第46号:免疫システムの究明およびワクチン開発
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腸内細菌による免疫系への影響

2010年 7月23日

本田賢也

本田賢也:
東京大学大学院医学系研究科・免疫学講座・准教授

1969年1月生まれ。
1994年神戸大学医学部卒業、2001年京都大学大学院医学系研究科博士課程(西川伸一研究室)修了、2001-2007年東京大学大学院医学系研究科免疫学講座・助手(谷口維紹研究室)、2007年-2009年大阪大学大学院医学系研究科免疫制御学・准教授(竹田潔研究室)、2009年-東京大学大学院医学系研究科免疫学講座・准教授(谷口維紹研究室)、2008年-JSTさきがけ研究者兼任。
受賞歴:平成18年 免疫学会奨励賞

はじめに

 消化管管腔には好気性・嫌気性の細菌種が平衡状態を保ってそれぞれのニッチにおいて増殖しており、総体として腸内フローラを形成している。その構成菌種は500-1000種あるいはそれ以上と見積もられている。腸内細菌の存在が我々に与える影響は、無菌(Germ-Free)動物や抗生物質を投与された動物をもちいて検討されている1)。更に最近ではメタゲノム解析やトランスクリプトーム解析、メタボローム解析等により、分子レベルのアプローチも可能となってきている2)。腸内細菌は、ヒトの未消化食事成分を代謝して、その助けなしには得ることができないアミノ酸、ビタミンや脂肪酸などを我々に供給している。さらに、有害代謝産物の解毒や、外部から侵入する病原体に対する生物学的防御バリアー、腸管上皮の分化誘導など、さまざまな機能を担っている。このように腸内細菌は我々にとって不可欠な存在であり、我々と腸内細菌は、共進化を遂げた1つの超有機体(superorganism)として考えることも出来る。最近では、腸内フローラ菌種の構成異常が、炎症性腸疾患、肥満、癌、特定の病原体に対する感受性など、様々なヒト疾患の発症や増悪と密接に結びついていることを示すデータが少しずつ集積されてきている。またワクチン開発と言う観点からも、腸内細菌の免疫系への影の理解が大いに役立つはずである。

腸内細菌による免疫システムへの影響

 腸内細菌は、宿主の免疫系に極めて深く影響を与えている。例えば、Germ-Freeマウスではパイエル板や腸間膜リンパ節が非常に小さく、脾臓においてもB細胞領域・T細胞領域の形成が不十分である3)。またGerm-Freeマウスにおいては、全身のCD4 T細胞応答がTヘルパー2(Th2)細胞応答に偏っており、即ちアレルギー体質になっている。さらに、腸内細菌からの持続的なToll-like receptor (TLR)刺激が、適切な粘膜バリアー機能維持に必要であり、この刺激を欠くため、Germ-Freeマウスの消化管上皮は外的ストレスに対し脆弱であることも報告されている4)。これら一連の異常はいずれも、Germ-Freeマウスに腸内細菌を投与する、あるいはspecific-pathogen-free(SPF)環境下で数週間飼育すると正常に回復する。

 腸内フローラと日常的に相互作用している消化管粘膜には、非常にユニークなリンパ球サブセットが多数存在している。免疫グロブリン-A(IgA)産生形質細胞、上皮間リンパ球(intraepithelial lymphocyte; IEL)、gdT細胞は、消化管粘膜特有の細胞として古くから研究されている。加えて最近、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)の細胞表面マーカーであるNKp46を発現しながらNK活性を持たず、インターロイキン(IL)-22を多く産生する細胞(「NK-22細胞」とも呼ばれている)も、消化管に特異的に存在することが明らかになっている5)。更に、粘膜関連リンパ組織の構築に重要な役割を果たす「リンパ組織誘導細胞(lymphoid tissue inducer細胞;LTi細胞)」と呼ばれる細胞群も、消化管特異的に存在することが知られている。Germ-Freeマウスを用いた解析から、これら消化管粘膜に特徴的な免疫細胞サブセットがいずれも、腸内細菌の存在によってその分化・集積が誘導されていることが明らかになっている。

 セグメント細菌(Segmented filamentous bacteria)によるTh17分化

 消化管粘膜には、CD4 T細胞も恒常的に存在している。そしてその多くは、分化型あるいはメモリー型CD4 T細胞である。その中には、IL-17(IL-17Aとも呼ばれる)を高産生することを特徴とする細胞が含まれる。このIL-17高産生CD4 T細胞は、「Th17細胞」と呼ばれている6)。Th17細胞は、IL-17に加えてIL-17F、IL-22、IL-21などのサイトカインも高産生する。Th17細胞が産生するこれらのサイトカインは、白血球の増殖や集積、あるいは上皮細胞における抗菌ペプチドの産生を促進し、細胞外寄生細菌や真菌感染防御に働くことが知られている。例えばKlebsiella pneumoniae、Citrobacter rodentium、Staphylococcus aureus、Candida albicans感染防御においてTh17細胞に由来するサイトカインが必須の役割を果たすことが示されている。特にIL-17AとIL-17Fの二重欠損マウスは、S. aureusの日和見感染を起こすことが報告されている7)。また一方Th17サイトカインは、その過剰が多発性硬化症や関節リウマチ、慢性炎症性腸疾患など自己免疫疾患の発症や増悪に関わっているという報告も数多くなされている。例えばIL-17F欠損マウスは、関節炎モデルに対して抵抗性を示す。従って、Th17細胞の数を人工的に増加させることは感染症に対する抵抗性を上げることに繋がる(即ちワクチンとなる)し、逆にその数を減少させることは、自己免疫疾患の治療に繋がると考えられるため、Th17細胞はとても注目されている細胞である。

 Th17細胞は小腸・大腸の粘膜固有層に、特異的・恒常的に存在する。むしろ消化管粘膜においては、IFN-gを主に産生するタイプのTh1細胞や、IL-4を産生するタイプのTh2細胞よりも、多く存在している。特に小腸に多く見られ、マウスにおいては(系統にもよるが)小腸CD4 T細胞のうち約30%近くがIL-17陽性である8, 9)。大腸においてはCD4 T細胞の約10%がTh17細胞である10)。

 筆者らのグループは、腸管Th17細胞が、Germ-Freeマウスにおいて激減していることを見出し報告した10)。逆に、Germ-FreeマウスにSPFマウスの糞便を飲ませると強力にTh17細胞が誘導される9, 10)。これらのことから、腸内細菌の存在がTh17細胞分化・集積に極めて重要な働きをしていると結論づけた。また、主にグラム陽性菌に作用するバンコマイシンの投与によっても、Th17細胞数が著減することから、グラム陽性菌が重要な働きをしていると考えられる。更に興味深いことに、同じ遺伝的バックグラウンドのマウスでも、飼育施設によってTh17細胞数は異なっている。例えば、タコニックファーム社のSPFマウスには、小腸に多数のTh17細胞が確認できるが、ジャクソンラボラトリー社のSPFマウスには少数しか存在しない9)。これは、タコニックマウスに存在しているがジャクソンマウスに存在していない腸内細菌種が、Th17細胞の分化を促進しているためと考えられる。ニューヨーク大学Dan Littmanらのグループは、タコニックマウスとジャクソンマウスの腸内細菌を比較検討し、タコニックマウスに多く存在している細菌として、セグメント細菌(segmented filamentous bacteria, SFB)を同定した11)。筆者らのグループはLittmanらと共同研究を行い、そのセグメント細菌を、Germ-freeマウスあるいはジャクソンマウスに投与し、タコニックマウスと同等数のTh17細胞が誘導されることを見出した11)。以上のことから、セグメント細菌はTh17細胞の強力な誘導細菌であり、ジャクソンマウスにおいてTh17細胞が少ないのはセグメント細菌が存在していないためと考えられた11)。同様の結果は抗菌ペプチドであるdefensin 5のトランスジェニックマウスにおいても報告されている。このトランスジェニックマウスの腸管では、セグメント細菌が減少しており(defensin 5がセグメント細菌の増殖を抑制するためと考えられる)、同時に小腸のTh17細胞も非常に少ないことが示されている12)。

セグメント細菌は、分節した形態を有する繊維状の腸内細菌であり、その名称は特徴的な形態に由来している。グラム陽性芽胞形成細菌であり、哺乳類から昆虫にいたる多くの生物の腸に存在する非病原性の常在細菌である。しかしながら、ヒトでの存在は今のところ明らかになっていない。セグメント細菌は腸上皮細胞に強く接着して生存している。この上皮への強い接着によって、宿主免疫細胞へ影響を与えると考えられる。セグメント細菌はTh17細胞だけではなくIgA産生形質細胞やIELの分化・集積を誘導することも知られている13)。従ってセグメント細菌はTh17細胞だけではなく、IgA産生形質細胞分化や上皮間リンパ球の誘導も促し、宿主の免疫系に大きく影響を与えると考えられる。

セグメント細菌によって誘導されたTh17細胞は、宿主における病原性細菌感染に対する免疫応答に役立つ。例えば、セグメント細菌を持ちTh17細胞数の多いマウスは病原性細菌Citrobacter rodentium感染に対し高い抵抗性を示す11)。セグメント細菌によるTh17細胞誘導は、おそらく抗菌ペプチドの産生促進など消化管粘膜のバリアー機能を高めることにつながり、病原性細菌に対する抵抗性を宿主に付与することになると考えられる。しかしながら一方で、例えば遺伝的に自己免疫の素因があると、このセグメント細菌によるTh17細胞の誘導は自己免疫の発症に繋がる可能性もある。実際、関節炎モデルマウスであるKBxNマウスは、Germ-free環境では関節炎が抑制され、セグメント細菌を投与するとTh17細胞誘導を介する強力な関節炎が誘導される14)。

Th17分化の分子メカニズム

 腸内細菌によるTh17分化の分子メカニズムは、まだ十分には明らかになっていない。ナイーブCD4 T細胞がTh17細胞へ分化するには、抗原提示細胞からのT細胞受容体刺激を受けると同時にIL-6とトランスフォーミング増殖因子b(TGF-b)という2つのサイトカインの刺激を受けることが必要である6)。腸内細菌がどのようにしてIL-6とTGF-bを誘導しているのか?細菌由来のフラジェリンあるいは非メチル化DNAが、それぞれTLR5とTLR9を活性化し、IL-6とTGF-bを誘導してTh17細胞分化を促進するという報告がある15)。また、病原体に感染しアポトーシスをおこした上皮細胞を、樹状細胞が貪食した際もTh17細胞分化が促進されるという報告がある。この場合、病原体由来分子によってTLRが刺激されてIL-6が産生され、アポトーシス細胞の刺激によってTGF-bが産生されることが示されている16)。これらの報告はいずれも、TLRを介するシグナルの重要性を示している。しかし一方で、TLRのアダプター分子であるMyD88とTrifの二重欠損マウスにおいても、Th17細胞は正常に認められる10)。TLRシグナルのTh17細胞への関与については、さらなる検討が必要である。

筆者らは細胞外アデノシン3リン酸(ATP)もTh17細胞分化を促進することを見出している10)。通常、細胞外ATPはATP分解酵素によってすぐに分解される。ところが、何らかの理由により細胞外ATP濃度が高まると、ATP受容体であるP2X受容体あるいはP2Y受容体に結合し、活性化シグナルを送る17)。細胞外ATPは、神経伝達物質としての役割が古くから知られているが、免疫細胞活性化因子としても働くことが知られている17, 18)。興味深いことに消化管管腔内には大量のATPを検出できる10)。これはおそらく宿主のATP分解酵素を上回るATPを、腸内細菌が産生しているためと考えられる。そして腸内細菌の培養上清を、樹状細胞とナイーブCD4 T細胞との共培養系に加えると、Th17細胞分化が観察される。このTh17細胞分化は、ATP分解酵素を加えることでキャンセルされる。さらに、無菌マウスの腸管内のATP濃度は非常に低く、同時にTh17細胞がほとんど存在していないが、ATPを投与すると、Th17細胞数の有意な増加が観察される。消化管樹状細胞にはATP受容体を高発現している集団が存在する10)。この樹状細胞集団がATPによって刺激されて、IL-6とTGF-bが産生され、Th17細胞分化が促進されると考えられる。

 セグメント細菌によるTh17細胞分化の分子メカニズムについては、今のところ明らかになっていない。セグメント細菌の消化管の定着は、ATP濃度に影響を与えないことから、セグメント細菌によるTh17細胞誘導はATPに依存しない経路によると考えられる11)。セグメント細菌定着によって、宿主の回腸末端部で強力に誘導される遺伝子は、炎症性蛋白であるserum amyloid A (SAA)である。リコンビナントSAAを腸管粘膜固有層樹状細胞とCD4陽性T細胞との共培養系に加えると、樹状細胞からのIL-6とIl-23産生と強いTh17細胞誘導が見られる11)。従ってセグメント細菌は宿主の腸管(おそらく上皮細胞)に働きかけ、SAAを産生させ、SAAが樹状細胞に働きかけてTh17細胞分化を促進していると考えられるが、今後さらなる検討が必要である。

終わりに

 マウスにおいては消化管常在菌の中でもセグメント細菌が極めて強力なTh17誘導細菌であることが分かってきたわけだが、ヒトにおいても、セグメント細菌が存在するのかどうか、今のところ明らかになっていない。セグメント細菌によるTh17誘導は、おそらく抗菌ペプチドの産生促進など消化管粘膜のバリアー機能を高めることにつながり、宿主に病原性細菌に対する抵抗性を付与することになると考えられる。しかし一方で、例えば遺伝的に自己免疫の素因があると、このセグメント細菌によるTh17誘導は、自己免疫の発症あるいは増悪につながる可能性もある。今後、ヒトの腸内細菌の構成と感染症や自己免疫疾患の関連についてさらに検討する必要がある。

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