針について紹介する。
1.1-6月期のGDP
(1)概況
1-6月期のGDPは26兆9044億元であり、実質7.4%の成長となった。1-3月期は7.4%、4-6月期は7.5%である[1]。第1次産業は1兆9812億元、3.9%増、第2次産業は12兆3871億元、7.4%増、第3次産業は12兆5361億元、8.0%増である。第3次産業のウエイトは46.6%であり、前年同期比で1.3ポイント高まり、第2次産業より0.6ポイント高かった。前期比では、2.0%の成長となった[2]。
これを寄与率でみると、最終消費は52.4%(前年同期比で0.2ポイント高まった)、資本形成総額は48.5%、純輸出は-2.9%である。寄与度では、最終消費4ポイント、資本形成総額3.6ポイント、純輸出-0.2ポイントであった。
6月の消費者物価は前年同期比2.3%上昇し、上昇率は5月より0.2ポイント減速した。
1-6月期の都市住民1人当たり平均可処分所得は1万4959元であり、前年比実質7.1%(名目9.6%)増加した。農民1人当たり平均現金収入は5396元であり、同実質9.8%(名目12.0%)増加した。農民の収入の伸びが都市住民の収入の伸びを上回った。全国住民1人当りの可処分所得は1万25元であり、実質8.3%増(名目10.8%増)であった。
1-6月期の新規就業者増は737万人で、前年同期比で12万人増であった。6月末の都市登録失業率は4.08%であった(3月末と同水準)。
(2)目標との関係
経済成長率目標7.5%前後との関係では、4-6月期では7.5%と目標に達した。1-6月期では7.4%であるが、指導部はこれを「7.5%前後」の範囲内と判断している。
消費者物価は、2.3%と目標の3.5%以内におさまっている。
所得は農民の伸びは成長率を上回ったが、都市住民の伸びは下回った。しかし、全国平均では8.3%であったため、指導部は経済発展と同歩調で伸びていると判断している。
都市新規雇用増の年間目標は1000万人以上となっているので、1-6月期は500万人を確保すればいいわけであるが、実際には737万人となり、大きく目標を上回った。また、都市登録失業率は4.08%と、これも目標の4.6%以内におさまった。
2.党中央政治局会議
この結果を受け習近平総書記は7月29日、党中央政治局会議を開催し、下半期の経済政策を討論・検討した。
(1)経済情勢判断
今年に入り、国際情勢は錯綜・複雑化し、国内の改革・発展の任務は十分繁雑で荷が重い。党中央・国務院の正確な指導の下、各地方・各部門は18回党大会・党18期3中全会精神を真剣に貫徹実施し、中央経済工作会議の政策決定・手配を真剣に実施した。安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、マクロ政策の連続性・安定性を維持し、マクロ・コントロールの考え方と方式を刷新し、適時適度に事前調整・微調整を行うことを重視し、際立った矛盾・問題を的確に解決した。改革の全面深化によって経済発展・構造調整・民生改善・リスク解消を促進することに力を入れ、経済社会発展の総体的な平穏と調和のとれた安定を維持した。
上半期の経済運営は合理的区間を維持し、主要指標は年度の予期目標に符合しており、経済運営は平穏を維持している。改革開放の活力は増強され、発展の質は徐々に上昇し、民生の保障は着実に強化されている。同時に、内外環境は相当複雑であり、不安定・不確定要因は依然かなり多く、経済発展はなおかなり大きな試練に直面しており、経済の平穏な発展を維持するには更に多くの努力を払う必要がある。
(2)下半期の経済政策
下半期の経済政策をしっかり行うには、18回党大会・18期3中全会精神を全面的に貫徹実施し、中央経済工作会議の政策決定・手配を全面的に実施しなければならない。改革・発展・安定の均衡点を正確に把握し、短期の目標と長期の発展の均衡点を正確に把握し、経済社会の発展と人民の生活改善の結合点を正確に把握しなければならない。安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、マクロ政策を安定化させ、ミクロ政策を活性化させ、社会政策で底固めをしなければならないという基本的考え方を堅持しなければならない。
マクロ政策の連続性・安定性を維持し、経済運営における際立った問題に対しては、方向を定めたコントロールを更に重視し、当面と長期を併せ配慮した政策措置を有効に実施しなければならない。改革開放の深化を加速し、構造調整の推進に力を入れ、リスクを妥当に防止・解消し、民生政策を不断に改善して、経済の持続的で健全な発展を促進し、年間の経済社会発展の予期目標実現に努力しなければならない。
経済成長速度を正確に取り扱うことは、経済政策をしっかり行ううえで極めて重要であり、各方面の政策をしっかり行うことへの影響が大きい。「2つの百年」という奮闘目標[3]を実現し、中華民族の偉大な復興という中国の夢を実現するには、経済建設を中心とすることを堅持し、発展を党の執政・興国の第一の重要任務とすることを堅持し、経済の持続的で健全な発展を断固として推進しなければならない。これは、国家の繁栄・社会の安定・人民の幸福の重要な基礎である。わが国の発展は一定の速度を維持しなければならず、さもなくば多くの問題が解決困難となる。同時に、発展は経済ルールを遵守する科学的発展でなければならず、自然ルールを遵守する持続可能な発展でなければならず、社会ルールを遵守する包容力のある発展でなければならない。
改革を重点中の重点と位置付けることを堅持し、問題指向を堅持し、安定成長・構造調整・民生優遇・リスク防止をめぐっては、改革を早急に推進し、市場の内在的動力・活力を奮い立たせなければならない。行政簡素化・権限開放の実質的価値を増やし、投資体制改革を早急に深化させ、自然独占業種の競争的業務をできるだけ速やかに開放しなければならない。サービス業の秩序立った開放を加速し、製造業の参入制限を緩和すると同時に、開放と管理を結びつけ、市場の監督管理を強化しなければならない。
① 政・金融資源の効力をしっかり発揮させなければならない
実体経済への支援を強化し、財政・金融資源の配分を最適化し、財政・経済資金の使用効率を高め、実体経済の資金調達ルートを積極的に開拓しなければならない。
② 有効な投資を積極的に拡大しなければならない
投資のカギとしての役割をしっかり発揮させ、民間投資の潜在力を更に解き放ち、投資の質・効率向上に力を入れなければならない。
③ 消費需要の拡大に努力しなければならない
消費の基礎的役割をしっかり発揮させ、個人消費構造のグレードアップ傾向に順応して消費政策を整備し、消費環境を改善し、消費の潜在力を不断に解き放たなければならない。
④ 対外貿易の安定化に努力しなければならない
対外開放の水準を高め、対外貿易の発展を促進する政策を実施・整備し、外資を積極かつ有効に利用することを堅持し、輸出のグレードアップと貿易のバランスのとれた発展を力強く推進しなければならない。
⑤ 経済構造調整を早急に推進しなければならない
新たな経済成長スポットと地域の成長の極を育成し、イノベーション駆動の政策環境を整備し、生態文明建設を推進し、国家新型都市化計画を実施しなければならない。
⑥ 民生・社会保障等の有効な供給を増やさなければならない
人民の生活を引き続き改善し、社会保障制度を整備し、就業・起業を推進し、医薬・衛生事業を強化しなければならない。
⑦ 存在する各種リスクを正確に把握しなければならない
有効な方法を採用して異なるリスクに対応しこれを解消して、経済社会の持続的で健全な発展を確保しなければならない。
むすび
習近平総書記は7月29日、党外人士座談会において、「経済運営は合理的区間に維持され、改革全面深化は着実に秩序立てて推進された。世界経済が錯綜・複雑化し、国内経済環境に複雑な変化が出現している情況下、このような成果を得ることは十分容易ではなく、成果を十分肯定しなければならない」としながらも、「わが国の経済運営が直面している困難、とりわけ経済の下振れとリスク増大を誘発する可能性のある限界的な変化が出現していることをも見て取らなければならない。我々は時勢の動きをよく見て、内外経済情勢の変化を全面的に把握し正確に判断し、経済発展方式の転換・経済構造調整を一歩一歩着実に推進し、実際の成果を不断に得なければならない」とした。
年前半の経済がインフレ率を上限、GDP成長率・個人所得の伸び・雇用を下限とする合理的区間内に一応おさまったことにより、短期的景気刺激策の発動はとりあえず回避された。当面は支援の対象を「三農」、小型・零細企業、バラック地区居住者、大学卒業生といった社会弱者に絞り、投資を鉄道・都市インフラ建設に集中する微刺激策(中国では「定向コントロール」と呼ばれる)で景気を下支えしつつ、経済体制改革・経済構造調整を進めていくことになろう。
[1] 2013年1-3月期は7.7%、4-6月期は7.5%、7-9月期は7.8%、10-12月期7.7%である。
[2] 2013年1-3月期は1.6%、4-6月期は1.8%、7-9月期は2.3%、10-12月期は1.7%、2014年1-3月期は1.5%の成長である。
[3] 共産党創立百年で小康社会を全面的に実現し、建国百年で中国を富強・民主・文明的で調和のとれた社会主義現代国家とする。