第37号:資源探査技術
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深海自律型水中ロボットの開発及び大洋資源調査におけるその応用

2009年10月26日

王 越超

王越超:中国科学院瀋陽自動化研究所所長

1960年6月生まれ。1987年に中国科学院瀋陽自動化研究所で工学修士の学位を取得し、1999年に中国ハルビン工業大学で工学博士の学位を取得。現在、中国科学院瀋陽自動化研究所の所長、研究員を務める傍ら、ロボット学国家重点実験室主任、中国自動化学会ロボット専門委員会主任委員を兼務。主な研究分野:ロボット制御、マルチロボットシステム、ロボット技術の応用等。

1. 前書き

 地球表面積の71%を占める海洋は地球変動及び人類の生存・発展と密接に関係している。人類の生存と持続可能な発展のため、海洋を理解し、海洋を保護し、海洋を開発し、海洋を利用することは、現代の人類が直面する非常に重要なテーマとなっている。

 中国は1980年代から大洋の科学調査を開始し、これまでに20回の航海を重ねた。1990年4月、中国は中国大洋鉱産資源研究開発協会(China Ocean Mineral Resources R&D Association、『中国大洋協会』と略)を設立した。1991年、中国大洋協会は国連から5番目の深海採鉱の先行投資者として認められ、30万km2の海底探査任務を引き受けた。中国大洋協会は「国連海洋法条約」に基づき、協会メンバーを組織して国際海底資源の実地調査、資源評価、環境研究等の活動を進め、大洋多金属団塊、熱水硫化物の調査で顕著な進展を得た。

 海底の科学調査を進めるには、水中での探査調査を行うことのできる深海装備が必要となる。大洋多金属団塊の探査に取り組もうとする中国大洋協会の要請に応じ、中国は1980年代末に深海水中ロボットの研究開発を進めた。中国ハイテク研究発展計画の重大研究プロジェクトとして資金援助を受け、1995年に中国初の6,000m級深海自律型水中ロボット(Autonomous Underwater Vehicle,AUV)「CR-01」を開発することに成功した。「CR-01」は中国科学院瀋陽自動化研究所が全体の責任を負い、国内の多くの科学研究機関及びロシア科学アカデミー極東支部海洋技術研究所と共同で開発したもの。「CR-01」は1995年と1997年の2度にわたり、中国大洋協会が手配した太平洋での海底多金属団塊の調査活動に参加し、深海域で大量のデータ資料を得た。

 中国科学院瀋陽自動化研究所は1970年代末から水中ロボットの研究開発に取り組んだ。80年代初め、作業深度100m級の有索式遠隔操縦水中ロボット(ROV)「海人一号(HR-01)」が中国で初めて開発された。その後、中国ハイテク研究発展計画等の支援の下、無索式自律型水中ロボット(AUV)の研究をスタートさせ、1990年にAUV「HR-02」のテストベッドを完成し、AUVのアーキテクチャ、自動操縦制御、ナビゲーション、水中音響通信等のカギとなる技術の研究を進めた。これを基礎に、90年代中期、1,000m級無索式自律型水中ロボット「探索者」と6,000m級無索式自律型水中ロボット「CR-01」を開発することに相次いで成功した。「CR-01」は中国大洋協会が手配した深海資源の探査調査に応用され、これにより中国は深海ロボットを製造できる世界でも数少ない国の1つとなったのである。

 本論文では「CR-01」の主要技術性能及び太平洋の多金属団塊調査におけるその応用状況を主に紹介する。

2. 「CR-01」の概要

表1 「CR-01」の主な技術指標
主要寸法 4.4(長さ)×0.8(直径)m
作業水深 6000m
最大水中速度 2ノット
エネルギー 銀亜鉛電池
空中重量 1300kg
航続能力 10時間
長基線測位の精度 10~15m
写真撮影枚数 3000枚
連続水中録画時間 4時間

 「CR-01」は予めプログラミングすることにより、海底で自律的に活動できる知能型水中ロボットである。自律とはロボットが自らを管理・制御し、使命を遂行することである。ロボットはエネルギー装置、環境感知装置及び自動操縦システムを備えており、予め与えられた任務に基づき、どう行動するかを自ら決め、環境の変化を自動的に分析し、反応を示すことができる。図1は水中ロボット「CR-01」の写真であり、その主な技術指標は表1の通り。

 水中ロボット「CR-01」は主にキャリアシステム、制御システム、水中音響システム、リトラクタブルシステムの4つの部分で構成されている。その作業任務は専門の作業言語で編成され、翻訳後に「CR-01」の自動操縦コンピュータにダウンロードされる。これにより、予めプログラミングしたルートに基づき、所定の深さ、方向、高さ、距離に従って航行し、障害物を自動的に回避することができる。「CR-01」は72メガパスカル(MPa)の圧力に耐え、暗視ビデオカメラ、カメラ、サイドスキャン・ソナー、サブボトム・プロファイラーの4種類の調査機器を搭載している。これらの機器を利用すれば、海底のビデオ画像撮影、地勢測量、浅地層断面測量、水温・塩分・水深測量及びマンガン団塊存在度の測定を行い、また、各種の測量データ及び関連の座標位置を自動的に記録することができる。

図1 6,000m級自律型水中ロボット「CR-01」

図1 6,000m級自律型水中ロボット「CR-01」

 6,000m級自律型水中ロボット「CR-01」は長基線(LBL)音響測位システムを備えている。このシステムは水上と水中の2つの部分に分かれる。水上部分は母船の全地球測位システム(GPS)、コンピュータ、曳航式アレイ等で構成され、水中部分はロボットのキャリアシステムと海底に設置される3つのトランスポンダから成る。ロボットが作業を始める前に、まず海底に3つのトランスポンダを投入し、長基線測位システムのディテクタアレイとトランスポンダの試験を行う。アレイの測定を通じ、3つのトランスポンダの位置を確定し、必要な座標系を設ける。この後、ロボットは3点で構成されるトランスポンダアレイのカバーエリア内で作業を行う。長基線測位システムによりロボットの航跡をリアルタイムで監視することができる。

 長基線音響測位システムを利用すれば、水中で運動するロボットの軌跡を確定できる他、遠隔制御命令を出し、ロボットに対する監視・操作を行うことができる。ロボットが作業任務を完了して水面に浮上したら、無線信号とランプ信号を出し、回収を待てばよい。ロボットに重大な故障が生じ、又は自走能力を失った時は、システムが意思決定を下し、非常脱出装置によって水面に浮上させ、救出する。

3. 「CR-01」の海底調査への応用

図2 予めプログラミングしたロボットの航跡

図2 予めプログラミングしたロボットの航跡

 「CR-01」は主に国際海底の中国留保区域で多金属団塊等の資源を探査調査するのに用いられる。国連は「海洋法条約」及び中国の申請に基づき、中国が国際海底管理局に申請する探査区域として30万km2を選定した。6,000m級自律型水中ロボット「CR-01」は1995年と1997年の2度にわたり、中国大洋協会の科学調査船と共に太平洋に赴き、深海試験及び海底多金属団塊の調査を行い、成功を収めた。

 調査期間中、「CR-01」は水深5,200mの海底に何度も潜り込み、実地探査を行った。ロボットに搭載されたカメラとビデオカメラによって海底マンガン団塊の大量の写真と画像が得られ、また、サブボトム・プロファイラーとサイドスキャン・ソナーによって海底の地勢測量データ及び浅地層断面図が得られた。上記のデータから海底マンガン団塊の分布及び存在度を確定することができる。

 調査に入る前に、まず海底に3つのトランスポンダを投入し、長基線音響測位システムのアレイ測定を行った。その後、ロボットが潜水し、予めプログラミングしたルートに従って行動した。図2は1回の調査で予めプログラミングした「CR-01」のルート図であり、図3は長基線音響測位システムによって得られた「CR-01」の実際の航跡である。図からわかるように、実際の航跡と理論上の航跡は一致している。同時に、このシステムを通じ、母船の座標、ロボットの潜水地点の座標及び幾つかの変曲点の座標が得られた。これらのデータは理論値と合致する。実際のデータによれば、システムの測位誤差は約10mとなる。

図3 「CR-01」の実際の航跡

図3 「CR-01」の実際の航跡

 調査期間中、「CR-01」に搭載されている音響機器と光学機器はそれぞれ海底からの高さが異なるルートで使用された。「CR-01」は海底からの高さ30mの所定ルートを2ノットで航行し、サブボトム・プロファイラーとサイドスキャン・ソナーを用い、海底の浅地層構造、地勢及び対象物を測量した。また、海底からの高さ5mの所定ルートを2ノットで航行し、カメラとビデオカメラで撮影を行い、海底マンガン団塊の非常に鮮明な写真及び画像が得られた。

 「CR-01」搭載の光学システムと音響システムで得られた観測データを分析することを通じ、その調査区域内の海底マンガン団塊の被覆率と分布の特徴を推定し、地形・地勢についてデータ解析を行った。その結果は詳細かつ正確で信頼できる。

 深海の多金属団塊に対する調査と試験から、自動探査プラットフォームの水中ロボット「CR-01」は海底での航行が安定し、速度が均一で、深さと高さも正確であることがわかった。得られたデータは質が高く、その結果も正確であり、中国の同時期のその他深海探査設備より優れている。「CR-01」が得たデータは大洋底マンガン団塊鉱を分析するための非常に有効な科学的拠り所を与えるものだ。「CR-01」等による海底多金属団塊の調査と探査のお陰で、中国は排他的探査権と優先開発権を持つ7.5km2の多金属団塊鉱区を獲得した。「CR-01」はこのために力強い技術的サポートを提供したのである。

4. 結びの言葉

 「CR-01」の開発に成功し、深海での試験を滞りなく終え、また、海底多金属団塊の調査にこれを応用した後、中国科学院瀋陽自動化研究所は中国大洋協会の要請に応じ、ロシアの海洋技術研究所と再度協力して、2001年に新しい世代の6,000m級深海自律型水中ロボット「CR-02」を開発した。「CR-01」に比べると、「CR-02」はより高い機動力を備え、垂直二重反転パドルが追加され、新型の測深サイドスキャン・ソナーを搭載しており、制御方式も改良された。このため、水中ロボット「CR-02」は海底火山のような複雑な海底で移動し、作業を行うことができ、深海コバルトクラストの探査調査に用いることができる。「CR-02」の開発に成功した後、海底採鉱に応用するためのシミュレーション試験を行った。2006年9月、「CR-02」は南シナ海海域での深海試験に成功し、深海環境下での任務と運動制御、検出と遠隔制御、水中探査技術及び総合性能等について十分な検証が得られ、中国大洋協会によるプロジェクト確認検査に合格した。

 「CR-01」と「CR-02」の開発に成功し、深海での多くの探査調査任務を完遂したことは、中国が深海探査用機器の研究開発で重要な進展を収め、水中ロボット技術で世界の先進国に仲間入りしたことを示している。よりよく海洋を理解し、海洋を保護し、海洋を開発し、海洋を利用するため、中国大洋協会は「深海調査を持続的に進め、深海技術を大いに発展させ、深海産業を適時に確立する」との発展戦略を定めた。深海機器については、水中ロボットの研究開発に引き続き取り組む他、有人潜水器の開発が現在進められている。

参考文献:

  1. 封錫盛,「有索式遠隔操縦水中ロボットから自律型水中ロボットまで」,中国工程科学,第2巻第12期,2000年12月
  2. 李一平、封錫盛,「太平洋のマンガン団塊調査における6,000m級自律型水中ロボット『CR-01』の応用」,高技術通信,2001年第1期
  3. 学科発展報告総合巻:2007~2008,中国科学技術学会主編,中国科学技術出版社,2008年2月
  4. 「わが国の自主開発による7,000m級有人潜水器が総組立の段階に入る」,http://www.gov.cn/jrzg/2006-05/05/content_273919.htm
  5. 中国大洋鉱産資源研究開発協会,http://www.comra.org