第38号:中国の知的財産制度と運用および技術移転の現状
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中国におけるコンピューターソフト著作権保護

2009年11月04日

寿 歩

寿 歩(SHOU Bu):
上海交通大学知的財産権研究センター主任

1962年12月7日生まれ。1985年中国西南交通大学コンピューター応用専攻卒業。上海交通大学法学院教授(博士課程指導)、上海交通大学知的財産権研究センター主任。1985年から大学講師を歴任。1988年中国弁護士資格取得。コンピューター科学、知的財産権法学の指導・研究業務に従事。学術論文発表数十編、出版物は単独著作3編、共著4編、編集著作10編。2003年第二回上海市優秀中青年法学家ベスト10に選出。中国科学技術法学会常務理事、中国法学会知的財産権法研究会理事、中華全国弁護士協会情報ネットワーク・ハイテク専門委員会副主任、上海市情報化専門家委員会委員を兼任。

概要

 本文では、中国におけるコンピューターソフト著作権保護の立法根拠、立法モデル、法規体系を紹介するとともに、中国におけるコンピュータソフト著作権保護の立法過程を振り返り、中国の知的財産権立法に対する外圧の影響について重点的に説明している。また、エンドユーザーによる未認証ソフト使用の法律責任をめぐって、中国で起きた2度の論争について特に紹介し、中国におけるコンピューターソフト著作権保護について、今後の立法に対する観点を述べた。なかでも、ソフトのエンドユーザー問題を解決する根拠は、「複製論」ではなく、「模作論」であると特に強調している。そして、著作権法の外に行政法規を単独で制定して、コンピューターソフト著作権保護を規範化する立法モデルをやめ、コンピュータープログラムを保護する条項を著作権法の中に直接加えるよう提案した。

1. 中国におけるコンピューターソフト著作権保護の概況

1. 中国におけるコンピューターソフト著作権保護の立法根拠

 中国におけるコンピューターソフト著作権に対する保護は、著作権法の規定を基にしている。中国著作権法第三条は、著作権法が保護する作品の類別を規定しているが、その第(八)項が「コンピューターソフト」である。

 情報産業界では一般的に、「コンピューターソフト=コンピュータープログラム+関係ファイル」、簡単に言うなら「ソフト=プログラム+ファイル」と認識されている。コンピュータープログラムが20世紀半ばに世に出て以降、ソフトウェア産業は1960年代から盛んになったが、著作権保護に問題をもたらすのは、コンピュータープログラムに関係するファイルではなく、コンピュータープログラムそのものであった。ファイルはそもそも中国著作権法第三条第(一)項に挙げられた「文字作品」の範疇に入るため、中国著作権法第三条第(八)項にはもともと「コンピュータープログラム」を入れるだけでよかった。しかし、1980年代末から1990年代初めにかけて行われた、コンピューターソフトに対する法律保護のための立法作業は、当時の情報産業主管部門であった機械電子工業部の主導によるものであったため、中国の著作権法立法時に、作品類別の名称として並べられたのは、著作権保護の角度から見てより適切な専門用語である「コンピュータープログラム」ではなく、情報産業界の慣用的な術語の「コンピューターソフト」だった。

2. 中国におけるコンピューターソフト著作権保護の立法モデル

 当初、中国におけるコンピューターソフト法律保護の立法作業は、著作権法の起草機構――国の著作権行政管理部門である国家版権局――が主導しておらず、機械電子工業部が主導していたという事実がある。そのため、コンピューターソフトの著作権保護については、著作権法の保護体系には入れるものの、著作権法の中に直接条項を加えるのではなく、最終的には著作権法のほかに単独で行政法規を制定するというモデルを採用した。中国におけるコンピューターソフト著作権保護のこうした立法モデルは、今日まで続いている。

 1990年代初めにこのような立法方式を採用したのは、著作権法が保護する伝統的作品とは異なる、コンピューターソフトの特徴に配慮したためであった。また、1986年韓国の『コンピュータープログラム保護法』と1987年ブラジルの『ソフトウェア法』で、コンピューターソフトの法律的保護のために単独の立法をしているという方式も参考にされた。しかしコンピューターソフトの法律保護について、中国ではアメリカや日本など先進国のような、著作権法の中にいくつかの条項を直接加えると言う立法モデルをとらず、韓国やブラジルの立法方式を採用した。このことは、当時の機械電子工業部が関係立法を主導したという歴史的背景と大きな関係がある。

 中国著作権法第一版第五十三条は、コンピューターソフト保護規則については国務院が別途規定すると規定している。中国国務院により1991年6月4日に発表された『コンピューターソフト保護条例』が、著作権法のこの規定に基づいて制定された行政法規である。

3. 中国におけるコンピューターソフト著作権保護の法規体系

 中国の法律、行政法規、部門規定、司法解釈、司法機関文書、行政機関文書、外国との二国間協定等、さまざまなレベルでの規範的文書のうち、コンピューターソフトの著作権保護と関係がある法規体系には、主に以下の文書がある。

  1. 中華人民共和国著作権法(第一版1991年6月1日施行、第二版2001年10月27日施行)
  2. 中華人民共和国著作権法実施条例(第一版1991年6月1日施行、第二版2002年9月15日施行);
  3. コンピューターソフト保護条例(第一版1991年10月1日施行、第二版2002年1月1日施行)
  4. 知的財産権保護に関する中米両国政府の了解覚書(1992年1月17日締結、1992年3月17日発効)
  5. コンピューターソフト著作権登記規則(第一版1992年4月6日施行、第二版2002年2月20日施行)
  6. 国際著作権条約実施規定(1992年9月30日施行)
  7. 『中華人民共和国著作権法』の徹底実施における一部問題に関する最高人民法院通知(1993年12月24日公布)
  8. 著作権行政処罰実施規則(第一版1997年2月1日施行、第二版2003年9月1日施行、第三版2009年6月15日施行)
  9. 中華人民共和国刑法(第二版1997年10月1日より施行)
  10. 不法出版物刑事案件審理における具体的な法律応用についての一部問題に関する最高人民法院解釈(1998年12月23日施行)
  11. コンピューターネットワーク著作権に関わる紛争案件の審理における法律適用についての一部問題に関する最高人民法院解釈(2000年12月21日より施行、2003年12月23日第1回改訂、2006年11月20日第2回改訂)
  12. 著作権民事紛争案件の審理における法律適用についての一部問題に関する最高人民法院解釈(2002年10月15日施行)
  13. 知的財産権侵害刑事案件取り扱いにおける具体的な法律応用についての一部問題に関する最高人民法院・最高人民検察院解釈(2004年12月22日施行)
  14. 知的財産権侵害刑事案件取り扱いにおける具体的な法律応用についての一部問題に関する最高人民法院・最高人民検察院解釈(二)(2007年4月5日施行)。

2. 中国におけるコンピューターソフト著作権保護の立法過程

1. コンピューターソフトの著作権保護対象としての列挙と『コンピューターソフト保護条例』第一版の公布

 1970年代から1980年代中ごろにかけての10数年間に、日本ではコンピュータープログラム保護の2つの方法について激しい論争があった。1つは日本通産省が提示したもので、コンピュータープログラムの特徴に基づいて個別の立法を採用し保護するという方法であった。もう1つは日本文部省が提示したもので、著作権法を採用して保護するという方法であった。後者は、アメリカの立法で当時採用されていたソフト保護方法と同じものである。アメリカの強い圧力を受けて、最終的に日本の国会は1985年に後者を通過・立法して、採用を決定した。当時アメリカからは、同じく世界経済大国である日本の国内立法に対して、まだこうした干渉があった。その後、発展途上国であり巨大な市場潜在力をもつ中国のソフト保護立法に対しても影響を与えてきたことは、決して奇異ではない。

 このような背景のもとで、中国が日本通産省案のような「ソフトウェア権」や「プログラム権」のような新たな知的財産権を創設することは明らかに不可能で、コンピューターソフトを著作権法の保護体系の中に入れるという、アメリカや日本での手法を真似ることしかできなかった。しかし中国では、著作権法の中にいくつかの条項を直接加えるという日米での立法モデルも採用しなかった。

 中国におけるコンピューターソフト著作権保護の立法過程には、アメリカからの影響の痕跡がはっきりとあらわれている。1989年の中米知的財産権協議では、中国側は、著作権法を制定する際に、コンピューターソフトを著作権法の保護対象に入れることを承諾した。そのため、1990年9月7日の中国全国人民代表大会常務委員会で通過された著作権法第一版では、コンピューターソフトが著作権法の保護対象として挙げられており、同時に単独の保護規則を別途制定することを規定している。その後の1991年6月4日、中国国務院は『コンピューターソフト保護条例』第一版を公布している。

 コンピューターソフトには著作権法、特許法、商標法、商業秘密法、契約法等、異なる角度からさまざまな法律を採用して保護することができるため、もっぱらコンピューターソフトのための著作権保護規則を規定した『コンピューターソフト保護条例』の名称は、正確に言えば『コンピューターソフト著作権保護条例』であるべきである。

2. 中米知的財産権了解覚書の締結と『国際著作権条約実施規定』の公布

 『コンピューターソフト保護条例』第一版では、明らかにアメリカの版権法に倣った条項が多いものの、少なくとも2方面の規定に関してアメリカ側はなお不満を抱いていた。

 1つは、「本条例の公布以降に発表されたソフトについては、ソフト登記管理機構に登記を申請することができる」、「ソフト登記管理機構にソフト著作権の登記を届け出ることは、本条例に基づいてソフトの権利に関する紛争について、行政処理や訴訟を提起するための前提である」という規定である。これは何を意味するかというと、1991年6月4日の『コンピューターソフト保護条例』公布前に発表されたアメリカのソフトが、中国で著作権登記を申請できないということであり、そうしたソフトに関わる著作権紛争が発生した場合、アメリカのソフト著作権者は、中国では行政処理の申請も裁判所への提訴もできない。1991年6月4日以降に発表されたアメリカのソフトのみが中国での実質的な保護を受けることができ、こうした保護を受けるためには、さらに前提としてソフト著作権登記をしていなければならない。

 もう1つは、ソフト著作権の保護期間を25年間とし、その後はさらに25年間の延長を申請できると規定している点である。アメリカ側は、一度に50年間の保護期間が与えられるよう求めている。

 上の問題のうち、2点目は実質的には25年後に発生するものだが、1点目は当時の現実問題であった。この問題はアメリカのソフト会社の利益にとってきわめて重要であった。このためアメリカは、1991年に始まった中米知的財産権協議の中で中国に大きな圧力を加えた。1992年1月17日に協議が終了し締結された、知的財産権保護に関する中米両国政府の了解覚書(以下「中米了解覚書」)の中では、上の2点に対するアメリカ側の要求が満たされている。このことに基づいて、中国国務院が1992年9月25日に公布した『国際著作権条約実施規定』では、「外国のコンピュータープログラムを文字作品として保護する際、登記手続きを履行しなくてもよく、保護期間は当該プログラムが初めて発表された年の年末から50年間とする」と規定された。

 上述の1つ目の問題が解決される前に不満を抱いていたのがアメリカ側だとするなら、中米了解覚書が1992年3月17日に発効した後に却って「不公平」を感じたのは中国の著作権者である。というのも上の2つの問題は、この時点で外国のソフトウェア著作権者にとってはすでに存在せず、逆に中国のソフト著作権者にとっては依然として存在したからである。1つはソフトウェア著作権の登記が提訴の前提であること、もう1つはソフト著作権の保護期間が25年プラス25年で、対外的な保護レベルが対内的な保護レベルよりも高くなっていることである。このうち1つ目の問題は、後日1993年12月24日に出された、最高人民法院の『「中華人民共和国著作権法」の徹底実施における一部問題に関する通知』によって解決された。この通知では、「いかなる当事者が、コンピューターソフト著作権紛争により訴訟を提起する場合も、『中華人民共和国民事訴訟法』第108条の規定に合致していることを審査した後は、そのソフトが関係部門の登記を経ているものかどうかによらず、人民法院はこれをすべて受理する」と規定されている。2つ目の問題は、2002年に中国著作権法と『コンピューターソフト保護条例』が改訂され、解決された。

3. エンドユーザーによる未認証ソフト使用に関する中米了解覚書の規定

 1991年に中国で著作権制度ができるまでの長い期間、外国コンピューターソフトを大規模かつ無償で商業利用することは、中国では一般的であった。こうした使用には、外国語ソフトを直接使用するものと、外国ソフトに「中国語化」処理を施して中国語ユーザーのインターフェースに入れ使用するものがある。このような状況が発生した原因は、1つには中華人民共和国成立後の長期間にわたって、著作権制度を含む知的財産権制度<が整備されてこなかったことがある。もう1つは、どのような法律制度によってコンピューターソフトを保護するかについて、世界知的財産権機関等、関係する国際機関による結論が出ていなかったことによる。

 1991年に始まった中米知的財産権協議の中で、アメリカ側は当初、中国のコンピューターエンドユーザーによる、アメリカのコンピューターソフトの無償使用についてさらに3年間のみ認めるとした。しかし後の協議を経て、アメリカ側はこの要求を撤回した。中米了解覚書の関係規定により、中国が1992年3月17日にアメリカのソフト著作権保護を始める前であれば、中国のユーザーがアメリカのソフトを商業的規模で使用しても、責任を追及されないということになった。中国がアメリカのソフト著作権について保護を始めた後も、ユーザーはもとの範囲内でアメリカのソフトを使用し続けることができ、責任を負わず、「条件として、その複製版は、本作品版権所有者の合法的利益を不合理に損害するいかなる方法によっても複製又は使用しないこと」とした。これらの免責状況は、1992年3月17日に中国がアメリカのソフト著作権保護を始める前に、すでにコンピューター内にインストールされているアメリカのソフトにのみ適用されるという点に、もちろん注意が必要である。しかし実情では、ソフトは日常の使用を通じて、通常絶えずアップグレードされている。

 中米了解覚書では、中国でアメリカのソフト著作権保護が始まった後は、中国著作権法、著作権法実施条例、『コンピューターソフト保護条例』、『国際著作権条約実施規定』等の規定が十分に適用されなければならない、と規定された。ここには明らかに、将来コンピューターエンドユーザーが未認証のソフトを使用した場合、責任を追求するための「伏線」が引かれている。1992年3月17日より後に、中国のコンピューターエンドユーザーが「もとの範囲」外で未認証のアメリカソフトを使った場合、アメリカ側はこれを看過しないことになる。

4. 中米両国交換書簡と中国政府『行動計画』制定

 中国の知的財産権立法プロセスが基本的に完了した後は、知的財産権に関する中国の法執行状況が、アメリカ側の注目の重点となった。1994年に始まった再度の中米知的財産権協議で、アメリカは知的財産権に関する中国の法執行状況に対してさらに圧力を加えた。一連の会談は、1995年3月11日に双方が書簡を交換する形で終了した。中国外経貿部部長とアメリカ通商代表との交換書簡と、中国外経貿部部長書簡の付属文書(中国の『知的財産権を効果的に保護し実施するための行動計画』、以下『行動計画』)によって、中米両国政府の理解が構成されている。

 この協議では、エンドユーザーによる未認証ソフト使用に対する法律責任追及について、1992年の中米了解覚書の中で引かれた「伏線」が効果を発揮した。中国外経貿部長がアメリカ通商代表に送り、アメリカ通商代表が確認した書簡にはこのような一節がある。「中米両国は、両国社会において、コンピューターシステム内で未認証のコンピューターソフト複製品を使用せず、合法的なコンピューターソフトを使用することを求める。また同時に、十分な費用を提供して、人々が認証を受けたコンピューターソフトを入手できるようにすることを求める」。注意:これは中国の公文書で、はじめてエンドユーザーによる未認証ソフトの使用について直接言及したものである。中国外経貿部部長書簡の付属文書である『行動計画』では特に、「コンピューターソフトを使用するいかなる公的、私的、非営利機構も、十分な資源を提供して合法的ソフトを購入しなければならない」としている。

5. 国家版権局1995年通知と国務院弁公庁1999年転送通知

 知的財産権に関する中国の法執行状況について、アメリカ側は『行動計画』だけでは明らかに満足するはずがなかった。アメリカからの圧力がさらに加わる中、1996年には中米間でもう一度知的財産権協議が行われた。この協議の結果が、中国外経貿部部長によるアメリカ通商代表への書簡と、1995年の『行動計画』実施状況に関する説明の2部である。2番目の説明では、1995年8月23日の『不法複製コンピューターソフトの使用禁止に関する国家版権局通知』について取り上げている。通知では、「『中華人民共和国著作権法』と『コンピューターソフト保護条例』を効果的に実施し、国務院の『知的財産権保護業務のさらなる強化に関する決定』を徹底し、国内外の著作権者の合法的権利を守り、コンピューターソフトの開発・製造・販売にとって良好な社会環境を作り、中国の対外経済・貿易・科学技術・文化交流を促進するため、いかなる組織もそのコンピューターシステム内で未認証のコンピューターソフトを使用してはならない」としている。実際は、言及されている中国の「組織」に対してこの通知はほとんど影響を及ぼさず、中国の「組織」がエンドユーザーとして未認証ソフトを使用する状況には、あまり変化がなかった。

 1996年以降、中米間の知的財産権摩擦は、一時的におさまった。

 1999年2月24日、中国がWTO加盟に向けてアメリカとの二国間協議を進める中で、国務院弁公庁は各省・自治区・直轄市人民政府と国務院の各部・委員会及び各直属機関に対して、上述の国家版権局による3年半前の通知を転送した。国務院弁公庁の通知は、「国務院の承認により、『不法複製コンピューターソフトの使用禁止に関する国家版権局通知』を転送するので、徹底実施をお願いします」というものであった。

 1990年代の中国におけるコンピューターソフト著作権保護の立法プロセスは、基本的に外国に倣いながら、同時に外圧を受け続けてきた過程であったことが分かる。

6. 1999年マイクロソフトによる亜都提訴によって起きた、ソフトのエンドユーザー問題に関する論争

 1999年5月、在ユーゴスラビア中国大使館が爆撃されてからほどなく、アメリカのマイクロソフト社が、北京亜都科技集団が社用パソコンで未認証のソフトを使用した件で、中国北京市第一中級人民法院に対して同社を提訴したことが報道で明らかになった。時期的にも微妙であり、特殊な原告が、中国社会に当時広く存在していた、エンドユーザーによる未認証ソフト使用の問題について訴訟を起こしたということで、この案件は中国メディアと社会の広い注目を集めた。マイクロソフトによる亜都提訴で争われた、エンドユーザーによる未認証ソフト使用が法律責任を負うかどうかという問題について、1999年8月から12月にかけて、中国の知的財産権界で論争が巻き起こった。

 論争の一方(「合理的保護論者」)の観点は主に以下のとおりである。:(1)1つの国の知的財産権保護レベルは、その経済・科学技術・文化・社会の発展レベルに適応するべきである。関係の「世界水準」を守る前提で、中国の知的財産権保護レベルは、中国の経済・科学技術・文化・社会の発展レベルに適応する必要がある。(2) 著作権法の原理に基づけば、著作権は本来エンドユーザーによる権利侵害作品の使用にまで延伸されるものではない。つまりすべての作品について、エンドユーザーによる権利侵害作品の使用は、本来権利侵害を構成しない。そのため、ユーザーによる未認証ソフトの使用は、本来権利侵害を構成しない。(3) エンドユーザーによる未認証ソフトの使用という問題において、法律保護レベルの「第一ステップ」は、ソフト権利侵害の境界線を何らのエンドユーザーにも延伸していない。TRIPs協議は「第一ステップ」になる。一部の先進国・地域では、ソフト権利侵害の境界線を一部のエンドユーザーにまで伸ばしている。これが「第二ステップ」である。その区分は、営利的使用か非営利的使用か、商業目的での使用か、非商業目的での使用か、等である。「第三ステップ」では、組織、家庭、個人によらず、またその使用目的のいかんによらず、ソフトの権利侵害の境界線をすべてのエンドユーザーにまで拡大して、未認証ソフトを使用したものは権利侵害とする。(4) 中国で「第三ステップ」、つまり世界水準を超える保護を実施することに反対する。(5) 当時有効であった『コンピューターソフト保護条例』第一版によれば、エンドユーザーの責任を追及する法的根拠が足りない。

 論争のもう一方の観点は主に以下のとおりである。:(1) ソフトウェアは特殊で複製されやすいため、ソフトの著作権保護はほかの作品とは異なるべきであり、製造・販売過程での保護のほかに、違法複製・販売を禁止する必要がある。そしてエンドユーザーにまで広げて、ソフトのエンドユーザーによる不法複製と不法使用も禁止されなければならない。(2) ソフトのエンドユーザーがソフトを使用する際には複製行為を伴うことが多く、これによって著作権者の複製権が侵犯される可能性がある。したがって、ソフトを著作権法の保護対象にするとき、著作権法に調整を加え、ソフトのエンドユーザーによる行為を規範化する必要がある。(3) 『コンピューターソフト保護条例』第一版は、エンドユーザーの問題に対してすでに規定しており、「第三ステップ」に達している。

 マイクロソフトによる亜都提訴案件は、その年の年末に結果が出た。1999年12月、裁判所は訴訟手続きの角度から裁定を出し、アメリカマイクロソフト社による北京亜都科技集団に対する提訴を棄却した。裁判所は、ソフトのエンドユーザーによる未認証ソフトの使用が権利侵害を構成するかどうか、また権利侵害の責任をどのように負うかについて、判決を出していない。

7. 『コンピューターソフト保護条例』第二版公布時の再論争と関係司法解釈の発表

 1999年には、ソフトエンドユーザーが未認証ソフトを使用した場合の法律責任に関する論争によって、中国各界で知的財産権についてより深く考察されるようになった。その後、中国指導者は「知的財産権を尊重し合理的に保護する」という重要な判断を出した。また、国際的な知的財産権保護について、「新たな状況に応じて、知的財産権保護等の国際規則に対して適切な調整を行うべきである。知的財産権をきちんと保護するとともに、市場のルールに基づいて、知的財産権の保護範囲、保護期限、保護方式を、科学技術知識の拡大と伝播に役立て、科学技術進歩による利益を各国で共有するために役立てよう」と呼びかけた。

 1999年の論争の後、外国ソフト企業の商業利益を代表する、中国の一部民間団体が、外国からの財力サポートによって、中国の法曹界、学術界、産業界に積極的にはたらきかけて、中国におけるソフト著作権保護の法改正過程に影響を与え、中国のソフト著作権保護レベルをさらに引き上げた。その結果、2000年末に出された『コンピューターソフト保護条例』改訂草案の中では、1つには、元の条項のうち、中国の国情には見合うが「超世界水準」の条件には合わないものが削除され、もう1つには、中国の国情とは関係なく、「第三ステップ」に位置付けるための綿密で隙のない条項が制定された。

 そして、2001年12月22日の『21世紀経済報道』に掲載された『ソフト保護立法に関する中国民間論争』から始まり、その後新浪、ChinaByte、搜狐等のサイト上に展開された関係コラムを主要な媒体として、2001年年末の『コンピューターソフト保護条例』第二版公布前後の数ヶ月間に、法曹界、情報産業界、評論界の「合理的保護論者」は、再び「超世界水準」でのソフト著作権の保護に反対する議論を起こした。

 「合理的保護論者」は、中国での「第三ステップ」、すなわち「超世界水準」での保護の実施に反対していた。また、それと同時に、中国は発展途上国としてそもそも「第一ステップ」に位置付けるべきだが、中国ソフト産業の発展支援の必要性とソフトの特殊性に考慮するとともに、一部先進国・地域の関係立法状況にも配慮して、中国は「第二ステップ」に位置付けることも可能だと、さらに明確に提示した。2002年3月の、中華人民共和国全国人民代表大会と中国人民政治協商会議全国委員会の「両会」開会期間中、一部の全人大代表と全国政協委員は、中国のソフト保護レベルの問題については各界の要望を重視し、民意に従うべきであるという考えに基づいて、それぞれ議案や提案を提出した。こうした世論が中国最高人民法院にも重視された。2002年10月15日に施行された最高人民法院の『著作権民事紛争案件の審理における法律適用についての一部問題に関する解釈』第二十一条には「コンピューターソフトのユーザーが、許可を得ずに又は許可を得た範囲を超えてコンピューターソフトを商業使用した場合、著作権法第四十七条第(一)項、『コンピューターソフト保護条例』第二十四条第(一)項の規定に基づいて民事責任を負う」という規定がある(以下、本条項を「司法解釈のソフトユーザー条項」とする)。本条項から考えれば、「商業使用」をするエンドユーザーだけが民事責任を負うことになる。

 このように、ソフトのエンドユーザー問題において、司法解釈では中国のソフト保護レベルを、明らかに「第二ステップ」に位置づけている。これは民意に従い、国情に合致し、法理を遵守する重要規定である。これまで、中国のコンピューターソフト著作権保護関連規定は、全体的に見て合理的な方向をとってきている。

 以上のことから分かるように、20世紀末のマイクロソフトによる亜都提訴案件が引き起こした論争と、知的財産権に対する新たな再考を契機として、中国国内各界では、知的財産権について考え直されるようになり、自国の利益を守り、権利者の利益と公共利益のバランスを求めることによって、知的財産権に関する法律制度の基礎とすることを重視し始めた。

3. 中国におけるコンピューターソフト著作権保護に関する今後の立法問題

1. エンドユーザーの法律責任追及は、「複製論」ではなく「模作論」によるべきである

 司法解釈のソフトユーザー条項の位置づけは合理的だが、さらなる問題は、商業ユーザーに対して民事責任を追及するための論理的根拠として「模作論」をとるか「複製論」をとるかという点である。

 「複製論」では、エンドユーザーが未認証ソフトを使用したときに、著作権者の複製権を侵害したと考える。司法解釈のソフトユーザー条項に援用された著作権法四十七条第(一)項、『コンピューターソフト保護条例』第二十四条第(一)項の規定が、複製権に関わるものであると考える。つまり、司法解釈のソフトユーザー条項では「複製論」を採用している。

 商業ユーザーの法律責任を追及する理由は、以下のようなものであるべきだと筆者は考える。つまり、(複製権を含む)著作権は本来ユーザーによる権利侵害作品の使用にまでは延長されないため、ユーザーが権利侵害ソフトを使用することは、本来著作権を侵害するものではない(複製権も侵害しない)。ただ、ソフトというものの特殊性、ソフト著作権者の利益とソフト産業発展のための重要な役割に考慮して、一部の先進国・地域の著作権法(日本、中国台湾地区等)では、「模作」の立法形式をとっている。そして、権利侵害と「みなす」境界線を一部のユーザーにまで拡大し、「業務性の使用」や「営業使用」かどうかといった基準によって、権利侵害と「みなす」かどうかを区分する。これが筆者の提案する「模作論」である。

2. 「複製論」の現実問題

 「複製論」を根拠として商業ユーザーの法律責任を追及する場合、以下の問題が発生する可能性がある。

  1. 理論的に妥当でない。第一に、著作権は本来エンドユーザーにまで追及されず、追及しようがない。エンドユーザーが作品(伝統的な意味での作品かソフトウェア等かによらず)に対して、機能上の使用(複製を含む)を行う状況は非常に複雑であり、こうした行為そのものは、著作権的な意味での「使用」の範疇に入らない。あるいは著作権法に規定する合理的使用の範囲内にあるかもしれない、あるいは公民の住宅は侵犯を受けないという法律上の障壁がある、あるいは永久複製に当たるか、それとも臨時複製かもしれないし、実際には追求不可能かもしれない。著作権者の複製権をエンドユーザーの領域まで限度なく拡張すれば、著作権者の利益と社会公共の利益がいま保っているバランスを損ねることになる。第二に、もし複製権のコントロール範囲を限度なく拡張するなら、永久複製から臨時複製にも拡張されることになる。エンドユーザーが未認証ソフトを使用する際に関与するいわゆる「複製」の問題は、永久複製の場合も臨時複製の場合もあり、区分が難しい。
  2. 実施上の問題がある。「複製論」をエンドユーザーに対する法律責任追及の根拠とするなら、商業ユーザーに対して刑事責任を直接追及することになる。これは、中国社会にとって影響範囲の広い重要な問題である。商業ユーザーの刑事責任を追及する場合、援用され得る条文は以下のとおりである。
    1. 「中華人民共和国刑法」第二百十七条の規定によると、「営利を目的とし、以下の著作権侵犯のいずれかがある場合、違法所得金額が大きいもの又はほかに重大な情状があるものについては、3年以下の懲役又は拘留に処し、それと合わせて又は単独で罰金を科す。違法所得金額が莫大なもの又はほかに特に重大な情状があるものについては、3年以上7年以下の懲役に処するとともに、罰金を科す。(一)著作権者の許可を得ずに、その文字作品、音楽、映画、テレビ番組、録画作品、コンピューターソフト又はその他の作品を複製発行する場合。...」本条文の「営利を目的とし」と「複製発行」に注意が必要である。
    2. 『不法出版物刑事案件の審理における具体的な法律応用についての一部問題に関する最高人民法院解釈』第三条の規定によると、「刑法第二百十七条第(一)項に規定する「複製発行」とは、行為者が営利を目的として、著作権者の許可を経ずにその文字作品、音楽、映画、テレビ番組、録画作品、コンピューターソフト又はその他の作品に対して行う、複製、発行又は複製発行のことを指す。」この司法解釈では、「複製発行」行為に単なる「複製」行為が含まれている点に注意が必要である。

 もしも「複製論」をエンドユーザーに対する法律責任追及の根拠とするなら、上述の刑法と司法解釈の規定に基づいて類推したとき、自然と商業ユーザーに対して刑事責任を直接追及できるという結論になる。

 注意すべきは、司法解釈のソフトユーザー条項で援用された著作権法第四十七条第一項で、「犯罪を構成する場合は、法により刑事責任を追及する」と規定していること、また『コンピューターソフト保護条例』第二十四条第一項でも、「刑法に抵触する場合は、著作権侵犯罪、権利侵害複製品販売罪に関する刑法の規定に基づいて、法により刑事責任を追及する」と規定している。

 しかし、1997年に刑法が改正され、1998年に上述の司法解釈が制定された時点で、中国の全国人民代表大会と最高人民法院が、商業ユーザーに対して刑事責任を追及することをすでに明確に求めていると、確認できる根拠はない。なぜなら、1999年のマイクロソフトによる亜都提訴案件より前には、商業ユーザーの民事責任問題については中国でまだ提起されておらず、商業ユーザーの刑事責任については、なおのこと議論が及んでいなかったからである。つまり、1997年刑法立法と1998年司法解釈制定のそもそもの主旨から考えると、そこに商業ユーザーに対する刑事責任追及がすでに含まれているとは認められない。

 刑法と上述の司法解釈に明文規定がない状況では、商業ユーザーに対する刑事責任追及について考える場合、慎重には慎重を期する必要がある。これは、中国の何千何万にも及ぶ商業ユーザーが刑事犯罪を構成するかどうかに関わる重大な政策・法律問題である。中国の国情について言えば、ユーザーの法律責任について一切追及しなかったという過去、商業ユーザーの民事責任を追及する現在、さらに今後は一部先進国・地区のように商業ユーザーの刑事責任を追及する、この歩みは、中国の経済・科学技術・社会文化の発展に伴って徐々に前進していくべきもので、さもなければ中国の正常な社会経済秩序を乱す可能性がある。

 一部地方の著作権行政管理部門では、商業エンドユーザーに関わる法執行検査の中で、ソフト定価に基づいてユーザーの複製ソフトを計算するとかなり大きい金額になるという例もあったと報告されている。刑法によってすでに、商業エンドユーザーの不法複製者としての刑事責任は、問われてしかるべきだという見方もある。しかし筆者はこう考える。1つには(複製権を含む)著作権は本来エンドユーザーにまで延伸されるものではないため、商業エンドユーザーを追及するのは、「模作」立法体制と規定により著作権侵害と「みなす」という点を明確にする必要がある。もう1つには、著作権侵害罪の「営利を目的とし」という要件について、将来的には「直接営利」の場合に限ると明文規定する必要がある。海賊版ソフトの製造・販売は、当然「直接営利」に当たる。商業ユーザーによる海賊版ソフトの使用は、「直接営利」の場合もあれば「間接営利」の場合もある。罪に当たるかどうかを区別するとき、「直接営利」という基準は非常に重要である。将来的に刑法の規定に基づいて、営利を目的とし、許可を得ずにコンピューターソフトを複製した場合の刑事責任を追及するとき、「直接営利」という基準を守るべきである。

 中国では現段階で、「直接営利」を基準として著作権侵犯の刑事責任を追及するとしても、「直接営利」の商業ユーザーにまで延伸するべきではない。というのも、商業ユーザーによる不法複製と、海賊版ソフト製造者による不法複製とでは、社会に与える損害が異なるからである。将来の適切な時期に、刑事責任の追及範囲を「直接営利」の商業ユーザーにまで延伸することは考慮に入れてよい。しかし商業ユーザーによる未認証ソフトの使用が「間接営利」状況に当たる場合は、民事責任のみが追及されるべきである。

3. 「模作論」に基づく司法解釈ソフトユーザー条項の修正提案

 「模作論」に基づくと、司法解釈のソフトユーザー条項を以下のとおり改訂することができる。「コンピューターソフトのユーザーが許可を得ずに、又は許可された範囲を超えてコンピューターソフトを商業利用した場合、著作権法第四十六条第(十一)項、『コンピューターソフト保護条例』第二十三条第(六)項の規定に基づいて民事責任を負う。」

 ここで援用される著作権法第四十六条第(十一)項と、『コンピューターソフト保護条例』第二十三条第(六)項では、著作権又はソフト著作権を侵害する「その他の行為」について規定している。これはちょうど「模作論」と対応させることができる。言い換えれば、商業ユーザーの民事責任追及は、複製権によって本来制御可能なものではなく、「模作」立法の結果によるものである。それだけではなく、ここで援用された著作権法第四十六条と『コンピューターソフト保護条例』第二十三条は、その第一項の中で「侵害の停止、影響の除去、謝罪、損害賠償等の民事責任を負う」とのみ規定し、刑事責任には言及していない。

 つまり、「模作論」を商業ユーザーに対する追及根拠とすれば、現段階での中国の国情に合致するとともに、中国のコンピューターソフト著作権保護レベルが、中国の経済・科学技術・社会文化の発展に合わせて向上していくための道をならすこととなる。もしも「複製論」を商業ユーザーに対する追及根拠とするなら、理論的にも実践面でも重大な問題が存在する。

4. 結論

 中国におけるコンピューターソフト著作権保護の、20年近くにわたる立法プロセスから、2つのことが説明できる。1つは、経済発展と社会進歩の推進のために、中国政府は知的財産権保護業務を非常に重視していること、もう1つは、中国の知的財産権立法プロセスが巨大な外圧を受けていることである。

 エンドユーザーが未認証ソフトを使用した場合の法律責任問題は、かつて中国のコンピューターソフト著作権保護の立法過程で、大きな論争を引き起こした問題であった。現在は司法解釈を通じてある程度のバランスを保っているとはいえ、「複製論」に基づく司法解釈のソフトユーザー条項には、刑事責任の面でやはり潜在的問題が残る。現段階では、「模作論」に基づいて司法解釈のソフトユーザー条項を修正するべきである。

 中国『コンピューターソフト保護条例』第一版の歴史的役割は肯定されるべきである。中国は、将来的に著作権法の外に個別に行政法規を制定し、コンピューターソフト著作権保護を規範化するという立法モデルを取りやめ、著作権法のなかにコンピュータープログラムの保護条項を直接加えるべきである。同時に現行の司法解釈ソフトユーザー条項は、「模作論」に基づく修正の後に、著作権法の条項に取り入れるべきである。

 司法の実践での、著作権者による商業ユーザーの民事責任ないし刑事責任の追及については、今後中国社会で注目される問題となるだろう。