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【18-01】日本の対中直接投資の動向

2018年 1月29日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):
日本大学経済学部 教授

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。信金中央金庫を経て、2017年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)など。

 2年ほど前の当コラム(2016年3月) で、日本の対中直接投資の動向について紹介したが、昨年少し変化が見られたので、もう一度その動向を概観してみたい。

2017年の日本の対中直接投資は増加

 日銀のホームページ上で公表されている国際収支統計の中の国別直接投資の数字をみると、日本の対中直接投資金額は2017年1~9月で7,793億円、前年同期比16.3%の大幅な増加となっている。四半期ベースでみると2015年10~12月に前年同期比マイナスに転じた後、2016年7~9月にプラスとなり、2017年7~9月まで前年比プラスが続いている。中国側統計でみると、2013年以降前年比減少が続いていたが、同じく2016年7~9月以降増加に転じ、2017年に入っても9月までのトータルで増加を示している。日本側統計は2014年にIMF国際収支マニュアル第6版準拠に移行したため統計が連続していないが、2015年が増加となっており、中国側統計とは少し異なった動きを示している。

(日本の対中直接投資額)
(資料) 日本銀行「国際収支統計:業種別・地域別直接投資」、2013年まではIMF国際収支マニュアル第5版準拠、2014年以降は同第6版準拠。中国側統計:商務部「全国吸収外商直接投資状況」、実際使用外資金額。
  2012 2013 2014 2015 2016 2017/1-3 2017/4-6 2017/7-9 2017/1-9
日本側統計
(億円)
10,759 8,870 11,055 11,522 9,843 2,830 2,696 2,267 7,793
前年比(%) 7.1 -17.6   - 4.2 -14.6 33.8 8.5 7.9 16.3
中国側統計
(億ドル)
73.8 70.64 43.3 32.1 31.1 9.4 7.9 6.2 23.5
前年比(%) 16.3 -4.3 -38.7 -25.9 -3.1 -6.9 11.3 12.7 3.5

 2016年3月の当コラム では、2015年の対中直接投資について中国側統計では大幅に減少しているが、日本側統計では大きく増加しているという点を指摘した。その後、日本側統計が改訂され、増加幅は縮小したが、2015年に前年比で増加している点は変わらない。

 このように、日本側統計と中国側統計の乖離が目立つのは、2つの統計の性格が異なるためである。中国側統計は外商投資企業という商務部が管轄する企業についての統計であり、外資の出資比率25%以上の企業を対象としている。これに対し、日本側統計は国際収支統計であり、IMFの国際収支マニュアルに従って、外資の10%以上の出資を直接投資として計上している。また、中国側統計は商務部管轄の統計であるため、銀行業監督管理委員会などの管轄の金融機関は含まれていない。さらに中国側統計は再投資収益を含まないなど様々な違いが存在する。金額をみると例えば2016年では日本側統計が1兆円近い金額であるのに対し、中国側統計は約30億ドルであり、円換算すると3000億円台程度で、日本側統計のカバー範囲がはるかに大きいことがわかる。

 中国に対する日本からの直接投資動向をみるのに、中国側の商務部統計が使われることが多いが、日本側統計のほうがより実態を示すのに適していると思われる。ただ、どちらの統計を見ても2016年後半から、日本の対中直接投資は増加を示している。

業種別では輸送機械器具が増加を主導

 日本側統計で、2017年1~9月の業種別の直接投資額の増加の内訳を見ると、製造業が大きく伸びており、寄与度で見ると、全体の16.3%のうち15.5%が製造業である。さらに細かく見ると、食料品、化学・医薬なども前年比で増加しているが、寄与度で見ると製造業では輸送機械器具、電気機械器具、非製造業では卸売・小売業が全体の伸びに大きく貢献していることが判る。

(日本の対中直接投資額:業態別、2017年1~9月)      単位 億円、%
(資料)日本銀行「国際収支統計:業種別・地域別直接投資」
  製造業 食料品 化学・医薬 一般機械器具 電気機械器具 輸送機械器具 非製造業 卸売・小売業 金融保険業 合計
金額 5,184 290 452 1,005 1,422 1,640 2,609 2,039 557 7,793
前年比 25.1 344.4 30.9 -22.2 58.9 54.1 2.1 14.0 -23.9 16.3
寄与度 15.5 3.4 1.6 -4.3 7.9 8.6 0.8 3.7 -2.6 16.3

 2015年の増加の際は、工作機械などを含む一般機械器具や卸売・小売業の増加が貢献したが、2017年9月までは自動車など輸送機械器具の増加が最大の寄与度を示している。

直接投資収益の増加

 このような対中直接投資の増加の背景にあるのは直接投資から得られる収益の増加である。対中直接投資収益は2017年1~9月で見て、前年比16.7%の増加となっている。2016年は前年比1.6%の減少、2015年は16.6%の増加だった。2017年1~9月の直接投資収益について、業種別に見ると以下のとおりである。

(日本の対中直接投資収益:業態別、2017年1~9月)      単位 億円、%
(資料)日本銀行「国際収支統計:業種別・地域別直接投資」
  製造業 食料品 化学・医薬 一般機械器具 電気機械器具 輸送機械器具 非製造業 卸売・小売業 金融保険業 合計
金額 10,027 221 655 2,335 1,748 3,929 3,977 3,012  621 14,004
前年比 10.6 47.8 118.2   9.2 -24.1 28.0 35.7 51.1 -1.7 16.7
寄与度 8.0 0.6 3.0   1.6 -4.6 7.2 8.7 8.5 -0.1 16.7

 2017年1~9月には、日本車の販売好調などから、輸送機械器具の直接投資収益の伸びと寄与度が卸売・小売業と並んで高いものとなっている。2015年、2016年には、輸送機械器具の直接投資収益が前年比マイナスだったので、それと比べると様変わりである。今後も、EVの現地生産などのために、輸送機械器具の積極的な投資が続く可能性がある、

製造業が主導する対中直接投資の復調

 日本の対中直接投資は製造業から卸売・小売業を中心とする非製造業に重心を移しつつあったが、ここに来て、輸送機械器具を中心に製造業が盛り返し、全体の伸びを主導する形となっている。製造業の対中直接投資に復調の兆しが見られるのではなかろうか。今後この動きが継続するかどうか、注目したい。

(了)