第38号:中国の知的財産制度と運用および技術移転の現状
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中国の大学の技術移転効果について

2009年11月10日

王兵

王兵(Wang Bing):
清華大学法学院教授、知的財産権法学研究センター主任

1985年以降カナダと米国に留学し、フランクリン・ピアース・ローセンターで知的財産権法学修士号を取得。特許代理、知的財産権管理・教育・研究の仕事に一貫して従事。清華大学と企業、特に外国企業の科学技術協力における知的財産権管理と法律事務を担当したほか、主として清華大学法学院で知的財産権の教育と研究に従事。清華大学法学院副院長を経験。清華大学で系統的な知的財産権法学教育法を編み出し、知的財産権学科の発展を促進。清華大学で外国人学生向けの「中国知的財産権法夏期研修クラス」を6年連続して開設、この単位は米国の各大学ロースクールからも認定。知的財産権の研究・管理・教育の仕事に携わるようになってから、計18件の知的財産権関連の研究プロジェクトを担当。4冊の著作物を共同執筆又は監修し、75編の論文を発表。現在、「中国法学会知的財産権法学研究会」副会長、「中国知的財産権研究会」理事、「中国大学知的財産権研究会」副理事長、「国際ライセンス関係者研究会」会員、「中国版権協会」常務理事、「中国商標協会」理事、「中国ライセンス関係者研究会」理事等の学術的職務を兼務。


梅 元紅

梅元紅 (Mei Yuanhong):
清華大学知的財産権管理弁公室副主任、高級技師

1971年生まれ。1994年より清華大学の技術移転と知的財産権管理の仕事に主に従事。教育部の「中国大学知的財産権白書-技術移転部分」等の5件の課題を手掛け、また、7件の課題に参加。「大学の技術移転における知的財産権保護」、「大学知的財産権戦略の研究と実践」等の6編の論文、「中国の大学特許技術移転モデル」等の8編の研究リポートを発表。清華大学の幾つかの科学研究管理制度を制定。主な研究分野は大学の知的財産権保護、技術移転理論等。北京市の「金橋賞」個人1等賞(2002年)と大学の「管理先進」2等賞(2001年)を受賞。

 グローバル化の勢いに押され、多くの先進国・地域は技術革新戦略の実施を余儀なくされている。科学技術イノベーションの重要な源泉となる大学は人材養成、科学研究、社会的サービスを通じ、国のために技術、人材及び自主知的財産権を提供している。世界最大の発展途上国として、改革・開放を進める中国も先進国の経験を学び、国の技術革新における大学の役割を発揮させる必要がある。統計によれば、中国では科学研究力の40%が大学系列に、30%が中国科学院系列に集中しており、企業は科学技術力が相対的に弱く、イノベーション能力が低く、その多くが社内に研究開発部門を設けていない。このような科学研究力の不均衡から、中国の大学は国の技術革新の中で重要な役割を果たすことが一段と求められている。大学が特許を含むその技術を企業に移転することは必然的な選択であり、重要な使命である。中国は1995年に「科学教育立国」戦略を打ち出し、2006年に自主イノベーション戦略を確立し、2008年には国家知的財産権戦略を打ち出した。中国の総合大学・単科大学・高等専門学校(以下「大学」と略)は「イノベーション型国家を築き、経済発展パターンを転換し、国のコア競争力を高める」という国家戦略の下、イノベーション型国家を築く過程で自らの役割を発揮している。大学の科学研究に対する中央財政からの資金投入は年々増えており、2003年から2007年までの間、大学の科学技術経費への資金投入は安定した高い伸びが見られ、その総額は2003年の253.3億元から2007年の545.3億元へと増え、115%の伸びとなった。同期間の大学の年間科学技術経費は常に全国の7~8%を占めている。大学の科学技術経費への資金投入はその科学研究成果の伸びを促した。例えば、大学の特許出願・登録数が著しく増え、2003年~2007年の間を見ると、その特許出願数は10,252件から32,680件に、特許登録数は3,416件から14,773件にそれぞれ増えた。国のイノベーションシステムにおける大学の地位と役割は不可欠なものであり、大学の技術を企業に移転し、企業の技術進歩を促す過程で重要な役割を果たした。しかし、大学の技術移転にはなお少なからぬ問題が存在している。例えば、技術移転の仕組みが不備で、自主知的財産権の技術レベルが低く、知的財産権の流失がしばしば起き、技術移転の専門的な評価機関と営業組織が不足している等。現在、中国の大学の技術移転効果を正しく評価することは、大学がその科学研究を生かしてよりよく社会の役に立ち、地方経済の役に立ち、また、イノベーション型国家を築く過程でその独自の役割をより効果的に発揮するのに影響するホットな問題となっている。

1. 問題の提起

 大学の技術移転は近年、ホットな研究テーマとなっている。しかし、研究方法がそれぞれ異なり、研究の結果と結論には大きな開きがある。例えば北京市技術市場管理弁公室の統計によれば、2001~2007年の北京の大学特許の平均実施率は1.43%であり、同市の特許技術移転の平均実施率4.90%よりずっと低い。一部の研究者は特許実施率に対するこうした統計結果に基づき、中国では大学の技術移転の効果が非常に劣っているとの考えを示した。だが、別の研究では明らかに異なる現状が反映されている。例えば、劉月娥らが発表した調査研究報告は、調査研究対象の大学50校の2001年~2005年における特許の実施件数と登録件数を比較した平均実施率は56.7%であり、特殊な年度を除いても、わが国の大学の特許実施率は41.21%に達すると指摘している。一部の人はこうした特許実施率に基づき、中国では大学の技術移転の効果が高いとの考えを示した。この2種類の研究結果と結論の間において、さらに別の研究結果と見方もある。多くの文献は、全国の平均特許実施率は10%前後であり、大学特許の実施率もこれと大差がなく、さらにはもっと低いと述べている。北京の某大学のデータ統計によれば、2001~2007年の平均特許実施率は2.3%であり、この大学は全国と北京市の統計データをミクロ面から検証した。上記のデータが示しているように、特許実施率の低い方のデータ範囲は10%以下となる。ここでは劉月娥らの調査研究報告が2001年~2005年の大学の特許実施率は41.21%に達すると述べているのを除く。梁燕は、広東の大学の特許実施率は30%~40%前後だと指摘した。沈国金は過去5年間を取り上げ、全国の大学の特許登録数は8,389件、特許実施数は1,910件で、特許実施率は22.8%にすぎず、一方、全国の平均水準は約30%であると述べている。清華大学の出願特許又は登録特許の90%は応用の見通しが明るく、約30%の特許技術が応用され、一部の特許は既に産業化が実現し、大学経営企業と民間企業の主力製品となっている。上記のデータが示しているように、特許実施率の高い方のデータ範囲は22.8%~41.2%の間にある。

 上記の様々な評価結果をどう見るのか。どうすれば大学の技術移転の現状を正しく評価できるのか。これらは当面と今後において、大学の技術移転関連部門及び大学の技術移転に関心を持つ人々が解決しなければならない問題である。

2. 大学の技術移転効果の統計データについての技術分析

 大学の技術移転効果に対する評価で、先に述べたように、最低が1.43%、最高が41.21%と特許実施率に違いが生じるのはなぜか。筆者はその原因を分析する必要があると考える。統計の特許実施率が高くなったり低くなったりする原因を分析研究するため、我々はこれらの研究者が統計の中で用いた「特許実施率」を特許実施率=(譲渡済み特許数+実施許諾済み特許数)/有効特許数*100%に統一しなければならない。このコンセプトを明確にした後、我々は分析を行うことができる。

 まず、大学の特許実施率を10%以下とするデータが生じた原因を分析した。特許実施率が低くなった第1の原因は上級へのデータ報告に漏れがあることだと我々は考える。北京市技術市場管理当局と国家知的財産権局はその職能範囲で関連の統計作業を行い、得られたデータは権威性と客観性を備えており、わが国の大学の特許技術移転状況をマクロ面から全面的に示すことができる。しかし、中国の技術移転と知的財産権はまだ初歩的段階にあり、このため、知的財産権に対する意識と管理制度を絶えず向上させ、強化していく必要がある。こうした環境の下、一部の大学の特許技術を含む技術の取引は終わった後、様々な原因により、関係官庁で登録手続きが取られていない。その結果、実際に行われた技術取引が完全には統計データに反映されず、統計のデータが実際の技術取引件数を下回ることになる。こうして特許実施率の公式の中の分子「譲渡済み特許数+実施許諾済み特許数」が実際の水準より小さくなったのである。第2の原因は単純計算したデータにあると考える。特許実施率の公式の中の分母「有効特許数」は実際の計算において、統計者によって登録特許数に置き換えられている。上記の5~7年の統計周期の中で、一部の特許は保護の放棄により効力を既に失っているため、登録特許数は有効特許数より多くなるはずである。その結果、公式の分母が実際の水準より大きくなり、特許実施率の数値が小さくなったのである。第3の原因はデータ基準の単一化にあると考える。現在、大学の特許技術の実施と譲渡の形態は多種多様である。例えば、委託開発又は共同開発の契約において、その多くは既存の特許技術をベースに行われるものであり、開発の成果を企業に移転すると同時に、特許技術の移転も実現することになる。しかし、契約の締結形態では、特許実施許諾契約又は特許権譲渡契約が交わされていない。このため、特許実施許諾と特許権譲渡の契約を単一の統計対象として特許実施率を計算するやり方は、その他形態の特許技術移転状況を反映できず、大学の特許技術移転の実践を全面的に反映させることができない。従って、中国の国情と大学の実情に基づき、大学の特許技術移転に対する統計と分析は、特許権譲渡と特許実施許諾の契約のみに限定すべきでなく、特許技術に関連して行われる技術開発、技術コンサルティング等の技術契約全体を含めるべきである。このようにせず、単に特許実施許諾と特許権譲渡によって特許実施率を計算するなら、往々にして特許実施率が低くなる統計結果を招き、中国の特許技術譲渡は好ましいものでないとの結論を得ることになろう。

 次に、我々は大学特許実施率の高い方のデータが生じた原因を分析した。特許実施率が22.8%~41.2%の間になった第1の原因は調査研究用のデータサンプルが少ないことである。詳細かつ正確で客観的な実情に合致していても、サンプル数が少なければ、大学の特許実施率を全面的に反映させることはできない。第2の原因はデータに過大評価の可能性があることだ。例えば、調査研究対象が特許技術実施率の高い大学に集中し、実施率の低い大学がその対象範囲の中に入っていなければ、統計データの数字は高いものとなる。

 以上の点を総合すれば、中国の大学の特許実施率は必ずしも10%以下の悲観的な状況ではなく、また、40%という楽観的な状況でもない。我々は統計分析技術について若干の改善を行い、大学の特許技術移転の実際の状況に一段と合致させる必要があり、そうして初めて科学的な統計データを手に入れ、大学の特許技術移転の実情に適う結論を得ることができる。

3. 中国の大学の技術移転効果についてのモデル分析

 多くの研究者が統計データに基づいて算出した上記の特許実施率には技術上の欠陥が存在しているが、それだけでなく、こうした特許実施率で大学の特許技術移転の善し悪しを判断し、さらには大学の技術移転の善し悪しを判断することにはモデル上の欠陥も存在している。モデル上の欠陥とは、特許技術実施許諾と特許権譲渡のモデルによって特許実施率の統計をとり、特許技術移転の善し悪しを説明することを指す。こうしたやり方は特許技術移転の他のモデルを軽視するものだ。また、モデルに欠陥のあるこうした特許実施率で技術移転の善し悪しを説明するのはなおのこと、その他技術の移転モデルを軽視するものである。外国人学者の統計・分析方法を真似るこうしたやり方は、中国の大学の技術移転の実情に余り合わないようだ。

 中国の大学技術移転の基本的モデルは「産学連携」モデルとすべきだと我々は考える。ここで指している「学」は大学だけでなく、各種タイプの研究機関も含んでいる。「産学連携」モデルでの具体的な表現形態は多種多様である。関係する研究ではそれぞれ異なる視点から大学の技術移転の分類が行われている。例えば、Albert N Linkは、大学の技術移転はフォーマルな技術移転(formal technological transfer)とインフォーマルな技術移転(informal technological transfer)の2つのタイプに分かれるとの見方を示した。フォーマルな技術移転は法的手段、例えば特許譲渡取り決めや特許許諾取り決め等を通じ、直接的な結果を得ることだと定義されている。一方、インフォーマルな技術移転はインフォーマルな交流過程、例えば技術援助、コンサルティング、共同研究等を通じ、技術・知識の効果的な流動を行うことを指す。龔玉環、王大洲も大学の技術移転は商業化移転と非商業化移転に分けることができるとの見方を示した。前者は主に技術許諾、技術コンサルティング、技術開発と技術協力及び派生企業等の形態を含み、後者は主に論文、著作の発表、交流会議の開催等の形態を指す。2種類に分類するこうした方法は科学的であるか否かはさておき、いずれも「産学連携」モデルの多様性を物語っている。我々がここで言う「産学連携」モデルは主に龔玉環、王大洲が言う商業化移転を指しており、非商業化移転は基本的に含まない。

 「産学連携」モデルは技術シーズ側の販促型モデルと異なり、また、技術ニーズ側の追求型モデルとも異なる。その基本的な道筋は技術ニーズ側が技術の開発段階、さらには研究段階で技術シーズ側と提携し、双方が技術開発と生産を共同で行うプロセスとなる。知識移転の観点に基づくなら、それは社会経済構造における産業(主に企業)、大学、科学研究院・所が利益と知識の相互補完性に基づき、公式のネットワーク及び非公式のネットワーク・ルートを通じ、連盟を結成して共同研究開発を進めるものであり、知識の需給双方の間で見え隠れする知識の伝達、転化、吸収、消化が絶えず行われる非線形の複雑な相互作用プロセスとなる。その目的は産業チェーンのハイエンド段階であるR&Dに端を発する大学、科学研究院・所と企業の双方向の知識移転を通じ、持続的な商業価値を生み出すことにある。

 中国の大学の技術移転モデル問題に関して、劉彦(2007)は内情調査を行い、次のような考えを示した。1.中国は既に市場経済に基づく大学技術移転促進政策・体系を一応確立している、2.大学は科学技術資源と科学技術成果を生み出す面で研究開発機関を上回る、3.大学の技術移転はかなりの程度、政府と大学の行政的役割に依存している、4.専門的な仲介サービスの役割は微々たるものである、5.大学の課題チーム、科学技術スタッフの自主的な移転モデルと単独企業の一対一の技術移転が多い等。筆者はこうした「大学の課題チーム、科学技術スタッフの自主的な移転モデルと単独企業の一対一の技術移転が多い」という見方に賛同しない。こうした技術移転のモデルは今なお中国の大学に広く存在しているが、それは中国の特色を持つ「産学連携」モデルの1つの形態にすぎない。「産学連携」モデルは新たな情勢下で大学の科学技術成果の市場化・産業化を促す基本モデルであり、その道筋は大学・企業双方が共同研究、共同開発、協同産業化の過程で特許技術を含む技術の創造から応用へ、再創造・再応用という好循環を完成させるというものである。その実現形態は多種多様であり、「大学の課題チーム、科学技術スタッフの自主的な移転モデルと単独企業の一対一の技術移転」という単一形態に全く限定されない。幾つかの重要な「産学連携」プロジェクトの中で、中国の各級政府は好ましい促進的役割を果たした。

 「産学連携」モデルを実現する形態にはプロジェクト方式で企業と進める各種の協力がある。例えば委託研究開発、共同研究開発等である。この種の研究開発活動の中で、企業は研究開発成果の所有権又は使用権を手に入れ、企業のスタッフは訓練を受け、技術の大学から企業への移転が実現される。プロジェクトが終了すると、連携も終わり、技術移転のプロセスが終結する。「産学連携」モデルを実現する形態はさらに各種タイプの技術移転プラットフォームで実現される技術移転を含んでおり、こうしたプラットフォームには大学サイエンスパーク、国家工学センター、省級大学研究院、大学・企業共同研究開発機関、大学が株式を保有するハイテク企業等がある。大学サイエンスパークを例に挙げると、この協力モデルはクラスター型イノベーションの強みを十分に生かし、産学研イノベーションの支援クラスターを作り上げている。これには企業インキュベーター、技術研究開発機関、大学科学技術産業、教育訓練機関、仲介サービス機関、付帯サービス機関が含まれ、中国の国家技術革新システムの中で重要な一翼を担っている。2008年末現在、中国は既に62の国家大学サイエンスパークを設立している。大学サイエンスパークは大学キャンパス周辺に置かれ、情報の強みと人的資源の蓄積があり、大学の技術移転のために良好な条件を生み出した。中国の大学はさらに各種の研究開発基金を設立し、大学と企業の協力プロジェクトの支援に用いている。こうした「産学連携」モデルは研究経費の面から安定したプラットフォームを築いており、各種の価値ある産学連携の研究開発プロジェクトを誘致することができる。「産学連携」モデルを実現する形態にはさらに政府が認定した国家級技術移転センターが含まれる。例えば、国家経済貿易委員会と国家教育部は2001年、最初の国家技術移転センターとして清華大学西安交通大学上海交通大学等の大学6校を認定した。また、2008年10月、国家科学技術部のトーチセンターは第1陣として76の国家技術移転モデル機関を認定したが、その中に大学は19あり、大学の技術移転活動を力強く促した。

 外国の大学の技術移転を総合的に見ると、OTL(Organization of Technology Licensing)を代表とする機関が進めている技術移転は大学技術移転の典型的なモデルであり、それは特許許諾を主な特徴としている。米国の技術移転の経験を研究しているある人物は、大学の技術移転はいずれも基本的に特許許諾方式を通じて行われるとの考えを示した。だが実際には、米国を含む国外の大学の技術移転には他のモデルもあり、例えば、米大学の技術インキュベーター、大学教授はハイテク企業を創設できる等である。外国の大学に比べると、中国の大学の技術移転が関係している分野と範囲は一段と広く、その果たす役割も特殊なものである。現在、中国はまだ計画経済から市場経済に向かう転換期にあり、企業は技術成果を消化・吸収する能力に乏しく、技術革新能力が弱く、イノベーション情報は釣り合いの取れない状態に置かれている。また、中国は大学の技術移転体制がバランスよく調整されておらず、移転モデルと技術市場の完備が待たれる。中国の大学は国民経済の重要な技術分野で多くの自主知的財産権を持ち、これには独創的な基礎特許と統合革新の特許及びノウハウ等の知的財産権がある。大学は知識の生産者及び人材の育成者として、知識生産と技術革新の重要な供給源となっており、また、国の自主イノベーションシステムと地域イノベーションシステムの重要な構成部分である。このため、技術移転のモデルについて言うなら、中国の大学は技術移転の方式がより多く、複雑なものとなっている。大学は各種形態の「産学連携」を通じ、特許技術及びその他技術を企業に譲渡するだけでなく、企業との緊密な協力の中で技術サービスを提供し、人員の養成を行っている。大学はさらに企業と共同で設立した研究機関を通じ、大学サイエンスパーク、新会社設立等を通じ、企業の技術革新能力を高めている。現段階において、「産学連携」モデルは中国の国情に一段と適うものだ。

 中国の大学の技術移転にはまだ様々な問題が存在している。例えば、大学のサイエンスパークは技術移転におけるインキュベーターとなるが、技術情報、特に革新技術に対する識別能力が不足し、その上、市場情報に対する理解を欠いており、転化する技術プロジェクトを選択するのが難しい。同時に、資金面の事情からそのインキュベーション(起業支援)機能が制限され、起業支援案件が限られている現実の状況は大学サイエンスパークでの技術移転活動の展開に影響を与えるものだ。大学サイエンスパークの発展方向と位置付けは技術移転に対する支援の強化に立脚すべきであり、投資機関、仲介機関の参入を増やし、ベンチャー企業の育成メカニズムを確立し、サイエンスパークのプラットフォームを通じ、高効率で集約化された大学の特許技術移転を実現しなければならない。大学のハイテク会社創設における現段階の主な問題点はその仕組みである。会社化した運営の仕組みに不備があり、その結果、幾つかの成功例はあるものの、規模と数量の面から見て、大学の特許技術移転の主要なモデルとはなっていない。しかし、会社を創設すれば、大学の特許技術移転における中心的な問題を比較的うまく解決することができる。例えば、利益分配の確実な実行、知的財産権の明確化、インセンティブシステムの完備等である。その仕組みを一層完全なものにするには、法制上の保障を基礎とする大学業績評価の仕組み、市場経済を基礎とする商業信用の仕組み、知的財産権の保護を基礎とする利益分配の仕組み、技術と市場の評価を基礎とする専門サービスの仕組みを確立しなければならない。また、長期発展戦略の視点から、技術移転モデルが大学で一層効果的に運用されるようにするため、中国は知的財産権の営業制度を確立すると同時に、市場経済の法則に従ってインセンティブと市場運営の仕組みを確立し、合理的な評価方式を確立し、技術移転の管理を一段と規範化する必要がある。このようにして初めて、大学の特許移転を含む技術移転活動は中国の科学技術進歩と経済発展によりよく役立つことができる。

4. 中国の大学の技術移転効果を評価する正しい道筋

 大学の技術移転のモデルを正しく認識して初めて、中国の国情に適う大学の技術移転効果を評価する正しい道筋を探し出すことができる。先に述べたように、大学の技術移転は特許技術の実施許諾又は特許権の譲渡といった単一のモデルでなく、それは「産学連携」を基本モデルとする多様な形態である。このため、大学の技術移転に対する評価は単一の指標で判断するのでなく、総合的な方法を採用して行うべきである。

 一部の学者は既に「大学の技術移転の地域経済に対する促進的役割」という側面から研究を試みており、「大学の地方経済に対する貢献には長期安定関係と因果関係が見られる」との結論を得た。これは中国の大学の技術移転効果を評価する総合的な方法であり、有益な試みと言える。研究者は北京市を例に挙げ、同市の1990~2004年のGDPを被説明変数とし、大学の特許認可数、技術契約締結数及び技術契約金額をそれぞれ説明変数として、北京区域の経済成長と大学の技術移転との間の数学モデルを構築した。計量分析結果が示しているように、大学が取得した登録特許、技術契約締結数、契約金額はいずれも首都の経済成長に対し、顕著なプラスの影響と貢献があり、しかも大学の特許技術というモデルによる技術移転の実現は北京の経済成長に対する貢献の説明力が最も小さいものとなっている。これは大学の実際の状況と基本的に一致するが、その技術契約と取引額の首都経済に対する貢献はより大きく、より直接的なものであり、現在の北京地区における大学技術移転の主要なモデルを作り上げた。その他、関係の分析を通じ、大学の技術移転と首都区域の経済成長の間には長期安定の動的均衡関係が維持されており、堅固な相互フィードバックの仕組みと良好な発展関係はまだ形成されていないことを発見した。これは大学の技術移転が大きく発展する可能性と余地を持ち、区域の経済発展とイノベーション能力の向上に対する一層大きな促進的役割を備えていることを示すものだ。

 この研究の具体的な計量方法は改善の必要があるかもしれず、研究の結果はなお検討の余地があるのかもしれない。しかし、大学の技術移転を総合的に評価するその考え方はやはり技術移転の多様な形態という実情に合致しており、得られた結論も概ね実際の状況に合致する。大学の技術移転効果を正しく評価するため、我々はさらに様々な評価方法を研究し、様々な評価を行う必要がある。しかし、総合的評価の枠組みからはずれるなら、それは絶対に正しい評価方法ではなく、大学の技術移転の実情に合致した結論を得ることはできない。正しい道筋とは大学の技術移転の多様な方式を念頭に置き、それぞれの方式の技術移転効果を研究し、各種方式の相互影響が生み出す効果を研究し、これを踏まえ、技術移転の全体効果を総合的に評価することである。大学の技術移転効果を総合的に評価するのは非常に複雑かつ困難な作業であり、研究者は一層励み、大きな努力を払う必要がある。

5. 結論

 「特許実施率」は特許実施の状況をある程度反映しているが、大学の技術移転は特許技術の移転だけでなく、技術秘密及びその他ノウハウの移転を具体的に反映したものでなければならない。また、単にプロジェクトを通じた移転だけでなく、「産学連携」モデルの多様な形態による移転を具体的に反映したものでなければならない。その他、成熟した工業技術の移転だけでなく、小試験、中試験段階の技術の移転も含むべきである。「産学連携」モデルの多様な形態により、大学の技術移転活動が既に企業の技術革新能力向上と地域経済の発展においてますます多くの役割を果たしていることを知るべきである。

 「産学連携」は複雑性を帯びているため、その重層的なモデルを運用することを基礎とすべきである。このような「産学連携」は中国の技術・経済発展の現状に適した革新的なモデルである。「産学連携」モデルは実質的に科学技術と経済の統一であり、科学技術と経済の一体化を現実に生かしたものである。特許は知的財産権の重要な一部であり、国の自主イノベーションの戦略資源となる。特許制度は知識経済の重要な後ろ盾である。同時に、特許実施と技術移転の両者は相互補完の関係にある。現在の中国の国情から見るなら、「特許実施率」で大学の特許技術移転の水準と効果を単純に判断することは、実情に合わないものであり、従って、客観的法則に合致しない。現在、中国の大学はその特色を持つ「産学連携」モデルに従い、多様な形態で技術移転を進め、企業の技術革新能力向上を後押しし、地域さらには国の経済と技術の発展を促している。こうした大学の技術移転の実情に基づき、その技術移転効果を総合的に評価することこそ、正しい道筋となる。