中国の今後10年間における基礎教育の成長戦略
2011年 4月18日
王 暁燕(WANG Xiaoyan):
中国教育部国家教育発展研究センター 基礎教育研究室 副主任、副研究員
1969年12月生まれ。2006年、九州大学大学院人間環境学府教育学博士(取得)。主な研究分野は国際比較教育、教師教育及び基礎教育。主な研究成果:日本語専門書『市場化の中の教師達』(櫂歌書房、2008年)、その他編著書・共著書10冊を出版し、日本語論文及び中核的中国語定期刊行物の中国語論文計30篇近くを発表。中国『国家中長期教育改革及び発展計画綱要(2010~2020)』など、重要な教育政策の特別テーマ調査研究及び報告起草業務の遂行に参加し、さらに国の社会科学の重点研究テーマ、教育部及び全国の教育科学計画などの重点研究テーマ10件近くの遂行に参加。
2010年7月、中国政府は『国家中長期教育改革及び発展計画綱要(2010~2020)』(以下、『計画綱要』と略称)を正式に公布したが、これは今後10年間における中国の教育改革を指導する重要な綱領的文書である。この中に提示された新しい目標、新しい任務、新しい政策、新しいメカニズム、新しい措置などは、今後10年間における中国の教育改革の中核的内容と戦略基準を全面的に配置している。現在、全国各地がこの国の『計画綱要』を実施すべく全力で当たっているところである。本論文は基礎教育の中の義務教育と普通高校教育のみを着眼点として、今後10年間における中国の基礎教育の成長戦略について分析したものである。
一、今日の中国の基礎教育に存在する主要な問題
(一)義務教育
中国が9年制義務教育の普及という任務を基本的に達成した後も、直面している挑戦は依然として非常に厳しい。それは以下の点に表れている。
- 義務教育の成長のアンバランスという問題がある。農村の義務教育の基盤が依然として薄弱で、相当部分の農村小学校・中学校の校庭・校舎、図書・計器装備、体育・情操教育・衛生施設などが国の定める基準に達せず、すし詰め学級の現象が非常に広く見られ、情報化装備が甚だしく不足し、危険建屋の改造任務が非常に多くかつ重い。いくつかの学校は学校運営条件と教師人材の配備が要求に達していないため、教育の基本的品質を保障することが難しい。
地域間、都市農村間で、教育経費投入水準、教師人材配備、教育施設設備、教育品質などの面にかなり大きな格差が存在している。特に同一地域内の学校間で、学校運営条件及びレベルの伸びがアンバランスで、学校を選ぶという現象を食い止めることが難しい。 - 義務教育の補強・向上がきわめて困難である。全国的に見れば、入学率はかなり高い水準を維持しているが、9年制義務教育の補強率と達成率等についてはさらなる向上が必要である。今現在、全国でなお42の県は9年制義務教育が普及しておらず、すでに普及している多数の農村地区でも、普及具合がまだ確実ではなく、いくつかの地方では中途退学の問題が依然としてかなり深刻である。
- 都市部出稼ぎ労働者帯同子女が平等に義務教育を受けることを保障し、農村の留守児童教育をしっかり行うという事業が新たな挑戦に直面している。都市部出稼ぎ労働者帯同子女の教育及び農村留守児童数の持続的増加という問題の解決は、市町の収容問題に直面しているうえ、よそから来た生徒の融和問題にも直面している。公共財政を支えとする義務教育経費保障の新しいメカニズムはさらなる整備を必要とし、教育品質、教師人材水準及び管理水準はさらなる向上を必要としている。
(二)普通高校
過去数年来、中国の普通高校教育の発展は事実上、一種の下から押し、上から引っ張るという状態にあり、すなわち義務教育の普及と高等教育の募集枠拡大が、その間に挟まれた高校教育を受動的に発展させてきた。そのため、表面化している問題は非常に際立っており、それは次のような点に具体的に表れている。
- 成長の効果の長い保障メカニズムがまだ確立していない。現在に至るまで、普通高校の経費投入保障メカニズムがなお不明確で、政府の投入比率があまりにも低く、学校の運営経費が逼迫し、負債が広く一般化している。多くの地方の普通高校の成長は実のところ、「給料は財政に頼り、運営は徴収に頼り、建設は借金に頼る」といった状況である。政府、社会、家庭の分担メカニズムが整っておらず、長期にわたり、普通高校の学校運営経費における財政割当は半分にも足りていない[1]。
- 一部地区の高校は、すし詰め学校・すし詰め学級の問題がある。全国の400余りの公営普通高校は規模が5000人以上に達し、「1万人」学校もよくあり、珍しいことではない。高校の半分以上のクラスがすし詰め学級で、4分の1以上は超すし詰め学級であり、中には「100人学級」というものさえある[2]。
- 学校運営の「同質化」傾向が深刻である。普通高校の学校運営における「どの学校も似たり寄ったり」という問題がかなり深刻である。百年の歴史をもつ高校であれ、新中国成立後まもなく建設された高校であれ、また改革開放以降に新設された高校であれ、その学校運営モデル、人材養成モデルがすべて基本的に画一化に向かっている。多くの学校は運営に特色がなく、進学率だけを追い求める傾向が著しい。
- 成長の地域格差が明らかである。中西部農村の普通高校は全体として成長が薄弱で、普及率がかなり低く、学校の運営条件、教育品質に東部地区の普通高校と比べてかなり大きな格差がある。相当部分の学校は基本的運営基準に達していない。
二、今後10年間における中国の基礎教育発展の戦略目標
『計画綱要』前文は「あくまでも人材養成を根本とし、改革・イノベーションを原動力とし、公平の促進を重点とし、品質の向上を中核とし、全面的に全人教育を実施し、教育事業の新たな歴史的スタートラインからの科学的発展を推進し、教育大国から教育強国へ、人材資源大国から人材資源強国への邁進を加速し、中華民族の偉大な復興と人類文明の進歩のためにより大きな貢献を果たす」と指し示しており、これは今後10年間における中国の教育改革のテーマと目的を打ち出したものである。
このようなテーマと意図の下に、2020年までの全体的な教育改革発展の戦略目標は「2つの基本、1つの仲間入り」、すなわち、教育の現代化を基本的に実現し、学習型社会を基本的に作り上げ、人材資源強国の仲間に加わることと位置づけられている。より高い水準での教育普及を実現する。就学前教育を基本的に実現し、9年制義務教育の水準をしっかりと引き上げ、高校段階の教育を普及させ、高等教育の大衆化をさらに進め、粗入学率を40%まで持っていき、青壮年の文盲を解消する。新規増加労働力の平均教育年限を12.4年から13.5年に引き上げる。主な労働年齢人口の平均教育年限を9.5年から11.2年に引き上げ、うち高等教育を受けた者の割合を20%まで持っていき、高等教育の学歴をもつ人数比率を2009年の2倍にする。
ここで、基礎教育発展の具体的目標について重点的に分析してみる。
(一)義務教育の目標
全面的普及を実現した後は、バランスのとれた成長を今後の義務教育改革の最重要事項とし、2020年までに、県(地)域内義務教育のバランスのとれた成長を基本的に実現する。その時点で、業務教育の在校生を1.65億人、義務教育の補強率を95%まで持っていかなければならない。全国の学齢の視覚障害・聴覚障害・知能障害児の義務教育段階の入学率を健常児の水準まで持っていき、またはこれに近づける。都市部出稼ぎ労働者帯同子女に義務教育を平等に受ける機会を持たせる。
(二) 高校段階教育の目標
2020年までに高校段階の粗入学率を90%まで持っていき、高校段階の基本的普及という教育目標を実現する。経済・社会の発展ニーズに基づき、普通高校と中等職業学校の生徒募集比率を適正に定め、今後の一定時期は全体として募集規模をほぼ同じに維持する。その時点で、高校段階教育の在校生を4700万人とする。
今後10年間における中国の基礎教育改革の目標においては、公平の促進と品質の向上が2つの大きな戦略的重点となる。
(三)『計画綱要』の基本的目標基準となる教育の公平の促進
文書は「公平」をめぐって、人々が良好な教育を受ける機会を享有することを保障し、国民全体に恩恵の及ぶ公平な教育を作り上げなければならないことを提示している。第一に、教育の公益性と普遍的恩恵性を堅持し、都市・農村をカバーする基本的公共サービス体系を作り上げる。第二に、公共教育資源を合理的に配置し、農村地区、貧困地区、少数民族地区に力を入れる。第三に、義務教育のバランスのとれた成長を促し、全ての学齢児童が法律に基づき比較的品質の良い義務教育を受けることができるよう保障する。第四に、都市部出稼ぎ労働者帯同子女が平等に義務教育を受ける問題を適切に解決し、障害者の教育を受ける権利を保障する。第五に、生活困窮層を援助し、一人の生徒も家庭の経済的困窮によって中途退学することがないようにする。
(四) 教育目標を実現するための核心である教育品質の向上
『計画綱要』文書は「品質」をめぐって、次のように提示している。第一に、科学的な教育品質観を確立し、人の全面的発達を促進し、社会のニーズに応えることを教育品質に対する評価の根本基準とする。第二に、教育の内在的構成要素の発展を重視し、学校が特色を出し、レベルを上げ、名教師を出し、英才を育てるよう奨励する。第三に、基礎教育カリキュラム基準を改定し、小中高の教材建設を強化する。第四に、教育品質の国家基準を制定し、教育の監督指導を適切に強化し、教育品質保障体系を確立、整備する。第五に、品質の向上を目的とした管理制度と業務メカニズムを確立し、教育資源の配置と学校業務の重点を教育運営の強化、教育品質の向上に集中させる。第六に、教師集団を設立し、教師の全体的資質を高める。
三、今後10年間における中国の基礎教育の改革措置
(一)義務教育
今後10年間の義務教育の戦略的任務は、バランスのとれた成長を促進することである。根本的措置は教育資源を合理的に配置し、農村地区、遠い辺境の貧困地区、少数民族地区に力を入れるとともに、市町の教育資源、特に良質の教育資源を徐々に拡大し、教育格差の縮小を加速することである。市町化の進展が加速する背景の下で、都市・農村の計画を統一的に立て、以下のいくつかの措置を講じることに力を注ぐ。
- 義務教育学校の基準化建設を推進し、教師、設備、図書、校舎等資源をバランスよく配置し、都市・農村の教育の一体的発展の有効な手立てを模索する。都市・農村の統一的発展という新しい仕組みに合わせ、地域内小中高の建設と配置を科学的に計画する。都市・農村の一体化は小中高の新たな配置調整を促し、科学性と予見性をいっそう強めること、盲目性を避けることを要求するため、適切な集中的学校運営によって運営効果と教育品質を高めることを考慮するだけでなく、それ以上に、大衆の引受能力と生徒の入学の利便性を十分に考慮することが必要である。
- 体制メカニズムを革新し、県域内義務教育学校校長・教師の学校間交流制度を実施し、良質な高校募集定員を地域内中学校に合理的に配分する等の様々な方法を実施する。
- 都市部出稼ぎ労働者帯同子女が平等に義務教育を受けるメカニズムを完全なものとし、「あくまでも地方政府の管理を取り入れることを主とし、全日制公営小中高を主とする」という「2つを主とする」政策を強調する。都市部出稼ぎ労働者帯同子女が義務教育後に地元で進学試験を受験する場合の規則を検討のうえ、制定する。
- 全寮制学校の管理体制とメカニズムを完全なものとし、少数民族地区、経済未発展地区の義務教育のバランスのとれた成長モデルを模索する。留守児童の教育問題については、一方で農村全寮制学校の規模を拡大し、学校運営及び居住条件を改善し、他方では政府主導の、社会が広く参加する思いやりサービス体系及び動態監視メカニズムを確立し、完全なものとする。
- 義務教育のバランスのとれた発展の保障メカニズムを確立、整備し、監督指導・審査・評価制度を完全なものとする。
(二)普通高校
進学圧力の増大という背景の下で、多様な発展を堅持する。改革の具体的措置には次のものがある。
- 普通高校教育の機能と性質を科学的に位置づけ、普通高校教育の公益性を堅持する。品質と特色をいっそう重視し、学校が各々の学校運営の特色を作り上げるよう奨励、支援し、生徒により多くの選択肢と個性発達の機会を与える。
- 体制メカニズムの革新の度合いを強める。普通高校の多様な発展を堅持し、より柔軟で多様な学校運営体制と成長モデルを採用する。普通高校の投入体制と学校運営体制を改革する。普通高校の政府による投入を主とし、家庭がコストを適度に分担するという経費投入体制を完全なものとする。普通高校の学校運営コストを科学的に査定し、生徒一人当たりの支出基準を徐々に引き上げ、学校の徴収基準を合理的に定める。普通高校貧困生徒の資金援助体系を確立する。普通高校の教育法制を設立する[3]。
- 人材養成モデルを変える。「3つの堅持」、すなわち、徳育を優先し、能力を重点とし、全面的発達を促すという改革構想を提示し、「生徒全員に目を向け、全面的発達を促し、生徒の国家のために奉仕し、人民のために奉仕するという社会的責任感、果敢に模索するイノベーション精神、上手に問題を解決する実践能力の向上に力をいれる」こととしている。
教育の過程において、生徒の主体的精神の育成にいっそう力を入れる。生徒の主体性を十分に発揮させ、「学」と「思」の結合を重視し、「知」と「行」の統一を重視し、「啓発型・探究型・討論型・参加型教学を唱え、生徒が学び方を習得するのを助ける。生徒の好奇心を刺激し、生徒の興味関心を養い、独立して思考し、自由に模索し、果敢に革新する良好な環境を作り上げる」。
このほかさらに、生徒の全面的かつ個性的な発達を促し、多様な人材観念を確立し、個人の選択を尊重し、個性の発達を奨励し、一つの型にとらわれずに人材を養成することを強調している。「レベル別教育、走班制(訳注:生徒自身が学習するクラスや教師を自由に選択できる制度)、単位制などの教育管理制度改革を推進し」、「弾力的学制を実施し、文科と理科の融合を促し」、「特に優れた生徒の養成方式を改善し、飛び級、転校、転学科及び、より高い段階のカリキュラム選修等の面で支援と指導を行い」、「ずば抜けたイノベーション人材の養成改革モデルケース」を展開し、普通高校からすし詰め学級の現象を徐々に解消していく。 - カリキュラム改革を深化させ、普通高校の教育品質を引き上げる。各学科の品質基準と教育指針を検討のうえ、制定する。教育方式と学習方式の改革を推進し、教室教育を改革する。生徒の総合資質評価と学業レベル試験制度を全面的に実施する。条件の整った高校と大学、科学研究院・研究所が協力してイノベーション人材養成及び試験を展開するよう奨励、支援し、特に優れた生徒の成長と発達のための条件を作り出す。
四、今後10年間における中国の基礎教育発展の保障メカニズム
上記の基礎教育改革の発展という戦略目標を実現するために、『計画綱要』は以下のいくつかの方面の保障政策を提示している。
(一) 教師人材集団の設立
百年の大計は、教育を根本とし、教育の大計は、教師を根本とする。教師は教育の質を高める要である。『計画綱要』は、教師集団を設立し、教師の地位待遇を適切に引き上げ、優秀な人材を引き付けて長期間教職に就かせ、生涯教職に就かせること、教師としてのモラルの高い、業務に熟達した、合理的な構成の、活力に満ちた、資質の高い専門的集団を建設し、一群の徳才兼備の教育者を作り上げることを提示している。その具体的措置は次の通りである。
- 重点によって全局を率いることを堅持する。農村教師集団の建設を重点とし、小中高教師の全体的資質を高める。農村地区の教師集団は中国の小中高教師集団の主体であり(教育部副部長陳小婭の指摘によれば、義務教育の教師のうち、県・町及びそれ以下の農村の教師の割合は82.3%に達している[4])、その品質と水準は中国の基礎教育の全体的な発展水準に直接関わっている。現在、中国の農村学校教師の全体的状況には都市と比べ依然としてかなり大きな格差がある。農村教師集団は構造的矛盾が際立ち、中堅教師が甚だしく不足し、遠い辺境の貧困地区では資格に適った教員の補充が難しく、農村の学校では外国語、音楽、体育、美術、科学、情報技術等科目の教師がおしなべて不足している。
農村教師の問題を解決するために、『計画綱要』は、農村小中高の手薄な学科の教師集団を設立し、一群の遠い辺境の貧困地区や旧革命根拠地の緊急に必要な不足している教師を重点的に養成、補充することを提示している。教師補充メカニズムを革新する。教師の「特別持ち場計画」(国が多数の大学卒業生を招聘し、農村の学校に行かせ教職に就かせる)を積極的に実施する。2006年から2009年までに、すでに22の省が特別持ち場教員計12.3万人余りを招聘し、招聘勤務期間の満了した第一陣の特別持ち場教師のうち、88.7%の教師が期間を繰り延べて留任した[5]。
農村教師の待遇を引き上げ、教師の勤務・生活条件を改善する。農村教師の住宅を地元の経済適用住宅(訳注:低中所得世帯向けの低価格住宅))建設計画に組み入れ、農村教師のために県都に保障性住宅(訳注:政府が低中所得世帯に提供する、基準と価格、賃料の限定された住宅。経済適用住宅もその一つ)を建設し、農村の苦難に満ちた遠い辺境地区の学校に教師のための臨時宿舎等を建設する。
長期にわたり農村末端や苦難に満ちた遠い辺境地区で勤務する教師については、賃金、職務(職称)等の面で優遇政策を実施する。国は農村地区で長期間教職に就き、貢献が際立っている教師に対し褒章を与える。義務教育学校の教師・校長流動メカニズムを確立、整備し、市町の小中高教師の高級職務(職称)への採用にあたっては、原則として農村の学校か手薄な学校で1年以上教職に就いた経歴を必要とする。都市・農村の統一的な小中高編成基準を徐々に実施し、農村の遠い辺境地区について優遇政策等を実施する。 - 教師を訓練し、資質の高い専門的な教師集団を設立する。国は引き続き農村教師の訓練を重点とした「国家訓練計画」を強力に実施し、辺境地区、少数民族地区、貧困地区の教師訓練に対する支援の度合いを強め、国家レベル訓練の先導作用及び改革推進の主導作用を発揮する。
「専科卒以下の小学校教師に対して学歴向上教育を行い、全国の小学校教師の学歴を徐々に専科以上のレベルに持っていく。少数民族地区の二重言語教師の養成・訓練の度合いを強める」。 生涯学習の要求にしたがい、小中高教師に対し5年間1サイクルの全員訓練を実施する。
研修訓練、学術交流、プロジェクト資金援助等の方式を通じて、教育教学の中核となる人材、学科リーダー、校長を養成し、一群の教育における名教師、学科リーダー人材を育成する。 - 教師管理制度を革新する。教師就任の学歴基準を引き上げ、教師資格証書定期登録制度を確立する。統一的な小中高教師職務(職称)系列を確立し、小中高に正高級教師職務(職称)を設ける。校長就任資格基準を制定し、校長職階制を普及させる。省レベルの統一的計画を強化し、県を主とした小中高教師管理体制などを実施に移す。
(二)経費の投入
教育への投入は国の長期的発展を支える基礎的、戦略的投資であり、教育発展の物的基盤である。改革開放以来、全国の財政性教育経費は1978年の79億元から2009年の11975億元に増え、年平均増加率は17.6%に達した[6]。だが、1993年の『中国の教育改革・発展綱要』が提示した、2000年には財政性教育経費がGNPの4%を占めるようにするという目標は今現在もまだ達成されていない。今回の『計画綱要』はあらためて、「国の財政性教育経費支出のGNPに占める割合を、2012年に4%にまで持っていき」、「教育を財政支出の重点領域として優先的に保障する」ことが必要だ、と提示している。これに関して提示された、実施すべき新たな措置には次のいくつかの点がある。
- 財政予算内の教育経費を増やさなければならない。『計画綱要』は「財政支出構造を最適化し」、財政支出に占める財政教育支出の割合をさらに高くすることを要求している。また、「年初予算と予算執行中の超過収入分配はすべて法の定める増加を体現し」、それによって『教育法』の要求している「3つの増加」を真の意味で保証しなければならない、と提示している[7]。
- 財政性教育経費を増やさなければならない。『計画綱要』は「各項収入を統一的に割り振り」、「政府収入を統一的に割り振って教育の支援に用いる方法を模索する」ことを要求している。財政部門はまた、教育費付加及び地方教育付加制度を完全なものにする、関連の政府性基金収入を統一的に割り振り教育に用いる等の措置を通じ、財政性教育経費の財源ルートを積極的に開拓することを、表明している[8]。
- 教育経費総量を増やさなければならない。社会の投入は教育投入の重要な構成部分であることを強調し、社会全体の教育に対する積極性を十分に引き出し、社会資源を教育に注ぎ込む道を拡大し、一般社会が学校運営に寄付、出資を行うよう奨励し、働きかけ、多くのルートから教育投入を増やす。「対教育寄付激励メカニズムを完全なものとし、個人の教育への公益性寄付支出の所得税控除規定を実施に移す」こと等を要求している。
- 生徒一人当たりの基準を徐々に引き上げることを強調している。『計画綱要』は「各地が国の学校運営条件の基本基準及び教育教学の基本ニーズに基づき、地域内各級学校の生徒一人当たり経費の基本基準及び生徒一人当たりの財政割当基本基準を制定し、かつ徐々に引き上げる」ことを要求している。
- 教育投入体制・メカニズムの設立に重きを置く。「義務教育を全面的に財政の保障範囲に組み入れ、国務院及び地方各級人民政府が職責に基づいて共同負担し、省・自治区・直轄市人民政府が責任を持って統一的に計画し実施に移すという投入体制を実施する。中央財政及び地方財政が項目別に、割合に応じて分担する農村義務教育経費保障メカニズムをさらに完全なものとし、保障水準を引き上げ」、「非義務教育(例えば、普通高校教育)については、政府の投入を主とし、教育を受ける者が適正に分担し、その他の様々なルートから経費を調達するというメカニズムを実施する」ことを要求している。
(三)奨学体系
国の奨学体系を整備し、入学機会の公平を保障する。「普通高校における経済的困窮家庭生徒の国家資金援助制度を確立し」、「大学院生国家奨学金を設立し」、「徐々に農村の経済的困窮家庭及び市町生活保護家庭子女の就学前教育について資金援助を行う」。この3項目の新政策と既存の「義務教育の(学費)雑費免除」、「普通高校国家助学金、国家激励奨学金、国家奨学金制度」、「中等職業教育無料制度(の漸次実施)」等が一緒になって、各級各種教育の国家奨学体系による全面的カバーを実現しており、さらに「国の奨学助学金基準動態調整メカニズムを確立する」ことを提示している。
(四)情報化
20世紀80年代以来、情報技術等を代表とする世界の新しい科学技術革命の急速な発展は、人類の生産形態、生活形態の深い変革をもたらし、また教育の革命をもたらした。したがって、「教育の情報化によって教育の現代化を促す」ことは、今回の『計画綱要』の政策的選択となっている。教育の情報化促進の面で、『計画綱要』は以下のような措置を提示している。
- ハードウェア、すなわち教育の情報インフラ建設を加速する。教育の情報化を国の情報化発展の全体的戦略に組み入れ、教育情報ネットワークを将来を見越して配置する。先進的な、高効率の、実用的なデジタル教育インフラを構築する。端末設備の普及を加速し、デジタルキャンパスの建設を推進する。小中高の生徒100名当たりのコンピュータ保有台数を増やし、農村の小中高学級のためにマルチメディア遠隔教育設備を配備する。2020年までに、都市・農村の各級各種学校をカバーする教育情報化体系を基本的に作り上げ、教育内容、教育手段、教育方法の現代化を促し、都市と農村の情報格差を縮小する。
- ソフトウェア、すなわち良質なデジタル教育資源の開発と応用を加速する。各級各種教育を効果的に共有しカバーする、国のデジタル教学リソースライブラリと公共サービスプラットホームを建設する。全国民的な情報技術の普及と応用を加速する。
- 国の教育管理情報システムを構築する。教育情報化の基本基準を制定する。かなり完備した国家レベル、省レベルの教育基盤情報ライブラリ及び教育品質、生徒流動、リソース配置、卒業生就職状況等の監視分析システムを基本的に作り上げ、それによって政府の教育管理の情報化と現代化を推し進め、管理効率を高める。
(五)重要プロジェクト及び改革モデルケース
近い将来、10件の重要プロジェクトと10件の改革モデルケースの実施を開始する。基礎教育に関連する重要プロジェクトには、義務教育学校の基準化建設、義務教育教師集団の建設、経済的困窮家庭生徒の資金援助、教育の情報化建設がある。基礎教育に関連する改革モデルケースには、全人教育改革モデルケース、義務教育の均衡発展改革モデルケース、卓越したイノベーション人材養成の改革モデルケース、試験募集制度改革モデルケース、学校運営体制深化の改革モデルケース、地方教育投入保障メカニズム改革モデルケース、各級政府の教育統一計画に関する総合改革モデルケースの推進がある。重要プロジェクトの実施により、「学校に行くことができ、ちゃんと学ぶことができる」という問題の解決において、大きな一歩を踏み出すことが望まれる。重要な改革モデルケースの展開により、各方面の積極性、主体性、創造性を発揮し、教育改革の全体的推進のために経験を蓄積し、条件を作り出すことが望まれる。
五、結語
現在、中国はまさに、大発展、大変革、大調整の時期にあり、新しい状況、新しい問題が次から次へと現れている。『教育計画綱要』本文は今後10年間にわたる中国の教育改革発展の戦略目標と任務措置を系統的に提示しているが、具体的実施に付すにあたっては、さらに多くの業務を行うことが必要である。
中国の基礎教育の成長を推進するという任務は、実現・普及という任務と比べると、よりいっそう困難、複雑で、かかる時間もより長くなるということを、ぜひ知っておかなければならない。現在、地域間、都市・農村間、学校間、様々なグルーブ間のアンバランスという矛盾があり、基礎教育の成長戦略推進には、学校間の運営水準格差を縮小し、教育品質を全体的に向上させていく全プロセスが付随し、また、基礎教育の成長戦略推進には、都市・農村が一体となって成長し、都市・農村の格差を少しずつ縮小していくプロセスが付随している。さらに基礎教育の成長戦略推進には、地域経済・社会のアンバランスという問題を解決し、中西部の教育水準を高めていくプロセスが付随している。
現実的な問題は、すでに進行している教育改革をいかに深化させていくかであり、難問は新しい体制をいかに確立していくかである。例えば、改革と成長の全体的戦略から見れば、義務教育のバランスのとれた成長は、今後10年間の戦略的任務であり、教員流動メカニズムを推し進めることは、義務教育のバランスのとれた成長を実現する最も有効な手立てとなっている。だが、問題は、一方において、現在中国は都市・農村の二元経済構造が分離し、社会保障体系が整っておらず、都市・農村の人事給与制度がまだ統一されていないということである。他方において、教員流動メカニズムはそれ自体の建設の科学性、系統性がまだ完全でなく、教員流動の制約監督メカニズムに今なお欠けた部分が存在し、教員流動の奨励メカニズムが整っておらず、教員流動の保障メカニズムがまだ相当後れている。したがって、改革の目標を順調に達成するには、さらに引き続き突っ込んで検討、実施し、教育の内部・外部各システム間の高効率な協力を形成し、科学化、制度化された運営メカニズムを保障することが必要である。そうしてこそ初めて、教育改革の過程における様々な挑戦に立ち向かい、様々な困難を克服し、改革の満足のいく成果を確実に保証することができるのである。
[1]、[2] 陳小婭(中国教育部基礎教育主管副部長)。今後10年間の基礎教育の改革と発展に目を向ける[J]. 教育発展研究. 2010(8). p4.
[3] 基礎教育の発展戦略研究(J). 教育研究. 2010(7)p19.
[4]農村教師が採用され、しっかり教え、定着できるようにする[EB/OL].http://www.eeduworld.com/news/NewsInfo.aspx?NewsID=11013.2011-3-27.
[5]教育部:農村教師集団を安定させる3つの措置. 教育部2009年第16回記者会見[EB/OL].http://www.edu.cn/fa_bu_hui_xin_xi_906/20091126/t20091126_424913.shtml.2011-3-27.
[6]、[8]謝旭人. 財政投入を大いに増やし、教育の優先的発展を保障する[N]. 中国教育報、2010-7-17.
[7]“3つの増やす”とは、教育の財政割当の増加が財政の経常的収入の増加よりも明らかに高く、かつ在学生人数に基づいた平均教育費用を徐々に増やし、教師賃金及び生徒一人当たり公共経費が徐々に増えるよう保証することを指す。