鉄系高温超伝導材料研究の最新動向
2009年1月22日
陳 仙輝 (Chen Xian-hui):
中国科学技術大学物理学部、肥微尺度物質科学国家重点実験室
1963年3月8日出生
1992年5月中国科学技術大学、凝縮系物理学専攻、理学博士
1994年5月-1995年10月, ドイツ、フンボルト基金を得て、カールスルーエ(Karlsruhe)研究センターとStuttgart Max-Plank Institute で固体物理の研究に従事
1998年7月-1999年2月、日本高等研究院(北陸)、訪問教授
2001年1月-2003年2月、アメリカ、ヒューストン大学テキサス超伝導研究センター、訪問教授
1998年5月-現在、中国科学技術大学物理学部、教授、博士課程指導教官
現在に至るまでNature, Phys. Rev. Lett. J. Am. Chem. Soc.など、刊行物・発表論文180編以上。
要約
最近、鉄系であるLn(O,F)FeAs化合物とその関連化合物から40K以上の超電導物質が発見された。層状の鉄系化合物は凝縮系物理学の分野で注目と関心を呼び、それに続く研究で、この種の物質のなかには、最高超伝導臨界温度が55Kに達するものがあることがわかった。これらの重要な発見は高温超伝導物質のメカニズムを研究するための新たな一材料となり、われわれは高温超伝導物質の探求に改めて大いに興味を持ったのである。本稿では、主にわれわれグループの新型鉄系超伝導物質の最新研究状況を紹介する。内容は以下の通りである。1)、探索と研究;2)、単結晶物調製と物性の研究;3)、電子状態図およびSDWと超伝導物質の共存の研究。今後の研究方向と発展の将来図を最後に述べる。
1.はじめに
1986年、IBMラボラトリーの物理学者J.Georg BednorzとK.Alexander Mullerは臨界温度35ケルビン(摂氏零下238.15℃)で酸化ランタノイドバリウム銅を発見した[1]。この発見に続いて、一連の銅酸化物の高温超伝導物質が発見され、以来、銅系高温超伝導物質とそのメカニズムは物理学研究のホットな研究テーマとなった。しかし、今に至っても銅系高温超伝導物質のメカニズムは解明されておらず、高温超伝導物質は当面の凝縮態物理学の最大のなぞとなっている。このため、科学者たちは銅系高温超伝導物質以外の新たな高温超伝導物質を探索することを望み、さまざまな立場から高温超伝導物質のメカニズムを研究し、この問題の解決を図っている。
近年、鉄基LaO1-xFxFeAs (x = 0.05-0.12)化合物中に26K超伝導性があることがわかり[2]、層状のZrCuSiAs型構造のLnOMPn (Ln = La, Pr, Ce, Sm; M = Fe, Co, Ni, Ru and Pn = P and As)の化合物が研究者の注目を浴びた[3,4]。本年3月、この物質の超伝導臨界温度がSmO1-xFxFeAs化合物中で43Kまでに高まり[5]、その後の研究では最高超伝導臨界温度が54Kに達した [6]。これら重要な発見により、高温超伝導物質の探索に対する関心は極限まで高まり、そのメカニズムを研究する上での新たな材料となったのである。初歩の研究により、この種の新たな物質は今までの超伝導物質には属さないことがわかった。伝導物質の相互作用でこのような高温の臨界温度に達することはできず[7]、強い鉄性の磁力と反磁力の満ち引きがその原因であると思われる[8-10]が、そのメカニズムについてはやはり不明確なままである。メカニズム解明のため、更なる研究が待たれる。
ここでは鉄系高温超伝導物質に関するわれわれグループの最新研究状況を、三方面から紹介する。第一部は、新型高温超伝導物質の探索と物性研究の紹介;第二部は鉄系高温超伝導物質の単形物調製と物性研究の紹介、第三部は鉄系高温超伝導物質の電子状態図およびSDWゆらぎとの共存の研究の紹介であり、最後にこれらの研究結果を基礎として、今後の研究方向と発展の将来性を提起する。
2. 研究活動の進捗状況
2.1鉄系超伝導物質の探索と特徴
鉄系超伝導物質に26Kの超伝導性があることが発見された後[2]、この種の化合物中にさらに高い超伝導温度を見出すことが非常に切迫した課題となった。本稿のまとめでは、主に鉄系新材料の探索とその基本物理的な性質の特徴という方面から、われわれグループの研究状況を紹介する。
1)1111-型鉄系化合物中の高温超伝導性の発見
本年2月、東京工業大学の細野秀雄教授が指導する研究グループは、鉄LaO1-xFxFeAsの超伝導転変温度が26Kに達したと発表した[2]。この発見により、人々は超伝導物質に強い関心を示したのである。3月25日、われわれのグループはSmFeAs(O,F)化合物の合成に成功し、送電と磁化率の結果、43Kの超伝導性を備えていることを発表した[5]。これまでは銅酸化合物の高温超伝導物質しか発見されていなかったが、これにより、はじめてマクミランの極限を突破したのである。また、この種の鉄系超伝導物質は、銅酸化合物以外の別の高温超電導体であることが実証された。この重要な研究内容は雑誌『ネイチャー』に掲載され、『ネイチャー』の原稿審査者から鉄系高温超伝導の分野で新領域を開拓するものとの評価を受けた。
2)122-型鉄系超伝導物質の正孔型超伝導性
ZrCuSiAs(1111)型構造の鉄系超伝導物質が発見されてまもなく、ThCr2Si2型鉄系超伝導物質もまた超伝導性を備え、最高温度が38Kに達することがわかった[11]。われわれのグループは、国際的にも早い時期に122構造の鉄系超伝導物質の研究に取り組んだ。ThCr2Si2型構造のBa1-xMxFe2As2(M=La and K)サンプルの合成に成功し、その熱起電力(TEP)とHall係数(RH)の研究を展開したのである[12]。BaFe2As2母物質の電気抵抗率は140Kでは異常であり、LnOFeAs(1111)体系の母物質行為と類似している。La部分をBaに替えることにより、この電気抵抗異常を低温にすることができるが、低温では超伝導性が起きない。BaFe2As2とLa混合BaFe2As2サンプルのHall係数(RH)および熱起電力(TEP)はともにマイナス値であり、このことから両者ともn型キャリアであることがわかる。しかしBa1-xKxFe2As2サンプルのHall係数(RH)および熱起電力(TEP)はプラス値であり、p系キャリアであるので、電子型キャリアのLnO1-xFxFeAs体系とは異なる。これらの結果から、p系キャリアは122構造の中で同様に超伝導性を発生させることがわかった。
3)1111構造で酸素欠乏により起こる超伝導性
中国科学院物理研究所の趙忠賢のグループは、ROFeAs(R=La,Sm,Pr,Nd 等)の体系中、高圧合成の方法で酸素欠陥(oxygen vacancy)の超伝導サンプルを調製した[13-15]。この研究から、酸素欠陥によってもFeAs注入のキャリア作用を起こし、超伝導を発生できることがわかった。酸素欠陥は高圧下で形成され、通常の圧力下では形成が困難である。われわれのグループは非高圧条件下で酸素欠陥を起こすことを試み、La0.85Sr0.15FeAsO1-δ化合物を合成し、酸素欠乏による影響を系統的に研究した[16]。その結果、SrをLaに代えることで部分的に正孔キャリアをつくり、SDW配列が壊された。真空中で焼き戻しを行い、酸素欠乏を起こすことで超伝導性が起きる。酸素欠乏が増加すれば超伝導温度TCは高くなり、最大26Kに達する。類似した現象もまたLaFeAsO1-xFx体系中で発生する。焼き戻しをしていないため超伝導が起きていない化合物の熱起電力はプラスであるが、焼き戻し後に酸素欠乏が起きた超伝導化合物の熱起電力はマイナスとなる。しかし、Hall係数(RH)はいずれもマイナス値である。このことから、La0.85Sr0.15FeAsO1-δ化合物の主なキャリアは電子だとわかる。われわれの実験結果、イオン半径が比較的大きなSr原子を少量混入することで、LaFeAsO体系が真空焼き戻し条件下で酸素欠陥を発生し、超伝導性が起きることがわかった。
4)Andreev反射
鉄系高温超伝導体SmFeAs(O,F)が発見された後、エネルギー・ギャップの研究が非常に切迫したテーマとなった。われわれのグループとアメリカのジョンズ・ホプキンス大学のC. L. Chien グループは共同で、Andreev spectroscopyにより臨界温度を42KとするSmFeAsO0.85F0.15化合物中のエネルギー・ギャップ構造を測量した[17]。エネルギー・ギャップ値2Δ=13.34±0.3meV, 2Δ/kbTc=3.68、これはBCSの予測値3.53に非常に近い。このエネルギー・ギャップは温度とともに減少し、温度がTCのときに消失する。これはBCSの予測値と一致するが、銅酸化物高温超伝導体の贋のエネルギー・ギャップ現象とは明らかに異なる。われわれの研究結果では、非ノードのエネルギー・ギャップパラメーターを示しており、フェルミ面が異なる区域で同じような性質に向かい、銅酸化物超伝導体のd波と対象性が一致しない。
5)1111構造鉄系超伝導体の比熱研究
われわれのグループは李世燕グループと共同で、鉄系高温超電導体SmO1-xFxFeAs(0≤x≤0.2)の比熱を研究した[18]。SmOFeAsの母物質中、われわれは130K付近でひとつの比熱のとびを観察した。これは、構造またはSDWゆらぎから起きたものであり、電気抵抗率の異常な振る舞いを反映している。この種の比熱のとびはF低混合(x=0.05)のサンプル中には発生しないが、電気抵抗率の異常な振る舞いは依然として存在する。しかし、x=0.15と0.20のサンプルでは、TC付近の比熱は不規則性を示す。この種の不規則性は、LaO1-xFxFeAs中には現れない。母物質化合物SmOFeAs中、4.6Kで比熱はピーク値に達するが、x=0.15のサンプルでは、3.7Kでピーク値になる。このピーク値は体系中のSm3+の反強磁性体により決まると考えられる。これは、電子型銅酸化合物高温超伝導物質と非常に似ている。また、われわれのグループは、ジュネーブ大学のR. Flukigerの研究グループと20T磁場下でのSmFeAsO0.85F0.15比熱を共同で研究し[19]、多結晶SmFeAsO0.85F0.15サンプル(Tc=46K)のB-T状態図を出した。Bc2の温度の依存関係は比熱曲線から得られ、Werthamer-Helfand-Hohenberg公式に基づいて、Bc2(T=0)を150Tと計算した。磁化率は磁場Hの関係(0-9T)に伴うので、臨界電流JCと磁場強度Hの依存関係を推定し、同時にMs-H図中にひとつのピーク値を観測した。このことから、2D-3Dが交差した磁流渦電流の存在が、高温超伝導物質銅酸化合物中の行為と類似していることがわかる。
6)llll構造の中子散乱の研究
われわれはアメリカのロスアラモス国立研究所のBao Weiグループと共同で、中性子散乱を用いて1111構造の多結晶サンプルLaFeAs(O,F)とNdFeAs(O,F)を研究した。超電導物質であるLaFeAs(O,F)(Tc=26K)は、中性子散乱の実験により、正常な状態にあるときにはSDWが発生せず、この体系での超伝導とSDWは競争関係にあることがわかった[20]。われわれはまた、非弾性中性子散乱結果から、スピン波に明らかな共振最高値があることを発見したが、これは、スピン波が反響するd波のメカニズムを支持するものではなく、広がりを見せるS波のメカニズムに非常に良くマッチしている。この体系におけるフォノンスペクトラムの研究も行ったが、伝統的な電気音響メカニズムではこの体系のような高温の超伝導転移温度を出すことはできない。これは理論的な計算結果と一致する。NdFeAs(O,F)の体系中、母物質と超伝導サンプルの中性子散乱を研究し[21]、2K以下で反強磁変化を観察した。Rietveld解析により、FeイオンとNdイオンは2K以下で反強磁変化を起こし、その中のFeの磁気能率は0.9ボーア磁子となることを発見した。超伝導サンプル中、構造と磁相の変化は観察できなかった。
7)122構造の中性子散乱の研究
われわれとロスアラモス国立研究所のBao Weiグループは共同で、122構造のBaFe2As2の磁気変化と構造変化を研究した[22]。その結果、122構造は電気抵抗率が異常な状態で同様にSDW変化と構造変化が発生するが、1111構造とは異なり[23]、ともに一次相転移に属するこの二つの変化は同時に発生し、しかも明らかな熱ヒステリシス現象があることがわかった。さらに、磁気構造は、1111磁気構造と同様に縞模様の反強磁構造であることを確認した。磁気能率は111構造よりやや大きく0.87ボーア磁子である。この結果は鉄系超伝導体のメカニズムを理解するうえで、非常な助けとなった。
2.2鉄系超伝導体の単結晶調製と物性の研究
物理性質を研究する上で、単結晶の調製は基礎的で重要なことである。しかし、鉄系超伝導体にとって1111構造の単結晶の調製は非常に困難であったが、122構造の鉄系超伝導体の発見により、単結晶の調整が可能になった。ここでは主に、122構造の鉄系超伝導体調整分野におけるわれわれグループの研究状況と単結晶物性研究から得た結果を紹介する。
われわれのグループは世界的に先駆けて、溶剤法を用いた高品質の鉄-砒素化合物122構造単結晶の合成に成功した。鉄系超伝導体研究にさらに一歩深く踏み込んだのである。
1)BaFe2As2単結晶の調製と物性の研究:
われわれは、初めて溶剤を用いて比較的大きなBaFe2As2単結晶を合成した [24]。結晶体のサイズは3 x 5 x 0.2 mm3にまで成長が可能である。電気抵抗率の各向異性は150に達することが可能であり、温度により明らかに変化することがない。このことは、ab面とc方向が同様の散乱メカニズムを持っていることを示している。単結晶の磁化率を測定すると、低温区では多結晶材にCurie-Weiss則は見られず、SDW温度以上に温度に伴う磁化率の線性変化が見られた。われわれは電気抵抗率の極小値が磁場に依存し、低温の電気抵抗率が欠混合銅酸化物log(1/T)のような物質を発散していることを観察した。高品質のBaFe2As2単結晶と磁性結果により本現象は理論的に実証されたのである。
2)CaFe2As2単結晶の調製と物性の研究:
ここでは高品質のCaFe2As2単結晶の調製と磁性を説明する[25]。電気抵抗率の各向異性(ρc/ρab)を50とし、BaFe2As2中の150よりやや小さくする。この差はCaFe2As2のc軸BaFe2As2より0.13ナノメートル収縮し、c方向に結合し増強するためと考えられる。この材料のSDWは電気抵抗率上の電気抵抗を急激に高めるが、これは、ROFeAsとMFe2As2 (M = Ba, Sr)中のSDW反応と異なる[2,11]。この異なる電気抵抗率の反応は、鉄系超伝導体上のSDWの作用を理解するうえでとても良い助けとなる。CaFe2As2の磁化率行動とBaFe2As2単結晶の磁化率行動は非常に似通っている。165KのSDW温度以上では、磁化率もまた温度に伴い線性変化を見せる。われわれは、NaをCaに代えると、20K前後で超伝導が発生することを発見した。
3)EuFe2As2単結晶の調製と物性の研究:
われわれは、FeAs溶剤を用いて122構造母物質の単結晶-EuFe2As2を合成し、EuサイトのLa混合単結晶の成長に成功 [26]、その後、異なる磁場におけるLa混合EuFe2As2単結晶の電気抵抗率と磁化率および比熱を系統的に測量した。その結果、Eu2+イオンの磁気グレートに変磁性があり、臨界磁場下ではA型反強磁が強磁に転移したことがわかった。磁場が臨界値に達したとき、比熱のとびは抑えられ低温へと変化し、磁場の比熱のピークは高温に転移し続ける。このような行動は変磁性を支持した。反強磁体における面内磁化率はSDWと同じ両方対称性を備えているが、強磁体と常磁体は同性質の磁化率に向かうのみである。また、SDWがLa混合に伴い抑制を受けているとき、磁場下にある強磁体はたやすく形成できる。われわれの実験現象を理解するために、各向異性の交換モデルを定義した。この結果から、Eu2+イオンの変磁性はSDWと関係があることがわかる。最後に、x = 0と0.15単結晶サンプルの詳細なH-T状態図と可能な磁気構造を提供する。
4)Co混合のBaFe2As2超伝導単結晶の調製と物性の研究:
われわれは溶剤法によりBaFe2-xCoxAs2単結晶を合成し、その調製法と磁化率および比熱性質を系統的に研究した[27]。欠混合区では、電気抵抗率と磁化率上でSDWの変化が見られた。磁化率の結果は、SDWの転移温度以上で700Kに達したときに異常な温度の線性磁化率が存在したことを明らかに示し、Coの混合に伴い、SDWは抑制され、円弧状の超伝導区が現れた。x = 0.17付近のBaFe2-xCoxAs2の電気導電と比熱および磁化率はいずれも(Ba,K)Fe2As2に似た超伝導とSDWの共存を示し、x>0.34の超伝導は完全に消失した。Coの混合に伴い、われわれは、非フェルミ液がフェルミ液になる過程を見ることができ、最後に、SDWから超伝導に至る過程の電子状態図を出した。この結果から、単結晶体系の状態図に超伝導とSDWの共存区があることがわかる。
5)122単結晶のARPES研究:
われわれは、封東来の研究グループと共同で、BaFe2As2とSrFe2As2体系の角度分解光電子エネルギースペクトルを研究した[28, 29]。新発見の鉄系超伝導母物質BaFe2As2とSrFe2As2の電子構造を直接測量し、その後の研究の基礎を築いたのである。構造の裂け目の特異交換によりSDWエネルギーが低下することを証明したが、これはフェルミ面に電子が漂うことで起きるのではなく、金属製のSDWが主に局部的な磁気能率の相互作用により起こったものである。これは、反強磁体の銅酸化合物の母物質と非常に良く似ている。SDWメカニズムと超伝導の関係は、新発見の鉄系高温超伝導体の主なテーマである。特に、超伝導がほんとうにSDWと相互排斥をするかどうかは解明されていない。角度分解光電子エネルギースペクトルによりSr1-xKxFe2As2 (x = 0, 0.1, 0.2)中のエネルギーを帯びた裂け目交換と裂け目の非剛性帯行為を研究したところ、超伝導サンプル中、同様に裂け目交換の行為を発見し、鉄‐ヒ素雅号物中の超伝導がSDWと共存することを証明した。
2.3鉄系超伝導体の電子状態図、およびSDWと超伝導との共存研究
近年の初歩の研究では、鉄系超伝導体は伝統的な超伝導体ではないとされていたが、電気音の相互作用では、このような高温の臨界温度にはならない[7]。強磁性と反強磁性のぶつかり合いがその原因であろうと考えられた[8-10]が、そのメカニズムは解明されておらず、物理学の研究を深めて解明されることを期待する。研究により、LaOFeAs母物質の化合物は150KでSDWを起こすことがわかった[23]。フッ素原子の混合に伴い、SDWは抑制され超伝導はシステム中に導入される[2]。超伝導とSDWの関係を理解する上で、状態図の系統的な研究は非常に重要であり、超伝導のメカニズムを理解するうえで非常に役に立つ。ここでは主に鉄系電子状態図およびSDWとの共存面のわれわれグループの研究状況を紹介したい。
1)SmFeAsOF体系の電子状態図
われわれは鉄系超伝導体SmFeAsO1-XFX(x=0 ~ 0.2)の状態図とその異常な伝導性を詳細に研究した[6]。F混合剤が0.07に達したとき、サンプルには伝導性が現れるが、TCはF混合量の増加に伴い上昇し、混合がx=0.2付近になったときにTCは54Kとなる。構造の変化またはSDWが招いた電気抵抗率の異常なピークはFの混合に伴い急速に抑制され、x=0.14付近で臨界点現象が現れる。これは主に温度変化にともなう電気抵抗率の関係で起きるもので、x<0.14のサンプル中、電気抵抗率ρは温度Tに従い直線関係となって電気抵抗率の異常なピーク以上の高温区に現れる。しかし、x>0.14のサンプルでは、電気抵抗率ρは温度Tに従いTC以上の低温区に直線関係が現れる。同時にHall係数は電気抵抗率の異常なピーク下の温度で増加する。このことからキャリアの濃度がこの温度下で明らかに減少していることがわかる。すべてのさまざまな混合量SmFeAsO1-XFXでは、Hall角と温度がcotθH ~ T1.5を示す関係にある。これらの結果から、われわれはSmFeAs(O,F)の電子状態図を完成した。物理メカニズム研究の助けとなるものと確信している。
2)SDWと超伝導性が共存するμSRの研究
われわれはFribourg大学のC.Bernhard氏の科学研究グループと共同でμSRによってSmFeAsO1-XFX体系中に存在する磁気の満ち引きと超伝導の教祖損を実証した[30]。SmFeAsO1-XFX(x=0.18と0.3)サンプルのμSRを測量し、超伝導の転移温度TC付近に異常に緩慢なμSRの満ち引きが強化される様子を観察した。これは、これまでの超伝導体とは違う満ち引きが起きたことを証明する。その内面を貫く深度をλab(0)=190(5)nmと推計すると、この種の鉄系高温超電導体はTcとλab(0)-2の間でUemura Plot関係に従っていることを実証している。
3)SDWと超伝導が共存する圧力反応の研究
われわれのグループはヒューストン大学のC. W. Chu氏の科学研究グループと共同で、SmFeAsO1-xFx 体系の超伝導とSDWに対する圧力を研究した[31]。LnFeAsO1-xFx体系ではイオンの半径ほどの大きさの三価ランタニドがLaに代わり、Tcは41-55Kにまで上昇する。多くの理論モデルが、この種の化合物中は超伝導の磁気起源が非常に重要であると強調した。圧力を加えることでRE(O1-xFx)FeAs体系のTCはさらに上昇し、その後、La(O0.89F0.11)FeAs中で圧力がTCを上昇させる。以前の予測と違ったのは、SmFeAsO1-xFx体系の圧力は増加だけでなく、TCの減少も可能なことであり、これは混合量によって決まる。ままた、われわれはエジンバラ大学のKosmas Prassides氏の科学研究グループと共同でSmFeAsO1-xFx(0.01≤x≤0.20)サンプル中の圧力反応と混合濃度の関係を研究した[32]。x≤0.14のサンプル中の圧力はTCを増強するが、x≥0.14サンプル中の圧力はTCを抑制する。圧力反応がx=0.14付近では数字に変化が生じる。これは、電気抵抗とHall効果がx=0.14付近にひとつの臨界点(QCP)が存在する可能性を示していることと一致する。混合が良くなされていない場所では、原子間の距離に対する超伝導温度TCは非常に敏感だが、最もよく混合されている場所ではこの反応は5-10倍に弱まる。これは理論モデルを検証した実験結果である。高精度のエックス線で証明すると、x<0.14のサンプルでは、低温下で四方から直角の構造変化が発生するが、x=0.14のとき構造変化温度は0Kに低下する。x>0.14のサンプルは、全体の温度区内がすべて四方構造である[33]。この結果から、圧力反応がx=0.14前後が良いことがわかる。x<0.14のとき、低温直角構造が圧力Tcの増加を招き、x>0.14のとき、低温四方構造が圧力の低下を招く。また、SDWが低温直角構造のみに存在することがわかった。これは、構造相変温度が混合に従いゼロに向かうと同時に、SDW転移がx=0.14に存在し、臨界点を失ったことを示している。
4)SDWと超伝導が共存する中性子散乱の研究
SDWと超伝導の関係は鉄系高温超伝導体研究の当面の中心テーマである。LaFeAs(O,F)には多くの相互矛盾が存在した結果、一方ではSDWと超伝導は相互に排斥すると考えられ、また一方では両者は共存できると考えられ、これらの論争はまだ最終的な解決を見ていない。1111構造のSmFeAs(O,F)体系で、われわれはすでに鉄系超伝導体中では超伝導とSDWは共存できるとの結論を表明した[6,30]。超伝導とSDWが共存できるというテーマに的を絞って、われわれは、(Ba,K)Fe2As2体系の伝導と中性子散乱を研究した[34]。0.2<x<0.4の区間では、伝導結果からこの体系は低温化で超伝導性が現れることがわかった。しかし、この区間内での中性子散乱は、低温化でも同様にSDWが存在することを証明しているが、磁気能率は混合に伴い低下し、最終的にはx=0.4で消失する。122構造中、超伝導とSDWは同様に共存できる。この結果は1111構造の結果と一致し、超伝導とSDWの共存により鉄系超伝導体が普遍的に存在することを説明している。
3.まとめ
以上、高温超伝導鉄系化合物領域におけるわれわれグループの最新研究状況を紹介した。新材料面で、われわれはSmFeAs(O,F)体系の高温超伝導現象を発見し、国際的にも早期に122構造の材料調製と物性の研究を展開した。溶剤法を取り入れて、122構造の単結晶を始めて合成した。また、物性面の研究では、1111および122構造の鉄系化合物の電子状態図を作成し、混合体系に伴う物理性質の変化を系統的に研究するとともに、鉄系超伝導体に存在するSDWと超伝導の共存を実験するなど、多くの実証方法によってひとつの結論を導き、そのメカニズム研究のための確かな基礎を提供したのである。現在、新構造の鉄系超伝導体が次々と現れ、人々はより高温の転移温度を持つ鉄系化合物の発見を期待している。新構造、多層構造の鉄系超伝導体の発見が当面のホットな研究課題であり、われわれのグループもこの種の新たな鉄系超伝導体を研究している。より高温の転移温度を持つ鉄系化合物が近い将来必ずや発見されるものと確信している。
参考文献
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