第38号:中国の知的財産制度と運用および技術移転の現状
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中国の技術移転のメカニズム

2009年11月15日

張 玉臣

張 玉臣(Zhang yuchen):
同済大学 中国科学技術管理研究院副院長

1962年7月生まれ。2008年、北京航空宇宙大学経済管理学院、管理科学・工学学科、博士学位取得。国家及び上海市の関連研究テーマ20件余りを主宰、30編余りの論文を発表、『技術移転のメカニズム研究』、『ベンチャー投資管理』など、4冊の専門書を出版。世界管理大会優秀学術論文賞、上海科学技術フォーラム青年学者優秀提案賞、上海市科学技術進歩賞、上海市人民政府政策決定諮問研究賞などを受賞。

要旨

 本論文は中国の技術移転をイノベーション体系という背景の下に置いて、その中に存在する二つの特に目立った問題「科学技術成果の転化率」と「導入技術知識の移転率」が低いことを分析し、二つの問題の具体的様相を明らかにしている。さらに、イノベーション体系における技術知識の認知と拡大、組織制度とネットワーク化、経済主体と能力支援という三つの基本的観点から、上記の問題の深層原因と内在メカニズムを解明し、現有企業の技術イノベーション能力の強化、市場メカニズムの十分な発揮から始めて、中国の技術移転の有効性を高めようとの提案を行っている。

 イノベーションとは新しい技術の商業における初めての応用のことであり、市場価値を追求する商業活動である。まさにこの意味から、フリーマンは「技術の応用は技術の創造よりも重要である」と強調している。ハーバード大学の経済史学者デビット・ランデスもまた比較研究により、新しい技術を発明し採用する能力は各国の貧富の差をもたらしている最も主要な原因であることを発見した。明らかに、新しい技術をできるだけ多く使用することは、イノベーションの成果を享受し、国の経済を振興させる重要な手段である。だが、技術成果を産業分野に移転して応用を行うのは一つの複雑なシステム工学であり、そこに内在する特殊な法則とメカニズムがある。本論文は中国の技術移転の実践と結びつけて、その深層メカニズムについて研究を行うものである。

1. 中国の技術移転

 技術移転を中国政府は一貫して非常に重視してきた。新中国成立の初期に、旧ソ連から導入した技術に頼って建設した156項目の重点プロジェクトは、中国の国民経済の重要な支柱となり、また国際技術移転の成功事例ともなった。1963年、時の中国の総理周恩来は、「科学技術の近代化」は国家の近代化の要諦であると提起し、中国の各分野で、世界の最も先進的な技術成果を応用することを主張した。1978年、復活したばかりの鄧小平は全国科学大会の開催を推し進めるとともに、「科学技術は第一の生産力である」と提起し、科学技術の広範な応用によって中国の経済と社会のスピーディな発展を推進することを強調した。したがって、中国の技術移転には二つのカテゴリがある。一つはみずからの創造した国内の技術成果をできるだけ多く社会の生産分野に応用すること、すなわち科学技術成果の転化率を高めることであり、もう一つは広く外国の先進技術を導入するとともに、外国の技術の消化吸収により、国民経済の資質と自らの技術能力を高めることである。我々は上記の二つの面から、中国の技術移転について分析を行った。

1.1 中国の科学技術成果の転化

 1978年に経済建設を中心とすることが確認された後、中国政府が科学技術成果の転化を系統的に推進し始めたのは、20世紀の80年代中期であった。1985年3月、『中国共産党中央委員会の科学技術体制改革についての決定』が公布され、「経済建設は必ず科学技術に依拠しなければならず、科学技術事業は必ず経済建設に目を向けなければならない」という戦略方針が打ち出されるとともに、ハイテク成果の転化を後押しする具体的な政策措置が制定された。その後20年余りの間に、中央政府は『国務院の科学技術体制改革をさらに推進することに関する若干の規定』、『国務院の科学技術体制改革を深化させることについての若干の問題に関する規定』などの一連の政策規定を施行し、全国人民代表大会常任委員会は『中華人民共和国科学技術成果転化促進法』、『中華人民共和国技術契約法』などを公布した。2005年になって公布された『国家中長期科学技術発展計画(2006~2020)』においてもやはり、科学技術成果の転化を促すことを自主イノベーション実現のための重要な手段としていた。

 上記の政策・法律の実施と合わせて、中国の各級政府と関係部門は、一つの科学技術成果が現実の商品となり、さらにハイテク産業へと発展していくにあたって経なければならないいくつかの段階に応じて、一連の政策を実施し、一連の科学技術計画をスタートさせ、科学技術成果の転化を推進する事業体系を作り上げた。例えば、研究・開発(R&D)段階の技術に対しては、100近くの科学研究基金を設置し、200余りの国家重点研究室、300余りの国家レベル企業技術センターの設立を支援した。R&D成果のプロジェクト化(中間チェック)段階に対しては、100余りの国家エンジニアリング研究センターと150余りのエンジニアリング技術センターの建設を推し進め、国家重点工業化試験計画を実施した。また、プロジェクト化されたR&D成果の商品化については、新製品基金を設立し、たいまつ計画(訳注:ハイテクの産業化推進を目的とする計画)、863計画(訳注:ハイテク技術の研究開発計画。1986年3月に発表)などをスタートさせた。さらに、商品化されたR&D技術の産業化に対しては、科学技術イノベーション基金、インキュベーション基金、科学技術成果転化基金などを立ち上げ、星火計画(訳注:科学技術の利用により農村経済の振興を促す計画)、科学技術ベンチャー投資計画などを実施し、50余りのハイテク産業開発区、1000に上る起業パーク地区(インキュベーター、ベンチャーセンター)、数百の大学科学技術パーク地区などを建設した。中国の多くの地方政府は「ハイテク成果転化サービスセンター」などの総合的機関を設立し、大学や研究機関を支援して「技術移転センター」を建設し、科学研究機関と科学研究者による科学技術企業の創設を奨励する政策を制定した。

1.2 中国の技術導入と消化吸収

 改革開放から間もなく、中国は生産ラインと生産装備の導入を主とする技術導入を開始した。有名な宝山鋼鉄公司、煙台万華ウレタン股份有限公司などはすべて日本企業の生産ラインの導入によって建設し、発展したものである。20世紀の70年代末から90年代初めにかけては、生産能力の形成を急ぎ、加えて技術の輸出側が技術支援の提供を望まなかった等の理由により、設備と生産ラインの導入が当時の中国の技術導入の主要な形態となっていた。技術導入を推進するために、中国政府は外国企業に対し自国の企業よりも特恵的な各種の政策、例えば、税収の減免、土地の低価格での提供などを実施した。同時に、旧国家経済委員会、財政部、税関総署は1986年に『導入技術の消化吸収を推進することについての若干の規定』を制定し、企業が導入技術の消化、吸収を行い、技術の国内企業への移転を実現するべく努めることを奨励した。各省・市は技術の導入と消化吸収を支援する関連政策を制定した。

 20世紀の90年代中期になると、中国の技術導入の実践の中に存在する大量の低水準の重複導入、特に装備などのハードウェアを重んじ、技術知識などのソフトウェアを軽んずるといった現象を考慮して、中国政府は統制措置やハイテク企業の建設支援などの方式により、高度技術の導入の度合いを強め、低水準の重複導入プロジェクトを制限した。まさに導入技術に支えられる形で、家庭用電器、自動車等産業が急速に発展し、「メイド・イン・チャイナ」現象が生まれた。21世紀に入り、経済のグローバル化、WTO加盟などの新たな情勢に対応して、中国では技術導入のテンポが加速し、技術導入の質も著しく高まった。2005年、中国は技術導入契約計9,902件を締結し、契約総額は前年同期比37.5%増の190.5億米ドルに達した。うち技術費は118.3億米ドルに上り、契約総額の62.1%を占めた。さらに、北京、上海などの中心都市は多数の多国籍企業の地域本部や研究開発センターを誘致し、ソフトウェア、集積回路設計、バイオテクノロジーなどの分野において、多くの海外の人材を引き付けた。

2. 中国の技術移転の主要な問題

 30年にわたる急速な発展の結果、中国経済は世界の注目を集める成果を上げ、科学技術力は極めて大きな向上を遂げ、技術の導入と消化吸収、科学技術成果の転化などの技術移転形態は極めて大きな役割を発揮してきた。経済の発展とともに、資源による駆動からイノベーションによる駆動へと変化し、経済社会が科学技術に求めるものは日増しに切実かつ強烈になり、中国の技術移転における二つの特に目立った問題が日増しに顕在化している。その一つは、国内の科学技術成果の転化率が低いことであり、もう一つは、導入技術知識の移転効率が高くないことである。

2.1 国内の科学技術成果の低い転化率

 中国政府は科学技術成果の転化を推進する上で、極めて大きな努力を払い、学界もまた20年余りに及ぶ広範な研究を展開してきたが、決して所期の成果を上げてはおらず、そのことは以下の三つの面に際立って表れている。

 その第一は、科学技術成果の転化率が実質的に向上していないことである。20世紀の80年代、中国の科学技術成果の転化率は平均して10%に届いていなかった。2004年になり、中国科学院の李国傑会員は研究を通じ、基礎研究から企業の製品開発過程に至るまで、中国では90%の科学技術成果が死んでしまっていることに気がついた。清華大学復旦大学など国内20の大学が共同で仕上げた「大学の科学技術成果の転化についての探究と実践」というテーマ報告は、中国の大学が毎年成し遂げている6,000から8,000件の科学技術成果のうち、本当の意味で成果の転化と産業化が実現されているのは10%以下であることを示した。つまり、中国では科学技術成果の転化を促す政策体系が実践の中で20年余り実施された後でも、科学技術成果の転化率は決して向上してはいないのである。

 第二は、科学技術成果の放置と有効供給の不足が並存していることである。中国の経済構造調整と転換の生みの苦しみの中で、大量の中小企業、特に民営企業は技術に対して差し迫った需要を突きつけ、民営経済の比較的発達した広東、浙江省などでは、多数の企業が大学や研究機関に出向いて技術を「あさる」(積極的に探し求める)現象が現れ、ハイテク成果を投資の対象にする投資会社さえ少なからず出現した。だが、大学や研究機関の大量の科学技術成果を視察すると、大多数の企業は手ぶらで帰った。企業は大学や研究機関の科学技術は実用性に乏しいと不平を言い、大学や研究機関は企業には長期的観点が欠けていると文句を言った。企業の技術需要と大学・研究機関の技術供給がうまくかみ合っていないのである。一方で、企業の差し迫った需要は満たされず、他方で、大多数の大学や研究機関の応用研究成果は捨て置かれたままで、有効に応用されることができないでいる。

 第三に、技術移転が中国の国際競争力の向上を制約していることである。科学技術競争力はスイス・ローザンヌ管理学院(IMD)の『世界競争力年鑑』における重要な評価要素の一つである。2000年を例にとると、R&D経費総額とこれに関連した指標の全面的上昇等の状況の下で、中国の科学技術競争力は1999年より3位下がったが、その主な理由は、国の科学技術競争力における企業の中核的ポジションと技術知識移転の有効性、という二つの指標の状況が良くなかったことにある。例えば、この年、中国は「企業間の技術協力の達成度」、「企業と大学の間の技術移転の達成度」という二つの項目が、それぞれ10位と7位下がった。IMDが発表したばかりの2009年の『世界競争力年鑑』では、中国は2008年の第17位から第20位に下がっている。ドイツ世界経済研究所の専門家ローデマンは、中国経済の様相は際立ってはいるが、中国は成長速度の持続性に問題がある。特に科学技術、情報技術などのボトルネックの制約がある、としている。2007年に世界経済フォーラムが発表した国際競争力ランキングにおいて、中国の成長競争力ランキングは2006年の第38位から第44位に下降し、商業競争力ランキングは第38位から第46位に後退した。当該ランキングが根拠にしている3項目の指数のうち、中国のマクロ環境指数の順位は第25位、公共機関と技術指数の順位はそれぞれ第52位、第65位で、最終的に中国の世界競争力の全体ランキングに影響を及ぼした。明らかに、企業の技術能力と技術移転の有効性が低く、すでに中国の国際競争力の向上を制約する主要な要素となっている。

2.2 導入技術知識の高くない移転効率

 我々は中国大陸が技術導入の面で上げた成果を十分に認めているが、しかし中国企業が技術を導入すると同時に、決してそれに見合った技術知識を同じ歩調で手に入れてこなかった、とくにそれに見合った技術能力を形成してこなかったというのは、疑う余地のない事実である。日本、韓国の企業と比べて、中国企業の技術導入過程における知識移転の効率は高くなく、それは具体的に次の三つの面に表れている。

 第一に、経済発展の対外技術依存度が高止まりしていること。対外技術依存度は、ある国の経済発展が外国の技術に依存している度合いを判断する指標であり、また「後発国」が外国の先進技術を消化吸収している度合いをも反映することができる。馬竜兆らは(2007年)、技術支出経費依存度、発明特許依存度、ハイテク産業の輸入依存度、ハイテク産業の外資依存度など四つの指標にもとづいて、中国の1995年から2004年までの対外技術依存度を計算した。このうち技術支出経費依存度は明らかに下降していたが、他の三つの指標は明らかに上昇し、特にハイテク産業の外資依存度は42%から65%に上昇していた。因子分析により四つの指標間の情報重複度を取り除いた結果、中国の対外技術依存度は1995年の27.17%から2004年の66.0%にまで上昇していた。対外技術依存度の急速な上昇は、中国企業における導入技術の消化吸収効果が思わしくないことを物語っている。

 第二に、重要産業が核心的技術をマスターしていないことである。21世紀に入って以後、中国の珠江デルタ、長江デルタなどの地域は基本的に工業化を成し遂げ、工業化後期に向かって邁進しようとしたその矢先、多国籍企業の20年余りにわたる産業移転の過程で、決して重要産業の核心的技術知識は中国企業に移転されなかったこと、逆に、技術によって市場独占と超過利潤を図ろうとする彼らの企みのほうが絶えず強化されてきたことに気づいた。いくつかの主要な産業において、中国は技術の面で人材状況に明らかな変化のないことが制約となり、多くの産業は多国籍企業の加工工場となっている。蘇州羅技公司を例に取ると、生産している羅技マウス1個の販売価格は約41米ドルだが、中国企業は3米ドルしか儲からず、大部分は親会社(8米ドル)と原料サプライヤー(15米ドル)、販売店(15米ドル)などに持っていかれてしまう。中国が生産するデスクトップ型パソコンは1台当たり「ネギ1束のお金」しか儲けることができない。大は飛行機、地下鉄車両、集積回路、NC工作機械に至るまで、小は衣料、日用化学製品、炭酸類飲料などに至るまで、多くの産業が多国籍企業によってコントロールされ、一部の産業は発展の主導権をすでに失っているか、または失いつつある。

 第三に、企業の技術イノベーション能力が実質的に向上していないことである。工業化の初期には、日本、韓国も外国の先進技術を大量に導入したが、両国の企業はともに消化吸収と再イノベーションを非常に重視し、多くの分野において技術の導入と消化吸収への投入の比は1:5~8に達していた。まさに技術の学習と二次イノベーションによって、日本・韓国企業の自主開発能力は急速な向上を遂げ、いくつかの有名ブランドも開発、創設したのである。中国企業の技術導入と消化吸収はひどくチグハグで、2002年の両者の投入の比は1:0.08であった。長期にわたり、セルフイノベーションの実践による消化吸収を重視してこなかったせいで、中国の一部の産業は「導入、落伍、再導入、再落伍」という悪循環にはまってしまっている。産業技術分野では、中国の発明特許は日本とアメリカの30分の1、韓国の4分の1でしかない。この15年来、外国企業と国内企業が中国で出願した発明特許の比率は6:4.1となっている。情報技術分野では、外国人は中国の発明特許の90%を占めてきた。2006年、中国のハイテク製品貿易において、外国企業の貿易黒字は384.6億米ドルにも達し、一方、国有企業の貿易赤字は152.2億米ドルに上った。これらのデータは、20年余りにわたる技術導入を経た後でも、中国企業は決して産業の核心的技術をマスターしてはおらず、自主イノベーション能力は実質的に向上していないということを十分に物語っている。

3. 問題の原因とメカニズムの分析

 国内の科学技術成果の転化にせよ、外国の技術の消化吸収にせよ、すべては技術知識と能力の、一つの主体からもう一つの主体への移転である。このような技術知識と能力の移転はすべて特定のイノベーション体系の中で発生する。したがって、中国の技術移転の中に存在する問題は、中国企業が依存しているイノベーション体系のあるいくつかの段階、またはあるいくつかの面に問題があることを反映している。我々はイノベーション体系における技術知識の認知と拡大、組織制度とネットワーク化、経済主体と能力支援という三つの基本的観点から、中国の技術移転に存在する問題の原因とメカニズムについて分析を行った。

3.1 技術知識の認知と拡大

 特定のイノベーション体系において、技術移転は実質的に知識の認知と拡大の過程である。まず最初に、技術の送り手は技術の受け手に伝達、移転するために、知識の蓄積、加工、整理統合を行わなければならない。次に、技術の受け手は知識の判別、判断、選択を行って、知識を受け入れるかどうか、どういう方式で受け入れるかを決定する。さらに、技術移転の過程には、経済価値の実現にとってより有利になるように、知識の再構成、拡大、再生が伴っている可能性がある。明らかに、以下に挙げる要因は技術移転の効率に対し重要な影響力を持っている。

 第一は、技術の送り出し主体と受け入れ主体の意欲である。技術移転が発生し得るか否かは、まず技術の所有者が知識を送り出すことを望むか否かにかかっている。現代社会において、技術知識は最も重要な社会資源であり、利益、権威、名声などをもたらすことができる。そのため、技術の送り手側は一定の動機に駆られ、一定の条件が満たされている場合にのみ、知識移転の意欲を生じる。同時に、知識は一つの生産要素または資源であるに過ぎない。知識は自動的に価値をもたらすことができるわけではなく、その他の生産要素と結びつき、特定の分野で応用が行われて初めて、自身の価値を創造し、実現することができる。しかも、技術を受け入れるには、一般に代価を支払うことが必要である。したがって、技術の受け入れ主体の受け入れ意欲もまた自然発生的に生まれるものではなく、一定の条件の下で形成される。中国の科学技術成果の転化を例に取ると、中国の科学研究活動は主に大学と専門研究機関によって担われるため、技術創造のコストは主に政府の科学研究資金援助に頼っている。これらの機関は経済利益を排除してはいないが、経済利益はその主たる目的ではなく、経済利益によって誘発される技術の送り出し意欲は決して強烈ではない。同時に、大学と専門研究機関はその雇用者が企業に技術を移転することに対し、べつに業績上の承認を与えるわけではないので、名誉という動機によって誘発される技術の送り出し意欲もまた強烈ではない。そのため、中国の科学技術成果の転化における技術の送り手の知識送り出しの意欲は、技術移転の効率を制約する重要な要素となっている。技術導入または国際技術移転においては、最大の経済利益を得るという考えからすれば、技術の送り手側としての多国籍企業が核心的知識を自発的に移転する意欲を持っていることはありえない。一方、中国の国有企業もまた、明確な経済利益による束縛と誘導がないこと、加えて技術学習の苦しさ、難しさのせいで、主体的に技術学習を展開しようという意欲は強烈ではない。

 第二は、両者の知識配置能力の格差である。技術移転は両者の意欲の影響を受けるだけでなく、両者の間の知識配置能力によっても左右される。技術の送り手側の知識配置能力は、知識の創造、整理統合、加工の能力・水準として理解することができ、技術の受け手側の知識配置能力は、技術知識の消化、再構成、応用を行う能力として理解できるが、それには知識とその他の知識または生産要素を組み合わせて、新しい知識または商業価値を創造する能力が含まれている。技術の送り手側と受け手側の知識配置能力の格差は、互恵という動機に基づいた知識移転の意欲に影響を与え、さらに技術の受け手側の知識学習、消化吸収・応用の能力にも影響を与える。一般的に言って、両者の間の知識配置能力の格差が大きければ大きいほど、知識における互恵が実現される可能性は小さくなり、技術の送り手側の知識移転の意欲が低ければ低いほど、技術の受け手側が知識を解釈、理解する難度は大きくなり、技術移転の効率は低くなる。両者の間の知識配置能力の格差が小さければ小さいほど、知識における互恵が実現される可能性は大きくなり、技術の送り手側の知識移転の意欲が高ければ高いほど、技術の受け手側が知識を解釈、理解する難度は小さくなり、技術移転の効率は高くなる。中国の科学技術成果の転化において、企業は長期にわたり技術イノベーションの実践と知識の蓄積が不足していたため、知識配置能力の面で、国内の大学、研究機関、多国籍企業との間にいずれもかなり大きな格差が存在し、それが技術学習と効果的な吸収を甚だしく制約し、技術移転の有効性に影響を及ぼしてきた。

 第三は、さまざまな知識の独自属性である。どんな知識にも独自属性があり、これらの属性は複数の特徴変数を用いて表すことができる。英国の学者マックスH. ボイソット(Max H. Boisot)は空間という概念枠組みを提案し、符号化、抽象、拡散の三つの特徴変数を用いて知識属性の分析を行った。マックスH. ボイソットによれば、上記の三つの特徴変数は一緒に作用を発揮し、知識の移転と伝達に影響を与え、決定づけている。一般的に言って、符号化と抽象の程度が比較的高い知識は移転と伝達が容易である。知識の総合化という特徴が絶えず発展し、強まっていることにより、産業技術の集積化、体系化という特徴が日増しに明らかになっているが、筆者は体系化もまた知識の基本的特徴であり、しかも非常に重要な特徴であると考えている。体系化とは実際の応用目的にしたがい、知識の内在関係に基づいて、さまざまなタイプの知識を集積し、結びつけ、一つの完全な技術体系として構築することを指す。体系化する加工対象はナマの知識ではなく、すでに符号化と抽象のプロセスを終え、実践の中で使用されている知識である。したがって、体系化は決して知識の本源的特徴ではなく、それ自身が絶えず進化する過程で派生してくる新しい特徴である。体系化は技術移転に影響を与える重要な変数である。一般的に言って、高度に体系化された知識にはより強い「粘滞性」があり、移転の難度が相対的に大きい。技術移転の実践において、我々が常に目にするのは、ある技術または設備を導入することは相対的に容易だが、生産ラインを導入することは相対的に困難であり、また完全な産業技術体系、特に依然として一定の先進性を具えている産業技術体系を導入することは基本的に不可能だということである。それぞれの産業技術によって知識の体系化の程度はさまざまであり、技術移転の有効性にも大きな差が存在する。例えば、エアコン、テレビ、冷蔵庫などの一般家電産業は、製品が相対的に簡単なため、知識の集積化の度合いは高くない。コンプレッサ、ブラウン管などの伝統技術に立脚したこれらの産業は、決して技術上のコツによって十分な独占利潤が得られるというわけではない。労働力コストと導入側の技術の進歩という二重の圧力の下で、多国籍企業は導入側に比較的多くの技術を譲渡し、加えて一部の企業は自主イノベーションを特徴とする新しい技術の開発を行って、多国籍企業と技術競争を展開してきており、これらの産業の技術移転効果は相対的に良好である。一方、集積回路、自動車など、技術連鎖が比較的長く、知識の体系化の度合いが比較的高い産業においては、技術移転の難度そのものが大きい。同時に、多国籍企業は技術体系の中の核心的技術を握ることによって、産業のコントロール権と独占利潤を手に入れることができ、技術移転の意欲も比較的低い。その上、自動車などの産業では政府による保護が実施され、少数の大型国有企業は優先的合弁権によって、巨大な市場と政策資源を独り占めにし、自発的な技術学習の原動力と意欲が乏しいため、技術移転の効率は相対的に劣っている。

3.2 組織制度とネットワーク化

 技術移転はイノベーション体系の下で発生、発展し、組織制度という要素の制約と影響を受ける。まず、技術は一つの重要な社会資源または生産要素として、特定の配置メカニズム及び制度の手配を必要とし、イノベーション体系が依存している基礎資源配置メカニズム及び制度は技術移転の効率に対し決定的な影響力を持つ。次に、イノベーション体系の中のさまざまな主体はそれぞれ異なる方式で連結され、それぞれの連結方式及びお互いの間の連結と相互作用の程度などが、技術知識の取引の頻度とスピードに影響を与える。

 その第一は、技術知識配置メカニズムが技術移転効率に与える影響である。技術知識配置メカニズムはイノベーション体系の組織メカニズムの基本内容であり、また社会知識配置メカニズムの重要な構成部分でもある。一つの社会資源、商品としての技術知識という角度から言えば、典型的な配置メカニズムには市場メカニズムと計画メカニズムという2種類の制度形態がある。特定のイノベーション体系について言えば、市場メカニズムは基礎的な知識配置制度とならなければならない。早くも20世紀の40年代に、有名な経済学者ハイエクはその古典的論文『社会における知識の利用』の中で、意思決定権と知識の間の配置関係という角度から、なぜ分散化方式、市場メカニズムによって知識を配置することが必須なのかという理由を論述している。ほかにも、さらに以下のいくつかの理由に基づき、市場メカニズムを技術知識の基礎的配置メカニズムとすることを強調している。その理由の一つは、技術知識の移転には比較的高いコストがかかるため、「知識を意思決定権を持った人々に伝達する」というような統一的な意思決定メカニズムが、存在の合理的理由を失っていること。二つ目は、技術知識の選択には主観的行動という特徴があり、技術自体に存在する高度な情報の非対称属性と高度な発展の不確定性により、意思決定主体の主観的能動性の発揮が必要とされ、おのずから自由な市場選択メカニズムが必要とされていること。三つ目は、特定の技術知識について商業ベースの開発を行う場合も、市場の提供する需要情報の助けを借りて、独立した商業主体が自主的に行うことが必要であること、である。まさにマネジメントの大家ドラッカーが言っているように、自発的モデルは産業発展のほとんど唯一の道であり、産業を選ぶのは易者の仕事なのである。中国の技術導入、特に自動車、装備、石油化学製造など重要な産業の技術導入においては、政府計画による介入という形態が比較的多く採られ、市場メカニズムの役割が十分に発揮されてこなかった。20世紀の80年代、冷蔵庫、カラーテレビなどの生産ラインの導入は、いずれも中央政府の許可を経なければならなかった。特に自動車産業は三大国有企業だけに外国の技術と生産ラインの導入が許可されていた。このような、どの企業がより技術を必要としているか、どの企業がより外国の技術を導入するのに適しているかを政府が評価する、という計画メカニズムは、民営企業から技術学習とイノベーションを行う機会を奪い、イノベーションに対する市場競争の推進作用を抑え込んでしまった。科学技術成果の転化においても、市場メカニズムと技術の需要・応用主体としての企業の役割を十分に発揮させず、事業の着眼点を企業の需要を刺激することには置かず、技術知識の縦方向の発展をどうやって推進するかということに置いてきた。科学技術成果の転化の障害またはボトルネックを、科学技術成果の縦方向の発展過程で欠乏する各種経済要素または資源と認定し、科学技術成果の縦方向の発展過程における各段階の資源ギャップを補填することに力を入れ、科学技術成果の発展と転化の完全な連鎖を構築し、科学技術成果の発展と転化への道を開いてきた。このような、企業の現実の需要を顧みず、独り善がりの思い込みによって企業に技術を「食べさせ」または「供給する」といった科学技術成果の転化モデルは、当然ながら良い効果を収めることは難しい。

 第二は、さまざまな市場構造が技術移転効率に与える影響である。同じ技術知識について言えば、技術の供給及び需要主体の置かれている市場地位は、技術移転の方式と効率に対し重要な影響力を持つ。一般的に言って、技術の所有者が市場を独占する地位にある場合、彼は運よく技術の商業ベースの開発を独立して行い、独占という優位性を利用して超過利潤を手に入れており、技術知識の移転及び伝播の意欲は比較的低くなる。技術の所有者が長期にわたって市場を独占する地位にある場合には、技術イノベーションまたはアップグレードの情熱が低下し、技術創造を行い続ける原動力を失う可能性さえある。技術の所有者が市場を寡占する地位にある場合には、彼は同じ市場地位を有している主体とともに技術知識の交流とシェアリングを行う傾向があり、同時に技術の送り手、受け手となる。中国は技術導入の初期、市場機構が技術移転の主体の行動に与える影響に注意を払わず、多国籍企業の技術移転の進展を遅らせてしまった。自動車産業を例に取ると、当初は上海汽車工業公司だけがドイツ・フォルクスワーゲンの技術を導入することを許され、その合弁会社は市場での独占的地位を持っていたため、その生産するサンタナを連続17年間、モデルチェンジしようとしなかった。上海汽車工業公司がアメリカ・ゼネラルモーターズの技術を再導入することを許され、市場競争の構造が出来上がると、フォルクスワーゲンはようやく他の車種のセダンを上海の合弁企業において生産した。我々は市場集中度によって産業市場構造の特徴を表し、製品技術の年齢によって中国の半導体製造企業の導入した技術の先進的水準を示し、市場構造と技術移転の関係について研究した。SPSSを利用して多元線形回帰分析を行い、技術移転の効果と市場集中度は著しい負の相関を示していることを発見した。つまり、産業集中度が高ければ高いほど、市場の独占性が強ければ強いほど、企業の製品の技術水準は低めとなる。産業集中度が比較的低く、市場競争が比較的十分であるときには、企業の導入技術の水準は明らかに高くなる。

 第三は、イノベーション体系の組織形式が技術移転効率に与える影響である。どんなイノベーション体系も一定の構造形態によってイノベーション要素を組織し、特定のイノベーション体系組織構造を形成する必要がある。それぞれの産業は自らに適したイノベーション組織構造形態を具え、異なったイノベーションの特徴と技術移転メカニズムを呈する。産業の技術連鎖の長さ、産業技術イノベーションの市場・知識・装備等資源に対する依存度にしたがって、産業をさまざまなタイプに分けることができる。さまざまなタイプの産業は適当なイノベーション組織形式を採用することにより、初めて高効率のイノベーションと技術移転を実現することができる。ソフトウェアとネットワーク技術産業を例に取ると、産業の技術連鎖が比較的短く、市場情報と資源に対する依存度が比較的高いため、イノベーション型企業を主とするイノベーション・クラスター組織形式を採用するのに適している。一方、自動車、装備製造、石油化学、鉄鋼等産業は技術連鎖が長く、業種知識、経験、生産装備等資源に対する依存度が高く、比較的大きな資金投入と系統的な力によってイノベーションを遂行することが必要なため、大企業を中核とした産業イノベーション・チェーン組織形式を採用するのに適している。また、集積回路、バイオ製薬等産業は、産業の技術連鎖が長く、新知識と生産装備等資源への依存度が高いため、中小型企業または大学などがイノベーションを担当し、大企業が系統的集積開発と一定規模の生産を担当するネットワーク組織形式を採用するのに適している。我が国の科学技術成果の転化と技術導入の実践には、産業技術イノベーションの組織形式と産業技術の特徴とが合っていないという現象が存在しており、そのため技術イノベーション・移転の効率が低くなっている。例えば、集積回路産業は、いくつかの生産ラインを導入すると同時に、イノベーション型小型企業の技術学習とイノベーション模倣の面での役割に過度に依存し、実力のある関連大企業の役割を育てず、または発揮させることを重視してこなかった。そのため、この産業はいくつかの技術イノベーションの成果があったにもかかわらず、産業の核心的主要技術の系統的な集積開発を行う能力がなく、一定の規模を持つ自主イノベーション型産業はなおさら形成されなかった。

3.3 経済主体と能力支援

 現実における技術移転はほとんどが経済利益を目的としており、当然ながらイノベーション体系の経済主体と能力支援という要素の影響を受ける。まず最初に、十分かつ適格な経済主体は技術移転及びイノベーション活動の前提である。次に、合理的な、または期待される経済的インセンティブまたはリターンは技術移転及びイノベーション実現の基盤である。さらに、イノベーション体系の経済的能力支援は技術移転及びイノベーションの必要な経済条件である。

 第一に、技術移転の経済主体である。経済価値の実現という観点から考察すれば、技術移転は技術の所有者とその他の生産要素の持ち主、特に企業家としての才能と資本の持ち主との取引であり、組み合わせである。技術が知識形態から商業形態へ移転する過程において、関連する経済主体は主にベンチャー企業家とベンチャー投資家である。ベンチャー企業家はイノベーション行動の主体であり、技術とその他の生産要素を組み合わせる任務を引き受ける。ベンチャー投資家はベンチャー活動の指導者であり、資本、管理経験の提供者である。中国の科学技術成果の転化においては、イノベーションの素質と能力を具えたベンチャー企業家が不足し、また適格な理念と経験を具えたベンチャー投資家も不足している。イノベーション経済学の創始者シュンペーターはかつていみじくも次のように指摘した。経営者はすべてが企業家と呼ばれる資格を持っているわけではない。経済環境に対して創造的な反応を示すことにより、生産の成長を推進する経営者だけが企業家と呼ばれることができるのだ、と。明らかに、「創造的破壊者」はシュンペーターが企業家に与えた最もふさわしい称号、最もはっきりした刻印である。中国の企業経営者はほとんどが行政の任命・選抜メカニズムによって生まれており、企業家と呼ばれる資格を持っている者は相対的に少ない。中国の初期の起業者の多くは「草の根」階層の出身で、衣食の問題の解決を目的とし、現有の経済基盤の上での遺漏や欠点の補完を手段とし、創造の意識と能力に乏しかった。そのため、科学者とエンジニアが創造した科学技術成果は、少数の科学者とエンジニアの自主ベンチャーに頼って移転を実現するしかなく、科学技術成果の転化率が低いのも必然の結果であった。同時に、中国には本当の意味でのベンチャー投資家集団が不足している。中国の現在のベンチャー投資資金の約3分の2は政府と国有企業から来ており、約80%の資金は外資機関によって管理されている。ベンチャー投資資金の資金供給構造は、それが高リスク投資を受け入れにくいことを決定づけており、ベンチャー管理集団の現状は、それが高度な情報の偏りが存在するプロジェクトには投資を行いにくいことを決定づけている。一方、科学技術成果の転化は、高度な情報の偏りが存在し、また極めて高いリスクも有しているシード期または創業期の投資に属しており、当然ながら、現有のベンチャー投資機関からは歓迎されにくい。

 第二は、技術移転の経済的リターンである。経済ゲームという角度から言えば、技術移転は不完全情報の静的ゲームであり、ゲームの核心は技術価値に対する双方の判断と認定である。技術を一つの特殊商品とみなし、技術の送り手側を譲渡者とみなし、技術の受け手側を譲受者とみなすと、双方の呼び値競売モデルを借用して、その均衡条件の分析を行うことができる。譲渡者が提供する技術の原価、または技術の譲渡者にとっての価値をc、技術の譲受者にとっての価値をvと仮定する。不完全情報の状況下では、譲渡者だけが技術の本当の原価cを知っており、同様に、譲受者だけがvを知っている。cとvを[0、1]上の均等分布であると仮定すると、分布関数Pは共通の知識である。このベイズ・ゲームにおいては、技術譲渡者の戦略(言い値)Psはcの関数であり、Ps(c)と記される。技術譲受者の戦略(言い値)Pbはvの関数であり、Pb(v)と記される。マイヤーソンとサッタースウェイト(Myerson and Satterthwaite、1983)の「均等分布の状況下では、線形戦略の均衡比はその他のどんなベイズ均衡が生み出す正味剰余よりも高い」ことに関する証明を引用し、線形戦略の均衡にしたがって技術移転について研究を行ったところ、技術移転の成功の条件はPb(v)≧Ps(c)であること、すなわちv≧c+1/4のときにだけ、技術移転が成功し得ることがわかった。上記の条件を応用して分析を行えば、技術取引の達成領域は比較的小さく、技術取引の成功率は比較的低いということがわかるが、これは技術取引における均衡の基本的特徴を反映している。中国の科学技術成果の転化実践においては、技術の創造過程の困難性、技術の商業価値に対する楽観的期待から、技術の送り手側は往々にして技術の価値を高く見積もり、c値に対する位置づけは一般に高めである。一方、技術の商業化過程の高度な不確定性から、特に数年前までは、有効な知的財産権保護技術の欠如のせいで、技術成果の価値が失われやすい、独占的でないという特徴が見られていたことから、技術の価値に対する受け手側の判断と認定は相対的に保守的で、v値に対する位置づけは一般的に低めであった。これが科学技術成果の転化率が低く、技術移転の実現が難しいことの重要な原因である。

 第三は、技術移転の経済的能力支援である。技術移転は市場容量、技術プラットフォーム、生産要素などさまざまな経済的能力支援を必要とする。かつてエンゲルスはいみじくも、ひとたび社会に需要が生まれると、科学技術の発展に対するその促進作用は大学10個分よりも大きい、と指摘した。イギリスの学者、Joe Tidd、John Bessant、Keith Pavittは、アメリカ、イギリス、フランス、日本、イタリア、オーストラリア等国々の技術移転の特徴を研究した上で、技術移転に影響を与えるいくつかの経済要因をまとめたが、それには消費者需要と市場公平度、起業の頻度と投資活動の水準、生産要素価格、天然資源の特徴と入手可能性、技術創造と発展プラットフォーム、総体的経済力と水準などがある。総合的考察によって気づくのは、現有企業のイノベーション能力と水準は技術移転の経済的能力支援を組み立てる上で、重要な役割を持っているということである。第一に、オープン・イノベーションの背景の下では、現有企業の技術イノベーション能力が高ければ高いほど、技術、特にイノベーション型技術に対する需要は大きくなる。さらに、大学や専門研究機関にとって、現有企業は実用技術のより有効な供給者である。同時に、現有企業、特に大企業は技術プラットフォームの構築者、イノベーション資源の提供者でもある。我々が中国における地域イノベーション能力に関する報告の中の、北京、上海、山東、広東、浙江、江蘇、天津、陝西、四川、湖南、湖北、遼寧、福建など12の省・市の2001年から2004年までの連続4年間のランキングデータを利用し、技術知識移転ランキングと企業の技術イノベーション能力ランキングについて偏相関分析を行ったところ、両者の偏相関係数は0.546となった。これは二つの変数の間の高度な相関をはっきりと示しており、企業の技術イノベーション能力、特に現有大企業の技術イノベーション能力の技術移転効率に対する重要な影響が検証された。日本、韓国にとって、中国の現有企業は技術イノベーション能力が低く、技術に対する需要が比較的弱く、業界で主導的役割を有する企業が不足しており、それが中国の技術移転効率、特に技術導入における知識移転率を制約する重要な原因となっている。

4. 結論と提案

 以上の研究からわかるように、中国の科学技術成果の転化率と導入技術知識の移転率が低くなっている原因は、多方面にわたっている。技術の独自属性、技術の送り手と受け手の意欲、両者の間の知識配置能力の格差などの原因があるほか、市場メカニズムが十分発揮されていない、市場資源を十分に利用して競争メカニズムを構築していない、産業技術イノベーションの組織形式が合理的でない等の要因の影響もある。それ以上に、十分かつ適格なベンチャー企業家とベンチャー投資家がいないこと、技術の価値認定の不合理さと、市場が規範化されていない等の理由から技術移転のリターンに保障がないこと、現有企業のイノベーション能力の弱さが技術の有効な需要と供給を抑制していることとも関わりがある。総合的に言って、現有企業のイノベーション能力を育成し、現有企業のイノベーションの水準を引き上げ、市場メカニズムの役割を十分に発揮させることには、決定的な意味がある。