田中修の中国経済分析
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【18-04】2018年政府活動報告のポイント(その2)

2018年5月1日

田中修

田中 修(たなか おさむ):日中産学官交流機構特別研究員

略歴

 1958年東京に生まれる。1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信 州大学経済学部教授、内閣府参事官、財務総合政策研究所副所長、税務大学校長を歴任。現在、財務総合政策研究所特別研究官(中国研究交流顧問)。2009年4月―9月東京大学客員教授。2009年10月~東京大学EMP講師。学術博士(東京大学)

主な著書

  • 「日本人と資本主義の精神」(ちくま新書)
  • 「スミス、ケインズからピケティまで 世界を読み解く経済思想の授業」(日本実業出版社)
  • 「2011~2015年の中国経済―第12次5ヵ年計画を読む―」(蒼蒼社)
  • 「検証 現代中国の経済政策決定-近づく改革開放路線の臨界点-」
    (日本経済新聞出版社、2008年アジア・太平洋賞特別賞受賞)
  • 「中国第10次5ヵ年計画-中国経済をどう読むか?-」(蒼蒼社)
  • 『2020年に挑む中国-超大国のゆくえ―』(共著、文眞堂)
  • 「中国経済はどう変わったか」(共著、国際書院)
  • 「中国ビジネスを理解する」(共著、中央経済社)
  • 「中国資本市場の現状と課題」(共著、財経詳報社)
  • 「中国は、いま」(共著、岩波新書)
  • 「国際金融危機後の中国経済」(共著、勁草書房)
  • 「中国経済のマクロ分析」(共著、日本経済新聞出版社)
  • 「中国の経済構造改革」(共著、日本経済新聞出版社)

その1よりつづき)

4.改革

 報告は「改革・開放40周年を契機として、改革でブレークスルーを得て、社会の生産力を不断に解放・発展させなければならない」とする。

(1)国有企業改革

 出資者の監督管理の権限・責任リストを制定する。国有資本投資・運営会社等の改革テストを深化させ、より多くの自主権を賦与する。国有企業の最適化・再編と中央企業の株式制改革を引き続き推進し、スリム化・健全化を引き続き進め、本業のコアコンピタンスを強化し、国有資本の強大化・最適化を推進する。混合所有制改革を積極かつ穏当に推進する。全人代常務委員会に対する国有資産管理情況報告制度を実施する。国有企業は改革・イノベーションを通じて質の高い発展の前列を歩まなければならない。

 第19回党大会で、これまでの「国有企業の強大化」から「国有資本の強大化」に表現が改められたことを受け継いでいる。

 なお、国有資産監督管理委員会の肖亜慶主任は、3月10日の記者会見において、「『国有企業の強大化・最適化』を『国有資本の強大化・最適化』に改めたことは、国有資本・国有企業改革の理念・方式の重大な転換を意味するとし、

  1. 国有資産監督管理の観点からは、企業管理から資本管理を主とするものに転換することを意味し、1)国有資本を活性化し、国有資本の授権経営体制を改革しなければならない。2)国有資本をしっかり管理し、国有資本の価値の維持・増加を促進し、国有資産の流出を防止する。3)国有資本を最適化し、国有資本をより多く、国家安全・国民経済の命脈に係るもの及び国が民生を計るための重要業種・カギとなる分野に集中し、戦略的・先端的産業に集中し、優位性のある企業に集中する。4)国有資本を開放し、混合所有制改革を推進する。
  2. 中央企業の観点からは、1)企業はより資産のより質を重視し、『ゾンビ企業』を処理し、レバレッジを引き下げ、資産・負債率を引き下げる。2)資本のリターンをより重視する。3)内包的な発展をより重視し、企業の盲目的拡張・盲目的巨大化を断固として防止・回避する。4)資本の最適化配分をより重視し、国有資本投資・運営会社のテストをさらに拡大する。」

と、説明している。

(2)民営企業の発展支援

 「いささかも揺るぐことなく公有制経済を打ち固めて発展させ、いささかも揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励・支援・リードする」を堅持し、権利・機会・ルールの平等を堅持し、非公有制経済の発展を支援する政策措置を全面的に実施し、民営企業が不満をもつ際立った問題を真剣に解決し、各種の隠れた障壁を断固として除去する。企業家が企業関連政策の制定に参加する健全なメカニズムを整備する。企業家精神を奮い立たせ保護し、企業家群を壮大にし、企業家の自信を強めて、市場経済の荒波の中で民営企業が力を発揮できるようにする。

(3)財産権の保護と生産要素の市場化された配分メカニズムを整備

 財産権制度は、社会主義市場経済の基礎である。財産権を保護し、契約を擁護し、市場を統一し、平等に交換し、公平に競争することを基本的な方向として、関連法規を整備する。財産権に対する各種侵害行為を法に基づき厳格に処分し、財産権紛争事件を法に基づき弁別して是正する。知的財産権保護を強化し、知的財産権侵害に対する懲罰的賠償制度を実行する。

 技術・土地等の生産要素価格の市場化改革を加速し、資源産品と公共サービスの価格改革を深化させ、行政独占を打破し、市場独占を防止する。有力な財産権保護、円滑な生産要素の流動によって、市場の活力・社会の創造力が競って沸き起こるようにしなければならない。

(4)財政・税制改革の深化

 中央と地方財政の権限と支出責任の区分改革を推進し、収入区分改革方案を早急に制定し、移転支出制度を整備する。健全な地方税体系を整備し、不動産税の立法を着実に推進する。個人所得税を改革する。業績効果管理を全面的に実施し、財政資金が適切・安全に用いられるようにする。個人所得税の課税最低限を引き上げる。

 なお、財政部の史耀斌副部長(当時)は3月7日の記者会見において、「中央の政策決定・手配に基づき、現在全人代常務委員会予算工作委員会、財政部、及びその他関係方面は、急いで不動産税法案の起草・整備を行っているところである。そのプロセスでは、関連する税目の整理・合理化、不動産の建設・取引段階での税・費用負担の合理的な引下げ等を考慮し、わが国の不動産税制度を合理的に設計する」と説明している。

(5)金融体制改革の加速

 金融サービス体系を改革・整備し、金融機関がインクルーシブファイナンス業務を拡大することを支援し、地域の中小金融機関を規範的に発展させ、小型・零細企業の資金調達難・資金調達コスト高の問題の解決に力を入れる。

 様々なレベルの資本市場の改革を深化させ、債券・先物市場の発展を推進する。保険市場のリスク保障機能を拡大する。金融監督管理体制を改革する。金利・為替レートの市場化改革を深化させ、合理的な均衡水準での人民元レートの基本的安定を維持する。

 なお、人民銀行の周小川行長(当時)は、4月9日の記者会見において、金融監督管理について「私個人の経験では、一部の金融監督管理には空白があり、過去の監督管理体制に空白が出現した。これらの空白は、できるだけ速やかに補完が必要である。また、金融監督管理にはルールがあるが、欠陥も現れており、金融ルールの制定が必要である。このほか、既に発生している金融機関あるいは准金融機関のリスクは早急に処理を進め、金融システムの健全性を維持する必要がある。これらの政策の一部は人民銀行がリードしなければならない」とする。これが銀行保険監督管理委員会の設置と、法案策定作業とプルーデンス管理の人民銀行への移管につながっている。

 また、人民元の国際化については、「中国は着実に、漸進的に、資本項目の兌換化を推進するが、兌換化以後、なおいくらか個別方面の規制が存在することになる。これらの規制も徐々に秩序立てて開放し、開放以後は人民元の国際化は、一層前へと踏み出すことになる」としている。

(6)社会体制改革を推進

 年金保険制度改革を深化させ、企業従業員基本年金保険基金の中央による調整制度を確立する。公立病院の総合改革を深化させ、医療価格、人事・給与、薬品の流通、医療保険支払いの改革を協調的に推進し、医療・衛生サービスの質を高め、大衆の医療難の問題解決に努力する。教育・文化・スポーツ等の改革を深く推進し、社会分野の巨大な発展潜在力を十分発揮させる。

(7)健全な生態文明体制の整備

 生態環境管理制度を改革・整備し、自然生態空間の用途規制を強化し、生態環境損害賠償制度を推進し、生態補償メカニズムを整備し、より有効な制度によって生態環境を保護する。

5.開放

 報告は、「開放の範囲・レベルをさらに広げ、開放の構造・配置と体制メカニズムを整備し、ハイレベルの開放により質の高い発展を推進する」とする。

(1)「シルクロード経済ベルト・21世紀海のシルクロード」(一帯一路)国際協力の推進

 共に協議・建設し、成果を共有することを堅持し、「一帯一路」国際協力サミットフォーラムの成果を実行する。

 国際的な大動脈の建設を推進し、沿線諸国と通関業務の効率化について協力を進める。国際生産能力協力を拡大し、中国の製造業・サービス業の海外進出を牽引する。対外投資構造を最適化する。西部・内陸・国境地域の開放を強化し、国境をまたぐ経済協力区の発展水準を高め、開放協力の新たな空間を開拓する。

(2)外資の安定的な伸びを促進

 国際的に通用する経済・貿易ルールへのリンクを強化し、一流のビジネス環境を建設する。

 一般製造業を全面開放し、電信・医療・教育・養老・新エネルギー自動車等の分野の開放を拡大する。銀行カード決済などの市場を順序立てて開放し、外資保険ブローカーの経営範囲規制を開放し、銀行・証券・基金管理・先物取引・金融資産管理会社等の外資持ち株比率の規制を緩和あるいは廃止し、中国資本・外資銀行の市場参入基準を統一する。

 国外投資家が国内で利潤を再投資した場合には納税を繰り延べる。外資企業の設立手続を簡素化し、商務部門への届出と工商部門への登記を一括処理する。自由貿易試験区の経験を全面的にコピーし、自由貿易港の建設を模索し、改革・開放の新たな高地を作り上げる。

(3)対外貿易の安定の中での好転の勢いを強固に

 輸出信用保険のカバー率を拡大し、全体の通関時間をさらに3分の1圧縮する。サービス貿易の発展メカニズムを改革する。加工貿易を中西部に段階的に移転する。自動車・一部日用消費財等の輸入関税を引き下げる。報告は、「我々は、より強く市場を開放し、産業のグレードアップと貿易のバランスのとれた発展を促進し、消費者のためにより多くの選択を提供する」としている。

(4)貿易・投資の自由化・円滑化を促進

 報告は、「中国は断固として、経済のグローバル化を推進し、自由貿易を擁護する」「中国は平等な協議を通じて貿易紛争を解決し、貿易保護主義に反対し、自身の合法権益を断固として守る」とする。米トランプ政権の保護貿易主義的政策を意識してのものであろう。

 このほか、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の妥結、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)・東アジア共同体の建設を急ぐとする。

6.3大堅塁攻略戦

 特に重要なのは、重大リスクの防止・解消である。これについては、「現在、わが国経済金融リスクは総体としてコントロール可能である」「わが国経済のファンダメンタルズは良好で、政策手段が多く、システミックリスクを発生させない最低ラインを、完全にしっかり守ることができる」とし、次の対策を挙げている。

(1)金融面

①違法な資金調達、金融詐欺等の違法犯罪活動を厳しく取り締まる。

②市場化・法治化された債務の株式転換と企業の合併再編を加速する。

③金融機関のリスクの内部コントロールを強化する。

④金融監督管理の統一的企画・協調を強化し、シャドーバンキング・インターネット金融・金融持株会社等への監督管理を健全化し、金融監督管理を一層整備し、監督管理の機能を一層向上させる。

 なお、人民銀行の周小川行長(当時)は、3月9日の記者会見において、「我々は、これまで見られた債務の伸びがかなり速い情況が、現在は既に平穏となっていると感じている。このため、総量においてレバレッジを安定させ、徐々に引き下げる段階に入っている。この過程において、中央銀行と監督管理機関は、共同でシャドーバンキングの業務を圧縮し、一部のシャドーバンキングを銀行システムの簿内業務に戻す」とする。

 また、潘功勝副行長は、不動産金融のリスクについて、「銀行業の不動産融資の不良債権比率は1%に満たず、銀行全体では1.85%(政策性銀行を除くと1.74%)である。個人住宅ローンの不良債権比率は0.3%にすぎず、平均の頭金比率は33%以上であり、昨年の新規貸出の平均頭金比率は37%である。これは、国際的にも非常に慎重かつ周到な住宅融資政策である。当然、我々は個人住宅ローン、家計部門のレバレッジ率の伸びの速度が少し速いことに関心を払っており、個別の不動産企業は財務方面でリスクが存在する可能性があり、これらには密接に関心を払っている」と述べている。

(2)地方政府債務リスクの防止・解消

①各種の法規に違反した借入れ・担保等の行為を厳禁する。

②省レベル政府に管轄区域の債務に総責任を負わせ、省レベル以下の各レベル政府はそれぞれに責任を負い、債務残高を積極かつ穏当に処理する。

③健全で規範的な地方政府の起債による資金調達メカニズムを整備する。

 2018年度は、特別地方債1.35兆元を計上し(前年度比5500億元増)、建設中のプロジェクトを優先して平穏な建設を支援し、特別地方債の使用範囲を合理的に拡大する。

 その他の2大堅塁攻略戦のうち、脱貧困は、今年は農村貧困人口をさらに1000万人以上減らし、他の土地への移転による貧困支援を280万人達成するとしている。

 環境対策では、「青空防衛戦の成果を強固にする」とし、二酸化炭硫黄排出量3%減、窒素酸化物排出量3%減、PM2.5濃度の継続引下げ、化学的酸素要求量2%減、アンモニア性窒素排出量2%減、などの目標を掲げている。

(おわり)