第56号:中国の小中等教育事例
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青少年の科学技術教育を通じ、国の未来の科学技術建設の構築-中国広東実験中学の科学技術教育、素質教育の実践

2011年 5月17日

劉忠毅

劉忠毅(Liu Zhongyi):広東実験中学教学処副主任、
広東天文学会理事、特級教師、中学・高校地理高級教師

1972年3月生まれ。2002年、東北師範大学環境教育類修士課程を卒業。広東省十傑科学技術教師、広東省先進科学技術教育活動家、広州市十傑科学技術教師。中国優秀科学技術コンテスト、中国優秀天文オリンピックのインストラクターとして生徒を指導し、オリンピック・コンテストと科学技術イノベーション大会で多くの金メダルを獲得。生徒の科学研究を導く面で豊かな経験。高校の科学技術テキスト「私の星空」を出版。広東省の科学技術計画プロジェクト、自然科学基金プロジェクトの責任者を務める。国の主要定期刊行物で20編の論文を発表。

 「国の富強は資源の多さによって判断するのでなく、また、発展のレベルによって判断するのでもなく、それは結局の所、人の素質、特に青少年の素質である」。これは世界各国の発展の歩みを総括して会得したものである。こうした人材の科学技術能力を培う重要性を認識したからこそ、広東実験中学の鄭熾欽校長は「各生徒はそれぞれ科学技術の特長を備えなければならず、科学技術に興味を持つべきだ」との要求を出したのである。広東実験中学は時勢を見極め、時代と共に進み、「芸術、スポーツ及び科学技術教育を突破口として調和の取れた人材を育成する」との特色ある学校運営モデルを積極的に探求し、素質教育を効果的に実施するための広々とした活動の場を切り開き、生徒に「調和の取れた発展」を得させるとの目標を打ち出した。「調和の取れた発展」は各生徒の積極的な意義を持つ潜在能力と素質の十分な発揮及び成長を指しており、それは楽しく、自立した、理性的な、個人と社会にとって有益なライフスタイルへと導くことができる。それは又、生徒の天賦の差を前提とし、生徒の特長を伸ばすことを目的として、彼らが今後、積極的な人生を築いていくための強固な基礎を定めるものである。

 広東実験中学の科学技術教育は国際的に注目されている。わずか5年の間に、当校の科学技術教育は急速にレベルアップし、不断の進歩を遂げ、その多くの項目が国際的な青少年科学技術教育分野で重視されている。過去4年の間に、天文学科で計16個の国際メダル、科学技術発明創造コンテストで6個の国際メダル、世界青少年水科学大賞で2個の国際メダル、無線方位測定で8個の国際メダル、ロボットで2個の国際メダルを獲得した。中国国内で開催される様々な青少年科学技術コンテストの中で、広東実験中学が獲得する全国1等賞は年間150件を超え、名実相伴う科学技術教育の実力校となった。しかし、より重要なのは学校がカリキュラムを拠り所とし、生徒サークルを活動の場とし、課外活動を土壌として国際的な視野を持つ科学技術人材を育成する道筋を示し、「教科書カリキュラム・研究的学習・サークル活動・コンテスト・課題研究」五位一体の、継目なく続くカリキュラム体系を築いたことである。この体系は生徒の総合素質の全面的向上と個性的特長の発展を促しただけでなく、教師が新たな専門知識の分野を切り開くのにも役立った。広東実験中学は科学技術教育活動を通じ、毎年100人余りの優秀な人材を発掘・養成しており、いずれも国内外の重点大学に送り込まれて寵児となった。例えば、オーストラリア国立大学の馬皓楠、香港科技大学の許之驥、米アリゾナ州立大学の余沢竜等である。彼らの抜群の素質は大学でも生かされ、2、3年生の時に頭角を現し、大学教授と一緒に研究課題に取り組むようになり、大学の希望の星となった。広東実験中学が科学技術教育で得た際立つ成果は偶然ではなく、それは先進的な学校運営理念、優れた人材養成モデルが功を奏したものである。

1.先進的な教育理念による科学技術教育の発展

 「学校が優秀であるかどうかを評価するには、そのキャンパスがどれほど美しいか、ハードウェアがどれほど完備しているかを見るのでなく、また、学校がどれほどの成績を上げたかを見るのでもなく、優秀な人材をどれほど養成したかを見るのである」。これは科学技術教育に取り組む広東実験中学指導部の言葉である。我々はこの言葉をカリキュラム設置の拠り所とし、生徒の活動を手配する基礎とし、教師・生徒の発展を導く指針としている。

 広東実験中学は学内外の科学技術専門家の意見を広く求めることを踏まえ、科学技術教育の5カ年計画と10カ年計画を策定した。計画は詳細であり、運用性が高く、科学技術教育に対して明確な指導性を備えている。計画は各学科の科学技術教育の発展方向、各学科で到達すべきレベル及び人材育成の基準を明確にした。校長を中心とする科学技術教育指導グループが設置され、担当の副校長と教学処主任が科学技術教育活動に直接参画している。本校は授業時間又は業務量の少ない教師を専任の科学技術教師とすることを明確にし、同時に又、各学科で3~5人の若手教師を兼任の科学技術教師とすることを確認した。

 科学技術教育の発展に対し、広東実験中学は教師資源を優先的に配置し、科学技術教育の資金需要を優先的に満たすという2つの優先を実現させた。科学技術教育は専任スタッフが推進しなければならず、兼任教師に頼って科学技術教育の長足の進歩を実現しようとしても、それは不可能である。兼任スタッフが科学技術教育を担当すると、臨時雇いのようにいい加減な仕事しかせず、成果が上がっても上がらなくても余り関心を示さないものである。特に教育任務が大変な時は、なおのこと科学技術教育に関心を寄せる時間がなくなり、その教育は途切れ途切れになってしまう。しかし、専任スタッフは違う。科学技術教育は彼の専従任務であり、あらゆる方策を尽くして生徒を科学技術活動に参加させ、科学技術教育の目標を実現しようとするだろう。この点に気付いたからこそ、広東実験中学は教師資源が不足する状況の下で、科学技術教育専任の教師12名を置いたのである。これは大胆な試みであり、旧来の管理理念を大胆に見直したものだ。これが正しかったことは実践が証明しており、広東実験中学の科学技術分野における過去5年の目覚ましい発展はこうした大胆な試みのお陰である。

 同様に又、学校の資金も一般的に不足気味である。しかし、科学技術活動を進めようとするなら、実験器材の多くは新しいものを必要とし、常にレベルの高い実験室で実験を行い、野外で調査研究を行い、生徒をコンテストに参加させなければならず、これらはいずれも多額の資金を費やすものである。質が高く、レベルの高い科学技術教育を保証するため、本校はその経費を優先的に満たし、優先的に使っている。鄭熾欽校長の言葉を借りるなら、事務経費を削ってでも、科学技術教育向けの資金は確保しなければならない。こうした優先的発展戦略があれば、広東実験中学の科学技術教育は全方位の発展を遂げ、生徒は各分野の能力を存分に発揮することができる。

2.優秀な教師陣の育成による科学技術教育の発展の保障

 科学技術教師の素質が科学技術教育の質を決める。学校の科学技術教育の発展は科学技術教師の育成から始めることになる。まず、インセンティブの仕組みを通じ、教師の科学技術教育への意欲を引き出す。本校は教科シニアインストラクター、教科インストラクター、科学技術教育管理者の3級管理体制を確立した。科学技術教育管理者は学校の科学技術教育の手配と管理に責任を負い、クラス担任の待遇を受け、クラス担任特別手当及び業務補助手当が毎月支給される。インストラクターはカリキュラムの実施に責任を負い、比較的高い業務補助手当が支給される。シニアインストラクターは科組長の待遇を受け、比較的高い業務特別手当が毎月支給される。この三者は職階名の評定、先進の選考で優先的な扱いを受ける。生徒を指導し、科学技術教育で際立つ成果を上げたインストラクター、シニアインストラクターについては基準に従い、報奨金が毎年支給される。こうした報奨が一般の教師に与えられることは余りない。このため、多くの教師が科学技術教育に従事することを願い、また、教育でずば抜けた成果を上げ、教科シニアインストラクターに昇進することを希望しており、科学技術教育の教師陣は十分に確保された。

 次に、間断のない訓練を通じ、科学技術教師の研究レベルと指導レベルを引き上げる。科学技術教師は一般の授業を行う教師とは異なる。彼らは先進的な科学研究知識を絶えず学習し、科学研究の最高水準を理解する必要があり、こうしてこそ科学技術教育を行う時、大所高所に立ち、ハイレベルの生徒を養成することができるのである。本校は各学期に科学技術教師を対象した教育セミナーを2回開催し、教師の校外学習を1回実施している。教育セミナーは目的が明確で、テーマがはっきりとし、運用性が高い。科学技術教師セミナーのテーマは2009年が「生徒の科学技術研究への意欲をどう引き出すか」と「生徒が科学研究の課題を選択するのをどう指導するか」、2010年が「科学研究課題の斬新性をどう見分けるか」と「生徒の科学研究に関する注意事項」であった。科学技術教師の興味をかき立てるため、校外学習の場はその都度変えている。これは訓練・学習の機会となり、また、リラックスして交流する機会でもある。具体的に言うと、科学技術教育で際立つ成果を上げた他省・直轄市の学校、例えば湖南・長沙第一中学、湖南・雅礼中学、北京・人民大学付属中学、華東師範大学第二付属中学、杭州高級中学等の各有名校を訪れ、その管理経験と組織経験を学んだ。また、国内のハイレベルの大学生科学技術実践コンテスト、例えば中国大学生チャレンジカップ、中国大学生ロボットコンテスト等を見学し、その水準の高さを学んだ。その他、広州の中山大学華南理工大学、北京の清華大学、上海の華東理工大学といった全国重点大学で教授の講座を聴講し、最も先進的な理念で科学技術教師の能力を強化することに努めた。さらに南洋理工大学、シンガポール国立大学、米スタンフォード大学等の外国有名大学に教師を派遣し、国際的な思考によって知識を豊かにすることを学び、教師の思考力を鍛えた。これらの訓練と学習は教師の理論水準と指導能力を高め、教師の科学技術教育水準を効果的に引き上げた。現在、黄柏樹、胡正勇、唐静、張鉄牛等のように各学科で独り立ちできる優秀な科学技術教師が20人余りおり、また、程華勝、鍾燕、楊慧、黄少玲等のように生徒の活動を指導できる兼任の科学技術教師を30人余り養成した。こうした優秀な科学技術陣のお陰で、生徒に対する科学技術の指導は万全なものとなった。このため、学校の科学技術発展という長期的視点に立つなら、科学技術教師の育成に大きな力を注がなければならず、これは学校の科学技術教育を持続的に発展させるカギとなる。

3.特色ある教科書カリキュラムの作成による生徒の科学技術意識の刺激

 教科書カリキュラムは教育の媒体であり、立派な科学技術教育にはきちんとした教科書カリキュラムがなければならない。書店には各版の教科書が沢山並んでいるが、目標がはっきりとし、実践的な指導経験を備えたものは少ない。各校の生徒の素質は異なり、その興味や好みも異なり、教師のレベルには差があり、教育の特徴、能力にも違いがある。このため、自校の教師・生徒の特徴に適した教科書カリキュラムが欠かせない。2006~2007年、本校は教師の興味と能力に基づき、40余りのカリキュラムを自主的に設置した。生徒は自身の興味に基づいて選択することができ、例えば「生活の中の地理」、「趣味の化学」、「物理の解題能力向上」等である。選択科目を新設した当初、教師の経験が不足し、レベルも不十分であったため、これらのカリキュラムは科学技術度が低く、狙いもはっきりしていなかった。その後、我々は科学技術の専門家を招いて教師に助言を与え、生徒の興味とレベルを分析することを踏まえ、カリキュラムの質とレベルを引き上げた。科学技術教育の教科書カリキュラムは大きく改善されたのである。例えば当初の「生活の中で興味のある生物の実験」は「微生物燃料電池探究」、「新エネルギー植物の研究」、「淡水生物の環境に対する指標作用研究」の3つのカリキュラムに再編された。この3つのカリキュラムは質的に顕著な向上が得られ、生徒がこれらのカリキュラムを選択することは実質的に一連の研究課題を選択することに等しい。この3つのカリキュラムは教学目標が具体化され、研究内容が斬新であり、生徒の学習意欲を引き出しやすく、また、その能力を発揮させやすい。このため、生徒は学習すればマスターするのが容易であり、また、自主性を発揮し、自らの才知を示すことができる。例えば「微生物燃料電池探究」学習グループの生徒はわずか2カ月で微生物燃料電池による発電の原理をマスターした。だが、そのうちに困難にぶつかった。微生物燃料電池は発電量が低く、応用価値が低いのである。しかし、生徒は微生物発電と水中の有機質濃度との間に正比例の関係が存在することに気付き、発想を転換させ、発電量から水中の有機質含有量を探究するという研究課題を打ち出した。彼らは「新しいタイプのBODバイオセンサーの研究」課題に取り組み、非常に良い研究成果を収めた。新しいタイプのBODバイオセンサーは実験効果が良好で、応用価値が高く、国家知的財産権局から特許を付与された。翌年、別のグループは微生物燃料電池発電の原理を水稲田のメタン排出削減に応用することを思いつき、「水稲田のメタン排出削減における微生物燃料電池の新たな応用--新しいタイプの微生物燃料電池研究」に取り組んだ。これも非常に良好な研究効果が得られ、この燃料電池に国から特許が与えられた。2010年、新しい研究グループが今度は微生物燃料電池を湖沼の藍藻処理技術に応用した。1つの教科書カリキュラムが新たな研究課題を次々と生み出し、且つそのいずれにも生徒の知恵が反映されている。これは当初予想できなかったことである。このような模索を経て、我々は自校の特色を持つ科学技術教育の教科書カリキュラムを確立し、「課題式高校テキスト選択履修課程」を設置した。現在、学期毎に47のテキスト選択履修課程があり、毎年20数件の研究プロジェクトに取り組むことができ、10数件の技術革新プロジェクトで成功を収めている。国家知的財産権局から特許を付与されたプロジェクトは年間10件以上を数える。

 独自の特色を持つ教科書カリキュラムは生徒の研究に対する興味を引き出し、その意欲をかき立てている。同時に、教師も自らの特色に見合う教育媒体を見つけ出した。改善を重ねる過程で、教育能力と研究レベルが向上し、教師自身の研究成果も次々と生まれている。現在、当校では140余りのカリキュラムに教育計画がある。国の正規の出版社から既に出された教科書は「私の星空」(天文教育)、「一寸平方の文学世界」(切手学文学)、「心の体操」(心理教育)、「省の実情に入り込む」(学校事情教育)、「オリンピック教育をキャンパスへ」(スポーツ教育)の5冊。これらの教科書カリキュラムは狙いがはっきりとし、いずれも長年の実践指導から執筆されたものである。このため、生徒から大いに喜ばれ、改訂版が次々と出されている。さらに6つの教科書カリキュラムで内容の検討が終わり、近く出版される予定である。

4.精鋭サークルの発展体系の構築による人材の自己発展の道の実現

 教科書カリキュラムは授業時間に限りがあり、生徒が教師のリードに全面的に頼るだけなら、その素質を大きく伸ばすことは難しい。このため、我々は教科書カリキュラムの他に生徒のサークル、特に科学技術サークルの育成を積極的に進めた。生徒が初歩的な興味を持つようになったら、我々は優秀な生徒の組織能力を育て上げ、彼らが他の生徒の興味を引き出すよう励まし、優秀な生徒を中心とした科学技術サークルを作っている。サークルはいずれも生徒が組織・管理しており、教師はサークルの後方業務を担い、精鋭な生徒に協力し、活動の保証、安全面等で気を配るだけである。最初のうち、教師は優秀な生徒がどう宣伝して愛好者を引き付けるか、サークル仲間をどう引っ張って活動を繰り広げるか、研究活動をどう進め、総括を行うかを指導しなければならない。始めのうちは比較的骨が折れるものである。各分野の担当教師は助言と指導を行う必要があるが、前面に出てサークルの活動を直接リードしてはならない。優秀な生徒を育てることに成功した後、彼らをサークルの精鋭としてその骨格を築き、生徒による自主的な発展を実現するのである。各学年の精鋭はいずれもサークルの中で優秀な人材を発見することに心掛け、優秀な生徒も活動の中で現れ、次期サークルの精鋭及び組織者として成長するようになる。例えば、2005年に発足した「天文探究サークル」では、数人の教師が天文に対する生徒の興味を引き出すことに大きな精力を注ぎ、許之驥、劉洋、文哲思等の優秀な生徒が次々と現れ、広東実験中学天文社が設立された。彼らはサークルを拠り所とし、他の生徒を率いてしばしば野外観測に出掛け、天文知識を教えた。彼らの個人的能力は大きく伸び、数人のクラスメートが全国天文オリンピックで受賞した。同時に、彼らはその個人的魅力で多くの優秀な生徒を引き付けたのである。各期の天文精鋭のリードの下で、2006年には馬皓楠、賀加貝が、2007年には余沢竜、李一毅が、2008年には張源、黄子瑶が、2009年には詹筑暢、頼志軒が、2010年には簡明傑、劉林傑らが次々と現れた。これらのサークルの精鋭は高い学習能力と組織能力を発揮しただけでなく、ハイレベルの研究能力を備えている。これらの天文精鋭は中国さらには世界各国の重点大学に受験合格して入学し、又は特待生として入学した。余沢竜は高校2年の前期に米アリゾナ州立大学に採用され、4年間分の奨学金を全額支給された。馬皓楠はオーストラリア国立大学の物理学部教授と1時間余り面談しただけで同大に特待生として入学し、奨学金を全額支給された。また、張源は中国で最高レベルにある北京大学の自主的な学生募集によって入学し、天文学部で学んでいる。

5.生徒の能力を鍛えるプラットフォームとなるコンテスト

写真1

写真1(左) イノベーション大会の会場での取材

 生徒時代は人間の向上心、自尊心が最も強い時期である。生徒の進取の意識を存分に引き出し、その自尊心を発揚させることは優秀な人材を育成する必要条件である。生徒の学習と研究の成果はいずれも活動を通じてはっきりと示され、生徒の学習方法、学習能力及び学術的素養も活動を通じて鍛えなければならない。このため、我々はコンテストの訓練を手段とし、コンテストの展示をプラットフォーム(場)として、生徒の能力を鍛える原則を打ち出した。本校は生徒が各級・各種の科学技術コンテストに参加するよう積極的に手配し、生徒の能力育成に対するコンテストの重要度に応じてそのランクを区分した。それぞれの学科で重点的に発展させる2つ以上の科学技術種目を決め、さらにそれぞれの種目で担当の科学技術教師を割り振った。例えば、インテル国際科学技術フェア、欧州連合(EU)青少年科学者コンテスト、中国青少年科学技術イノベーション大会、中国発明展、国際発明展、宋慶齢児童発明展、中国ロボット大会、国際科学オリンピック(数学、物理、化学、生物、情報学、天文学)、クロスカントリーオリエンテーリング競技、無線方位測定コンテスト、模型コンテスト(自動車模型、航空模型、水上模型)、模擬国連等である。これらのコンテストは生徒が学習に興味を持つよう大いに促し、その学習能力を鍛えた。

写真2

写真2(右) 中米宇宙少年コンテスト活動

 青少年科学技術イノベーション大会は中国で最も幅広く展開されている青少年向けの科学技術教育活動である。区レベルのコンテストから市レベルのコンテストへ、さらに省レベルのコンテストへと進み、最後に全国青少年科学技術イノベーション大会へ進出する。生徒はその過程で少なくとも4回の鍛錬を受けることになる。好成績を得るため、生徒はその都度、自分が出場する種目で改善を重ね、教師も関連分野の専門家を呼び、生徒への助言を行う。生徒に対して論文執筆の指導を行い、データ解析処理、模型作り等を説明するとともに、会場で専門家にどう答弁するのかを生徒に教え込む。各段階の鍛錬で、生徒はそれぞれ異なる収穫を得、進歩が得られるのである。楊という名の生徒は内向的な性格で、話をするのが苦手であった。しかし、彼は動植物の研究に興味があり、微生物発電の研究課題を自ら選択した。微生物発電の研究を始めると、彼は能力を徐々に発揮し、専門家と主体的に意見を交わし、教師に問題を提起するようになり、内向的な性格が次第に直った。模擬答弁の段階では会場に初めて入った時、両足がぶるぶる震え、話をするのに息継ぎができない程であった。そこで我々は彼と世間話をし、何が好きなのか、普段は何をして遊んでいるのかと尋ねた。彼は卓球が好きで、そのレベルも比較的高いこと、また、子犬が好きで、いつも一緒に遊び、その動作を観察していることを語った。気持ちが落ち着くようになり、科学研究課題について話をした時、彼はすらすらと説明し、我々と討論を行った。その後、何度かの模擬答弁で、彼はもはや恐れることなく大声を出し、自分の考えを大胆に述べた。彼の両親はその答弁の様子を目にした時、涙を抑えることができず、「思いも寄らなかった」と感動の面持ちで語った。

 科学技術イノベーション大会であれ、ロボットコンテストであれ、又はその他の各種コンテストであれ、我々が生徒を率いて参加する目的はいずれも単なる賞獲りではなく、コンテストを通じて生徒を鍛え、その準備の過程で生徒を育成することにある。コンテストは優秀な人材を見つける過程だと固く信じている人もいるが、この考えは必ずしも正しいとは言えない。実際の所、大部分の生徒は学習能力、研究レベルにほとんど差がなく、細心の指導を受ければ、高い水準を示すことができるのである。このため、我々は生徒の育成過程に一層の関心を寄せ、その能力を伸ばすことに心を配った。全国の各学校と比較するなら、広東実験中学の生徒は最も多くの科学技術コンテストに参加している。しかし、これらのコンテストに参加する時、我々は形式に流されず、常に入念な準備を行っている。コンテストを指導する面で、我々は「準備のないコンテストには決して参加しない」との方針を打ち出した。

6.革新・向上のキャンパス文化によって導く生徒の発展

写真3

写真3(左) 米国で行われたDIクリエイティブコンテスト

 キャンパスは生徒の生活の場であり、また、生徒の成長に影響を与える場でもある。革新・向上のキャンパス文化は生徒の健全な心、常に高い目標を目指す競争意識及び間断なき創造の科学技術意識を育てるのに役立つ。広東実験中学のキャンパス文化はダイナミックな文化であり、発展する文化である。

 まず、環境の配置は科学技術要素を重視し、その内容は人間本位を体現したものになる。科学技術キャンパスはキャンパス文化を築く際の我々の指導方針である。生徒が洗面・うがいに使った水は学校が自ら処理し、処理した中水はキャンパスの草花樹木への水遣りに用いる。屋内プールの水は機器で浄化・消毒し、取り替えるのは週に1回であり、水資源を最大限節約し、循環利用に努めている。学校の屋上に花園と農場を作り、雨水収集システムを設け、雨水を利用して屋上の灌漑をしており、キャンパスの環境保護と美化に役立つ。同時に又、建物最上階の温度が下がり、夏季の冷房に必要なエネルギーが節約された。学校の食堂とキャンパスの樹木の落ち葉は「立体的生態ごみ処理システム」(生徒が自主的に開発)を採用し、ごみの排出ゼロが実現され、秋季の落ち葉焼却によってもたらされる危害を減らした。また、川底の汚泥を取り除き、処理した汚泥を用いて切り芝を生産し、キャンパスの緑化を進めた。河道の清掃と汚泥の処理を実現するとともに、切り芝の生産に必要な土地が節約され、そのコストは非常に低いものであった。これらの科学技術キャンパス文化はいずれも生徒が肌身で感じることができ、また、生徒自身の研究を通して実現できるものである。こうしたキャンパス文化は知らず知らずのうちに生徒を感化し、彼らは科学を学び、科学を愛する習慣を身に付けたのである。

 次に、キャンパス文化は活動を主とし、「ダイナミックなキャンパス文化」が十分に体現されている。優れたキャンパス文化は生徒がその中で楽しみ、且つ成長の魅力を感じ取れるものであるべきだ。我々は多くの活動を通じて生徒の潜在能力を引き出している。第1はサークル活動であり、生徒は入学すると自分の好きなサークルに加入する。サークルは毎年多くの活動を手配し、交流、研究討論、コンテスト、視察等を行う。当校のサークルは生徒が自主的に運営管理し、校内宣伝と学外交流を重視するといった特徴を持つ。例えば、天文社には300人近くが加入し、年4回の野外観測活動を不定期に繰り広げている。第2は学校の三大イベント--スポーツフェスティバル、芸術フェスティバル、科学技術フェスティバルであり、それらは「期間が長く、多くの活動があり、全員が参加する」という特徴を持つ。特に科学技術フェスティバルは1カ月前後続き、生徒は数十種目の中から選んで参加することができる。2010年の科学技術フェスティバルは科学技術の宣伝と普及(活動資料、スローガン、科学普及映画等)、科学技術フォーラム(国内外の専門家を招き、生徒と共同で開催)、科学技術実践活動(生徒のコンテスト、作品展示)の三大部門に分かれていた。この実践活動で生徒が参加することのできる29種目は下表の通り。

表1 広東実験中学の科学技術フェスティバルにおける科学技術実践活動
指導部門 活動名 指導部門 活動名
教学処 省イノベーション大会の見学 化学科 メンデレーエフとPKを行う勇気があるか?
言語文学科 SF小説の創作 「ステルスインク」競技会
数学科 ドミノ 生物科 生活の中で興味を持つ生物の実験展示活動
知識の木 生物クイズ
数学大会 政治科 弁論コンテスト
英語科 吹き替え大会 歴史科 科学技術模型、服飾製作・展示
演劇大会 地理科 ジグソーパズル大会
物理科 トランプカードの荷重 青少年環境調査・地図作成
水ロケット 第4回地球豆博士コンテスト
紙ロケット 汎用技術科 パソコン製作活動
体育科 舞踊大会 高校1年情報素養大会
100mクロスカントリーオリエンテーリング 生徒クリエイティブデザイン大会
芸術科 SF絵画大会 ロボットサッカー友好試合
イノベーション班 作品展示 クリエイティブロボット展示
図書館 読書宣伝日    

 バラエティーに富む活動は生徒の潜在能力に刺激を与え、彼らはその中に参加し、楽しんだ。

写真4

写真4(右) 科学技術フェスティバルでの生徒の展示

 第3はハイレベルのコンテストを開催し、生徒を鍛えることである。生徒をこれに参加させ、その中で学ばせる。生徒は学業に忙しいため、外出してコンテストを見学する時間が少ない。そこで、我々は招致戦略を採用した。キャンパス内で重要な青少年コンテストの開催を引き受け、生徒が校内で科学技術イノベーションの知識を学べるようにしたのである。例えば、第2回模擬国連大会、環境科学フォーラム兼2008年学校科学技術フェスティバル「イノベーションの嵐」環境保護案選考活動、広東地区の省エネ・排出削減と学校の持続可能な発展--社会行動プロジェクトの段階的報告活動、第6回広東省少年児童発明展、高尚な芸術をキャンパスへ--書画鑑賞・分析活動、国際天文年祝典、高尚な芸術をキャンパスへ--トン族歌舞、全国高校生バドミントン選手権、「オリンピックへの熱い思い・ほとばしる青春」活動、キャンパス五輪聖火リレー活動、第25回広東省青少年科学技術イノベーション大会、第26回広州市青少年科学技術イノベーション大会・・・・・・

 キャンパス内でコンテストの開催を引き受けると、教師に若干の負担が掛かるが、生徒はボランティア、参加者、組織者、見学者等として、参画意識とサービス能力が大いに鍛えられ、科学技術活動への情熱をかき立てられることになる。

 ダイナミックで革新的なキャンパス文化を通じ、生徒は日常的に新鮮な感覚を持ち、革新的な意識と科学的な思想を身に付け、意欲的に向上しようとする学習の原動力を保つことができる。これは生徒の健全な心身の発達にとって有益である。

7.複数のルートから科学技術教育経費の調達による青少年の科学技術教育の実施の保証

 科学技術教育経費は科学技術教育の発展を制約する大きな要因である。研究材料費、専門家指導料、校外での調査研究における食事・宿泊・交通費用、コンテスト参加費、受賞者への報奨費用等はいずれもかなりの出費となる。平均すると、本校が科学技術教育面で負担する年間費用は200万元を下らない。こうした多額の費用に対し、上級主管部門から支出される経費は1/3前後を占めるにすぎず、残りの費用は各種のルートを通じて調達する必要がある。

 第1のルートは生徒の研究項目のレベルを高め、これを科学研究課題に変えることである。課題の形式により科学技術庁、省級科学技術協会、教育庁科学技術処に申請を出し、最終的に科学研究プロジェクトとする。現在、我々が各級部門に支援を申請する科学研究プロジェクトは年間4件以上あり、毎年得られる割当資金は40万元を下らない。科学技術部門の力強い支援のお陰で、生徒の活動経費は十分に保証され、完成プロジェクトの質が大幅に向上した。

 第2のルートは民間に資金援助を求めることである。社会的責任感を持つ企業、識見のある個人に学校の科学技術教育活動に参画してもらう。国際的な青少年科学技術教育活動を分析すると、大企業、有識者を活動に引き込む傾向が見られる。世界で最も活発な青少年科学技術活動は米国のインテル国際科学技術フェアであり、インテルグループは活動のために多額の資金を出している。近年、インテルグループの支援活動は多くの国々に広がっており、中国の青少年科学技術イノベーション大会もインテルから力強い支援を得た。また、スウェーデンの有名な世界青少年水科学大賞もITTインベストメントから力強い支援を得ている。2009年、我々は国際天文年中国エリア活動を行う際、参加者が多く、影響力も大きいことから、格力電器集団に対し、活動に参加するよう働き掛けた。当時、世界的な経済危機に見舞われていたが、格力電器は社会的責任を勇敢に引き受け、活動に強い興味を示し、視察を行った後、10万元を出してこれを支援した。格力電器の支援によって、活動は大きな成功を収め、中国エリア祝典活動は世界で最も盛大な国際天文年記念活動の1つとなった。2010年、我々は香港某グループの李先生から30万元の経費支援を受け、同年の科学技術教育活動に保証が得られた。企業の社会的責任感は企業が社会から認められるかどうかの重要なファクターとなる。世界の大企業の多くは青少年科学技術活動を選別支援することを望んでおり、これによって企業の社会への恩返しが具体的な形となって現れ、同時に又、企業自身も潜在的な消費者層を育てることができる。これはウィンウィンの活動であり、高校が科学技術活動を繰り広げる時は企業に対し、支援を大胆に求めるべきである。

 第3のルートは生徒の科学研究プロジェクトを企業の科学研究と結び付けることである。中小企業の多くは科学研究能力を欠き、イノベーションの考えを欠いている。一方、高校生は貴重な資源であり、彼らは頭の回転が速く、時代の流れに敏感で、趣味も幅広い。両者を結び付ければ、創造性と実用性の高い研究チームを組むことが容易である。2009年、我々は天文クラスの生徒を引率し、野外で流星雨を観測した。天体観測設備は比較的簡単なもので、星を見分けるのに骨が折れ、星の名前を直ちに特定することは難しい。生徒はパソコン検索と星図を組み合わせて位置を定める携帯式観測設備を開発できないだろうかと提案した。専門家の論証を経て、我々はこれは非常に良い構想だと考えた。しかし、開発するには5万元が必要で、これは学校にとって重い負担となる。そこで我々は中国広東の天文科学研究企業--開信天文儀器有限公司のことを思いつき、同社のマネージャーと何度か話し合い、論証した末、最終的に共同開発契約を結んだ。当校の3人の生徒と開信公司の2人の技術者が研究チームを組み、ソフトウェアのプログラミングと設備の開発を5カ月で完成させた。開信公司が科学研究経費を提供し、一方、生徒が出したアイデアは特許を申請し、双方が共同で保有することになった。開信天文有限公司は開発後にその研究成果を製品に変えることができ、販売で得た利益は双方が分け合った。こうした協力のお陰で、プロジェクトの研究は順調に進んだ。企業は最大の利益を得るため、プロジェクトに対して最善を尽くし、計画性が高く、確実に実行に移すものである。一方、生徒は研究の過程で最良の鍛錬が得られ、研究方法を学び、問題の考え方を学ぶことができ、最も重要なのは困難を乗り越え、成功を得ることを学ぶことである。こうした企業との協力は顕著な優位性を備えており、それは学校が少ない投入で大きな収益を上げ、生徒が困難を余り伴わずに多くの点を学べることだ。こうした協力を実現しようとするなら、生徒に対する要求は比較的高いものとなり、生徒は自身の研究構想を持ち、プロジェクトの研究過程に本気で取り組まなければならない。しかし、これは又、生徒の科学技術能力を育てるための「3つの自ら」という要求を実現するものである。それは自ら課題を選び、自ら研究し、自ら論文を書くことであり、生徒に対する真の鍛錬が実現されることになる。こうしたモデルの利点に気付いたため、我々は学校・企業共同研究のモデルを拡大することに努力を払った。「都市の汚泥有機化による切り芝生産の研究」、「看護士の透視眼--看護士の効果的な穿刺装置の研究」はいずれも企業の協力が得られ、経費の問題を解決しただけでなく、プロジェクト研究の成功と生徒の鍛錬も確保された。

8.大胆なイノベーションによる特長教育と入試成績向上の両面の発展の構築

 中国において、大学入試の成績は学校評価の決定的な要素となることが多い。ほとんどの学校が大学入試で最良の成績を得ることを目標に掲げており、科学技術、スポーツ等の特色ある教育に幅広く取り組むことには及び腰である。だが、広東実験中学の実践が証明しているように、輝かしい大学入試成績の他、生徒は科学技術イノベーション、芸術、スポーツ等の各分野で自らの個性を伸ばす能力を完全に持ち、また、各種の活動を通じて自身の能力を発揮し、試験成績と科学技術、芸術、スポーツ等の特長の両方に秀でた優秀な人材となる能力を持っている。活動の中で多くの学習時間が奪われることになるが、その能力向上は時間の不足を補うことができ、生徒は比較的少ない時間で最大の収穫を得ることができる。広東実験中学の大学入試成績は特長を伸ばす面に時間を費やしたからといって落ちることがなく、それとは全く逆に、生徒の成績は年々良くなっている。その進学率、重点率はいずれも省内で上位にランクされ、入試成績と特長が共に伸びており、名実相伴う全国の有名校となった。

 広東実験中学の科学技術イノベーションチーム、芸術団体及びスポーツ団体が獲得した無数の賞杯、生徒に提供される充実した学習の場と施設及び、注目される舞台での展示の機会、ハイレベルの校外学習の機会は磁石のように多くの父兄と子供の心を引き付けている。事実が証明しているように、子供が大学入試で自慢できる点数を取ることしか考えない父兄が一部に見られるものの、子供の多方面にわたる能力と素質の伸びに一層の関心を寄せる進歩的な父兄がますます増えている。彼らの願いは現在と将来の人材に対する社会の要求と合致するものだ。

 広東実験中学は一際優れた成績で頭角を現し、2010年には「広東省科学技術教育模範学校」、「全国十傑科学技術イノベーション教育の特色ある学校」に選ばれた。当校は中国の高校科学技術教育分野で手本の役割を果たしている。近い将来、一層多くの高校が科学技術教育、スポーツ芸術教育、文化教育等の分野で自らの特色を生かし、優秀な人材の育成に寄与することになろうと信じている。