中国の先進原子力技術開発に力を注ぐ-中国原子能科学研究院の紹介
2009年4月21日
柳衛平(Liu WeiPing): 中国原子能科学研究院副院長
1962年生まれ、1983年北京大学技術物理系本科卒業、1998年中国原子能科学研究院博士卒業。現在は中国原子能科学研究院副院長、研究員、博士候補指導教員を担任。
1987年~1989年 日本理化学研究所滞在
1989年~1996年 中国原子能科学研究院副研(1992年),研究員(1996年)
1996年~1998年 ドイツGSI重イオン研究センター滞在
1998年~2005年 中国原子能科学研究院博士候補指導教員(1999年)、所長(2000年)
2000年~2006年 北京タンデム加速器核物理国家実験室副主任
2005年~現在 中国原子能科学研究院副院長
中国初の二次イオンビーム実験装置を完成し、中国において放射性イオンビームを利用し宇宙核物理研究の新たな分野を開拓発展させ、総合レベルを当時の世界の同類装置レベルにまで達成。そ の装置と国際協力を結び合わせ、システムを宇宙核物理と放射性イオンビーム物理研究作業に展開させることで、実験方法と理論分析において独特な研究路線を形成。
カナダと日本の宇宙核物理国際協力実験のスポークスマン、中国核物理学会副主任委員、日本理化所核物理学術委員会委員と国際純粋・応用物理学連合専業委員会委員を担当。国際会議諮問委員会委員を多く歴任。
SCI論文を30編ほど発表、8編の代表的な論文は80回余り被引用。1996年に香港にて傑出青年学者賞、1996年国家科技進歩二等賞を受賞。国家傑出青年基金資金援助を取得。
1. 原子能院の基本情况
中国原子能科学研究院(以下、「原子能院」と略称)は1950年に創立された。これまで中国科学院、第二機械工業部、核工業部の下部組織であったが、現在は中国核工業集団公司の管轄下にある。
原子能院は中国核科学技術の発祥地であり、先導性、基礎性、先見性のある核科学技術の総合研究基地でもある。現在、従業員は約3200人おり、その内両院院士( 中国工程院および中国科学院に選らばれた院士)4人、博士候補指導教員約80人、高級科学研究・エンジニア約900人である。呉有訓、銭三強、王淦昌、戴傳曾、孫祖訓、樊 明武など著名な科学者が院長を歴任しており、現在は趙志祥研究員が院長に任命されている。原子能院は中国核科学技術工業システム確立に対して歴史的に貢献をし、科学技術分野の中核人材を数千名送り出しており、中 国科学院と工程院院士のうち、約60人が原子能院の経歴がある。
また、原子能院は核物理研究所、原子炉工学研究設計所、放射化学研究所、同位体研究所、核技術応用研究所など5つの研究所がある。その下部組織としてタンデム加速器改良工事部、タ ンデム加速器改良工事技術部、中国高速実験炉工学部、中国先進研究炉工学部、核燃料後処理放射化学実験施設工程部、放射線計測測定部、放射線安全研究部など工学部と研究部を設置している。原 子能院の民間産業には原子高科股份有限公司などの実体産業がある。
原子能院は1958年に中国初の原子炉と加速器を建設した。二十世紀70-80年代に入り、原子能院は国家原子力および産業応用発展の必要に応じ、重水炉の大改修を実施し、タンデム加速器を取り入れ、放 射性同位体生産ラインを建設し、30 MeV大強度陽子加速器を開発した。また、中国核データバンク、北京タンデム加速器核物理国家実験室、核工業核保障重点実験室、中 国国家原子能機構(CAEA)放射線一級測定拠点、国家同位体工学技術研究センター、高速炉技術研究センターなど重点実験室を組織した。核データ測定と評価、重イオン核物理実験、保障措置、後処理先進技術、放 射性廃棄物処理処置、熱・高速炉原子力発電技術、放射線測定など新たな重要科学研究の分野を開拓し、重要な原子力科学研究を遂行した。同位体と放射線技術を中心とする核技術応用作業を展開し、民 間用製品プロジェクトの開発により、大規模な民間用製品の生産を始め、原子力発電の順調なスタートと中国核科学技術の全面的な発展推進のために重要な役割を果たした。現在、中国高速実験炉(CEFR)、中 国先進研究炉(CARR)、核燃料後処理放射化実験施設、タンデム加速器改良工事(BRIF)など四大科学プラットフォームを建設している。
2. 原子能院の先進原子力技術の研究開発状況
1. 中国原子力開発における立場
中国政府は原子力開発を、今後のエネルギー源構成を改善する重要手段と見なしており、2020年前後に原子力発電の最大出力を4000万キロワットにする計画を打ち出している。近 いうちに原子力発電の最大出力をより大規模なものに調整する。これは中国政府が原子力発電の政策を「適度な成長」から「強大な成長」に移行したことを示している。中 国の原子力は自主開発と外国との協力を共存させる技術路線を歩んでいる。
中国の原子力は加圧水炉‐高速炉‐核融合炉の三段階戦略である。原子能院の自主研究開発と導入・消化・吸収・再創造により、上 述の戦略に先進の高速炉技術と中国国情に合った核燃料サイクルの技術サポートを提供し、中国の原子力科学技術を徐々に世界トップレベルに押し上げている。
2. 核燃料サイクル技術
原子能院の核燃料サイクル技術は主に、核化学と放射化学、原子炉使用済み核燃料後処理技術、放射性廃棄物処理処置、分析化学、保障措置技術の5つの研究分野に分かれている。また、核 燃料サイクルと原子力発電サービスの基礎研究と応用研究、保障措置技術研究、院内廃棄物処理技術サービス、民間技術開発と民間用製品生産などの任務を担っている。さらに、核燃料後処理プラットフォームである、放 射性廃棄物処理処置研究センター、放射分析化学センター、保障措置検証技術CAEA-IAEA共同研究センター、核化学と放射化学研究センターを持っている。2 011年完成予定の核燃料後処理放射化実験施設はより完備された後処理技術研究条件を提供している。
核廃棄物処理処置研究分野において、原子能院が展開する作業には、高レベル放射性廃棄物処理処置、低中レベル放射性廃棄物処理と核施設閉鎖などの分野の研究がある。ガラス固体化、人 工岩石固体化冷却台などの装置を順に建設し、核種遷移と鍵となる核種の化学変化研究と後処理設備の高効率な除去剤の調剤研究を展開した。現在、主 に廃棄物深地層処理水溶液化と高レベル放射性廃棄物深地層処理界面化学などの研究を行っている。
保障措置技術試験室を通し、政府の核原料規制の法律法規及び国際核拡散防止と保障措置に関する合意履行要求に基づいた核原料規制技術研究を展開している。主な内容として、核原料バランスと制御技術、非 破壊分析技術、実物保護技術と関連する環境モニタリング技術がある。
3. 先進の放射性廃棄物核変換技術「ADS」の研究開発
加速器駆動核変換システム(以下、「ADS」と略称)は放射性廃棄物を核変換するのに最も潜在力のあるツールである。ADSの研究開発は加速器、原子炉物理、核物理、材料科学、核 化学など多くの学科を集つめ1つとした総合的なシステム作業といえる。原子能院は中国科学院高エネルギー物理研究所と協力し、ADSのコンセプト研究と基礎研究を完成させており、現 在すでにキーテクノロジーを取得している。加速器と原子炉を組み合わせたADS未臨界実験装置「啓明星一号」を世界に向けて提案し完成させた。自 主設計で完成させた中国初の高周波四重極加速器(RFQ)は世界トップレベルにある。さらに、中国初のADS中性子学研究専用コンピューターソフトウェアシステムを確立し組み合わせることで、A DS工学コンセプトの最適化計算プログラムを展開した。
4. 原子炉工学技術
原子能院は中国の原子炉建設事業のスタートと発展に重要な貢献を果たした。軽水、重水、高速中性子、固体ゼロ出力炉と49-2プール型原子炉を自己開発し順に完成させた。また、重水研究炉を大改修し、そ の効率を倍に向上させ、さらに超小型中性子源原子炉を自己開発した。中国の原子力発電所の自主設計建造と運営のために自主技術に基づく科学研究作業を数多く完成させた。
現在、原子能院には大型研究炉2基、超小型炉1基、各種炉内試験回路と炉外総合実験台、大型ホットセル、各種核原料試験、検査装置がある。さらに、完備された原子炉物理計算、原子炉熱流動分析計算、構 造力学計算および核安全と事故分析プログラムを持っている。それ以外に、現在建設している中国先進研究炉(CARR)には中性子散乱と中性子活性化回析装置、炉内試験回路、多 機能ホットセルグループなどが配備される。これは原子能院にとって最新で、さらに多機能な原子炉建設の総合的な研究実験プラットフォームとなる。
5. 高速炉技術
原子能院は中国唯一の高速炉技術開発機構である。建設中の中国高速実験炉(CEFR)建設は中国科技部「863」ハイテク開発計画エネルギー源分野で最大の科学建設プロジェクトであり、そ の熱出力は65MW、電気出力は20MWである。CEFRはナトリウム‐ナトリウム‐水(蒸気)の三回路システムがあり、その内の1つは一体型プール構造、その他二つは2ループ並列で運転している。そ の各ループにそれぞれ一次回路用主循環ポンプ1台、二次回路用主循環ポンプ1台、中間熱交換機2台、蒸気発生器1台が設置されている。また、CEFRには蒸気タービン発電機1台設置されており、最 大出力は25MWとなっている。高速炉原子力発電システムにより、ウラン資源の利用率を加圧水炉発電所の約1%から60%-70%まで向上させることができる。こ れは中国の原子力の持続的成長のための基礎を築くことになる。2009年9月に臨界状態が実現する。
6. 中国先進研究炉および研究プラットフォーム
中国先進研究炉(CARR)は重水減速軽水冷却の原子炉、関連する補助システムと実験施設が組み合わさった大型原子炉システムである。CARRの推進効率は60MW、中性子束は8×1014 n/cm2/sである。これはアジアで最も先進的で、安全・信頼性が高く、ハイテク性能を備えた多用途な研究炉であり、完全な自主的知的財産権を持っている。C ARRは中国の核科学研究に重要な科学実験プラットフォームを提供し、中国の核科学技術全体の実力とレベルの重要な里程標ということができる。そ の運転開始は必ず中国の核科学技術分野の基礎研究能力および原子炉工程試験技術の総合力を最大限強化し、中国の原子力と核技術開発と応用を推進・促進するものとなるであろう。2009年5月に臨界状態が実現する。
原子炉炉心と重水反射層内に、異なる用途の垂直管と水平管およびそれに組み合わせる中性子束応用設備計器を設置することで、原子炉が発生する強い中性子束の流れを十分に利用し、中性子散乱実験、放 射性核種放射生産、イオン化放射線計測標準、原子力開発研究および中性子活性化分析など行うことができる。同時に、各類核燃料素子、原料および同位体輻射試験と生産を展開することができる。
その中でも、中性子実験室はすでに中国科学院およびスウェーデン、ドイツと米国など多くの科学研究機関と密切な協力関係を確立している。さらに、高分解能粉末中性子回折装置(HRPD)、高 強度粉末中性子回折装置(HIPD)、残留応力回折装置(RSD)、中性子4軸回折装置(FCD)、中性子構造回折装置(NTD)、中性子3軸回折装置(TAS)、中性子小角散乱回折装置(SANS)、中 性子反射回折装置(NR)、冷中性子ラジオグラフィーと熱中性子のラジオグラフィー(Neutron Radiography)など回折装置10台を製作する。こ れらの回折装置はナノ材料の構造分析と材料工学の応力分析の重要な道具となるであろう。
7. 核技術の応用
原子能院は中国の重要な核技術応用研究開発基地である。加速器の開発、高出力レーザーの応用、核探索技術の開発、ネットワークと観測制御工学などの分野で中国をリードするレベルに達しており、大 強度陽子加速器、大出力の照射用電子加速器、工業用探傷検査電子加速器、コンテナ検査電子加速器、爆発物検査システムなどの大型装置を設計開発してきた。さらに、焼却灰分析、厚 度測定など工業転用可能な核計器と電力電気部品、恒温箱、使い捨て電気針などの製品を開発し、科学研究、開発、生産とサービスを一体化した。
核四重極共鳴技術を利用し、中国で初めてのゲート式爆発物検査システムのサンプル機や郵便物爆発物検査システムの開発に成功した。車載爆発物検査システム、郵 便物爆発物検査システムと放射性物質検査システムなどのテロ対策設備は2008年北京オリンピックの際に大いに貢献できた。
原子能院の関係会社である原子高科公司は、核応用技術の産業化に力を注いでいる。放射性同位体技術応用分野で、現在中国最大規模であり、製 品範囲が最も広範である放射性同位体総合開発能力を持つ生産基地は、体内診断と治療用放射性医薬品、体外免疫分析試薬セット、各種放射源などの製品を大量生産することができる。放射線技術応用分野で、自 己遮蔽型電子滅菌加速器システム、高エネルギー大出力の照射用加速器、非破壊検査用の電子直線加速器、コバルト60 線源照射用装置およびコンテナ検査システムの核心技術と専門設計と製造能力を持っている。
8. タンデム加速器実験室と核物理研究
北京タンデム加速器核物理国家実験室は中国の主要な低エネルギー核物理研究基地である。ここは主に核データ測定、核反応応用と核構造の基礎研究、核技術応用基礎研究と学際的研究を展開している。実 験室は一般開放モデルとして運営と管理を行っている。
実験室の主要設備には、大型静電式タンデム加速器1台と実験端末設備13台ある。この加速器はイオン交換が迅速かつ容易に行え、エネルギー流束が正確で信頼でき、連 続的な調整ができるなど数多くの優位点があり、現在中国において核物理基礎研究、核データ測定と電子部品の抗放射線補強模擬試験など核技術応用に最も適している大型加速器といえる。2 012年に完成するタンデム加速器改良工事はこの基礎の上にさらに高エネルギーの陽子と中性子流束および多核種のイオンビームを提供することができる。
この20年、タンデム加速器は約50の研究機構、約300の課題に対し60種類もの重イオン流束を提供し、その流束時間は合計6万時間にも上り、重大な科学研究成果を得ることができた。実 験室は核データ測定と評価、核技術の応用、放射束物理と核天体物理などの分野において、システム研究作業と国際協力を結び合わせることで、中 国において低エネルギーで安定したイオンビームと放射性イオンビームを利用し、核物理および学際的研究の新たな分野を開拓し発展させ、実験方法と理論分析において独特な研究路線を形作ることで、国際的に一定の地位を占めることができた。