特集巻頭言:原子力の開発及び利用
中国科学技術月報2009年5月号(第31号) 2009.5.1発行
はじめに
現在の中国は、地球温暖化防止のために二酸化炭素排出量を削減することと経済成長を持続的に達成するというベクトルの異なる困難な課題に直面しています。2 006年の段階で中国における二酸化炭素の排出量は60億トン、世界全体の総排出量の20パーセント強を占め、すでに世界最大の二酸化炭素排出国となりました。一方、中国自身の技術革新の取り組みによって、二 酸化炭素排出の削減量が2006年ではアメリカを抑えて世界最大となっているとの報道もあります。そうした状況を踏まえ、007年10月15日に開催された中国共産党第17回全国代表大会では「生態文明」と いう観点が打ち出されました。
「生態文明を建設し、省エネと環境にやさしい産業構造、発展パターン、消費モデルを基本的に形成すること」、というのがその趣旨です。このため、二 酸化炭素の排出量を抑えつつ経済発展を持続的に成長させる「低炭経済」(Low Carbon Economy)の建設が非常に重要な課題として検討され、と りわけ科学技術の果たす役割には大きな注目が寄せられているのが現状です。
中国を取り組む上記のような状況を踏まえ、前号では新しい技術革新の様子を「再生可能エネルギー」として特集いたしました。ひきつづき今号ではエネルギー問題を取り上げますが、従 来型の技術の革新として大きな注目を集めている「原子力の開発および利用」についての特集を組むことにいたしました。
原子力の重要性については、たとえば2007年11月15日、「中国政府は、二酸化炭素の排出削減を目指し、原子力発電やクリーンエネルギー産業の発展を積極的に推進している」と、中 国核工業集団公司の責任者・康日新氏が、ローマで開催中の第20回世界エネルギー会議(WEC)で述べています。(「チャイナネット」2007年11月16日)。中国政府は、二酸化炭素の排出量削減のため、原 子力発電の発展を重要視しています。こうした中国の原子力発電の現況と技術力に関する最新動向について、本号収録の中国人研究者の各論文でお読みいただけると思います。また、日本人研究者の各論文では、日 本及び世界の原子力発電をめぐる状況や最新技術の動向などが紹介されております。あわせてお読みいただけましたら幸いです。
中国総合研究センター
記事一覧
「世界各国における原子力発電の開発戦略の歩みと中国における原子力発電の開発」 | 欧陽 予(中国核工業集团公司(CNNC)総設計師 中国科学院院士) |
「 核エネルギーは中国将来のエネルギー供給に対する重要性」 | 吴宗鑫(中国国務院参事、国家核安全専門家委員、清華大学教授) |
「 中国の先進原子力技術開発に力を注ぐ-中国原子能科学研究院の紹介」 | 柳 衛平(中国原子能科学研究院 副院長) |
「 中国原子力エネルギーの開発動向及び先進原子炉評価法」 | 周 志偉(清華大学 核エネルギーおよび 新エネルギー技術研究院 教授) |
「 高速炉技術の開発と原子力の持続可能な成長の促進」 | 周 培德(中国原子力科学研究院 原子炉工程部 副総工程師) |
「 原子力利用の展望と課題」 | 近藤 駿介(内閣府原子力委員会 委員長) |
「 革新的原子炉CANDLEの研究」 | 関本 博(東京工業大学の原子炉工学研究所 教授) |
「 原子力プラントの安全性を向上させるための研究」 | 若林 利男(東北大学大学院 教授) |
「中国原子力の概況」 | 窪田 秀雄(日本テピア総合研究所 副所長) |