中国における情報資源に関する知的財産権制度の現状と展望
2009年11月18日
陳伝夫(Cheng chuanfu ):
武漢大学知的財産権高級研究中心主任
法学博士。武漢大学情報管理学院教授、院長。中国図書館学会副理事長、中国版権協会理事。研究対象は情報資源の公共取得、知的財産権。
冉從敬(Ran Congjing):
武漢大学情報管理学院講師
管理学博士。武漢大学知的財産権高級研究中心講師。研究対象は情報制度、情報提供、知的財産権。
摘要
中国政府は、情報化と情報資源の開発・利用の実践を進めるなかで、知的財産権の保護を重視している。本文では、情報内容の提供者、情報サービスの提供者という役割上の位置づけをもとにし、中国の情報資源に関する知的財産権制度の現状について概略を説明し、今後の展望を述べた。
1978年以降の改革開放政策によって、中国の知的財産権制度の誕生が促された。1984年の特許法制定に始まり、中国では『特許法』、『商標法』、『著作権法』、『不正競争防止法』等の法律が相次いで公布され、また『コンピューターソフト保護条例』、『集積回路配置設計保護条例』、『著作権集団管理条例』、『情報ネットワーク伝播権保護条例』、『知的財産権税関保護条例』等の行政法規が発表された。これらの法律・法規はすべて、情報資源の開発利用の分野に適用されるもので、情報資源に関する知的財産権法の重要な法規である。中共中央弁公庁、国務院弁公庁による『情報資源の開発利用強化に関する若干意見』は、その第18条で「法により情報資源製品の知的財産権を保護する。知的財産権保護のための法執行力を強化し、海賊版・権利侵害等の違法行為を厳しく取り締まる。著作権管理制度を健全化し、著作権集団管理組織を設置する。ネットワーク環境での著作権保護とデータベース保護等に関する法律法規を完備する。」と求めている。これは、中国政府が情報資源に関する知的財産権制度の制定を非常に重視していることの現れである。本文中の版権とは著作権と同義である。
1. 情報化と情報資源開発利用の推進における知的財産権保護の重視
1996年に『国務院情報化業務指導グループ』が設立され、1997年4月には第1回全国情報化業務会議が開催された。この会議では、中国国家情報化基本組織(略称CNII)の内容が正式に提示され、中国国家情報化基本組織における情報資源の位置づけが確立した。
これと同時に、中国の知的財産権立法も加速した。中国の情報資源に関する知的財産権法の主な法規には以下のものがある。すなわち『著作権法』(1990年9月7日第7回全人代常務委員会15回会議通過、2001年10月27日修正)、『特許法』(1984年3月12日第6回全人代常務委員会4回会議通過、2000年8月25日第2次修正)、『商標法』(1982年8月23日第5回全人代常務委員会24回会議通過、2001年10月27日第2次修正)、『不正競争防止法』(1993年9月2日第8回全人代常務委員会3回会議通過)、『集積回路配置設計保護条例』(2001年10月1日施行)、さらに『ベルヌ条約』(中国は1992年10月に加盟)、『万国著作権条約』(1992年7月に加盟)、『実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約』(1993年4月に加盟)、『許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約』(1992年11月に加盟)、『著作権に関する世界知的所有権機関条約』(WCT)、『実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約』(WPPT)(2007年6月9日中国にて発効)等である。
2006年5月26日、胡錦涛総書記は、中共中央政治局第31回集団学習にあたってつぎのように述べた。「中国の知的財産権制度建設を強化し、知的財産権の創造、管理、保護、運用能力の向上に努めることは、中国の自主イノベーションの増強とイノベーション型国家の建設に不可欠であり、社会主義市場経済体制の整備、市場秩序の適正化、信頼し合える社会の建設に不可欠である。また中国企業の市場競争力の強化、国家のコア競争力の向上にとって不可欠であり、さらに対外開放の拡大、互恵実現のためにも不可欠である。国の経済・科学技術面での実力と国際的競争力を強化し、かつ国家利益と経済の安全保護の面における、知的財産権の役割を十分に発揮することは、中国がイノベーション型国家に列するための基礎となる。」
2006年第10回人民代表大会第4回会議で通過した『国民経済・社会発展のための第11次5ヵ年計画綱要』では、経済成長の方法転換の必要性、また「情報資源を確実に開発し」、「知的財産権の保護を強化し」、国民の知的財産権意識を高め、知的財産権保護システムを健全化し、知的財産権侵害防止体制を構築し、知的財産権侵犯行為を法により厳しく取り締まることが提示されている。
2006年の『国家中長期科学技術発展計画綱要(2006-2020年)』では、「知的財産権戦略と技術基準戦略を実施」し、国の知的財産権制度をさらに整備し、知的財産権を尊重し保護する法環境を整え、知的財産権に対する社会全体の意識と国の知的財産権管理レベル向上を促し、知的財産権保護を強化し、知的財産権を侵犯する各種行為を法により厳しく取り締まることが、示されている。2007年の中国共産党第17回全国代表大会報告では、「知的財産権戦略の実施」が強調された。『国家知的財産権戦略綱要』は、2008年4月9日に国務院常務委員会会議で審議され原則通過している。
2. 中国における情報資源に関する知的財産権制度建設の進展
中国の一連の知的財産権法は、理論上、すべて情報資源分野に適用される。しかし、情報資源に関する知的財産権制度では、情報資源の開発利用における特定の行為に特に着目している。情報資源の開発利用における特徴の違いによって、情報資源を開発利用する役柄を2つのタイプに分けることができる。1つは、出版者、インターネットのコンテンツ提供者等の情報内容提供者、もう1つは、オンラインサービスを提供するネットワークサービスプロバイダーのような情報サービス提供者である。
2.1 コンテンツ・サービス提供行為に対する知的財産権法の適用
2.1.1 作品のデジタルデータ化における知的財産権法の適用
書面文献のデジタルデータ化は、情報資源建設において不可欠の手順であるとともに、知的財産権訴訟が比較的多い分野でもあるため、各方面から重視されている。学界では作品デジタルデータ化の性質について、かつて長時間にわたり議論されたが、問題となったのは、作品のデジタルデータ化が一種の複製行為に当たるかどうかの判断であった。複製権は、著作権の中でも最も基本的で最も重要な経済的権利であり、自ら創作した作品を複製するかどうか、又は他者の複製を認めるかどうかについては、著作権者自身が決定する権限をもつ。中国の『著作権法』第10条は、「複製権」を「印刷、複写、模写、拓本、録音、録画、再録、撮影等の方法によって作品を1部又は複数製作する行為」と解釈している。この定義には「デジタルデータ化」は含まれていないものの、これに基づいて「複製」の構成条件を以下のように述べることができる。(1) 特定の複製方法(拓本等)を用いている。デジタルデータ化も、コンピューターを用具として行う複製である。(2) 行為の主観的目的が、オリジナルと同じ又は近似する複製品の製作にある。デジタルデータ化は、デジタルデータ形式を利用したオリジナルの表現又は転換の範囲内にあり、オリジナルの内容そのものは変更しない。(3) 複製品そのものには知的労働の特性がない。デジタルデータ化過程はオリジナルの内容に対して何ら影響を与えず、創造的な知的労働を伴わない。したがって、「データ化」は複製行為に当たる。2000年11月22日、最高人民法院は『コンピューターネットワーク著作権案件における法律適用についての若干問題に関する解釈』のなかで「著作権法の保護を受ける作品には、著作権法第3条に規定される各種作品のデジタルデータ化が含まれる。」と規定し、これによってこの議論に終止符が打たれた。本規定はまた、作品のデジタルデータ化は一種の複製行為であり、『著作権法』の「複製権」に関する規定による制限を受けると説明している。
2.1.2 データベース作成における知的財産権法の適用
中国の『著作権法』では、データベースを「編集作品」として著作権法の保護範囲内に入れており、その第14条は、「いくつかの作品、作品の一部、作品を構成しないデータ又はそれ以外の材料を編集し、その内容の選択又は配列に対して独創性を与える作品を編集作品とし、その著作権は編集者が享有する。ただし著作権を行使するときにオリジナル作品の著作権を侵犯してはならない。」と規定している。これによって編集作品は、版権作品により構成される編集作品と、版権のないデータ・材料により構成される編集作品の2種類に分けられることが分かる。前者は法規データベースなどのように、単独の法規は中国において著作権保護を受けないが、法規の選択や配列に独創性がある場合は、データベース全体として著作権の保護を受ける。「海南経天信息有限公司による海口網威科技有限公司提訴案件」で二審裁判所は、『中国大法規データベース』は法により著作権を享有すると判断している。後者は論文集などのように、単独の論文が著作権保護を受けるとともに、論文の選択や配列に独創性がある場合は、論文集全体も著作権の保護を受ける。「国家図書館による海洋出版社提訴案件」で裁判所は『中国図書館分類法』には独創的な配列、材料の選択、説明注釈があるとして、その説明注釈と分類全体がともに著作権の保護を受けると判断した。編集作品に対する判定のポイントは、その選択や配列に独創性があるかどうかという点である。システムソフト又は情報統合方法の限界により、構成・順序・配列等の選択方法が限られたデータベースについては、その選択と配列に独創性がなければ、データベース全体としては保護を受けない。これは、そのうちの一部データが著作権保護を受けることを排除しない。「北京華信捷公司対機械信息研究院案件」で裁判所は、華信捷社の「中国の建築予定・建築中プロジェクトデータベース」は、一般的な建設プロジェクトで通常用いられる方法によってプロジェクト情報を区分しており、内容の選択とデータの配列には独創性がないため、著作権の保護を受けないと判断した。
2.1.3 ネットワークリンクに対する知的財産権法の適用
リンクはウェブサイト資源を延伸する重要な方法だが、リンクによる権利侵害には主に以下の5種類がある。(1) リンクバナーによる権利侵害。リンクの設定側サイトが、他者が著作権を有する画像や文字をリンクバナーにすることは、他者の著作権侵犯に当たる。サイト上で他者の商標を使用してリンクバナーとし、他者の著名な商品との混同を招く場合は不正競争を構成する。「北京金洪恩電脳有限公司による北京惠斯特科技開発中心提訴案件」で裁判所は、被告は原告の商標に類似したマークを使用しリンクバナーとしており、不正競争に当たると判断した。(2) ディープリンクによる権利侵害。ディープリンクとは、リンクされたサイトのホームやその他のページを経由せず、ある特定のページに直接リンクすることである。「北京金融城網絡有限公司による成都財智軟件提訴案件」で裁判所は、財智社が相手の許諾を得ず無断でディープリンクを行ったことは不正競争に当たると判断した。(3) フレームリンクによる権利侵害。フレームリンクとは、フレームを利用してページを異なる区分に分割し、リンクされたサイトの全内容を各区分で閲覧できるようにすることである。他者のサイトにフレームリンクをしても、画面上のURLはリンク設定側サイトのままである。これにより訪問者が、リンクされたサイトはリンク設定者サイトの一部分だと誤解するおそれがあるため、これは不正競争に当たる。(4) 組み込みリンクによる権利侵害。組み込みリンクとは、他者サイトのバナーや商標バナー等を自己ページのソースコードに埋め込み、検索エンジンによる照会に役立てることである。これにより権利者の業務上の信用が侵犯され、商標価値が薄弱化されるため、これは不正競争に当たる。(5) リンク停止遅延による権利侵害。権利者がリンク停止を表明した場合、リンク設定者は直ちにリンクを停止しなければならず、しない場合はリンク停止遅延の権利侵害を構成し得る。「劉京勝による捜狐提訴案件」で裁判所は、原告がリンク停止を求める意思を表明した後も、リンク設定者は積極的な措置をとっておらず、権利侵害責任を負わなければならないと判断した。
2.1.4 情報資源のネットワーク配信における知的財産権法の適用
1999年の「王蒙等6人による世紀互聯通訊技術服務有限公司提訴案件」で裁判所はすでに、被告が許諾を得ず原告の作品をインターネット上で配信した行為は、原告の著作権を侵犯したと判決した。2001年の中国改訂『著作権法』では、「情報ネットワーク伝播権」すなわち「有線又は無線により作品を公衆に提供し、公衆が各自の選んだ時間と地点において作品を入手することができるようにする権利」について規定した。2002年には、「陳興良による中国数字図書館有限責任公司提訴案件」で裁判所は、被告が原告の作品をインターネット上にアップロードし、作品が配布される時間と空間、作品に接触する人数を拡大し、作品への接触方法を変更しながら、作者が合理的な報酬を得られるよう有効な手段をとっていないことは、原告の情報ネットワーク伝播権に対する侵犯であると判断した。2006年7月1日から中国では『情報ネットワーク伝播権保護条例』が実施された。本条例は、「権利者が享有する情報ネットワーク伝播権は、著作権法及び本条例の保護を受ける。法律、行政法規に別途規定がある場合を除き、他者の作品、実演、録音・録画製品を、情報ネットワークを通じて公衆に提供する場合は、いかなる組織又は個人も、権利者の許諾を得るとともに報酬を支払わなければならない」と規定しいている。本条例はまた以下のように規定している。「権利者は技術的措置をとることができる。いかなる組織又は個人も、技術的措置を故意に回避又は破壊してはならず、主に技術的措置を回避・破壊するための装置若しくは部品を、故意に製造する、輸入する、又は公衆に提供してはならず、他者が技術的措置を回避又は破壊するため故意に技術的サービスを提供してはならない。権利者の許諾を得ない場合、いかなる組織又は個人も以下の行為をとってはならない。(一)情報ネットワークを通じて公衆に提供された作品、上演、録音・録画製品の権利管理に関する電子情報を、故意に削除又は変更すること。ただし、技術的原因により削除又は変更が免れない場合はこのかぎりではない。(二)権利管理に関する電子情報が権利者の許諾を得ずに削除又は変更されたことが明らかである作品、上演、録音・録画製品を、情報ネットワークを通じて公衆に提供すること」。さらに、条例に挙げられた保護措置に違反する行為に対しては、相応の処罰を科すことも規定されている。
2.1.5 ネットワーク転載に対する知的財産権法の適用
書面から書面への転載方法について『著作権法』第32条は、「作品が掲載された後は、著作権者が転載・抜粋の禁止を表明していない限り、他の刊行物に転載する、又は要約・資料として掲載することができる。ただし、規定に従って著作権者に報酬を支払わなければならない」と規定している。つまり、すでに発表された作品を刊行物に転載する場合には、法定で許可される使用権を享有している。書面からネットワークへ又はネットワークからネットワークへの場合、最高人民法院は、2004年実施の『コンピューターネットワーク著作権に関わる紛争案件の審理における法律適用についての若干問題に関する解釈』第3条で、「すでに刊行物に掲載された、又はネットワーク上に配信された作品について、著作権者が転載・抜粋の禁止を表明している、又は当該作品をアップロードしたネットワークサービスプロバイダーが著作権者の委託を受けてそれを表明している場合を除き、ウェブサイトに転載・抜粋し、関係規定に基づいて報酬を支払ったうえ、典拠を明記したものは、権利侵害行為としない。ただしウェブサイトに転載・抜粋された作品が、もとの刊行物による転載範囲を超える場合は、権利侵害と認めなければならない」としている。しかし『情報ネットワーク伝播権保護条例』の実施を受けて、最高人民法院は2006年11月20日にこの司法解釈を修正し、第3条の内容を削除した。このことは、中国の立法と司法が、ネットワーク環境下での著作権保護に対して今後よりいっそう厳格化していき、紙媒体からネットワークへ又はあるネットワークから別のネットワークへという転載方法に対して、「法定許可」や「合理使用」の特権が与えられないことを意味している。ネットワーク環境下での転載にも同様に、報酬の支払と著作権者の許諾が必要になる。
2.1.6 ネットワークドメイン名に対する知的財産権法の適用
コンピューターネットワークのドメイン名の顕著な特徴の1つは、ネットワーク環境下で、ドメイン名使用者とそのサービスを識別するという、商標・商号にも似た機能を持つことである。ドメイン名の登録、使用等の行為では、ドメイン名と従来の商標・商号等の民事権益主体との間に対立が発生する可能性がある。2001年に施行した『コンピューターネットワークドメイン名に関わる民事紛争案件の審理における法律適用についての若干問題に関する最高人民法院解釈』は、中国が初めて、ドメイン名に関する司法調整体制を系統立てて確立したことを意味する。その後、中国インターネット情報センター(CNNIC) は『中国インターネット情報センタードメイン名登録実施細則』(2002年制定、2009年修正)等一連の規範文書を公布し、ドメイン名登録と紛争解決のための比較的整った制度体系を構築している。情報産業部も『中国インターネットドメイン名管理規則』(2002年制定、2004年修正)を制定し、ドメイン名管理、ドメイン名登録、ドメイン名紛争と罰則等について規定した。中国の裁判所で受理するドメイン名紛争案件とは、コンピューターネットワークのドメイン名登録、使用等に関するすべての民事紛争案件を指し、それにはドメイン名と著名商標、普通登録商標、商号、著名商品に特有の名称、氏名等の権利主体との間の紛争案件が含まれる。中級人民法院がドメイン名案件の第一審裁判所であり、権利侵害の行為地又は被告人住所地の裁判所が管轄する。当該ドメイン名を発見したコンピューター端末等の設備所在地を、権利侵害の行為地とみなすことができる。行為者によるドメイン名の登録・使用行為が権利侵害と不正競争を構成すると判断するためには、以下の4つの条件に合致していなければならない。1つは、原告が保護を求める民事権益が合法的かつ有効であること。2つ目に、被告のドメイン名と原告が保護を求める権利対象との間に相似性があること。3つ目に、被告には登録・使用のための正当な理由がないこと。4つ目に、被告に悪意があることである。最高人民法院による司法解釈には、よくある悪意的状況4種類が挙げられている。1つ目は、原告の著名商標を商業目的のため自分のドメイン名として登録する例。2つ目は、原告の登録商標・ドメイン名と同一の、又は近似したドメイン名を商業目的のため登録・使用し、原告が提供する製品・サービス又は原告のウェブサイトとの間に、故意に混同を招く例。3つ目は、そのドメイン名の高額での販売、貸出し又は他の方法による譲渡を募り、不正な利益を得ようとする例。4つ目は、ドメイン名登録後に自らオンラインで使用せず、またオンラインアドレスとしての使用のためにも備えず、ドメイン名を買い占めて、関係権利者によるそのドメイン名の登録を意図的に阻害する例である。
2.2 オンラインサービスの提供における知的財産権法の適用
ネットワークサービスプロバイダーの主な業務は回線接続である。ネットワーク業務の増加に伴い、ストレージサービスの提供もISPの業務の1つになっている。
2.2.1 接続サービスに対する知的財産権法の適用
接続サービスの提供者は、ネットワーク情報に対する編集・制御能力をもたない。したがって、その負うべき法律責任はコンテンツ提供者とは異なる。知的財産権法は、ネットワーク上の著作権侵犯行為を法により制止・制裁する一方で、ネットワークサービスプロバイダーに対して法律責任の「防波堤」を提供しようともしている。このため中国の法規定では、著作権侵害に対するネットワークサービスプロバイダーの過失責任制度を明確にしている。また同時にその行為を制限し、どのような状況でネットワークサービスプロバイダーが権利侵害責任を負わなければならないかを規定しており、それによってネットワークサービスプロバイダー自身による自主的な制限と自己防衛を促して、著作権者の合法的権益を保護しようとしている。オンラインサービスを提供するネットワークサービスプロバイダーに対しては、それらがネットワーク上の情報に対する編集・制御能力を持たないことから、他者がネットワーク上で行う権利侵害行為に対しては主観的過失とはならない。民法通則第106条の規定に基づけば法律責任を負う必要はなく、権利侵害の法律責任は行為者本人が負わなければならない。ただし『コンピューターネットワーク著作権に関わる紛争案件の審理における法律適用についての若干問題に関する最高人民法院解釈』(2006年)の規定によれば、ネットワークサービプロバイダーがネットワークを通じて他者の著作権侵犯行為に関与する、又はネットワークを通じて他者の著作権侵犯行為を教唆・幇助する場合、裁判所は民法通則第130条の規定に基づいて、そのプロバイダーと他の行為者又は権利侵犯行為を直接行った行為者による、権利侵犯の共同責任を追及しなければならない。ネットワークサービスプロバイダーが、専ら他者の著作権に対する技術的保護措置を故意に回避若しくは破壊するために用いる方法、設備又は材料であることを知りながら、それをアップロード、配信、提供した場合、裁判所は当事者の訴訟請求と案件の具体的情況に応じて、著作権法第47条第(六)項の規定に基づき、ネットワークサービスプロバイダーの権利侵害行為に対して民事責任を追及しなければならない。
2.2.2 ストレージサービスに対する知的財産権法の適用
ストレージサービスについては、自動ストレージサービスと非自動ストレージサービスの2種類に分けることができる。自動ストレージサービスについては、ネットワークサービスプロバイダーがネットワークの送信効率を高めるために、他のネットワークサービスプロバイダーから入手した作品、上演、録音・録画製品を、技術的手段を利用してサービス対象向けに自動的に保存したもので、なおかつ以下の条件に合致する場合は賠償責任を負わない。(1) 自動保存された作品、上演、録音・録画製品に修正を加えていないこと。(2) 作品、上演、録音・録画製品のもとのネットワークサービスプロバイダーが、サービス対象による本作品、上演、録音・録画製品の取得状況を把握することに影響を与えないこと。(3) もとのネットワークサービスプロバイダーが、当該作品、上演、録音・録画製品を修正、削除又は遮蔽するとき、技術的手順に基づいて自動的に修正、削除又は遮蔽していること。また非自動ストレージについては、ネットワークサービスプロバイダーがサービス対象向けに情報保存の場を提供し、サービス対象がネットワークを通じて作品、上演、録音・録画製品を公衆に提供できるようにしたもので、なおかつ以下の条件に合致する場合は賠償責任を負わない。(1) その情報保存の場が、サービス対象のために提供されたものであることが明示されており、ネットワークサービスプロバイダーの名称、連絡担当者、ネットワークアドレスが公開されていること。(2) サービス対象が提供した作品、上演、録音・録画製品に修正を加えていないこと。(3) サービス対象が提供した作品、上演、録音・録画製品に権利侵害があることを認知しておらず、認知すべき合理的理由がないこと。(4) サービス対象者が提供した作品、上演、録音・録画製品から直接経済的利益を得ていないこと。(5) 権利者の通知を受領した後に、権利者が権利侵害を認める作品、上演、録音・録画製品を本条例の規定に基づいて削除していること。
2.3 コンピューターソフト保護における法律適用
1990年の中国『著作権法』第3条第8項では、すでにコンピューターソフトが著作権保護の対象として挙げられている。2002年2月22日、中国国家版権局は『コンピューターソフト登記規則』を発表した。これはソフト著作権登記、ソフト著作権独占許可契約・譲渡契約の登記に適用される。ソフトの著作権登記申請者は、そのソフトの著作権者又はソフト著作権を相続した、譲り受けた、若しくは引き継いだ自然人、法人その他の組織でなければならないとしている。またコンピューターソフトの登記申請、審査・承認、ソフト登記の公告、関係費用等についても規定している。本登記規則は中国版権保護センターをソフト登記機構として指定している。国家版権局の承認を得れば、中国版権保護センターは地方にソフト登記事務機構を設置することができる。
2002年12月20日、国務院は修正後の『コンピューターソフト保護条例』を再度公布した。本条例は、中国におけるコンピューターソフトの法律保護の基本的枠組みを制定しており、本条例が保護するソフトは開発者が独自に開発したものであり、かつ何らかの有形物上に固定されたものでなければならないと規定している。また、ソフト複製品の出版者、製作者がその出版、製作が合法的な権限委譲を受けたものであることを証明できない、又はソフト複製品の発行者、貸出し者が、その発行、貸出しする複製品に合法的な典拠があることを証明できない場合は、法律責任を負わなければならないと規定し、出版者、製作者、発行者、貸出し者等に対して一定の法律的義務を課している。
2009年7月30日、国家版権局、公安部、工業・情報化部は共同で通知を出し、8月から11月の4ヶ月間にわたり全国的規模で、2009年ネットワーク権利侵害・海賊版特別取締り活動を共同展開すると決定した。これは3部門が2005年以降行ってきたネットワーク権利侵害・海賊版特別取締り活動の第5回目で、これまでで活動期間が最も長いものになり、中国の正規版保護、海賊版取締りに対する決意を示すものである。
2.4 情報資源に関する知的財産権免除制度
知的財産権法はまた、合理使用制度、法定使用許可制度を制定して、公共利益の充実も促進し、知的財産権者と公衆との間の利益バランスを図っている。合理使用とは、すでに発表された作品を特定の条件下で使用し、その際に著作権者の同意を得なくてもよく、また版権者に報酬を支払う必要もないことを指す。ただし、知的財産権者の合法的権益を侵犯してはならない。中国の『著作権法』第22条は合理使用制度について規定し、著作権者、出版者、上演者、録音・録画製作者、ラジオ局、テレビ局の権利に制限を加えて、公共的利益を効果的に保障している。『情報ネットワーク伝播権保護条例』は、ネットワークサービスのうち8種類の合理的使用状況について規定している。すなわち、作品の紹介・評論中の適切な引用、ニュース報道のために避けられない再現や引用、学校教室内の授業や科学研究用の少量の使用、国家機関による公務執行用の合理的範囲内の使用、中国語から少数民族言語文字作品に翻訳するための使用、視覚障害者のための提供、情報ネットワーク上にすでに発表された政治・経済に関する時事的文章の公衆への提供、公的な集会の場で発表された談話の公衆への提供等である。そのほか、図書館、資料館、記念館、博物館、美術館等は、館収蔵の合法的に出版されたデジタルデータ作品や、法により陳列用又は保存版とされデジタルデータ化による複製が必要な作品を、著作権者の許諾を得ずに情報ネットワークを通じて館内のサービス対象に提供することができる。それについて報酬を支払う必要はないが、直接又は間接的に経済的利益を得てはならない。当事者が別途約定する場合はこの限りではない。ただし規定されている、陳列用又は保存版とされデジタルデータ化による複製が必要な作品とは、破損している、破損・遺失・盗難のおそれがある、又はその保存形式が古くなっているもので、なおかつ市場で購入することができない、又は基準より明らかに高い価格でしか購入できない作品でなければならない。
法定許可とは、すでに発表されている作品を特定の条件の下で使用し、その際に版権者の同意を得る必要はないが、版権者に報酬を支払わなければならないことを指す。『著作権法』の規定によれば、法定許可の状況には以下が含まれる。すなわち、9年制義務教育と国家教育計画実施のための教科書編纂・出版;著作権者が作品の転載・抜粋禁止を表明していない場合に、作品の刊行物掲載後に他の刊行物が行う転載又は要約・資料としての掲載;他者の合法的な録音製品である音楽作品の、録音製作者による使用と録音製品製作;ラジオ局・テレビ局による他者発表作品の放送;ラジオ局・テレビ局による出版済み録音製品の放送である。『情報ネットワーク伝播権保護条例』の規定によれば、ネットワーク環境下での法定許可状況は主に以下のとおりである。すなわち、9年制義務教育又は国家教育計画実施の目的で、すでに発表された作品の一部、小編の文字作品や音楽作品、単独の美術作品や撮影作品を、情報ネットワークを通じて使用し教材を作成し、登録した生徒に提供すること。そのほか、貧困地域支援の目的で、中国公民・法人や他の組織がすでに発表している農林水産、病気予防・治療、防災等、貧困支援に関係のある作品又はその文化レベルに応じて必要な作品を、情報ネットワークを通じて農村地区の公衆に提供すること。ネットワークサービスプロバイダーは、提供しようとする作品とその作者、支払予定の報酬基準を事前に公告しなければならない。公告日から30日以内に著作権者が提供に同意しない場合、ネットワークサービスプロバイダーはその作品を提供してはならない。公告日から30日後に著作権者に異議がない場合、ネットワークサービスプロバイダーはその作品を提供することができ、公告した基準どおり著作権者に報酬を支払う。ネットワークサービスプロバイダーが著作権者の作品を提供した後に、著作権者が提供同意を取り消す場合、ネットワークサービスプロバイダーは著作権者の作品を直ちに削除するとともに、公告した基準どおりに作品提供期間の報酬を著作権者に支払わなければならない。ただし、本規定に基づいて作品が提供される場合、直接又は間接的に経済的利益を得てはならない。
2.5 情報資源に関する知的財産権救済制度
中国の著作権法は、知的財産権侵害の民事責任、行政責任、刑事責任について規定している。権利侵害者は、状況に応じて権利侵害の停止、影響の除去、謝罪、損害賠償等の民事責任を負う。また公共的利益を損なう場合は、著作権の行政管理部門が権利侵害行為の停止を命じ、違法所得を没収、権利侵害複製品を没収・廃棄するとともに、罰金を科すことができる。2001年に、著作権法は著作権侵害の刑事責任について正式に規定し、その作品の著作権者の許諾を得ない複製、発行、上演、放映、放送、編集、情報ネットワークを通じた公衆への配信等の権利侵害行為については民事責任を負わなければならないほか、情状が重大で犯罪を構成するものについては、法により刑事責任を追及するものとした。国務院は1995年7月5日に『中華人民共和国知的財産権税関保護条例』を公布した。1995年9月28日には税関総署が『中華人民共和国税関による知的財産権保護の実施規則』を発表し、知的財産権に対する中国税関による保護制度が成立した。中国税関の知的財産権に対する保護は、権利者の申請に基づくものと、税関の職権で主体的に取り締まるものがともに可能である。税関が保護する対象は、出入国貨物に関連し中国の法律・法規による保護を受ける知的財産権でなければならない。ネットワーク著作権侵害紛争案件に対する管轄も、ウェブサイト著作権に関する重要な内容の1つである。2006年に修正された『コンピューターネットワーク著作権に関わる紛争案件の審理における法律適用についての若干の問題に関する解釈』では、ネットワーク著作権侵害紛争案件は、権利侵害の行為地又は被告住所地の裁判所が管轄するものとしている。権利侵害行為地には、提訴された権利侵害行為を行ったネットワークサーバー、コンピューター端末等設備の所在地も含まれる。権利侵害行為地や被告住所地の確定が困難な場合は、原告が権利侵害コンテンツを発見したコンピューター端末等設備の所在地を権利侵害行為地とみなすことができる。これは、行為者の位置は変動性が大きいが、使用される設備の位置は相対的に固定されているためである。このように管轄ポイントを選定することで、被害者が提訴する裁判所を選びやすくなり、また裁判所が管轄権を行使し裁判を行うのに便利である。
複製品の出版者、製作者がその出版、製作について合法的な権利委譲を受けていることを証明できない場合、また複製品の発行者又は映画作品や映画撮影に類似した方法により創作された作品、コンピューターソフト、録音・録画製品の複製品の貸出し者が、その発行・貸出しする複製品に合法的な典拠があることを証明できない場合は、法律責任を負わなければならない。当事者が契約義務を履行しない、又は契約義務の履行状況が約定条件に合致しない場合は、『中華人民共和国民法通則』、『中華人民共和国契約法』等の関係法律規定に基づいて民事責任を負わなければならない。
賠償について、中国法律では以下のとおり規定している。すなわち、著作権又は著作権に関連する権利を侵犯した場合、権利侵犯者は権利者が実際に被った損失どおり賠償しなければならない。実際の損失の計算が困難な場合は、権利侵害者の違法所得分を賠償してもよい。賠償金額には、権利者が権利侵害行為を制止するために支払った合理的支出が含まれなければならない。同時に法定賠償制度が規定されており、「権利者の実際の損失又は権利侵害者の違法所得が確定できない場合は、裁判所が権利侵害行為の情状に応じて50万元以下の賠償を命じる判決をする」(著作権法第48条)。2001年の新著作権法では、さらに訴訟前差し止め、財産保全、証拠保全の措置について規定している。著作権者又は著作権に関係する権利者に、他者がその権利を侵害する行為を実施している、又は実施しようとしていることを証明できる証拠があり、直ちにそれを制止しなければその合法的権益が補い難い損害を受ける場合、関係行為の停止命令と財産保全の措置をとるよう、提訴前に裁判所に申請することができる。証拠が消滅する可能性がある、又は今後の取得が難しい場合、著作権者又は著作権に関連する権利者は、権利侵害行為を制止するため、提訴前に裁判所に証拠保全を申請することができる。
3. 中国における情報資源に関する知的財産権制度の展望
3.1 保護レベルの強化
2006年3月27日、国務院弁公庁は『知的財産権保護行動綱要(2006-2007年)』を公布し、海賊版を厳しく取り締まるとともに、輸出入時の知的財産権保護強化、展示会における知的財産権管理の強化、展示会における知的財産権保護の「藍天行動」展開、全国通報システムの設立、全国50都市における知的財産権通報総合センターの設置を行った。2008年以降全国の多くの省・市で知的財産権戦略が実施され、各界で知的財産権保護レベルの強化がいっそう進んでいる。2009年4月に通過した『電子情報産業の調整・振興計画』には、「電子情報商品・サービスに対する知的財産権保護の強化」が盛り込まれている。国務院常務会議が2009年9月26日に原則通過した『文化産業振興計画』では、法律体系をさらに整備し、文化産業の発展に対する規制管理を法により強化することがうたわれている。国の知的財産権保護システムを完備し、各種海賊版・権利侵害行為を厳しく取り締まることで、国の文化イノベーション能力を促進しようとするものである。中国の知的財産権保護は、国レベル、地方レベル、業界レベルを通じてさらに協力・強化されていくだろう。
3.2 情報技術の変革への対応
知的財産権は技術の産物である。技術変革によって知的財産権制度にも変化が起こる。情報資源に関する知的財産権制度において、技術的措置、ネットワーク、データベース、ソフトウェア、ドメイン名等はすべてはっきりとした技術性を備えている。関連技術の急速な発展により、情報資源に関する知的財産権制度の発展は必然的に促されることとなる。例えば技術的措置について言うと、1991年の中国『著作権法』では、技術的措置について規定がなかった。しかしネットワークの普及に伴って、世界知的所有権機構が制定したWCT、WPPTの両条約では、権利管理のための技術的措置に対して原則的規定が設けられ、中国でも技術的措置に関する知的財産権制度に常に改善が加えられている。ほかにネットワークについて言えば、中国におけるネットワークの急速な発展に伴って、P2Pソフトがファイルダウンロードの重要なツールになってきている。「歩昇公司による飛行網等提訴案件」、「北京捷報による中捜提訴案件」からは、「営利目的」でP2P等の新技術を応用することは法律による厳しい規制の対象となることが分かる。技術的措置とネットワーク配信のほかに、高密度複製、新型ソフト、自動情報収集、物のインターネット接続(Internet of Things)等のどの分野においても新たな必要性が発生している。技術に合わせ、情報資源と関連のある知的財産権制度を絶えず整えていくことが、新たな情報環境にとって必要である。
3.3 知的財産権保護のための国内・国際協調の強化
制度面での協調については2つの面から考える必要がある。1つは、国際的な知的財産権制度との協調であり、もう1つには中国国内各地区、各業界との協調である。現在中国は、『文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約』、『知的所有権の貿易関連の側面に関する協定』(TRIPS)、『著作権に関する世界知的所有権機関条約』(WCT)、『実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約』(WPPT)等、知的財産権保護のための主な国際条約に加盟している。世界知的所有権機関、世界貿易機関、アメリカ、EU、そして多くの開発途上国では、コンピュータープログラム、データ送信、データベース等について、一連の立法を通じ、著作権に対する従来の国際的原則を多方面で打ち破っている。最近数年来の中国における情報資源に関する立法と司法政策を見ると、おしなべて国際的基準と符合しているという特徴がある。国際条約のほかには、各国の知的財産権制度の同調に伴い、外国からの影響も鮮明になってきている。アメリカ、EU、日本等の知的財産権面での立法、保護の経験は、中国の知的財産権制度の充実に絶えず影響を及ぼしている。情報資源に関する知的財産権制度は、市場の取引制度、印税清算制度、公平競争制度、印税徴収制度等に関わる。これら制度間の協調を強化していくことも、長期的な課題である。
3.4 情報資源の増加と開発利用に伴い知的財産権に求められる要件への適応
情報資源の増加と知的財産権制度の推進には密接な関係がある。資源の増加に伴って知的財産権制度に求められる要件に適応していくため、明確な財産権分類体制の整備、集団許可、国家許可、公共許可等、多層の許可モデルの完備、版権登記、検索、取引、融資等の整った市場サービスシステムの構築等が必要である。
情報資源投入の多元化によって、財産権の帰属を判定するのが難しくなっている。中国では、依然として国が公益的情報資源の開発における主要な投資者である。大学、科学研究機関、会社・企業も資金を投入しているが、資源の実際の開発業務は個別の自然人が完成させている。個人・組織・国家の間には、委託作品、職務作品、協力作品、法人作品、編集作品、イメージ作品等多種の作品分類があり、複製権、発行権、情報ネットワーク伝播権等の権利種類に関わり、合理使用、法定許可等使用の制限もある。情報資源の財産権分類体制は、さらに明確化し完備していく必要がある。
許可制度は、財産権取引を規制し、知的財産権の価値を実現するための重要な手段である。許可モデルには多層のレベルがあり、集団許可、国家許可、公共許可、共有許可等がある。集団許可の場合は取引コストを低く抑えることができ、連盟メンバーがお互いの優位性を生かすよう促し、情報資源の取引量を増やして、集団・公衆・投資者の間の利害バランスが保たれる。集団の規模が大きいほど、資金力も大きくなり、影響力が高まって、その利益バランス作用もよりはっきりする。国家許可は、出版業者が非営利組織との間に国家許可証を締結し、この非営利組織が全国的範囲で情報製品又はサービスを使用することを許可するとともに、この非営利組織は情報取得ルートを提供するというものである。国家許可証は、集団許可証の一種の特例とみなすことができる。協議の一方は出版業者であり、もう一方は単独の組織でも多くの組織による非営利連合でもよい。知的財産権権利者に対する補償のための資金は、主に政府からの資金援助による。通用公共許可証の趣旨は、利用者が無制限複製・修正の権利をもつことを保証することである。公共許可証には利益面での奨励がなく、規範性と不正行為に対する有効な拘束性に欠ける等の欠点があるが、業界内独占を打破し、公衆がソフトなどの情報資源を自由に入手できるよう推進する上で重要な意義を持つ。
版権登記、検索、取引、融資等の市場サービス体制を完備すること。健全で科学的であり整った作品登記・譲渡契約届出システムを構築し、作品登記サービスの質と効率を高め、作品登記の厳格性、権威性、統一性を保証すること。版権価値の評価システムと融資システムを完備し、版権関連の信用体制を構築・整備すること。適正で科学的な版権関連の統計基準を構築し、版権関連情報の各種データベースの作成を進めるとともに完成に努めること。版権代理機構の発展を支援、奨励し、版権代理機構と業務の効率的な整合を推進して、大中規模版権代理機構による業務の総合化、集団化と、小規模版権代理機構による業務の専門化、特殊化を実現すること。これらはすべて、中国の情報資源に関する知的財産権制度建設のための、今後の長期的な課題である。
謝辞:本文は、国家社会科学基金による資金援助プロジェクト「図書館の知的財産権管理方法に関する実証研究」(プロジェクト承認番号:07BTQ001)の調査研究成果の1つである。本文は筆者の観点に過ぎず、筆者が所属する機構、資金援助機構、その他いかなる組織の観点をも代表しない。