第42号:環境・エネルギー特集Part 3-地球環境保護の取り組み
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ディーゼル車排出汚染抑制技術の新たな進展

2010年 3月 3日

上官文峰

上官文峰(Shangguan Wenfeng):
上海交通大学燃焼・環境技術研究センター 副主任

 上海交通大学教授、1959年10月生まれ。長崎大学工学博士。
1983年より武漢工業大学材料学部助手、講師を経た後、1996年より日本工業技術院九州工業技術研究所特別研究員。2000年より上海交通大学教授、博士課程院生指導教官、燃焼・環境技術研究センター副主任。環境触媒・浄化、エネルギー転換材料及び同技術等の研究に主に携わり、国家自然科学基金、国家973、863等の研究課題を担当。教育部「世紀に跨る優秀人材養成基金」獲得者。中国化学会触媒専門委員会委員、中国再生可能エネルギー学会水素エネルギー委員会委員、中国計器材料学会理事。

要旨

 本論文では中国のディーゼル車開発の現状を簡単に紹介し、ディーゼルエンジンの本体内部浄化技術、排気ガス後処理技術、代用燃料技術の三つの側面から国内外のディーゼル車排出汚染抑制技術の動向を総合的に解説する。また、将来の関連技術の開発について展望を示す。

0.前書き

 ディーゼルエンジンは燃費がよく、出力が高く、耐久性に優れる等の長所を備えているため、トラック、機関車、汽船、ディーゼル発電機等の大型設備にますます幅広く応用されている。また、その高い燃油経済性、低い排出性といった特徴から、軽自動車と小型車のディーゼル化が自動車業界の新たな動きとなりつつある。現在、欧州では乗用車の20%と商用車の90%がディーゼルエンジンを採用し、米国でも商用車の大部分がディーゼルエンジンを採用している。わが国の自動車工業(ディーゼル車を含む)はスタートが遅かったものの、急速な発展を遂げた。中国公安部交通管理局の最新統計によれば、2009年末現在の全国の自動車保有台数は1億8,658万台となる。バス・タクシーが急増した他、トラックもかなりのペースで増えている。その保有台数は2009年時点で既に1,368万台を超え、自動車全体の17.96%を占めており、2008年に比べ21.61%の伸びを示した。

 だが、ディーゼル車の増大は中国に深刻な環境汚染問題を引き起こした。その有害排出物には一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)、粒子状汚染物質(PM)等がある。近年の調査によれば、上海の中心市街地では、自動車のCO、HC、NOxの排出分担率がそれぞれ86%、90%、56%に達する。また、北京での2004年のモニタリング状況を例にとると、気体汚染物のうちCOの92%、HCの51%、NOxの64%及び吸い込む可能性のある粒子状物質の23.13%は自動車の排出がもたらしたものである。全国の自動車の汚染物質排出分担率の中で、ディーゼル車は窒素酸化物の43%、浮遊粒子状物質の83%を占める。このことからわかるように、ディーゼル車の排気ガス排出汚染抑制技術の研究と開発は焦眉の急となっている。技術レベルから言うなら、内燃機関技術、後処理浄化技術及び燃油品質改良、代用燃料等の方法を通じ、ディーゼル車排出汚染の抑制を実現することができる。これについて本論文で概説する。

1.ディーゼル車の内燃機関技術

 ディーゼルエンジン自体の燃焼の特徴及び一連の新しい技術の利用により、一酸化炭素(CO)と炭化水素(HC)の排出量はガソリンエンジンに比べて少ない。このため、粒子状物質(PM)のカーボンスーツ(すす)と窒素酸化物(NOx)がディーゼルエンジンから排出される主要汚染物質であり、その本体内部浄化技術もPMとNOxを対象としたものだ。主にはディーゼルエンジン電子制御技術、排気ガス再循環技術、過給・中間冷却技術及び均一混合気圧縮着火技術がある。

1.1 ディーゼルエンジン電子制御技術

 電子制御システムは1970年代に開発されたもので、近年、国外の自動車用ディーゼルエンジンに広く応用されている。エンジンの燃焼システムの一層の向上を図るため、通常は電子制御燃料噴射ポンプ、電子制御インジェクタ、高圧コモンレールシステム、マルチバルブ、マルチシリンダヘッド、中央インジェクタ等を採用している。これらの措置を通じ、エンジンの性能を改善し、汚染物質の排出を低減することができる。電子制御燃料噴射システムの採用はディーゼルエンジンの性能を高め、汚染を減らすための主要な手段である。コモンレール式の電子制御燃料噴射システムは圧力時間制御システムとも呼ばれ、高圧コモンレールと中圧コモンレールの二つのシステムに分かれる。コモンレール式の高圧燃料噴射システムを採用すれば、オイルミストを一段と細分化し、また、シリンダに入る空気の量を増やして混合気の質を高めることができ、これにより、燃焼性能が著しく改善され、有害ガスの排出が効果的に削減される。

1.2 排気ガス再循環技術

 排気ガス再循環(EGR)はエンジンの排気ガスの一部を吸気管に戻し、新鮮な空気と混合した後、シリンダに送り込み、作動物質としてシリンダ内の熱サイクルに参加させることを指す。EGRはNOx排出抑制の有効な措置としてますます重視されており、ディーゼルエンジンへのEGR応用は既に一定の研究成果を収めた。EGRは吸気の過程で酸素含有量を減らし、排気の熱容量が増え、最高温度を低くする。このため、HCとPMの排出量が著しく増大することのないように、部分負荷又は空燃比が十分に大きい運転状態下で採用するしかない。EGR技術のカギはNOxを最大限低減し、その一方、エンジンの経済性及びHCとPMの排出にも影響が及ばないようにすることである。

1.3 過給・中間冷却技術

 ディーゼルエンジンの過給・中間冷却技術はコモンレール式電子制御燃料噴射システム技術とも呼ばれる。過給・中間冷却技術を採用すれば、エンジンの動力性と経済性を著しく向上させるだけでなく、排出指標特にNOxとPMの指標を飛躍的に改善することができる。この技術を採用すると、吸気管内の空気圧力・温度、着火遅れ、燃焼速度、空気過剰率に相応の変化が生じ、NOxが生成されにくくなる。また、過給によりシリンダ内の濃度が増し、混合気の形成と燃焼を改善するための条件が作り出される。それと同時に、吸気温度を高めて、液体燃料の蒸発気化を促し、微粒子の生成を減らすことができる。

1.4 均一混合気圧縮着火技術

 均一混合気圧縮着火(Homogeneous Charge Compression Ignition,HCCI)の燃焼方式は、内燃機関の第三の燃焼方式と呼ばれ、現在、ホットな研究テーマとなっている。HCCIエンジンは均一混合気を利用するもので、圧縮比を高め、排気ガス再循環、吸気加温、吸気過給等の手段を用いることを通じ、シリンダ内の混合気の温度と圧力を高める。こうして圧縮による混合気の自然発火が促され、シリンダ内に多くの火炎核を形成し、燃焼の安定性を効果的に保ち、火炎伝播距離と燃焼持続時間が短縮されることになる。HCCIの過程において、理論上は均一の混合気と残留ガスが混合気体全体の中で圧縮により発火・燃焼する。燃焼は自然発生的で、均一的なものであり、火炎の伝播もなく、その燃焼はそれ自体の化学反応動力学と関係があるだけである。このため、NOxと微粒子の形成を効果的に阻止することができる。国外の一部の機種は部分負荷においてHCCI燃焼モデルを採用しているが、国内ではまだ研究開発の段階にある。

2.ディーゼル車の後処理浄化技術

 エンジン本体での措置、例えば排気ガス再循環(EGR)、タービン過給・中間冷却、マルチバルブ、燃料噴射システム改善等の技術を採用すれば、ディーゼルエンジンから排出される汚染物質はある程度低減することができる。しかし、エンジン本体内部のPMとNOxにはtrade-offの関係が存在するため、本体内部の抑制措置だけで厳格な排出法規を満たすことはますます難しくなっている。そこで排気系の後処理浄化技術と組み合わせる方法により、NOxとPMの排出を十分に低いレベルまで引き下げることが必要となった。近年、国内外ではディーゼル車のPMとNOxによる環境公害を減らすため、多くの後処理技術が開発されている。例えば、粒子酸化触媒(DOC)、微粒子フィルタ(DPF)、NOx吸着還元(LNT)、NOx選択的触媒還元(SCR)等のPM又はNOxの単一汚染物質に的を絞った浄化技術であり、そのうちNOx吸蔵-還元触媒技術は応用面で大きな可能性を秘めている。この他、PM-HC-CO-NOxの四元触媒技術とPM-NOx同時触媒技術も重視され、広く研究が進められている。

2.1 NOx吸蔵-還元触媒技術

 NOx吸蔵-還元触媒技術(NOx Storage and Reduction Catalysis,NSR)はリーンNOxトラップ(LNT,Lean NOx Traps)と呼ぶこともできる。用いるNOx吸蔵触媒は三元触媒をベースにしたもので、最初はリーンバーンガソリンエンジンを対象に研究開発が進められ、現在ではシリンダ内直噴式ガソリンエンジンへの応用に既に成功している。その活性成分は貴金属とアルカリ土金属(例えばNa+、K+、Ba2+等)又は希土類金属(例えばLa2O3)である。反応原理は図1に示す通り。エンジンが希薄燃焼の状態下で作動する時、排気は酸化雰囲気にあり、貴金属(Pt)の触媒作用の下で、NOとO2が反応してNO2を生成し、硝酸塩MNO3(Mは吸着材料を示す)の形でアルカリ土金属の表面に吸蔵される。エンジンが理論混合比又は濃混合気の状態下で作動する時は、硝酸塩MNO3が分解してNOxを放出し、触媒上でCO、HC、H2と反応してN2、CO2、H2Oを生成すると同時に、アルカリ土を再生させる。

図1 NOx吸蔵-還元メカニズム

図1 NOx吸蔵-還元メカニズム

 酸素富化の条件の下、この技術をNOxの浄化に応用する上で、解決の待たれる根本的問題は触媒の耐硫黄性をいかに向上させ、その耐硫黄・再生メカニズムを簡略化するかであった。この技術はNOxの吸蔵容量、NOxの吸着・脱着速度が非常に重要なものとなる。これまでの研究が示しているように、上記のNOx吸蔵の特性を持つ多くの材料は同時に又、SOxを吸着し、硫酸塩に転化する強い能力を備えている。硫酸塩は硝酸塩よりも熱安定性が高いため、材料の表面に次々と蓄積され、NOxの吸蔵容量が次第に失われ、最後には触媒全体の活性が失われることになる。

 現在、NSRシステムは急速な発展を遂げ、その効率の高さから、工学技術の段階を経て実用化に移りつつある。この技術はまず日本で商業化が実現された。代表的な製品はトヨタのPt/BaO/Al2O3システムであり、その開発したNSR触媒は完成車の50,000km耐久性試験という目標を既にクリアしている。近い将来、米国も厳格なNOx排出基準を満たすため、NOx吸蔵-還元触媒システムを実用化する計画である。しかし、この技術を実施に移すには、エンジンの運転状態を精確に制御しなければならず、希薄燃焼、濃厚燃焼の雰囲気を周期的に作り出し、この触媒のNOx浄化効率を最大限高めようとすると、エンジン制御の難度が増すことになる。同時に、濃厚燃焼の雰囲気を作り出すと、燃料の消費が増え、ディーゼルエンジンの燃油経済性を低下させることになる。

2.2 四元触媒技術

 ガソリンエンジンの排気を浄化する最も効果的な方法は、三元触媒浄化器(TWC,Three-Way Catalyst)を採用し、CO、HC、NOxを互いの酸化剤と還元剤にして反応を起こさせ、3種類の汚染物質を同時に除去することである。一方、ディーゼルエンジンの燃焼過程は一般に希薄混合(酸素富化)の状態下にあり、COとHCの濃度が低く、NOxとPMが主な汚染物となる。酸素富化のため、三元触媒器では効果的な還元によるNOxの低減を実現することができない。

 1999年、Cerxy社はQuad CAT/TMという四元触媒コンバータを開発した。この装置はCDPF触媒フィルタとNOx-SCR触媒から成り、スウェーデン政府の認証を得た。日本の三菱自動車はディーゼル乗用車の排気の浄化に用いられる四元触媒コンバータを開発した。これは二つのセラミックハニカム触媒器から成り、前の部分がPt基NOx選択的還元触媒(HC-SCR)で、後ろの部分がHC、CO、SOFを酸化させるPt基酸化触媒である。2000年、Johnson Mattheyは大型ディーゼルトラック、バスのエンジン排気を浄化するのに用いられるSCRTコンバータ技術(SCRTTM System)を公開した。J.M.社が保有する連続再生微粒子濾過技術(CRT)と選択的触媒還元技術(NOx-SCR)を結合したもので、この技術は既に商業化されている。

図2 DPNRシステムの概要図

図2 DPNRシステムの概要図

 トヨタ自動車は2002年に四元触媒コンバータの一種であるDPNRシステム(Diesel Particulate-NOx Reduction systems)を発表した。この技術のベースとなったのは、トヨタが開発したリーンバーン(希薄燃焼)ガソリンエンジン排気浄化用のNOx吸蔵還元浄化技術である。DPNRシステムは主にNOx吸蔵還元触媒と多孔質セラミックフィルタから成り、多孔質セラミックフィルタはディーゼル微粒子フィルタ(DPF)システムに相当する。このフィルタはディーゼルエンジンのすす微粒子(PM)を捕集するのに用いられると同時に、NOx吸蔵還元触媒の担体となる。PM、CO、HCを一段と低減するため、DPNR触媒器の下流には酸化触媒が取り付けてある(図2を見ること)。エンジンが希薄燃焼状態下で作動する時は、排気中の過剰な酸素とNOx吸蔵過程で放出される活性酸素が、セラミック担体で濾過された微粒子を直接酸化する。エンジンが理論混合比又は濃混合気の状態下で作動する時は、NOx吸蔵過程で放出される活性酸素が微粒子を酸化するだけである。言い換えるなら、PMはどの状態下でも酸化されるのであり、一方、NOxは濃混合気の状態下でしか還元されない。DPNRシステムを低硫黄(質量分率は50×10-6未満)ディーゼル車に応用すれば、高い浄化率を長期間維持することができ、その浄化効率は95%以上に達する。起動条件の下においても、PMとNOxを同時に除去する効率は80%以上に達する。

 DPNRは簡単でコンパクトな触媒転化システムであり、最近開発されたコモンレール式電子制御燃料噴射技術とセットにすることができる。トヨタ自動車はDPNR装置を「画期的な浄化技術」と呼び、2003年からこの浄化システムをディーゼル車に取り付けるようになった。この技術はNO2を酸化剤として、粒子状のすす成分の触媒転化を促進し、その後、各種の方式でNOxをN2に還元し、NOx、PM及びHC、COを同時に取り除くものである。現在、この技術は硫黄への適応性が比較的弱いため、低硫黄ディーゼル油を使用しなければならない。

2.3 PM-NOx同時触媒技術

 先に述べた通り、ディーゼル車から出される排気ガスの主な汚染物質はPMとNOxである。PMを除去する効果的な方法はディーゼル微粒子フィルタ(DPF)を採用することである。また、NH3、尿素等の還元剤の添加により、酸素富化の環境下でのNOxを還元除去することが現在、排出ガスの触媒浄化を目指した主要な研究内容の一つとなっている。DPFで捕集したPMを利用してNOxを還元し、両者から無害のCO2とN2を同時に生成できるなら、それは簡単かつ理想的なディーゼルエンジン後処理技術となるであろう。Yoshidaが炭素粒子をフィルタで集め、酸素富化の条件下でNOxを還元するとの理念を初めて打ち出した後、PM-NOxの同時触媒は研究者の間で強い関心を呼んだ。その最初の研究方法は、ディーゼルエンジンの排気環境をシミュレートして、「触媒-乾燥すす」緊密接触混合物(tight soot/catalyst mixture)の触媒反応を観察し、PMの燃焼開始温度(Tig)とNOxの還元転換率(SN2/C)又はこの反応におけるN2生成量(V[N2])によって触媒活性を評価するというものであった。ペロブスカイト型複合金属の酸化物はPM-NOxを同時に触媒除去する高い活性を示した。図3からわかるように、Pt/Al2O3と遷移金属の酸化物触媒(MnO2、CuO、Co3O4、V2O5等)に比べ、ペロブスカイト型複合金属の酸化物触媒はN2を生成する高い選択性を備えている。アルカリ金属のK部分でMn基ペロブスカイトのLaを置換すれば、活性は一段と高まるであろう。最近の研究結果によれば、La0.8K0.2Cu0.05Mn0.95O3は54.8%のNOx還元転化効率と260℃の燃焼開始温度を持つ。

図3 NOx-Sootを同時に触媒除去する一部触媒の効果

図3 NOx-Sootを同時に触媒除去する一部触媒の効果

 最近、上海交通大学はプラズマ技術の助けを借り、酸素富化のディーゼルエンジン排出環境をシミュレートして、PM-NOx同時触媒除去に関する試験研究を行った。その結果が示しているように、プラズマはPM-NOx同時触媒の中で燃焼開始温度を下げ、NOx転換効率を高める促進作用を持つ。プラズマの補助触媒反応の中で、OH、HO2、RO2等の活性基グループが大量に発生し、それらは後に続く触媒反応に有利なものである。このため、NOx-すす間の触媒反応活性を高めることができる。

 PM-NOx同時触媒除去は応用の可能性を秘めた有望なディーゼル車排出浄化技術の一つである。しかし、触媒とすすの固相間の良好な接触をいかに実現させるか、また、実際の排出ではPM-NOxの割合が一定でなく、そうした状態下で触媒効果を一段と高め、持続させるにはどうすればよいか等の面でなお大きな課題が残っている。

3.クリーンな代用燃料技術

 この数十年来、国内外の研究者はディーゼル車の排出汚染を低減するため、より理想的な代用燃料の模索・研究・開発を進めてきた。新配合ディーゼル油(RFD)又は低硫黄ディーゼル油(LSD)を採用する他、バイオディーゼル油やジメチルエーテル(DME)等をディーゼル油の代替とする研究が重視されている。その中でDMEをディーゼル車の燃料とするクリーンな代用燃料技術の発展には目覚ましいものがある。

 ジメチルエーテル(Dimethyl ether、DMEと略)の化学分子式はCH3OCH3となる。毒性のない酸素含有燃料であり、常温常圧下では気体の状態にある。常温の時は5気圧で液化し、貯蔵と輸送に便利である。研究結果によれば、DMEはディーゼル油の代替燃料として主に次のような長所を備えている。①DMEはセタン価が高く、蒸発潜熱が大きく、表面張力が小さく、圧縮弾性率が小さく、粘度が低く、極性が強い等の特徴を持ち、圧縮点火エンジンの優良な代替燃料である。②DMEは噴射遅角がディーゼルエンジンより大きく、エンジンの燃焼を引き起こす爆発圧力が低く、且つ変化が緩やかで、最高燃焼温度が低い。エンジンの性能から見るなら、機械的負荷及び熱的負荷が低く、燃焼が穏やかで、機械効率と熱効率が高い。③DMEエンジンは低速で負荷の大きい時、有効な熱効率が一段と高いものになる。NOx、HC、COの排出はいずれも従来のディーゼルエンジンより少ない。④他の代替燃料に比べ、DMEはHCCI燃焼が実現されやすい。専用のDME酸化触媒後処理技術を採用すれば、このエンジンは厳格な排出法規の基準を簡単に満たすことができる。⑤DMEエンジンの排出物の中に硫酸塩、多環式芳香族炭化水素(PAH)及びベンゼン、メチルベンゼン、ジメチルベンゼン(BTX)はない。アルデヒドの排出が通常のディーゼルエンジンより若干多いが、適切な酸化触媒を用いれば簡単に取り除くことができる。

 誰の目にも明らかなように、DMEは圧縮点火エンジンの良質な代替燃料であり、エンジンの新しいタイプの燃焼方式を実現する可能性が高く、エネルギーと環境の分野でホットな研究テーマとなっている。中国政府はこの研究を重視し、積極的に支援している。上海交通大学西安交通大学天津大学吉林大学華中科技大学等はDME燃料の噴霧と燃焼の特性、エンジン性能の研究で進展を得た。2003年、上海交通大学と上海汽車工業(集団)公司は国の科学技術難関攻略プロジェクトを引き受け、新型DME燃料の特性に合ったエンジン燃料供給・噴射・燃焼システム及び自動車用DMEエンジンを開発した。これらは全て自前の知的財産権となる。2005年、わが国初のDME都市バスを開発することに成功し、国家科学技術部の検収にパスした。2007年9月、上海交通大学、上海柴油機股分有限公司、上海汽車工業(集団)総公司、上海華誼集団公司、新奥九環車用能源有限公司等から成る産学研連携チームはDME公共交通車両の開発に成功し、上海市の147号バス路線で実証のための試験運行が行われた。それと同時に、中国初の自動車用DME補給スタンドが上海に完成した。DME燃料車の分野で収めた成果は、代替燃料が将来、ディーゼル車に新たな環境保護革命をもたらすであろうことを予見させるものだ。

4.結び

 燃料電池車等の技術は可能性を秘めた解決手段として、ホットな研究テーマとなりつつある。しかし、この技術を実際に応用するには、今後も多くの研究・開発を進める必要がある。それまでは、環境保護に役立つ高効率・省エネのディーゼルエンジン技術を発展・普及させることが、エネルギー不足と環境公害の問題を解決する重要な道となるであろう。過去十数年にわたる一連の技術改良を経て、現代のディーゼルエンジンは既に成熟したハイテク製品となり、排ガス排出量と騒音公害を大幅に減らした。また、出力が低く、黒煙を吐き出すというディーゼル車の以前のイメージも一新された。同じクラスのガソリンエンジンに比べ、現代のディーゼルエンジンは排気ガスの排出総量が45%削減され、燃料が15%~30%節約される。その一方で、より大きな動力を生み出すことができ、機動性にも優れている。

 中国のディーゼル車技術は比較的立ち遅れていたが、その後、急速な発展を遂げた。現在、約100の企業が国のⅡ排出レベルに合致する1,100タイプの自動車用ディーゼルエンジンを生産し、また、約50の企業がⅢ排出レベルに合致する320タイプの同エンジンを生産することができる。このため、汚染物質の排出を短期間で効果的に抑制し、法規の要求を満たそうとするなら、エンジン本体外部での浄化を一層重視すべきである。近年、中国政府は環境保護への科学技術投入を増やし、ディーゼル車の排気ガスに対する効果的な抑制技術を大いに発展させると同時に、関係する排出法規の制定と整備を積極的に進めてきた。2003年、国家環境保護総局(現在の国家環境保護部)等の省庁は「ディーゼル車排出汚染防止技術政策」を合同で認可・公布した。この技術政策はディーゼル車について、2004年前後に欧州の第2段階の排出規制に相当するレベル、また、2008年には欧州の第3段階の排出規制に相当するレベルにそれぞれ到達させ、2010年以降は国際的な排出規制のレベルに合わせることを目指すとしている。その他、この技術政策は農業用運搬車に対する排出規制を徐々に厳格にし、最終的にはディーゼル車の基準に合わせることを明確に要求している。科学技術と法規の二重の後押しを受け、中国のディーゼル車業界がより良くより速い発展を遂げるものと信じている。