世界各国における原子力発電の開発戦略の歩みと中国における原子力発電の開発
2009年4月8日
欧陽予(Ouyang Yu):
中国原子力工業集団会社総設計師 中国科学院院士
略歴
原子炉と原子力発電の専門家。現在、中国原子力工業集団会社科学技術委員会と中国広東原子力発電集団会社科学技術委員会の高級顧問、原子力工業第二設計研究院と上海原子力工程研究設計院の高級顧問、国務院原子力発電自主開発事業指導小委員会の専門家チームリーダー、および国家環境保護部原子力安全・環境専門家委員会の副主席を務めている。
1927年7月26日に四川省楽山で出生。1957年にソ連モスクワ動力学院研究生部を卒業、技術科学準博士の学位を取得。1991年、中国科学院の院士に選出。2001年、ロシア技術院の外国籍院士に選出。
原子力工業第二研究設計院の副技師長、上海原子力工程研究設計院の技師長、秦山原子力発電有限会社の第一副社長、江蘇原子力発電有限会社の技師長、および中国原子力工業総会社科学技術委員会の副主任を歴任。
原子炉、原子力利用、原子力発電、原子力の安全などに関する論文50編余りを発表。専門的な著作としては、『原子炉と原子力発電』、『秦山原子力発電所』、『秦山原子力発電プロジェクト』、『原子力利用の意義と展望』、『原子力――無窮のエネルギー』、『技師の鍛練と成長を語る』など。
概要:
本稿では次の事項について概要を述べる。- 原子力発電の開発を図る世界主要国の技術路線、開発戦略の歩み、経験および教訓。
- 現在の世界における原子力発電の開発動向と展望。
- 中国の原子力発電中長期計画の目標と任務。
- 中国の原子力発電自主開発で得られた成果。
- 中国の現在の能力、および世界の先進的水準に追い着くための取り組み。
- 中国における原子力開発の展望。
1. 各国による原子力発電開発戦略の歩み、経験および教訓
原子力発電は、すでに世界で50年余り利用されてきた。1950年代、アメリカや旧ソ連といった核保有国は、核軍備競争と同時に原子力発電の開発も競い合っていた。1954年に旧ソ連が電気出力5,000kWの実験用原子力発電施設を建設したが、その原子炉は黒鉛減速加圧水型(黒鉛の減速剤を用い、加圧水を熱媒体、低濃縮ウランを燃料とする)であり、核兵器用プルトニウムを生産する黒鉛減速加圧水型原子炉の技術を基礎にして開発された。1957年にはアメリカが電気出力9万kWの原型炉で原子力発電施設を建設したが、その原子炉は加圧水型(加圧水を減速剤および熱媒体として兼用し、低濃縮ウランを燃料とする)であり、原子力潜水艦で用いる加圧水型原子炉の技術を基礎にして開発された。イギリスも黒鉛減速ガス冷却炉(黒鉛を減速剤、二酸化炭素を熱媒体、天然ウランを燃料とする)を利用して軍用プルトニウムの生産と発電を同時に行うべく、1956年に単機出力4万6,000kWの軍民両用原子力発電ユニット2基を建設している。これらの成果により、原子力を利用した発電は技術的に可能であることが示された。こうした実験用および原型としての原子力発電ユニットは、国際的に第一世代の原子力発電ユニットと呼ばれている。
1950年代、各国の原子力技術界では、「どのような原子炉が発電に適しているか」という点につき、技術の実行可能性、安全性、経済性などの面から、こぞって研究や選別が行われていた。
アメリカでは、50年代に各種小型実験炉による研究、実験、比較などを行った結果、原子力発電を開発させるための主力炉として、次第に加圧水型および沸騰水型という2種類の軽水炉が選定されてきた。軽水炉は構造がコンパクトで経済性や安全性に優れているうえ、水の技術的特性も熟知されているため、軽水炉の産業化を実現する技術的難易度は高くない。軽水炉では天然ウランを使えず、低濃縮ウランを用いる必要があるが、当時のアメリカは低濃縮ウランに関する技術力があり、その点は問題にならなかった。そして、長年の実践により、アメリカの選択の正しさが証明された。現在のアメリカは原子力発電ユニット104基(加圧水型69基、沸騰水型35基)を運転しており、世界で原子力発電ユニットが最も多い国となっている。
旧ソ連は、1954年に実験用として5,000kWの原子力発電ユニットを建設し、引き続き黒鉛減速加圧水型原子炉の改良と性能向上に取り組んだ。単機出力の向上を図る一方、システムを簡素化して熱媒体も加圧水から沸騰水に転換し、炉心配管内で水の吸熱や沸騰により発生した蒸気でタービンを動かして発電しようとした。旧ソ連は、この技術路線に沿って単機出力100万kWの黒鉛減速沸騰水冷却圧力管型(RBMK)原子力発電ユニットを開発し、国内で計20基を建設している。チェルノブイリ原子力発電所で使っていたものこそ、この種の原子炉である。この種の原子炉は巨大な体積になり、格納容器で原子炉を密閉できない。そのうえに安全設計上の重大な欠陥と誤った運転操作が重なったため、原子炉の爆発と環境への大量の放射性物質放出という1986年のチェルノブイリ事故が発生し、原子力発電を世界的に発展させるうえで大きな打撃となった。旧ソ連が開発を図っていたもう一つの炉型であるロシア型加圧水型原子炉(旧ソ連では「VVER」と呼ばれていた)は、基本的に欧米で発展を遂げた加圧水型原子炉に似ている。単機出力44万kWのVVER-440に格納容器がないのは安全設計上の欠陥と言えるが、フィンランドへ輸出された2基には格納容器が増設され、今に至るまで問題なく運転されてきた。単機出力100万kWのVVER-1000はすべてに格納容器が設置されており、20基のユニットがロシア、ウクライナ、東ヨーロッパなどで問題なく運転され、かなり成功している。中国の田湾原子力発電所に設置されているのは、VVER-1000の改良型(91型)としてロシアから導入された原子力発電ユニットである。
1950年代初め頃のイギリスは、核大国になることを迫られて軍用プルトニウム生産用の原子炉を急いで建設した。それは天然ウランを燃料として、黒鉛を減速剤とした直接空気冷却の黒鉛減速ガス冷却炉で、ウィンズケールに設置されている。これは非常に粗末なもので、炉心を冷却した空気が直接に大気中へ排出される。また、燃料棒が破損して炉心の冷却空気とともに放射性物質が漏れ、広大な牧草地が汚染される事故を起こしたこともある。それから改良を進めたイギリスは、二酸化炭素ガスで冷却し、マグネシウム合金(Magnox)の燃料被覆管や天然ウランを用いる黒鉛炉を開発し、プルトニウムの生産と原子力発電を同時に行えるようにした(軍民両用炉)。そして、1956年に建設された2基の「コールダーホール型」原子力発電ユニットを基礎にしつつ、60年代から70年代にかけて相次いで同種の原子力発電ユニット26基を建設している。それらの単機出力は最大で60万kWに達する。しかし、イギリスは、軍用プルトニウムが充分に備蓄されたとき、次のことに気付いた。すなわち、その種の原子炉を発電だけのために使うと、発電の熱効率が低くて経済性が劣り、発電コストの面で軽水炉と競争できないうえ、二酸化炭素の漏洩率も大きい。そのため、80年代から今までに18基が次々と運転を停止して閉鎖された。原子力発電の継続的な発展を図るため、イギリスが次に選択したのは「改良型黒鉛減速ガス冷却炉(AGR)」である。これは黒鉛の減速剤、低濃縮ウラン燃料、ステンレス製燃料被覆管および二酸化炭素の熱媒体を用いるもので、70年代から80年代にかけて単機出力約60万kWの14基が相次いで建設された。しかし、長年の運転経験により、この種の原子炉は設備利用率(負荷因子)が通常で60%と著しく低く、経済性の面で劣ることが分かった。そこで、80年代の後半からは再び考え方を変え、アメリカのウェスチングハウス社から電気出力120万kWの加圧水型原子力発電ユニットを導入し、1994年に発電所を完成させて運転してきた。イギリス政府は、それを契機に原子力発電の復興を図ろうとしているが、国内では原子力発電反対の声も上がっている。その動向は今なお不明確だが、原子力発電を発展させるためイギリスが選んだ技術路線は、決して成功したとは言えない。
1950年代初期のフランスは、イギリスと同じく、核兵器用プルトニウムを生産する必要に迫られて、黒鉛の減速剤、天然ウラン燃料および空気冷却方式を用いる黒鉛減速ガス冷却炉を建設した。さらにプルトニウム生産と発電を同時に行えるユニットも建設したが、その発電量は自らの所内電力すら賄えず、原子力発電施設と呼べるものではない。それに続いて同種の軍民両用原子力発電ユニット4基が建設されている。フランスは、そうした実践を経て、天然ウランを用いる黒鉛減速ガス冷却炉が優れた原子力発電ユニットになり得ないことを悟った。そこで、60年代の末頃にはアメリカのウェスチングハウス社から単機出力90万kW級の加圧水型原子力発電ユニットを導入するよう決定して「高い出発点」を実現し、大量化、標準化および自主開発へ向けた発展の道を歩み始めた。この種のユニットは、フランス国内で34基が稼働中のうえ、8基が海外へ輸出されている。その後、フランスは、原子力発電の経済性を向上させるため、再びアメリカのウェスチングハウス社から単機出力130万kWの原子力発電ユニットを導入することにした(単機出力が大きくなると経済性が良くなる)。フランスでは、現在そのユニット20基が稼働している。また、90万kWユニットと130万kWユニットの自主開発が実現したことを基礎にして、新たな145万kWのN4ユニット4基も独自に設計して完成させた。今のところ、フランスでは原子力による発電量が全国総発電量の76%を占めている。近年、さらにドイツ・シーメンス社との共同で単機出力160万kWの第三世代原子力発電ユニットEPRが設計され、その第1号機がフィンランドに建設された。フランスが選択した原子力発電の技術路線は成功したと言える。
ウラン資源が豊富なカナダは、1950年代から原子力発電の開発に取り組んできた。当時のカナダにはウラン濃縮の技術がなかったため、天然ウランを燃料として重水を減速剤や熱媒体とすることにし、天然ウランを用いるカナダ型重水炉(CANDU)の原子力発電ユニットが建設された。このユニットは、90年代までにカナダ国内で26基が建設され、単機出力が12万5千kWから90万kWに向上したうえ、インド、パキスタン、韓国、ルーマニアおよび中国へ輸出もされている。カナダが自国の状況に合わせて選択した技術路線の方針には見るべきものがあり、CANDUによる原子力発電は経済性に関してもなんとか許容できる。しかし、天然ウランの燃焼率には限度があり、使用済燃料の量が大きいうえ、重水漏れを防止するには複雑なシステムが必要になるため、CANDUによる原子力発電の将来性は限定的である。カナダでは、新型重水炉による原子力発電プランの研究が進められている。
資源が乏しい日本では、早くも60年頃から原子力発電に着手したが、当初は少し回り道もしている。ウラン濃縮の問題を回避しようと考え、天然ウランによるコールダーホール型黒鉛減速ガス冷却炉の原子力発電ユニットをイギリスから導入した。しかし、完成後に発電を始めてから、この種の原子炉を発電に用いると技術・経済いずれの面でも難があることに気付いた。そこで、ただちに技術路線を変更して、アメリカから沸騰水型原子炉と加圧水型原子炉を導入し、それら2種類を並行して開発することとした。現在は沸騰水型ユニット30基余りと加圧水型ユニット20基余りが稼働しており、その単機出力は30万kWから130万kWである。日本が導入を通じてアメリカの技術を消化吸収し、次第に原子力発電の自主開発を実現してきたことは一応の成功と言えるが、その自主開発の歩みは速くない。
韓国では1970年代から原子力発電の発展を図ってきた。当初は輸入が中心で、カナダから重水型原子炉、アメリカやフランスから加圧水型原子炉をそれぞれ輸入したが、すべて元請の外国メーカーに設計を任せ、韓国自体は一部部品の製造を請負う(図面の提供を受けた加工)だけであった。こうして80年代中頃までに10基のユニットを稼働させてきたが、自主開発の能力はなかった。その点をふまえ韓国政府はフランスのモデルを踏襲しようと決め、国内の設計業者、研究機関、製造業者などを組織して自主開発の戦略を展開した。そして、単機出力100万kWのシステム80加圧水型原子力発電ユニットを導入し、ユニット4基の設計と建設を外国との共同で進めながら技術移転を図り、設計の自主開発と設備の国産化を実現している。現在も新型ユニットの自主開発を進めている。
以上の状況を見ると、原子力発電の発展を図るとき、いずれの国でも、安全性、経済性、高品質および迅速性を確保すべきことが分かる。そして、戦略面では以下のような重要問題に注意する必要がある。
- 技術路線の選択(特に炉型およびその主な特性の選択)が正しいか。
- 標準化、大量化、産業規模の拡大に向けた設計の自主開発と設備の国産化を実現できるか、および絶えまない改良と向上を図る能力のあるか。
- 技術導入と自主開発の関係を正しく処理できるか。
- 着実に実行できる計画と実施措置を定め、統一された目標の下で各方面の力を結集して調和が取れた発展を図れるか。
2. 現在の世界における原子力発電の開発動向
1970年代には、石油高騰によるエネルギー危機が原子力発電の開発を促進した。現在、世界で商用運転されている原子力発電ユニット400基余りの大部分は、この時期に建設されたものであり、第二世代の原子力発電ユニットと呼ばれている。
1979年にスリーマイル島事故が起こるまでは、多くの人々が「原子力は安全でクリーンなエネルギーだ」と考えていた。1979年のスリーマイル島原子力発電所と1986年のチェルノブイリ原子力発電所で重大な事故が起こると、原子力発電事業の進展は低調期に入り、幅広い市民が原子力発電の安全性に疑問を呈して、電力業への投資のペースも落ちた。しかし、中国、フランス、日本、韓国などは、原子力発電事業を発展させる方針を依然として改めず、「いかにして安全性と経済性を高めるか」という角度から問題を考え、「小さな失敗を恐れて大事を失う」事態を避けた。1980年代にスリーマイル島事故が起こってから、アメリカでは運転中および建設中の原子力発電ユニットに様々な安全措置が追加されたため、その建設コストが著しく増大した。それにより多くの原子力発電プロジェクトが中止されたが、原子力発電の実用性に関する研究は真剣に続けられた。エネルギー省と電力研究所の研究結果に基づき、アメリカは「これまでの経験と技術水準を基礎にすれば、市民や電力資本から受け入れられる安全性をもち、市場で競争できる経済性を備えた新世代の原子力発電ユニットを設計することができる」と判断した。そして、アメリカの電力研究所は、90年代に「改良型軽水炉使用者への要求」を記載した文書、すなわちURD文書(Utility Requirements Document)[1]を発行し、一連の定量指標で原子力発電所の安全性と経済性を標準化した。ヨーロッパでは「ヨーロッパにおける軽水炉発電所使用者への要求」、すなわちEUR文書(European Utility Requirements)[2]が発行され、URD文書と同じか類似した考え方が提示されている。国際原子力機関も、自ら推奨している原子力安全基準(NUSSシリーズ)の改訂・補充を行い、重大事故の防止と被害軽減、安全性と信頼性の向上、人的要因の改善などに関する要求をさらに明確化した。
すでにチェルノブイリ事故から20年余り経ったが、その間に世界の原子力発電ユニット約400基では、さらに約8,000炉年の運転経験が積まれたうえ、重大事故も発生していない。この事実は、原子力発電所の改善措置が成果を上げ、原子力発電の安全性と経済性がいずれも向上したことを示している。しかし、市民や使用者は、依然として原子力発電事業の発展に対し若干の懸念を抱いているため、以下の問題を重点的に解決する必要がある。
(1)炉心溶融や環境中への大量な放射性物質放出のリスクをさらに低減させ、重大事故の発生確率を最低限まで抑えることにより、市民の懸念を解消する。
(2)放射性廃棄物(特に、放射性が強く長寿命の放射性廃棄物)の発生量をさらに少なくし、より優れた処理方法を研究して、人員や環境に対する放射線の影響を低減させる。
(3)原子力発電所のkW当たりの建設コストを低減させて建設期間を短縮し、ユニットの熱効率、設備利用率および寿命の向上を図ることにより、その経済性をさらに改善する。
アメリカのURD文書、ヨーロッパのEUR文書、および国際原子力機関が提案しているNUSS基準の第2版は、上記の目標に基づいて提出されたものである。通常、URD文書またはEUR文書に適合した原子力発電ユニットは、国際的に第三世代の原子力発電ユニットと呼ばれている。2010年までには、商用の第三世代原子力発電ユニットが建設および普及される見込みである。
それと同時に、原子力利用の必要性、実用性および持続可能性に関する問題を根本的に解決するため、アメリカを初めとする一部の先進国は、安全性と経済性が極めて高い第四世代原子力利用システムの概念設計や研究開発を共同で進めつつ、2030年頃に商用施設を建設すべく努力している。
3. 第二世代原子力発電ユニットの改良
1980年代および90年代以来、各国では、運転中の第二世代原子力発電所に対して安全性と経済性を高めるための技術改良を進め、大きな成果を上げている。アメリカを例に取ると、新型原子力発電ユニットを研究開発すると同時に、それに少しも甘んじることなく、運転中の第二世代原子力発電ユニットの改良と効率向上を進めて顕著な業績を残した。そうしたユニットの改良は、以下のような面から着手されている。
1)ユニット運転性能の改良:
安全システムの改良、運転管理の強化、安全意識の向上などを通じて、原子炉の停止回数や異常事象の発生回数を低減させる。また、「リスクインフォームド供用期間中検査技術(Risk informed in-service inspection)」などを用いて原子力発電の整備技術を完全なものにする。そうした改良により、70年代に約60%であった原子力発電ユニットの設備利用率が、今では約90%に向上した。実践を通じて、ユニットの安全性向上と経済性向上は相関関係にあることが証明されている。つまり、安全システムの改善と人員の安全意識向上によりユニットの安定した連続運転が必然的に促進されるため、有効利用率が向上して経済的なメリットも得られるのである。
2)ユニット設計許容量の活用と定格出力の引き上げ:
原子力発電ユニットを設計するときには、若干の不確定性を考慮し、いずれでも適切な許容量を残してある。過去の運転データを詳細に分析すれば、それらの不確定性を相対的に確定できるので、許容量の活用を図れる。アメリカでは、そうした改良を既存のユニット50基余りに施し、様々な程度で定格出力を引き上げている。
3)ユニットの寿命延長:
通常、原子力発電ユニットの設計寿命は40年だが、現在、各国では寿命を延長できると考えられており、いずれも寿命の延長に関する問題を研究している。すでにアメリカ原子力規制委員会は、それに関する管理ガイドラインを制定するとともに、原子力発電ユニット40基余りを審査し、寿命を40年から60年に延長することを許可した。現在も延長の申請が相次いでいるが、それは寿命延長のメリットが非常に大きいからである。試算によると、ユニットの寿命延長に伴うkW当たりコストは250ドルから750ドルだが、現在のユニット新設コストはkW当たり1,500ドルから2,000ドルにもなる。ましてや、もしユニットの寿命を延長しなければ、寿命が尽きたとき退役させることになり、その撤去コストとしてkW当たり400ドル以上かかる。また、寿命を延長すれば発電コストが1.88セント/kWhまで下がる、とのことである。
4. 第三世代原子力発電ユニットの研究開発
第三世代の原子力発電ユニットについては、2010年までに商用施設を建設することが求められており、その設計原則は次のとおりである。すなわち、第二世代の原子力発電ユニットで蓄積した技術と運転経験を基礎にしつつ、その欠点に対して開発と検証を経た実行可能な新技術を用い、安全性と経済性を大幅に改善して、URD文書またはEUR文書やNUSS提案基準の要求を満たす。
各国で提出された設計プランをまとめると、以下のような指標や特長が示されている。
1) 安全性の指標
安全性の面では、重大事故の予防および被害軽減が図れる施設を設けて、下記の指標要求を満たさなければならない。
- 炉心溶融事故の確率≦1.0×10-5炉・年(すなわち、各原子炉を1年間運転して当該事故が発生する確率を10万分の1以下にする)
- 環境中へ放射性物質が大量放出される事故の確率≦1.0×10-6炉・年(すなわち、各原子炉を1年間運転して当該事後が発生する確率を100万分の1以下にする)
- 核燃料の熱工学的な安全許容量≧15%
2) 経済性の指標
経済性の面では、コンバインドサイクルの天然ガス発電所と競争できることが要求される(中国では「脱硫石炭発電所と競争できることが要求される」と提示している)。その具体的な指標は以下のとおりである。
- ユニットの設備利用率≧87%
- 設計寿命60年
- 建設期間54カ月以下
3) 受動的安全システムの採用
「受動的安全システムの採用」とは、物質固有の重力、流体の対流、蒸発拡散といった自然の原理を利用して、専用電源またはその他の動力源による駆動を必要としない安全システムを設計し、緊急時に原子炉の自然冷却や炉心余熱の除去を図ることである。そうすれば、設備が減ってシステムが簡素化されるとともに、安全性、信頼性、経済性なども向上する。これは革新的かつ重大な改良と言えるが、この面ではアメリカのAP-1000型加圧水型原子炉がリードしている。
4) 単機容量のさらなる大型化
研究と建設工事の経験によると、軽水炉原子力発電所のkW当たり投資額は、単機容量(kW数)が大きくなるほど低くなる(単機容量が150万~170万kWに達するまでは、いずれも同様)。そのため、ヨーロッパでフラマトム社とクラフトヴェルクウニオン社が共同設計したEPRユニットの定格電気出力は約160万kWとされ、アメリカのウェスチングハウス社と燃焼社も単機容量65万kWだったAP-600型ユニットを経済性の理由から約120万kWのAP-1000型ユニットに発展させた。日本の三菱が出したNP21加圧水型原子力発電ユニットでは電気出力が170万kWとされ、ロシアでもVVER型第三世代原子力発電ユニットの出力が150万kWになった。また、日本の東芝と日立は、単機出力170万kWの沸騰水型原子炉で原子力発電ユニットを建設する概念設計を提示している。
5) 総合デジタル制御システムの採用
フランスのN4、イギリスのサイズウェル、チェコのテメリーン、日本のABWRなど、近年の海外で稼働している新しい原子力発電ユニットは、いずれもデジタル計装制御システムを採用している。デジタル計装制御システムを採用すると信頼性が著しく向上し、人的要因も改善されて誤操作を避けられることは、経験により証明されている。原子力発電の設計やユニット供給を行う世界各国の業者が提示している第三世代の原子力発電ユニットは、例外なく総合デジタル計装制御システムを採用したものである。中国においては、10MW高温ガス冷却型実験炉と田湾原子力発電所のいずれでも総合デジタル制御システムを採用している。
6) 建設工事のモジュール化による工期短縮
原子力発電所を建設する工期の長さは、その経済性に大きな影響を及ぼす。工期を短縮する有効な方法の一つは、設備を個別に工事現場へ運んで据え付ける従来の方法を改め、モジュール化に向けて開発することである。設計を標準化して設備製造をモジュール化する方法により可能な限り製造工場内(工事現場より条件が良い)で組み立てを行い、現場での施工量を減らして工期を短縮する。アメリカと日本が共同で建設したABWRユニットでは、この技術の採用に成功している。アメリカのAP-1000でも設計や建設技術のモジュール化を採用しており、その工期は48カ月に短縮され得る。また、ドイツ、アメリカおよび南アフリカが研究・設計している高温ガス冷却型原子炉でも、モジュール化に向けた開発が図られている。
現在、世界で開発されている第三世代の原子炉は、すべて加圧水型、沸騰水型、高温ガス冷却型といった熱中性子炉であり、高速増殖炉はない。これは、今のところ近い将来に商用化され得るのが熱中性子炉しかないからである。中国でも、第三世代原子力発電の炉型を出力100万kW以上の加圧水型とすることが明確に定められている。
世界の加圧水型原子炉を見ると、成熟した第三世代の大型原子力発電ユニットとしてはAP-1000、EPRおよびシステム80+の3タイプがある。システム80+は、すでにアメリカ原子力規制委員会の許可を受けているものの、受動的安全システムの採用が極めて不充分なため、アメリカでは使用が断念されている。
アメリカ・ウェスチングハウス社のAP-1000とフランス・フラマトム社のEPRは、いずれも第三世代原子力発電ユニットの設計要求を満たしている。EPRは単機出力(約160万kW)がAP-1000(約120万kW)より大きいが、その安全システムは能動的なものであり、第二世代の従来型安全システムより複雑になっていて、AP-1000の進んだ受動的安全システムに及ばない。
5. 第四世代原子力利用システムに関する研究の進展
近年、世界各国で原子炉設計プランや核燃料サイクルプランの新たな概念が数多く提示されている。2000年1月、アメリカエネルギー省の提唱を受けて、アメリカ、イギリス、スイス、南アフリカ、日本、フランス、カナダ、ブラジル、韓国、アルゼンチンなど、原子力利用の発展を図っている10カ国の専門家が「第四世代原子力システムに関する国際フォーラム(Generation IV Nuclear Energy International Forum、「GIF」と略称)に参加した。そして、第四世代原子力システム(Gen IV)の研究開発を共同で行う憲章(Charter)が2001年7月に調印されている。
第四世代原子力システムの開発目標は次のとおりである。すなわち、2030年までに革新的な新世代の原子力システムを開発し、その安全性、経済性、発展の持続可能性、核拡散防止、テロ攻撃防止といった面で大幅な向上を図る。また、その研究開発には、発電や水素製造などに用いる原子炉だけでなく核燃料サイクルも含まれ、それにより「完全な原子力利用システムを構成する」という目標の達成を目指す。
GIFの組織は、主に各国政府から支援を受けた科学技術研究機関、高等教育機関および工業界の専門家で構成される。2000年から2002年にかけて、100名余りの専門家が8回のシンポジウムを相次いで開催し、第四世代原子力システムの具体的な技術目標を提示した。その主な内容は次のとおりである。(1)原子力発電ユニットの投資額をkW当たり1,000ドル以下、発電コストをkWh当たり3セント以下、建設期間を3年以下とする。(2)炉心溶融の確率と燃料破損率を極めて低く抑え、人為ミスにより重大事故が起こらないようにして、施設外から緊急措置を講じる必要もなくす。(3)従業員が作業時に被爆する放射線量と放射性廃棄物の発生量を可能な限り低減させ、完全な放射性廃棄物の処理・処分プランを定めて、市民に受け入れられる安全性能とする。(4)原子力発電所自体に強い核拡散防止能力をもたせ、原子力発電や核燃料の技術がテロ組織に利用されないようにする。(5)全寿命期間および全過程にわたる管理システムを設ける。(6)開発の国際協力体制を整える[3][4]。
2002年5月にパリで行われたGIFのシンポジウムにおいて優先的に開発すべき第四世代原子力システムの6種類が選出されたが、そのうち3種類は熱中性子炉、3種類は高速増殖炉である。3種類の熱中性子炉とは超臨界圧水冷却炉(SCWR,Supercritical water-cooled Reactor)、超高温ガス炉(VHTR,Very-high-temperature gas-cooled reactor)および溶融塩原子炉(MSR,Molten salt reactor)、3種類の高速増殖炉とは先進的な燃料サイクルを伴うナトリウム冷却高速原子炉(SFR,Sodium--cooled fast reactor)、鉛合金冷却高速炉(LFR,Lead-cooled fast reactor)およびガス冷却高速炉(GFR,Gas-cooled fast reactor)である。
GIFに参加した専門家は、上記6種類の原子力利用システムを研究開発する道筋について検討し、国際的な分業や協力に関する協議を行ったうえで、初歩的な事業の「ロードマップ(Roadmap)」を提示している。現在の概念から商用運転(産業化)を実現するまでには、以下の4段階を要すると考えられる。
- 第1段階-実行可能性(Viability)の研究:そのプランを着実に実行するうえでの重要な点を明確にしたうえ、それが基本的に実行可能であることを証明する。
- 第2段階-性能の研究:技術の規模に関する研究開発と最適化を行い、その性能を所期の水準に到達させる。
- 第3段階-システムのデモンストレーション:中規模または大規模なデモンストレーションシステムを建設し、その設計を検証する。
- 第4段階-商用運転の実施
現在はGIFに参加した関係機関が第1段階と第2段階の初歩的な手配や分業を行っているだけであり、第3段階や第4段階には着手していない。最終的にどの炉型のシステムで産業化を実現できるか、という点はまだ定かでないが、GIFの第四世代開発計画によると、2020年までに一つまたは複数の炉型が選定され、2025年までに新たな原型ユニットのデモンストレーションシステムが建設される。その原型ユニットにより、新技術の安全面や経済面における優越性が実証され、他のエネルギーを用いる発電ユニットと競争できることが確認されたら、2030年頃から第四世代原子力発電ユニットのシステムが幅広く採用できるようになる。その頃には、現在運転中の第二世代原子力発電ユニットがいずれも60年(寿命延長が許可された場合)の寿命期間を終えて退役する。
国際原子力機関は、GIFによる第四世代原子力システム(Gen IV)の提唱に賛同するだけでなく、2001年から「INPRO」という国際プロジェクト(International Project 0n Innovative Nuclear Reactors and Fuel Cycles-革新的原子炉および燃料サイクルに関する国際プロジェクト)を提唱して実施に移した。現在、中国、フランス、ロシア、欧州連合、インド、スペイン、カナダ、オランダ、トルコなどがINPROプロジェクトに参加している。INPROの事業は、具体的に何らかの型式で原子炉や燃料システムを設計するものではなく、以下のような事項を主な任務とする。
- 21世紀の経済発展に伴う電力需要を満たすため、原子力発電の発展が必要なことを論証および説明する。
- 世界および各国で設計業者、製造業者および発電事業者の協力を促進して、固有の安全性をもち、核拡散や核材料の遺失を防止できるうえ、競争力もある革新的な原子炉や核燃料システムを設計・建設する。
中国は、すでにGIFへの参加を決定して歓迎されている。
6. 立ち上げ段階から発展段階へ入った中国の原子力発電
原子力発電を重視してきた中国は、早くも1956年に国家原子力発展12カ年計画大綱を制定し、「原子力発電の使用はエネルギー開発の時代を画するものであり、それには遠大な前途が広がっている」、「条件付きで原子力発電を用い、総合的なエネルギーシステムを形成する」と明確に指摘していた。しかし、文化大革命によって妨げられ、中国では原子力発電の立ち上げが遅れてしまった。1974年3月31日、周恩来総理に主宰された中央専門委員会で30万kW級の加圧水型原子炉による原子力発電計画が承認され、科学技術開発プロジェクトとして国家計画に組み入れられて、ようやく原子力発電の事業が開始された。これこそ728プロジェクト(秦山原子力発電所)の始まりである。728プロジェクトは、中国が初めて独自に建設した原子力発電プロジェクトであり、1983年に研究開発と工事設計がほぼ終わり、1985年3月20日から正式に着工された。そして、1991年12月15日には電力網への送電を行い、原子力発電がなかった中国の歴史を変えて、中国の原子力発電技術に大きな飛躍をもたらした。中国は、90万kW級の原子力発電プラント2基もフランスから輸入し、1987年に広東省の大亜湾で着工させた。それら2基のユニットは、それぞれ1993年と1994年から電力網へ送電している。秦山原子力発電所と大亜湾原子力発電所の稼働により、中国は原子力発電の発展を図るための良好な基礎を固めることができた。
現在、中国では総設備容量911万kWになる原子力発電ユニット11基が稼働しており(表1)、それは台湾の総容量(ユニット6基、514万kW)を超えている。
国務院は、2007年3月に原則承認した『原子力発電中長期計画(2005~2020年)』の中で、「2020年までに、中国における原子力発電の設備容量を4,000万kW、建設中設備の容量を1,800万kWとする」ことを定めた。それに含まれる16~18基のユニットは「第10次5カ年計画」期間の末頃に着工されたか、「第11次5カ年計画」期間中に着工されるものであり、浙江省、広東省、遼寧省、山東省、福建省などに分布している。建設中の広東省嶺澳第2期と拡張される浙江省秦山第2期は、「第11次5カ年計画」期間中に稼働を開始する。その他のユニットは「第12次5カ年計画」期間中に相次いで稼働を開始する予定である。これらのユニットはすべて沿海地方に所在しているが、「第12次5カ年計画」期間中には、沿海地方で引き続き原子力発電所を建設していく以外に、湖北省、湖南省、江西省といった内陸地方でも原子力発電所の建設を始める。中国の原子力発電は、すでに立ち上げ段階から発展段階に入っている。現在の進展状況から見て、上記の計画目標は達成可能と言える。
7. 中国が持つに至った第二世代原子力発電施設の建設能力
中国が初めて独自に新規建設する30万kW級加圧水型原子炉での原子力発電計画(秦山第1期)を承認したとき、周総理は「この原子力発電所を建設する目的は発電だけでなく、その研究、設計、建設、運転などを通じて、技術の習得、経験の蓄積および人員の訓練を図り、中国がこれから原子力発電を発展させていくための良好な基礎を固めることも重要である」と語った。今、我々は「その目的は達成された」と言うことができる[5]。
16年余りにわたり安全に運転されてきた秦山第1期原子力発電ユニットでは、優秀な技術チームや管理チームが育成されており、他の原子力発電プロジェクトへも多くの中核的な人材を送り出している。発電所全体で安全意識の絶えざる向上が見られ、技術改良によってユニットの性能や信頼性が大幅に高くなって、448日にわたり安全に連続運転するという優れた業績を残し、貴重な技術や経験を蓄積してきた[6]。
30万kWの秦山原子力発電ユニットを基礎にしつつ改良・向上させたハシマ原子力発電所は、中国が元請する方式で援助しながらパキスタンに建設された高度科学技術輸出プロジェクトであり、2000年に完成して良好に運転されている。引き続きパキスタンは、技術、安全、経済などの指標をさらに向上させた第2号ユニットの建設援助も中国に求めてきた。その契約は2004年3月に締結され、現在実施中である。また、さらなる原子力発電ユニット4基の建設援助に関する意向書も2007年に双方で調印された。中国の高度先端技術は海外への輸出が可能なうえ、高く評価されている。これは国の誇りと言えよう。
秦山第2期の原子力発電プロジェクトは電気出力65万kWのユニット2基で構成されており、やはり中国が独自に新規建設したものである。そこでは、秦山第1期の技術と経験を取り入れるとともに、フランスから輸入した大亜湾原子力発電所を参考にし、その技術や経験を消化吸収したうえで一部を導入した。そして、中国は「中国が中心となる海外との協力」という方式をとり、独自な設計と建設を成功させている。これは、中国が独自に原子力発電所を建設していくうえで、秦山第1期に続くマイルストーンとなった[7]。
秦山第3期のプロジェクトでは、カナダ型重水炉の原子力発電ユニットを採用している。しかし、それを我々が迅速に消化吸収および理解し、建設期間における品質、進度、投資という三大管理を適切に行ったため、そのユニット2基はともに2003年10月から正式な商用運転を開始し、総投資額と建設期間がいずれも計画指標より優れていた。
中国がフランスから導入して大亜湾に建設した2基の大型原子力発電ユニット(単機出力98万kW)は、稼働開始から問題なく運転されている[8]。大亜湾原子力発電所を基礎にしつつ改良された嶺澳原子力発電所のユニット2基は、それぞれ2002年と2003年から商用運転を開始した。嶺澳原子力発電所の建設費決算額は予算額より10%低く、工期も計画より2カ月短縮されたうえ、その工事品質も優れていた。我々が大亜湾と嶺澳で原子力発電ユニット4基を建設および運転してきたことにより、大型ユニットの技術や管理経験が蓄積され、中国が原子力発電を自主開発する能力も強化されている。そして、大規模な商用原子力発電所の設計自主開発と設備国産化を全面的に実現していくための良い基礎が固まった。
以上のような事実は、中国が主に自らの力で開発を行いつつ導入技術も組み合わせれば、原子力発電所を設計・建設できるだけでなく、原子力発電所の運転や管理も適切に行えることを示している。このことは、中国が高度科学技術を身に付ける自信を深めるうえでも、民族精神を喚起するうえでも深い意義をもっている。
これらをまとめると、中国は、長年の努力を経て、第二世代原子力発電ユニットの設計と建設を独自に行う能力を持つに至ったうえ、それを改良することもできると言えるだろう。
8. 原子力発電の発展の積極的な遂行、自主開発の強化
党中央と国務院の指導者は、各関係部門や専門家の意見を幾度も幅広く聴取したうえで、中国で原子力発電を積極的に発展させていくべきことを決めたが、それは非常に見識あるかつ正しい方針決定であった。なぜなら、原子力は次のような代え難い優位点をもっているからである。
- 原子力発電は、クリーンかつ安全で、技術が成熟しており、供給能力が大きいうえ、大規模にできる発電方式である。
- 原子力発電所の建設を加速させ、電力供給における原子力の比率を高めれば、電力の増加、環境保護および発電用石炭の輸送に伴う問題を緩和させ得る。
- 原子力を発展させれば、高度技術産業や設備製造業の発展も促され、経済成長の促進、エネルギー構造の調整、エネルギー安全保障、持続可能な発展戦略の実施といった面で重要な意義がある。
国務院の指導者は、すでに次のとおり決定している。すなわち、今後中国が原子力発電を発展させるうえでは、大型ユニットの自主開発と国産化を速やかに実現する。また、「先進技術を採用して技術路線を統一する」という方針を貫徹しながら、中国の具体的な状況も考え合わせ、原子力発電の発展を積極的に図って自主開発を強化しなければならない。
中国の原子力発電チームは、30万kW級や60万kW級の原子力発電ユニットを独自に設計する能力を有しており、100万kW級の原子力発電ユニットを設計する能力もほぼ備わっている。しかし、我々の技術を世界的に見ると、まだ第二世代加圧水型原子炉の水準である。我々は、原子力発電発展の歩みを止めないため、改良型第二世代ユニットの建設へ引き続き取り組むと同時に、原子力発電の安全性と経済性の向上を根本目標に据えつつ、中国における原子力発電の世代交代、すなわち第二世代から第三世代への発展を一日も早く実現しなければならない。自主開発と技術導入を組み合わせながら、第三世代・100万kW級という大型で先進的な加圧水型原子力発電ユニットを独自に設計・建設するという目標を達成して、先進的で標準化されたうえ大量建設が可能な産業規模を形成し、原子力発電の発展を加速させる。さらに、それを基礎にして絶えざる改良と革新を図り、中国独自の知的財産権を有する中国ブランドの先進的な原子力発電ユニットを開発すべきである[9]。そのため、国務院の指導者は、すでに次の事項を決定している。すなわち、第三世代原子力発電の自主開発を図っていくうえで浙江省三門と山東省海陽の原子力発電プロジェクトを中心に据え、アメリカ・ウェスチングハウス社のAP-1000型という先進的な加圧水型原子炉施設を導入して、4基の原子力発電ユニットを共同で設計・建設する。そのユニット4基を共同で設計・建設し、導入技術を消化・吸収することにより、中国が独自に第三世代の100万kW級原子力発電ユニットを設計・建設および大量開発できるようにする。そして、さらなる研究開発や革新を図り、中国独自の知的財産権を有する中国ブランドの先進的な第三世代原子力発電ユニットを一定期間内に設計するとともに、そうした1基目の商用デモンストレーションユニット建設に着手し、それを成功させたうえで段階的に普及させていく。それを全力で確保するため、国家中長期科学技術発展計画綱領では、すでに『大型で先進的な加圧水型原子炉および高温ガス冷却炉の原子力発電所』が重要特別項目[10]として組み入れられている。ここで、原子力発電の発展を図るうえでは、一貫して自主開発を原動力とすべきことを強調しておかなければならない。それは、第二世代を改良・向上させるためだけでなく、さらに第三世代や第四世代へと発展させていくためなのである。
9. 原子力開発の展望
原子力利用はエネルギー問題を解決するために避けて通れない道であり、それが全エネルギーに占める割合は必ず次第に大きくなる。そして、エネルギー構造が改善されるとともに、将来的には人類のエネルギー需要に伴う問題の根本的な解決も望める。しかし、原子力の開発・利用は、順を追って段階的に進めるべき長期的な取り組みである。それは、技術的な難易度と産業化の実現に向けた展望に基づき、概ね三段階に分けられる。第1段階は熱中性子炉、第2段階は高速増殖炉、第3段階は核融合制御炉となる。これら三つの段階を互いに繋げながら段階的に実用化し、その産業化を実現する必要がある。中国における原子力の開発・利用は、これら三つの段階を追って推進していかなければならない。
9.1 熱中性子炉の段階
現在、世界では447基の原子力発電ユニットが稼働しており、その総設備容量は約3億8,800万kWとなり、4基の高速増殖炉以外はすべて熱中性子炉である。したがって、原子力の産業化や利用は、今なお第1段階にあると言える。熱中性子炉による原子力発電ユニットの中では、268基の加圧水型原子炉が多数を占める。中国で稼働しているユニット11基の内訳は加圧水型原子炉9基、重水炉2基(秦山第3期)となっており、やはりすべてが熱中性子炉である。中国の政府は、原子力発電を発展させるため加圧水型が主力炉となることを1983年に決定したが、20数年の経験により、その決定の正しさが証明された。加圧水型原子炉は、「成熟した技術」、「コンパクトな構造」、「高い安全性」、「運転や整備のしやすさ」といった優位さがあり、今後相当な長期間にわたり中国原子力発電の主力炉であり続けるだろう。しかし、加圧水型、沸騰水型、重水型といった原子力発電ユニットのいずれでもタービンの作動媒体が飽和蒸気であり、その温度は280℃を超えないため、それらの発電熱効率は約36%にしか達しない。熱効率を向上させる見地から、加圧水型や沸騰水型を超臨界圧水冷却炉(SCWR,Supercritical Water-Cooled Reactor)へと発展させていくべきである。超臨界圧水冷却炉の原子力発電ユニット(図1)ではタービンの作動媒体が超臨界水であり、直接原子炉から送られてくる。それは同時に原子炉の炉心冷却剤でもあり、その原子炉出口(タービン入口)における圧力は約25MPa、温度は510~550℃になる。そして、ユニットの熱効率は44~45%にも達し、水媒体の性質も変わらないため、「加圧水型原子炉」や「沸騰水型原子炉」の出る幕はなくなる。加圧水型原子炉に比べて、超臨界圧水冷却炉は蒸気発生器が必要なく、沸騰水型原子炉に比べると気水分離器が必要ないので、付帯システムや施設を大幅に簡素化できる。試算によると、超臨界圧水冷却炉では、大幅にシステムが簡素化されて熱効率も向上するため、発電所建設コストや発電コストが顕著に低減される。超臨界圧水冷却炉の開発や設計には、蓄積された加圧水型原子炉や沸騰水型原子炉の技術、および超臨界圧火力発電所の技術を数多く応用できる。しかし、その設計を着実に進めるためには、やはり多くの研究開発業務をこなす必要があり、特に炉心の性能や構造材料の研究開発が重要となってくる。
中国の973計画では、すでに超臨界圧水冷却炉が基礎研究項目として組み入れられている。
発展の可能性が高いもう一つの熱中性子炉は高温ガス冷却炉である。1970年代のアメリカとドイツでは、電気出力200~300MWの高温ガス冷却炉による原子力発電所が建設された。しかし、経済性が加圧水型原子炉や沸騰水型原子炉に及ばない、技術が成熟していない、といった理由により、それらは商用化に至らなかった。80年代になると、ドイツからモジュール式高温ガス冷却炉の設計概念が打ち出されたが、小型化可能で固有の安全性があることを特徴とするモジュール式は、高温ガス冷却炉の技術に関する国際的な流れとなっている。それをアメリカ、ドイツ、ロシア、日本、南アフリカなどが積極的に研究しており、中国では「863」計画の重点項目として「10MWモジュール式高温ガス冷却型実験炉」(図3)が組み込まれ、2002年に清華大学原子力設計研究院内で建設された。それは技術的に世界の先端を行くものである。中国では、それを受けた中長期科学技術発展綱領の重要特別項目『大型で先進的な加圧水型原子炉および高温ガス冷却炉の原子力発電所』において、電気出力20万kWのモジュール式高温ガス冷却炉によるデモンストレーション発電ユニットを建設し、高温ガス冷却炉の商用化を推進することが規定された。そして、超高温ガス炉(VHTR,Very High Temperature Reactor)を指向し、VHTR冷却炉心のヘリウムガス出口における温度を1,000℃まで高めて、水素の製造にも、石油工業、化学工業、製鋼といった産業への熱供給にも使用できるようにし、発電に用いるときの熱効率を50%まで上げる。しかし、高性能な燃料エレメント、直接サイクル・ヘリウムガス・タービン発電、高温炉の熱による水素製造などに伴う技術的な問題を解決しなければならない。
9.2 高速増殖炉の段階
熱中性子炉の主な欠点は、核燃料の利用率が低いことである。つまり、採掘および精錬されたウランの1~2%に当たる燃料のみが熱中性子炉の中で原子力を生み出して、それを除く98~99%のウラン238は、すべてそのまま変化せず、高速増殖炉でしか利用できないのである。
高速増殖炉がもつ最大の特長は、核燃料を有効利用できることである。高速増殖炉は核分裂燃料を消費して原子力を生み出しながら消費量の1.2~1.6倍に当たる核分裂燃料を生産することもでき、高温原子炉に滞留したウラン238の60~70%を高速増殖炉内で利用できる。この点に鑑み、中国の863高度科学技術計画では、熱出力65MWで電気出力25MWの高速増殖炉による実験用原子力発電ユニット(図3)を中国原子力研究院に建設することが決定された。現在、このプロジェクトは調整試験の段階にあり、2009年の完成が見込まれる。中国の中長期科学技術発展計画綱領では、すでに高速増殖炉が先端技術項目として組み込まれている。65MWの実験用高速増殖炉の建設や試験運転および関連事項の研究を通じて、高速増殖炉の設計、炉心技術、燃料や構造材料に関する技術を把握し、ナトリウム循環といった重要な技術的問題を克服することにより、モデルとなる高速増殖炉の商用原子力発電所を建設するための基礎を固める。また、高速増殖炉のもう一つの用途は、長寿命で放射性が強い核分裂産物やアクチニウム系元素を焼却し、高レベル放射性廃棄物を処分することである。
現在、世界では、フランスのフェニックスやスーパーフェニックス、ロシアのBN-600といった高速増殖炉が運転されており、それらのいずれでも金属ナトリウムが冷却剤である。これは、ナトリウム冷却高速増殖炉が技術的に実行可能なことを示している。そして、中国の実験用高速増殖炉でもナトリウム冷却を用いる。しかし、ナトリウムは化学的に極めて活発であり、酸素や水と激しい化学反応を起こしやすい。そこで、システムや設備に厳密なナトリウム漏れ防止措置を施し、ナトリウムと水や空気との接触を防ぐ必要があるため、システムや設備が大幅に複雑なものとなる。ヘリウムガス、金属鉛、ビスマスなどを冷却剤にすることを試みる専門家もいるが、それぞれに難しさがある(ヘリウムの熱伝導能力が液体金属にはるかに及ばない、鉛やビスマスは融点が高くて他の金属製構造材料との相容性が劣る、といった欠点)。その結果、現在のナトリウム冷却高速増殖炉のシステムは非常に複雑で、投資額も巨額になるため、それが燃料面でもつ優越性を相殺してしまう。また、その発電コストについても、まだ加圧水型原子炉などと競争できない。世界では第四世代ナトリウム冷却高速増殖炉に先進的な燃料循環システムを取り付けることが求められているが、そうなれば経済性や安全性が高まり、核拡散も防止できる。その他類型の高速増殖炉は技術的に未成熟であるため、いかにして技術を成熟させて工程の簡素化とコスト低減を図るかが、21世紀における高速増殖炉研究の主要な任務となる。高速増殖炉については、「2030年頃になれば、商業利用できるまで経済性が高まり、その優位性が発揮される」と予測されている。
ここで特に注意を要するのは、「高速増殖炉による核燃料の有効利用は"閉じた燃料サイクル"の採用が前提となる」という点である。高速増殖炉にとって最も合理的な燃料は産業用プルトニウムだが、高速増殖炉が自らの燃料サイクルを実現する前に、高温原子炉(中国では加圧水型原子炉)から産業用プルトニウムの供給を受ける必要がある。したがって、「産業用プルトニウムを高速増殖炉での使用に供するため、いかにして加圧水型原子炉から取り出した使用済燃料の再処理を大規模に行うか」や「その放射性が強い核分裂産物や長寿命のマイナーアクチニドをいかに変異、処理および処分して環境を保護するか」という点が解決すべき重要な問題となる。中国が建設しつつある実験用の使用済燃料再処理工場は、それらの研究を進めるうえで重要な役割を果たすだろう。
ここで次のことも指摘しておく必要がある。すなわち、上述した超臨界圧水冷却炉、超高温ガス炉および先進的な燃料サイクルを伴うナトリウム冷却高速増殖原子炉の3種類は、まさに第四世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)で重点的に開発すべきものとして選定された6種類の第四世代炉型に含まれており、すでに国際的な共同開発が行われている。GIFに参加している中国も、一定の研究開発任務を分担し、その成果や知的財産権をともに享受できるよう努力しなければならない。
9.3 核融合制御炉の段階
核融合炉とは、水素の同位体であるトリチウムを利用し、トリチウムなどの融合によりヘリウムを生成するとき核エネルギーを放出させる原子炉を指す。このトリチウムは重水中の「重水素」であり、地球上の水には1/7,000の割合で重水が含まれていて、含まれるトリチウムの総量は40兆tにもなる。そのため、核融合炉が成功すれば、数十億年分にも当たる人類のエネルギー需要を水中のトリチウムでまかなえる。しかし、持続的な核融合制御を実現するのは非常に難しい。最も重要な問題は、トリチウムとその原子核を少なくとも数千万から億℃まで加熱したうえで(プラズマになる)、それらを安定して閉じ込めておくことである。現在は、磁気閉じ込め、レーザー慣性閉じ込め、μ粒子の触媒といった方法による核融合制御の実現が主に研究されている。各国では約200台もの様々な試験装置を建設して核融合制御を模索しつつあり、すでに成功の曙光が見え始めた。中国でも新世代の核融合制御研究装置であるHL-2Aや低温超伝導閉じ込め核融合装置EASTが建設された。これは、中国の核融合研究が大規模装置による試験段階に入り、高いレベルで国際協力に参加するための基盤ができたことを象徴している。世界の磁気閉じ込め核融合試験装置では、すでに出力を入力より大きくするという成果が上がっており、核融合制御の科学的な実行可能性が基本的に実証された。そのため、アメリカ、ロシア、日本、欧州連合などは、共同開発した国際熱核融合実験炉(ITER,International Thermofusion Experimental Reactor、図4)の設計を完了させ、2015年前後の完成を目指してフランスのカタラッシュ(Catalache)に建設することを決定した。専門家は、「人類は2050年頃までに原型モデルの核融合制御発電所による発電を実現する可能性がある」と予測している。核融合炉を経済的に実用できる段階まで発展させるには、まだ相当に長く苦しい道程があるが、その将来は非常に明るい。中国の中長期科学技術発展計画では、すでに磁気閉じ込め核融合が先端技術項目として組み入れられたうえ、ITERプロジェクトの建設や運転に参加することも決定されている。そして、先端科学技術の面で世界と協力し合い、国内の核融合制御研究者とも緊密に連携しながら、中国における核融合エネルギー利用の発展を推進していくのである。
10. 結論
世界の原子力発電は、1980年代から90年代の低迷期を経て、まさに復興しつつある。現在、原子力発電の発展を呼びかける国がますます増えている。科学の発展に伴う環境保護(二酸化炭素や二酸化硫黄などの排出削減)や資源有効利用の要求が原子力発電発展の主要な推進力となり、安全性と経済性は、原子力発電の大規模な発展を図るための前提およびキーポイントと言える。
中国の原子力発電は発展の絶好機を迎えており、国の『原子力発電中長期計画(2005~2020年)』では、原子力発電に関する2020年までの目標および必要な措置[11]が明確にされている。また、国の『中長期科学技術発展計画綱領』では「大型で先進的な加圧水型原子炉および高温ガス冷却炉の原子力発電所」を重要特別項目として組み入れており、国務院も当該重要特別項目の全体的な実施プランを原則承認している。国の関係部門や関係機関は、計画の要求に基づき、中国で蓄積された原子力発電の技術や経験を充分に活用しながら世界の先進的な技術や経験も数多く取り入れて、一定数の第二世代改良型原子力発電ユニットを独自に設計・建設するとともに、一日も早く第三世代の先進的な原子力発電ユニットの開発段階へと進んで、独自の知的財産権を有する大型で先進的な加圧水型や高温ガス冷却型の原子力発電ユニットを自主開発し、より安全、経済的かつ高品質な原子力発電の開発を加速させるよう図っているところである。2020年頃には、中国の原子力発電開発に関する成果は、中国がイノベーションを持つ国であることを象徴するものとなるだろう。
中国では、建設済みの実験用高温ガス冷却炉、建設中の実験用高速増殖炉発電施設、およびクローズド核燃料サイクルシステムを実現するための研究開発活動により、原子力利用がさらに高い水準へと推進されつつある。また、核融合制御の面で得られた研究成果や国際協力への積極的な参加も鼓舞している。
上記のように、中国における原子力利用の前途はますます広がっている。しかし、これは何と言っても長期的、大規模かつ体系的なプロジェクトであり、近い将来に国民経済に貢献するための技術的課題を数多く解決し、次の段階に向けた長期的な発展のためにも体系的な予備研究を行いながら、基礎研究と応用研究を展開していく必要がある。それに関係する研究分野は非常に広範で互いに重なり合っている。そのため、短期と長期を組み合わせつつ遠大で総合的な見地に立ち、統一的かつ着実に実施して、可能な限り早く世界の先進的な水準に追い着き、それを追い抜けるよう努力しなければならない。我々は、鄧小平理論や「三つの代表」という重要な思想および科学の発展による指導の下、国の統一的な計画に基づく努力を経て、中国における原子力の開発・利用が必ず大きな実を結ぶことを確信して止まない。
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