第27号:日中の地震・防災研究
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汶川地震の緊急対応と主な経験

2008年12月

臧 克

臧 克(Zang Ke):
中国民政部国家防災センター 災害応急部幹部補佐研究員

82年2月生まれ
04年6月 首都師範大学 資源環境・旅行学院 地理科学専攻 理学学士。
07年6月 首都師範大学 立体情報獲得・応用教育部重点実験室 理学修士。
08年「5.12」汶川地震発生後、国務院震災救助総指揮部民衆生活班と四川前方指揮部の業務に参加。中国国家防災委員会、民政部の発動による国家災害緊急救助班に計12回参加。欧州宇宙機関と中国科技部が実施した「龍計画」リモートセンシング訓練に参加。グループリーダーの一人として、米ニューヨーク州立大学バッファロー学院教授とのレーザーレーダー・リモートセンシング共同実験に参加。
現在、中国民政部防災センター災害応急部幹部、補佐研究員。
主な著書 『みぞれを経て(経歴雨雪)』(中国防災雑誌、2008年第4期) 『Riegl社3Dレーザースキャナ・スキャンデータ研究』(首都師範大学学報(自然科学版)2007年第1期) 『バーチャルキャリブレーションに基づくデジタルカメラ内のパラメーター測定方法』(呉少平、張愛武、臧克 共著。システムシミュレーション学報、2006年vol.18 増刊2) 『遠隔探査技術の北京市ごみ位置決めと処理における応用』(趙敬、臧克 共著、首都師範大学学報(自然科学版)、2005年第3期)

摘要:

 本年中国汶川で発生した特大規模の地震災害は、中国国民の生命財産に甚大な損失をもたらした。今回の震災救助活動において、中国国民は「一方有難、八方支援(どこかで災難が起きれば、八方から支援する)」という優れた伝統を活かし、震災救助に積極的に取り組んだ。政府機関はその職能を発揮し、人材と物資を配備して、緊急救助に全力を尽くした。民間団体やボランティアの積極的な関与、国際社会からの多大な支援も震災救助に大いに貢献した。今回の汶川特大地震は被災状況が激しく、救助活動が困難で、震災救助に投入された人員、物資、財力は多く、関連する組織は幅広く、また調達された救助装備・手段の技術レベルが高度で、震災救助の指揮・管理システムも複雑であった。大災害の対応業務を振り返り、その経験をまとめることは、災害管理レベルの向上に重要な意義をもつ。民政部国家防災センターは、今回の汶川地震緊急救助活動において、被災状況評価、情報収集、技術支援等の多くの任務に当たった。本稿では、国家防災センターの震災救助活動への関与を中心として、汶川地震への緊急対応と主な経験について紹介する。

キーワード:汶川地震、防災、災害救助


 中国は、地震災害の影響が最も大きい国の一つである。地震はその突発性、破壊性のため、最大の災害とみなされてきており、地震災害を最大限軽減し、国民の生命財産の安全を守ることは、中国の経済・社会の発展と安定という大局に関わる。したがって、地震災害に対する防御能力の向上は、国民の生命財産の安全を守り、社会の安定と国民経済の持続可能な発展を促進するために重要な意義を持つ。この方面で、中国民政部国家防災センターは、中国の防災・救助の専門機構として重要な責任を担っており、地震防災・救助に関する多くの研究と実践に取り組んできている。今回の汶川地震災害への対応でも一連の活動を展開し、貴重な経験を積んだ。

1.防災・救助の発展概況

 中国政府は、国の防災・救助事業の発展を一貫して非常に重視してきた。改革開放以降、中国の災害救助事業は規範化と整備が進み、災害管理体制は徐々に整ってきている。現段階で、自然災害管理の基本的な指揮体制は、政府が統一的に指揮し、部門ごとに業務を分担し、災害レベルに応じた管理をし、属地管理を主とするというものである。そして人民解放軍、武装警察兵士、公安幹部・警察官および民兵予備役人員の重要な能力を活用し、さらに民間団体、社会組織、ボランティアの補助的な役割を発揮させることを重視している。

 現在、国家防災委員会と全国抗災救災協調弁公室が民政部に設けられている。国家防災委員会は、自然災害に対する救助緊急対応のための、国の総合的な調整組織である。防災委員会は、国務院の指導の下にある各部間の議事調整組織であり、国の防災事業の方針、政策と計画の制定について研究し、重大防災活動の展開を調整し、地方の防災業務を指導し、防災に関する国際交流・協力を推進し、全国の災害救助事業を組織・調整している。国家防災センターは、民政部の防災・救助技術支援組織であり、災害情報の交流センターであるとともに、防災技術サービスセンター、緊急救助補助措置の案内センターで、権限を与えられた公式の防災・救助組織である。その主な役割は、(1)災害現場の作業グループへの技術支援、現場情報のフィードバック(2)重大自然災害の発生・発展状況の評価・分析、重大自然災害の被災予測、被災状況評価、防災補助措置情報の提供(3)国内外の防災情報の収集・分析処理、防災情報共有の実現(4)重大自然災害に対する緊急救助業務展開のための、技術支援と補助措置意見の提供(5)防災に関する国際交流・協力の組織展開等である。これらの職能と業務の実施によって、各種自然災害に対する効率的かつ秩序だった対応を確実に保障することができる。今回の汶川特大地震の緊急救助活動では、国家防災センターがその職能を存分に発揮し、震災緊急対応、被災状況評価、被災統計、災害救助のため技術支援と情報提供をし、地震防災・救助のための重要な力となった。

2.汶川地震への対応での主要任務

 北京時間2008年5月12日14時28分、中国四川省汶川県でマグニチュード8.0の地震が発生した。四川汶川特大地震は、新中国成立以来、破壊性が最も強く、波及範囲が最も広く、救助活動が最も困難な地震となった。汶川大地震発生後は、民政部国家防災センターが直ちに緊急対応体制に入り、震災救助総指揮部の方針決定を忠実に実行し、震災救助と継続的防災業務に積極的に参加した。その迅速な行動と、昼夜を分けず一分一秒を惜しむ取り組みは、震災救助の成功に大きく貢献し、中国における地震防災事業の協調的発展の成果を全面的に示した。

2.1 技術班の迅速な現場派遣

北川県中心部のふさがれた川の航空写真

 汶川地震の発生後、国家防災センターは直ちに技術班を結成して、四川、甘粛、陝西の被災地区に派遣し、被災状況の緊急評価を行った。2008年5月15日、技術班は小型無人飛行機を利用し、被災の激しい北川県の状況を航空撮影した。北川県中心南部のハイビジョン航空写真合計107枚と8分間のビデオ撮影に成功し、写真とビデオ情報の一部を被災現場から直接後方へ送った。撮影された航空写真とビデオ映像は、災害評価と救助方法の決定にとって重要な技術的サポートとなった。技術班はさらに「北斗」衛星ナビゲーションシステムを利用して、班の進行ルートをリアルタイムで間断なく誘導し、後方とのリアルタイムの通信連絡を維持すると同時に、そのルート図を作成して随時インターネット上に掲載した。技術班は、数時間で速やかに画像の編集・処理を完了し、編集された画像は、国務院の震災救助総指揮部副総指揮・回良玉副総理の手もとに即日送達された。これらの航空写真は、北川県中心部の被災状況の全貌を完全に示した初めてのものとなり、国務院指導者の高い評価を得た。

 5月22日から30日にかけて、国家防災センターは技術班を被災地に派遣し、甘粛、陝西両省内の重大被災県(区)の民家損壊状況について現場評価を実施し、無人飛行機による航空撮影探査を補助手段として、調査地区の関係背景状況と合わせて総合分析を行った。1週間にわたる調査の間、技術班は被災地深くまで入り、甘粛省の武都区、文県、康県、舟曲県と陝西省の略陽、寧強県に相次いで到着した。あわせて12の郷・鎮、14の行政村、15の村民小組の民家損壊状況について現場調査を実施した。このほか5か所の学校、2か所の郷鎮機関、1か所の住民小区建築物の損壊状況を確認した。被災現場では、技術班メンバーが各自の職務を担当し、写真やビデオを撮るなどの方法で被災現場の状況を詳しく記録し、作業報告を作成した。技術班による第一次資料は、地震被災地がこれから始める復旧再建事業にとって有力な根拠となっている。

甘粛省朧南市武都区三河鎮廟坪村の倒壊民家航空写真

2.2 宇宙技術の利用による防災・救助への支援

 地震被害についてリアルタイムの観測をすることは、被災状況の速やかな把握、救助活動の組織、被災後復旧のための重要な基礎であり根拠である。国家防災センターは関係部門と積極的に協力し、宇宙技術の利点を活用して地震被害に関する各種観測に取り組み、被災救助活動のための確かな支援と保証を得た。

汶川地震での四川省徳陽市の家屋倒壊状況 衛星リモートセンサー画像

 今回の地震被害は四川省の山間部で発生し、さらに被災地は雨天のため、震央地域に入るのが困難であった。そのため、国家防災センターは直ちに各部門が連動する救援体制を組織し、衛星リモートセンシング等の宇宙技術を活用することで、被災地の状況を直接観測し、緊急救助のための戦略的情報を提供した。被災状況を全面的・客観的に把握するため、5月12日17時に、国家防災センターは認証メンバーとして「宇宙と重大災害に関する国際憲章」を発動し、カナダ宇宙庁、欧州宇宙機関、フランス国立宇宙研究センター、アメリカ地質調査所、日本宇宙航空研究開発機構、インド宇宙研究機関等に衛星観測の申請を提出した。これは中国が本体制に参加して初めての正式発動であり、重要な意義がある。地震被災地の衛星リモートセンシングと評価結果の真実性、信用性を保証するため、国家防災センターはさらに大学、研究所、衛星応用機構、企業の専門家を招請して共同で専門家グループを作り、データ分析と評価作業を行った。

 汶川地震発生後、国家防災センターは国内外の22機の衛星による2,000枚のリモートセンシング画像を活用して、被災地の被災範囲、初期的損失、家屋の倒壊状況、被災者の避難状況、耕地の被害状況、交通路線状況、堰き止め湖等二次災害の発生状況について、動態観測・評価をし、100件近くの観測・評価を作成した。まさに国家防災センターが、その速やかな調整連絡体制という優れた能力を積極的に発揮したことによって、各部門が団結し密接に協力して、各職責を全うし、自主的に業務に従事し、総体的な力をすばやく形成して、震災救助の各業務の力強く有効で秩序ある展開を保証することができた。

2.3 各種情報の収集と編集・報告の調整

 最新の被災情報を直ちに収集・総括することは、国家防災センターの重要な日常業務の一つである。国家防災センターは全天候下で24時間当直体制をとっており、被災情報のリアルタイムでの動態更新を実現している。毎朝8時前には、関係部門に「昨日の被災状況」を発表しており、これは国の自然災害被災情報として信用ある資料となっている。

 汶川地震の発生後、国家防災センターは当直人員を増やし、国務院の震災救助総指揮部民衆生活組弁公室の通常業務に全面的に関与している。電話、インターネット等さまざまな方法によって、地方民政部門から報告される被災情報を収集・総括し、30分ごとに被災情報を更新して、即時に震災救助指揮部と各メディアに提供している。

2.4 一般広報活動の調整

一般向け広報は、情報公開、疑問解消、大衆誘導、力の凝集、団結強化等の重要な役割を担っており、地震広報は社会の安定と密接に関係している。地震発生後、国家防災センターは国の防災ポータルサイトと本センターが公開発行している雑誌『中国防災』等の場で、震災救助に関するニュース広報と防災知識の普及に積極的に取り組んでいる。これら業務は、各種情報の統一発表、民意分析の組織、他メディアとの連絡と広報計画の調整、ラジオ・テレビ・新聞・インターネット等ニュース媒体との協力、集中取材の企画、素材提供、会議への参加要請等の多くの方法で行われる。これにより、ニュース広報の影響力を強化し、良好な世論環境を醸成して、ニュース・業務主管部門、メディア、社会公衆から評価されている。

3.地震防災・救助活動での主な経験

 今回の震災救助の全面的成功を通じて、私たちは、協調・調整の強化、地震防災に関する科学技術レベルの向上、国際協力の推進、防災事業の全面的でバランスのとれた持続可能な発展の促進は、災害による損失を軽減し救助を成功させるために、非常に重要な意義をもつことを実感した。今回の震災救助では、作業はたいへん困難であったものの、迅速な行動、緻密な計画、有効な措置によって、短期間内に大きな成功を得た。得られた主な経験は以下のとおりである。

3.1 防災・救助活動では「以人為本」(人を根本とする)理念を堅持すること

 震災救助では、中国の各レベル・各部門が中央の指示精神を徹底実施し、人を根本とすることを最高原則として一貫して堅持し、人命救助を最優先とし、国民の基本的生活の保障を重要な任務とした。一切の尽力をいとわぬ被災者救命から被災者の避難生活の手配まで、救援物資の購入・調達から厳格な使用管理まで、被災で困難に陥った人々のための補助政策実施から孤児・傷病者の特殊避難まで、きめ細かなニーズに即した支援手配から被災地全体への支援まで、被災地の商業サービスの実施から市場価格統制の強化まで、災害損失評価から復旧再建計画まで、これらすべてが、被災地の人々の最も直接的で、現実的で、切迫した問題の解決のためであり、また、被災地の人々の基本的利益を実現し、維持し、発展させるためのものである。被災者の逼迫した需要に早急に対応し、被災者の思いを察知し、被災者の要望に応え、被災者の困難を解消することで、震災救助の全面的成功が得られるはずである。

3.2 防災・救助活動では科学技術の支援的役割を発揮させること

 「5.12」汶川大地震は、中国が災害救助の科学技術を実際の救助に運用した、初めての全面的な検証の場となり、また科学技術は、震災救助が成功を収めるための基本条件でもあった。今回の震災救助での科学技術の利用は、海事衛星電話、衛星リモートセンシングと衛星ナビゲーション、生命探査機、無人飛行機観測、ヘリコプター運輸、各種工具、心理面でのケア等に及んだ。もしも科学技術面での支えがなければ、これほど大規模で高効率の救助活動を組織するのはほとんど不可能だったはずである。今回の震災救助では科学技術という支柱の役割が発揮されたからこそ、人々の生命財産を最大限回復することができた。科学技術を支柱として、科学技術の重要な役割を発揮することに注力し、難題を克服し、リスクを解消することこそが、地震災害に打ち勝つための有効な手段である。

3.3 防災・救助活動には規則制度制定を強化すること

 これは、地震災害救助をしっかり行うための重要な基礎である。制度建設には長期性と根本性がある。現実に立脚し、長期的視点を持ち、制度計画を重視し、すでに得られた成果を強固にし、積極的に調整・革新し、長期的な効果をもたらしてこそ、震災救助の成果を確実に向上させることができる。近年、中国の防災・救助制度の建設は新たな進展を続けており、特に「防震防災法」の実施と関連法規の制定は、中国の防災・救助事業が法制化管理の段階に入ったことの証である。これは、国家機関、企業・事業単位、社会団体と個人について、震災救助において発生する社会的関係性を調整・規範化している。これは、震災救助活動の各側面に書面化された後ろ盾を与え、政府と社会による震災救助活動に法的根拠を与え、震災救助活動の社会管理にとって有効な法律的支持となって、震災救助事業の科学的発展の保障となるもので、また社会文明の進歩の体現である。

汶川地震被災範囲評価図

3.4 防災・救助活動ではスムーズで高効率な協調体制を設置すること

 スムーズで効率のよい協調体制は、防災・救助活動の組織上の条件である。中国政府による統一的指導、部門ごとの業務分担、災害レベルに応じた管理という災害管理体制には、中国の政治体制と組織の利点が十分に発揮されている。つまり、災害管理部門の協調体制、社会動員体制、情報共有体制、監督検査体制が組み合わされ、救助活動の総合力を形成している。各単位が全力を尽くして職責を履行し、職能を十分に発揮し、さらにスムーズで効率のよい協調管理体制によって、防災・救助活動の強力、有効で秩序ある実施が保障される。

4.まとめ

 大規模災害への対応能力を確実に高め、国の総合的な防災レベルを向上させるために、大規模災害に対するリスク回避能力を今後さらに増強する必要があると、私たちは考える。日増しに進む地球環境の温暖化と、アジア地域の地殻運動の相対的な活発性に伴って、中国の直面する大規模災害のリスクは高まり続けている。国家防災センターは、『国家綜合防災第11次5ヵ年計画』にもとづいて重点分野と方針を決定し、地震防災・救助能力の増強に努め、国家防災委員会の枠組みの下、災害情報の交流と共有の場としての役割を積極的に活かし、国の防災・救助事業をよりいっそう強力にサポートしている。

 災難はひとつの学校のようなもので、自然といかに付き合っていくべきかを私たちに教えてくれる。人類は自然界の一員として、大自然の恩恵を享受すると同時に、それがもたらす害も受け止めなければならない。人類が自然と調和していこうとするなら、防災と危機回避の能力を高める必要がある。それを探る道のりはまだ長い。民政部国家防災センターは、防災・救助の実践に今後も引き続き積極的に参加し、科学研究を強化し、自然のメカニズムと災害発生のメカニズムに対する認識能力の向上に努め、災害の危険を軽減するため、防災・救助能力を高め新たな開拓を続けていく。