露口洋介の金融から見る中国経済
トップ  > コラム&リポート 露口洋介の金融から見る中国経済 >  【17-01】CFETS指数の拡充

【17-01】CFETS指数の拡充

2017年1月31日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):
信金中央金庫 海外業務支援部 上席審議役

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。同年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)など。

 2016年12月29日、上海にある中国外貨交易センター(CFETS)は、自身が公表している3種類の人民元名目実効為替レート指数(CFETS指数、BIS指数、SDR指数)のうち、CFETS指数とSDR指数の構成通貨とウエイトを見直し、2017年1月1日から適用する旨の公告をウエブサイトに掲載した。

BIS指数とSDR指数

 BIS指数については、BISが試算している人民元名目実効為替レートに使用されている各通貨のウエイトを使用しており、こちらが変更されていないためCFETSが公表するBIS指数についても通貨やウエイトの変更は行われなかった。

 SDR指数については、IMFがSDR構成通貨に人民元を加えて2016年10月1日から新しい構成を施行したことに伴って、ウエイトを見直したものである。人民元を加えた5通貨の新ウエイト(ドル41.73、ユーロ30.93、人民元10.92、円8.33、英ポンド8.09)から人民元のウエイトを除いて、他の4通貨で比例配分(ドル46.85、ユーロ34.72、円9.35、英ポンド9.08)したウエイトが採用されている。

CFETS指数拡充の背景

 CFETS指数については構成通貨が従来の13通貨から11通貨増加し、全部で24通貨となり、ウエイトも変更された。従来の通貨と新規通貨は以下のとおりである。

 (従来の通貨:13通貨)ドル、ユーロ、円、香港ドル、英ポンド、オーストラリアドル、ニュージーランドドル、シンガポールドル、スイスフラン、カナダドル、マレーシアリンギット、ロシアルーブル、タイバーツ(このうちタイバーツは雲南省の銀行間市場でのみ地域的に取引されている)

 (新規通貨:11通貨)南アフリカランド、韓国ウォン、UAEディルハム、サウジアラビアリヤル、ハンガリーフォリント、ポーランドズロチ、デンマーククローネ、スウェーデンクローナ、ノルウェークローネ、トルコリラ、メキシコペソ

 新規11通貨のウエイトは21.09%であり、その分、従来のそれぞれの通貨の新ウエイトは低下している(スイスフランのみ上昇)。ドルのウエイトは26.40から22.40に低下した。

 CFETS指数は2015年12月11日にCFETSが公表を開始した。その時点での構成通貨は前掲の13通貨であり、今回追加された11通貨はその後CFETSにおける人民元の取引通貨として新たに認められた通貨である。中国では、銀行間為替取引はCFETSに集中して行わなければならず、そこで取引できる通貨は制限されている。今回、基本的に2016年12月29日の段階で、CFETSにおいて人民元の取引相手通貨として認められている通貨がCFETS指数の構成通貨となったのである。CFETSは今後、毎年末に3種類の指数の構成通貨やウエイトを見直すとしている。

直接交換取引が理由

 さらに、それぞれの通貨がCFETSにおける人民元の取引相手通貨として認められた理由は、それらの通貨と人民元との直接交換取引が開始されたからである。2012年6月に円・人民元直接交換取引が開始した時に、人民元とドル以外の通貨の直接取引の仕組みが整えられた。2014年10月の本コラム で述べたが、銀行間為替市場で人民元がドル以外の通貨と売買取引される場合、それまでは、人民元とドルとの売買、ドルと当該通貨との売買の2つの取引に分割されて行われることが一般的だった。それは、ドル以外の通貨の場合、人民元と当該通貨の売買の相手側が容易に見つからなかったからである。また、CFETSで取引通貨として認められていない通貨の場合は、人民元とドルで売買を行い、ドルと当該通貨の売買は海外銀行間市場で行われていた。

 そこで、CFETSでは人民元との直接交換取引を開始する場合、人民元と当該通貨の売買専門のマーケットメーカーとなる銀行を複数指定した。マーケットメーカーは常時人民元と当該通貨の売買価格を提示し、他の銀行がその価格での売買を望む場合、原則として応じなければならない義務を負うこととした。このような制度を整えることによって、人民元と当該通貨を売買したいと望む銀行は常に取引の相手となる銀行を見つけられることとなったのである。そしてこのようなシステムで人民元との直接交換取引がなされるためには、当該通貨はCFETSにおいて人民元の取引相手通貨として認められる必要がある。従って、人民元との直接交換取引が開始された通貨がCFETSにおいて取引される通貨となり、CFETSで取引される通貨が、CFETS指数の構成通貨となったという因果関係となる。

 CFETSのウエブサイトを見ると、2015年12月11日にCFETS指数の公表が始まった後、2016年6月20日に南アフリカランドが人民元の直接交換取引を開始し、CFETSにおける人民元の取引相手通貨となった。次いで6月27日に韓国ウォン、9月26日にUAEディルハム、サウジアラビアリヤルとの直接交換取引が開始され、11月14日には従来からCFETSの取引通貨だったカナダドルとの直接交換取引が開始された。その他の7通貨については2016年12月12日に一斉に直接交換取引が開始された。

過度の米ドル依存からの脱却

 CFETS指数の米ドルのウエイトが低下したことによって、人民元の対米ドル為替レートがより弾力的に変動できるようにすることが、今回のCFETS指数の拡充の目的にも見えるが、上に述べたように、直接交換取引が指数見直しのそもそもの理由であることを考えると、対ドル為替レートは本質的な要因ではない。銀行間為替市場における為替交換取引において、米ドルを介在させると、コストも高くなるし、決済がニューヨークで行われるため、時差リスクも生ずる。直接交換取引にするとコストとリスクが低下し、中国と当該通貨発行国との間の取引も人民元か相手側通貨で送金決済される可能性が高まり、米ドルによる対外決済を抑制しうる。今回の措置は、為替レートだけの問題ではなく、対外取引や銀行間為替市場の取引での米ドルへの過度の依存からの脱却を目的とした、より根本的な施策の結果であるとみるべきである。