【16-06】不動産バブル
2016年10月11日
富坂聰(とみさか さとし):拓殖大学海外事情研究所 教授
略歴
1964年、愛知県生まれ。
北京大学中文系中退。
「週刊ポスト」(小学館)「週刊文春」(文芸春秋)記者。
1994年「龍の『伝人』たち」で第一回21世紀国際ノンフィクション大賞受賞。
2014年より現職。
著書
- 「中国人民解放軍の内幕」(2012 文春新書)
- 「中国マネーの正体」(2011 PHPビジネス新書)
- 「平成海防論 国難は海からやってくる」(2009 新潮社) ほか多数
国慶節をはさんだ大型連休の最終日、中国国家旅游局はこの大移動期の統計を発表。この期間に旅行に出かけた人の数は5億9300万人で対前年比12・8%の増加となり、堅調な旅行関連の消費も伸びて、対前年比14・4%の増加となり金額にして4822億元に達した。また海外旅行に出かけた人も600万人となり、いずれの数字も史上最高をマークしたのだった。
数字を見る限り中国人の生活にオールドエコノミーの減速の影響は見当たらない。だが、こうして消費を楽しむ中国人観光客の勢いを報じた多くのニュースの裏側では、少し心配なニュースもみつかる。
それが中国主要都市の不動産価格の動きを伝えるニュースだ。
まず先陣を切ったのが中国の不動産王として知られる王健林大連万達集団董事長が米CNNのインタビューに応じ、いま中国の主要都市で起きている不動産価格の高騰を「史上最大のバブル」と語ったことだ。
王氏は不動産業で財を築いた人物で、米週刊誌『フォーブス』のランキングや胡潤研究所が発表する富豪トップ100で常に三本の指に入る常連として知られる人物だ。自然、不動産市場には最も敏感な一人とみなされてきた。
その王氏はまず現状の価格高騰を「経済学者は一人として現状を説明できない」として価格高騰に理由が見つからないことを指摘した。記事では北京を例に、もし西城区に100平米の中古マンションを持っていたとしたら、今年2月には1平米7万元であったマンションの価格は、8月には9万元にまで上がっていたとして、「半年で200万元も上がった」とバブルの実態を解説している。
もちろん、これが中国経済のハードランディングの予兆だとの解釈は否定している。だが、異常な事態であるとの認識ではあるということなのだろう。
この王氏のとらえ方は不動産価格の高騰を細心の注意を払い見守る当局も共有しているようで、この国慶節休暇の間中、各地方が矢継ぎ早に不動産の購入制限の政策を打ち出しているのだ。
その皮切りとなったのが江蘇省南京市である。実は、今回の不動産価格高騰は、従来の常連である深圳、上海、北京など全国区の大都市から地方を代表する省都クラスの都市へと中心が移っていることが一つの特徴――もちろん深圳、上海、北京でも高騰は続いているのだが――となっているようなのだ。なかでもとくに前述した南京市に加え福建省厦門市、安徽省合肥市、そして南京と同じく江蘇省の蘇州市の四つである。
現在のこれら四つの都市を称して「不動産価格四小龍」と業界では呼ぶという。
その南京が9月25日に、南京以外に居住する者ですでに不動産を所有する者や南京在住者でも2つの不動産を所有している者の新たな不動産購入を禁じるなどの「購入制限政策」を打ち出したのだ。
この前後に各地方政府が独自の対策に乗り出したのだが、それが加速したのが実はこの国慶節の期間であった。
結果、国慶節の休みが明けた時点(9月30日から10月7日まで)で全国で不動産購入に対し新たな制限を加えた都市は20都市に達したというのだ。
中国の不動産価格への対応は、これまで細かくたくさんある蛇口を開閉する方法で引き締めと緩和を微妙に繰り返してきたのだが、昨年末、ついに主要70都市の不動産価格が16カ月ぶりに全面的にプラス成長に転じて以降は、ほぼ上がりっぱなしの状態が続いてきたのである。
こんな右肩上がりの状況に対して国内のメディアは、「中国の不動産価格は今後も高騰か? それとも暴騰か?」といった見出しを付けて紹介したほどだ。
そして国慶節が本格的に開けた10月7日には一部で消費者が不動産購入を手控える動きが顕著に確認されたのである。
10月8日付『人民日報』の記事、〈不動産市場は一夜にして変化! 新築物件の予約数が急減 中古マンションの解約続く 多くの地区で売買数が減速〉によれば、10月7日の南京市では、マンションの予約数が84件、売買成立が142件だった。これはそれまでの平均とされる300件から500件に比べ大きく減速したといえるのだろう。
不動産価格の急落は、昨年起きた株価の大暴落とは比較にならない衝撃が予測されるだけに目が離せない。