基礎教育―明日の経済の持続的成長の保障―中国重慶市南岸区珊瑚実験小学校の科学技術教育ルポ
2011年 5月18日
譚勁(Tan jin):中国重慶市南岸区珊瑚実験小学校校長、
党支部書記、高校高級教師
1962年1月生まれ。2002年、重慶市教育学院管理専攻科卒業。1978年~1986年、南岸区文峰小学校教員。1986年~2001年、南岸区珊瑚実験小学校教員。2001年より現在まで、南岸区珊瑚実験小学校支部書記、校長。
主宰した『'三つの創造'を目標とした教室教学改革の研究』と題するテーマ実験が、重慶市第3回基礎教育科学研究成果1等賞、重慶市政府の表彰する第1回教学成果1等賞を受賞。『三つの創造の教学』、『イノベーション的実践活動研究』などの専門著作を編集主幹として出版。中国教育学会基礎教育評価専業委員会理事、重慶市教育学会小学校算数教育専業委員会理事、重慶市「特級教師評議チーム」メンバー、重慶市「専門家リソースライブラリ」専門家、重慶市「教育学会教育評価専業委員会」専門家委員、重慶市小学校管理専業委員会副理事長。重慶市専業卓抜人材、重慶市「五一」労働イノベーション賞受賞者、重慶市「ベスト10」知識型職員、全国優秀知識型職員、重慶市第3回党代表大会党代表、南岸第9期政治協商会議委員、南岸区第16回人民代表大会代表、国務院特殊補助金受賞者。
20世紀80年代、動乱の10年から脱け出した中国は、現代的国家の建設という目標を提示したが、経済の持続的発展を支える保障としての人材を送り出す中国の教育体系には、知識の伝授と記憶だけを重視し、イノベーション能力の養成を軽視するという状況が存在していた。このような状態の下での基礎教育には、中国経済の持続的成長のための人材提供の基盤作りという役割を果たすことは、それ以上にむずかしかった。こうした状況を前にして、中国の改革開放の総設計士鄧小平は、教育は「現代化に目を向け、世界に目を向け、未来に目を向け」なければならないという要求を提示した。このマクロの背景の下で誕生した珊瑚実験小学校は、国家のためにイノベーション型人材を養成することを、我々の責任及び使命とし、科学技術教育を生徒のイノベーション能力養成の媒体として、カリキュラム開発、教室運営、教師のレベル向上等の各方面から実践的な研究を行い、いくつかの成果を上げてきた。以下に述べるのは、本校の学校運営の具体的な考え方と実践である。
一、科学技術の特色により、珊瑚教育の花を育てる
(一)学校の基本状況
中国重慶市南岸区珊瑚実験小学校は1986年に創立された。現在、72クラス、3800余名の生徒を擁し、学校の敷地は60ムー余りである。キャンパスは環境が美しく、教育施設が完備しており、生徒の思考を啓発し、行動を方向づける教育シーンがいたるところに溢れ、流れている。カリキュラムと密接に関連した科学技術館、インタラクションの可能な太陽光エネルギーの街灯、風力エネルギー転化広場、様々な行動の方向づけを行う絵や言葉、生徒の自主管理に任せられた開放型ピアノ......。本校には、教師189名、重慶市政府の命名した「重慶市高名教師」2名、中高高級教師4名、特級教師9名、市レベル中堅教師17名、地区レベル教科リーダー4名、中堅教師45名がおり、教師集団は業務に勤しみ、生徒を愛し、専門性のレベルが高い。
(二)学校運営の理念と目標
24年にわたる学校運営の中で、本校は「珊瑚は最も赤く、子供と最も親しい」という学校運営理念に従ってきたが、その意味は「珊瑚は気風が最も純粋で、子供を大切にすることを最も願っている。珊瑚の教師は最も優秀で、子供に寄り添うことに最も長けている。珊瑚学校は最も優れており、子供を最も発達させることができる」ということである。「珊瑚は最も赤い」というのは、本校の学校運営の基本的情調である。「気風が最も純粋で、教師が最も優秀で、学校が最も優れている」というのは「赤い」の内在的構成要素である。「子供と最も親しい」というのは、本校の学校運営の明るい彩りである。「子供を大切にすることを最も願い、子供に寄り添うことに最も長け、子供を最も発達させることができる」というのは、「親しさ」の内在的構成要素である。子供に寄り添う上で最も核心的なことは子供のニーズに寄り添うことであり、具体的には「その身体に寄り添い、その気持ちに寄り添い、その思考に寄り添う」ことを指し、最終目的は子供の独創的思考を養成し、真・善・美という品性を作り上げ、子供の幸せな成長を実現することである。
そのために、我々は、本校を生徒の発達ニーズに応えるカリキュラム体系を有し、教師の自己実現を助ける発展プラットフォームを有し、生徒の幸せな成長を促す教育モデルを有する、科学技術教育を特色とした中国の全人教育の名門校にするという学校運営目標を立てている。
(三)本校の科学技術教育の位置づけ
世界の教育と比較し、我が国の教育の実情と結びつけて、我々は珊瑚実験小学校の科学技術教育の究極目標を、生徒の科学的資質を養成し、生徒のイノベーション意識と実践能力を養成し発達させ、生徒の真・善・美という人格品性を作り上げ、未来の卓越した人材の養成のために基礎を築くことだと位置づけている。そこで、我々は教育実践の中で、科学技術教育と人文教育を密接に結びつけ、科学技術教育と人文教育の弁証法的統一を実現しており、普及・向上と特色の発展を結びつけ、共通性と個性の弁証法的統一を実現しており、イノベーション能力養成と社会実践を結びつけ、行動、学習、思考の弁証法的統一を実現しており、課内教育と課外教育を結びつけ、国家カリキュラムと学校ベースカリキュラムの弁証法的統一を実現している。我々は各種の教育資源をできるだけ動員し、各教の教育機能を発揮させ、理科の教師が従来通り科学技術教育のイノベーション事業を突っ込んで展開しているだけでなく、他の各教科の教師も当該教科のカリキュラムの特徴に基づいて、生徒のイノベーション能力を養うことができている。校内の教師が積極的に参加しているだけでなく、校外の教育資源もうまく整理統合されている。「一人ひとりが科学技術教育の従事者である」という意識が人心に深く浸透し、「大科学技術教育」という観念が深く人心に浸透している。
二、カリキュラムの導入により、科学技術イノベーションの基盤を固める
我々は、学校教育は子供に寄り添ったとき、初めて子供のイノベーション能力を養成し、発達させることができると考えている。子供に寄り添う上で最も根本的で、最も本質的で、最も核心的なことは、カリキュラムの親しみやすさであり、それは我々が科学技術教育の基盤を固めるということでもある。子供たちが「親しく」心を通わせて抱き合い、「近しく」手で触れて参加することのできる学校の科学技術教育カリキュラムを構築して初めて、科学技術教育は、春風を受けるような、心に沁み込むものとなることができ、学校は初めて、文化の青々と繁る、思想の放たれる場所となり、初めて本校の「生徒の科学的資質を養成し、生徒のイノベーション意識と手を動かして実践する能力を発達させ、生徒の真・善・美という品格を作り上げる」という科学技術教育の目標を実現することができるのである。近年、珊瑚実験小学校は一貫して、このような科学技術教育カリキュラムの構築に努めているところである。
(一)科学技術教育のカリキュラム体系が子供の成長に寄り添う
子供時代は人生の「枢軸時代」であり、一人ひとりの子供の「先秦」である。子供時代に学ぶカリキュラムは人生の発展の土台である。我々は子供の成長を円の中心として、「同心円」の科学技術教育カリキュラム体系を確立している。1個目の同心円は科学技術教科の基礎課程であり、国の定めるすべての科学技術教育類カリキュラム、たとえば、理科、総合実践活動、情報技術を含んでいる。教師が各科目をしっかり教え、生徒の全面的発達を促すことを要求している。2つ目の同心円は科学技術の興味拡張課程で、「2大セクター」、「2大カテゴリー」、「32個のモジュール」から成り、多くの科目の選択肢を提供し、生徒の個性の発達を促している。「2大セクター」とは必修拡大と選修拡大の2つの大きな科学技術教育課程のセクターを指す。「2大カテゴリー」には、学校生活,社会実践など、2種類の必修拡大課程と科学技術趣味活動、サークル活動の2種類の選修拡大課程が含まれている。「32個のモジュール」のうち、必修項目は15個を占め、趣味選修は9個、サークル活動は8個である
(興味拡張型課程の中で、生徒に十分な選択肢を提供している科学実践及び体験の項目は以下の通り。
学校生活シリーズ:科学技術祭、科学技術特別テーマチーム大会、科学技術週間、イノベーションコンテスト、こども実験家体験活動、科学技術館インタラクション、気象ステーション実地体験、キャンパス「百草苑」実地体験、院士・専門家の来訪指導、人工知能、こども発明アイデア設計など。
社会実践シリーズ:青少年科学技術イノベーションコンテスト、こども実験家全国体験活動、科学技術小論文、科学技術実践活動など。
趣味活動シリーズ:手作り製作、コンピュータ情報、コンピュータグラフィック、模型製作、こども実験家(生物、物理、化学、天文学)、ロボットなど。
サークル活動シリーズ:小水滴テレビ局、科学技術館こども解説員、飛行機模型グループ、自動車模型グループ、建築模型グループ、ロボットグループ、こども実験家チーム、オリエンテーリング・クロスカントリー・チームなど。)
3つ目の同心円は、特技奨励科学技術教育課程である。学力的に余裕のある生徒、特技や潜在的資質を持っている生徒に開放し、その目的は卓越したイノベーション人材の早期養成を行うことにある。そのうち、科学技術類課程には「小実験家」クラブ、人工知能技術作業室、気楽発明クラブの3つのモジュールがある。本校の科学技術類特技奨励課程は、科学精神と人文精神の有機的結合を強調し、実践能力とイノベーション意識の形成を強調し、社会の発展、生徒の生活との結合を強調し、生徒の経験・興味との結合を強調し、生徒の主体的参加と探究・発見を強調し、生徒の情報収集処理能力、知識獲得能力、人と協力する能力の形成と発達を強調している。
3つの「同心円」は子供の成長を円ごとに拡大していき、静かな湖面に石を投げ入れたときのように、広がっていく波紋は必ずや珊瑚の子供たちの「小さな徳を積むことが大きな愛になり、小さな知識を積むことが大きな知恵になり、小さな創造を積むことが大きな聡明さになる」という独特の人生を導き出していくに違いない。
(二)科学技術教育カリキュラムの内容が子供の生活に寄り添う
本校の「同心円」の科学技術教育カリキュラム体系において、「興味拡張課程」と「特技奨励課程」はともに学校ベースカリキュラムに属している。我々は次の「3点」の達成に努めている。1つは、科学技術教育カリキュラムが子供の生活を源としていること。たとえば、「環境保全ファッションデザイン」、「天然ガス自動車」、「校内気象ステーション」等カリキュラム資源の設計は、いずれも生徒の日常生活から来ている。2つ目は、科学技術教育カリキュラムが子供の生活に溶け込んでいること。「アイデア科学技術週間」、「科学者の物語を話す」、「環境保全標語コンクール」など、生き生きとした活発なカリキュラム形態は子供の生活の重要な構成部分となっている。3つ目は、科学技術教育カリキュラムが子供の生活を創造すること。「こども実験家クラブ」、「人工知能技術作業室」、「科学技術館こども解説員」等のサークル課程は、子供のために斬新な学校生活のスタイルを作り出してきた。たとえば、本校の中国青少年科学技術イノベーション賞の受賞者・曾徳宇は、科学の時間に「炎は外炎の温度が最も高い」という科学原理を学び、家の料理用の天然ガスコンロが外炎を全く使用していないのを観察して、発明科の教師の指導の下に「温度調節型環境保全ガスコンロ」を発明した。
実践の中で、我々は、カリキュラム建設は植樹のように「地中に深く植え込めば植え込むほど、より高く伸びる。泥土と仲間になればなるほど、雲が伴侶になる」ということを深く体得してきた。
(三)科学技術カリキュラムの実施が子供のニーズに寄り添う
学校カリキュラムは実施したときに初めて、子供のカリキュラムとなることができる。実施の過程で、我々はカリキュラムの度重なる開発を特に重視することにより、子供のニーズに寄り添っている。
その1つ目は、子供の身体に寄り添うことである。カリキュラムに最大限、子供の身体的参加を引き出させ、彼らの目、口、手、そして時間と空間を解放させる。たとえば、理科、総合実践活動等課程の中で、生徒の実践と体験を強化している。
2つ目は、子供の気持ちに寄り添うことである。カリキュラムは気持ちに訴えて初めて、心に届き、精神を発育させる。たとえば、国語・算数の成績はあまり芳しくないが手を動かすことの得意な一部の子供たちは、船舶模型、自動車模型の競技でいちど成功体験を得ると、勉強に対しても自信が持てるようになる。
3つ目は、子供の思考に寄り添うことである。カリキュラムの中の「知識陳述」を「問題設定」に変え、「抽象的プレゼンテーション」を「表象的プレゼンテーション」に変え、「原理展開」を「仮説検証」に変え、生徒の創造的思考を刺激する。たとえば、科学技術の授業の中で、橋梁荷重、知能ロボット大戦、ドミノ倒しなどの問題環境を設定し、生徒の仮説、論証、求解を引き出す。たとえば、我々はそれぞれの年齢の生徒にねらいを定めて活動内容を選び、各クラスに科学技術イノベーション活動を設けるようにし、生徒の参加範囲を100%に持って行った。低学年の生徒には、いくつかの簡単な手を使う操作項目、紙コップタワー、飛行機折り紙、凧作りなどの活動を用意し、生徒の手と脳の協調能力を鍛え、いくつかの簡単でわかりやすい科学技術知識を理解させ、科学啓蒙教育を行ってきた。中高学年の生徒には、比較的複雑なチャレンジ性のある内容、たとえば、ちょっとした製作、模型組立、発明アイデア設計、科学技術調査、小論文作成などの活動をアレンジし、生徒の実践能力とイノベーション意識を養成している。様々な活動は、生徒が自分の思考習慣、興味特技にしたがい、それぞれに見合った科学技術実践活動を選択することを可能にしており、それぞれの生徒のニーズを満たし、生徒の参加範囲と積極性を大きく広げている。
我々は科学技術教育カリキュラムの実施を、果てしない世界での子供たちの『海辺の集まり』に変えること、「砂で家をこしらえ、貝殻で遊び、枯葉で小舟を編み、ほほえみながら広い海に浮かべるような」(訳注:タゴール『ギタンジャリ』からの引用)子供に寄り添った、生活の楽しみに充ち溢れたものにすることに力を入れている。
三、親密な教室―愛とイノベーションの交わる磁場
(一)親密な教室の内在的構成要素
親密な教室は教育の要素が親和した、愛の心に満ちた教室である。
「親和」とは親密で調和がとれているという意味である。教室教育には、教師、生徒、カリキュラム等の要素が含まれ、それらの間の関係は一種の親和関係でなければならない。「愛」はこのような関係の顕著な特徴である。教師と生徒の間には愛の心が満ち溢れ、教師・生徒はカリキュラムに対して愛の心に満ちている。教室は愛に源を発し、愛を拠り所にして成り立ち、愛の方向に向かって前進し、最終的に愛と一つに溶け合う。
親密な教室は学習プロセスが現実化する、危険との遭遇に満ちた教室である。
親密な教室の「親密」は関係的意味での「親密」を指すだけでなく、プロセス的意味での「親密」、すなわち学習プロセスの現実化をも含んでいる。『ギタンジャリ』は「人間の目的は奪取にあるのではなく、現実化にあり、自己の意識の拡大にあり、周囲の環境との融合にある」と述べている。生徒は親密な教室の主人公であり、必ず学習内容に親しみ、学習プロセスを身をもって体験し、学習の結論を現実化しなければならない。
親密な教室は生命エネルギー自らが存在する、創造に満ちた教室である。
創造の一つの最大の特徴は、意識的に世界に対して探究的労働という行為を行うことである。生命エネルギーが活性化した最高の境地はしばしば「創造」として表現される。親密な教室、教師・生徒の生命エネルギー自らが存在する教室は、必然的に創造する教室でもあり、教師・生徒はともに比較的強い創造力を表出する。したがって、親密な教室は生徒の創造的学習、教師の創造的教学を余すところなく推し進める。教師・生徒の創造性が教室の中で最大限表現され得たとき、親密な教室は最も理想的な境地に達する。
事例1:
小学校の作文教育は、教師・生徒にとり一様に頭の痛い問題である。問題の根本的原因は多方面にわたっており、生徒の適切な単語や美しい詩句の蓄積量が少なすぎたり、作文の題が生徒の書く意欲をかき立てられなかったり、あるいは生徒が書きようがなく、どこから書き始めたらいいのかわからなかったり、ということだったりする......。親密な教室の模索においては、教師は良好な調和のとれた師弟関係を主体的に作り出し、生徒の「書くこと」に対する感興ポイントを刺激することがうまく、教師と生徒の生命エネルギーのぶつかり合いを通じ、共に学習内容に親しみ、学習プロセスを自ら体験する中で、事物の中の自分が用いる源泉と素材を捉え、創造的な学習プロセスを実現する。
「君たち。『〇、△、□』の図形で思いつく物の中から、1個ずつ選び、一緒に組み合わせて、豊かなイメージを広げ、生き生きした物語を作ることができたら、『創作類★★★』がもらえるよ!」珊瑚小学校の一つひとつの授業はすべて「科学」、「イノベーション」を含んでいる。楊暁丹先生は興味拡張型作文の「図画の中の物語」の授業をするにあたり、子供たちに図形を使って想像力を発揮させ、図の意味に基づいて作文を書かせている。
ある男子生徒は『アイスクリームとリンゴ』という次のような物語を書いた。――ある夜、アイスクリームが冷蔵庫を飛び出し、リンゴと連れ立って出かけたが、けっきょくは太陽が昇り始める前に、しだいに溶けてしまった。これは簡単な物語のように見えるが、深い道理を含んでいる。生徒たちは図形に基づいて、想像を展開し、一つひとつの生き生きした物語を作り出している。今日の創作が明日の偉大な発明にならないとは誰にも言えないのである。
(二)親密な教室の中核的理念
関係が親和し、春の潮のように愛し、プロセスが現実化し、危険に遭遇するように学び、生命自らが存在し、朝日のように創造する。
この中核的理念は親密な教室の「親和し、現実化し、自ら存在する」という基本思想を含んでいる。「春の潮のように愛する」というのは教室の愛の心が濃やかであることを意味し、「危険に遭遇するように学ぶ」というのは教室の中に問題、衝突、模索、求解があり、危険に遭遇するのと同様であることを意味し、「朝日のように創る」というのは「教」と「学」が創造の状態にあり、東の空に朝日が昇るように、闇夜の幾重にも重なる妨害を突き破って太陽が姿を現し、徐々に光が射し、美しい一片の空が見えることを意味している。
(三)親密な教室の理想が追求するもの
教室を、愛、知力、聡明性の統一された教室に作り上げる。
「愛」は一種の深い感情であり、生徒の真・善・美を形成する基盤である。「知力」は一種の敏捷な思考に近く、イノベーションの土壌である。「聡明性」は自由と想像によって「知力」に対する超越を実現し、教師・生徒間のイノベーションの結果である。「愛」は教師、生徒、カリキュラムの「接着剤」であり、意味は「親和」にあり、教育要素間の親密な調和を促す。「知力」は知識、能力、創造の「必需品」であり、意味は「現実化」にあり、教師・生徒が実践を通じて知識の真偽を証明することを促す。「聡明性」は生命の自由、潜在能力、徳性の「生産現場」であり、意味は「自ら存在すること」にあり、教師・生徒の生命エネルギーが十分発揮されることを促す。教室は創造の殿堂となる。言い換えるならば、親密な教室を教育要素の親和した、学習プロセスの実現化した、生命エネルギー自らが存在する教室として作り上げなければならないということである。
(四)親密な教室の教育が追求するもの
教室教育は生徒の思考流動、知識構築、能力形成の主要な空間である。
この空間では、生徒を最大限に動員して教室の教育活動に参加させることにより、初めて彼らの学習に収穫をもたらすことができる。
我々はまず初めに、全教師のために教室教育の主要理念を明確にしたが、それは生徒のニーズに寄り添うことを中核とした「親密な教室」という教育観である。「親密な教室」は生徒全員に目を向けた教室である。生徒の知識レベル、家庭背景、本人の特徴は、教室に在席する数十人の生徒の知的スタートラインが同じではないことを決定づけている。なればこそ、「親密」な教室は、教師が生徒の学習状況について教育前に理解・把握しておき、それによって教室教育の中でレベル別教育を実施し、各レベルの子供の学習効果に関心を払うことを必要とする。たとえば、座席の配置、問題の作成、教育活動の立案はすべて、さまざまなレベルの生徒に対する関心を体現したものでなければならない。
次に、「親密な教室」は生徒の生活の実情に近づいた教室である。それは教師が教材を掘り下げて研究し、カリキュラムを開発し、カリキュラム資源の再開発、さらにはN次開発を行うことを必要とするだけでなく、それ以上に、教師が生徒の生活の実情について研究し、生徒の生活と教材との関連点、ギャップを見つけ、生徒の生活の源泉を活性化し、学習を面白いものにすることを必要とする。
親密な教室はそれ以上に、有効な教室である。効果のある「親密な教室」は常態の教室教育とは区別され、我々には「3つの教えない」教育原則がある。すなわち、生徒がすでに飲み込んでいる知識は教えない、生徒が自習によってマスターできる知識は教えない、生徒が討論によって習得できる知識は教えない、ということである。教室での余った時間に、教師がやるべきことは、生徒と教材の間にブランク箇所と成長ポイントを見つけ、様々なレベルの子供の思考プロセスを十分に明らかにし、彼らに本当の意味での知識の探究プロセスを体験させることである。したがって、親密な教室では、生徒は「探検家」、「思想家」であり、また「芸術家」、「夢想家」でもある。
「親密な教室」の3つの教育観は教室教育の中で実施に移され、生徒の身体に寄り添う、生徒の気持ちに寄り添う、生徒の思考に寄り添うという3つの面に具体的に反映されている。
1. 生徒の身体に寄り添う
生徒の身体に寄り添うというのは、教室教育の中で生徒を最大限、教育活動に参加させ、彼らの口、目、両手等感覚器官を解放し、彼らの活動に十分な時間と空間を与えることである。
彼らの口を解放するというのは、子供の話す権利を十分に尊重し、彼らに自分の観点や見解を思う存分語らせるということである。たとえ間違った観点であっても、それは一つの鏡であり、子供の内心の純真な考え方を映し出すことができ、教師が子供の頭の中の概念基盤を発見し、教育活動を適時に組み立てる上で助けとなる。
彼らの目を解放するというのは、子供に教科書や黒板を読ませるだけでなく、それ以上に、社会に目を向け、生活に目を向け、世界に目を向け、人生の万象を見回す中で、小さい時から観察、思考、イノベーションの方法を習得させるよう指導しなければならないということである。
生徒の両手を解放するというのは、生徒にその小さな手で世界に触れさせ、身をもって感知する模索と研究の中で、知識体系を構築させ、実践の才能を高めさせ、イノベーション意識を養成しなければならないということである。
教室教育の時間と空間を解放し、生徒の身体・感覚器官の学習への参加範囲を最大限拡大し、スタティックな固定した「小さな学校」を、ダイナミックな延長継続する「大きな教室」に変えていくのである。
事例2:
3年生の理科の『紙の観察』という授業をした時、教師は1枚の白い紙を示した。
「これを観察させてあげたら、特徴がいくつ見つかると思う?」
「1個、2個、3個。先生がそう言ったとしても、君たちは目で見て、耳で聞いて、手でさわって、鼻で匂いをかぐことで、さらにいくつの特徴が見つけられるかな?」
「色は白です」
「割とすべすべしています」
「うっすら匂いがします」
「振るとバサバサ音がします」
「光に当てて見ると、ちょっと透き通っています」
「曲げると、元に戻るのは、弾力があるということです」
「折り畳むとシワができます」
......
これこそが、子供たちが教室で身体の多くの感覚器官を働かせて学習に参加したことによる発見と体験である。このことからわかるように、生徒の学習のスタートラインを理解し、生徒に十分な学習時間・空間を与えることで、ある簡単な事物に対する子供たちの認識は、立体的な、充足した、生き生きした、豊かなものとなり、このような教室では、子供たちの思考力も無尽蔵となるのである。
2. 生徒の気持ちに寄り添う
生徒の気持ちに寄り添うには、教師は生徒を尊重し、信頼し、民主的な師弟関係を作らなければならない。教師は豊かな教育環境を作り出し、生徒の学習への興味を刺激しなければならない。教師は生徒の学習のスタートラインを理解し、生徒に成功の喜びを体験させなければならない。教師は生徒の精神的境地を高める空間を作り出し、生徒が学習体験の中で気持ちを集積するようにし、学習の「真」を感受させ、生活の「善」を体得させ、事物の「美」を発見させなければならない。
3. 生徒の思考に寄り添う
有名な教育者スタンバーグに「教育の最も主要な目標は生徒の思考を導くことである」という名言がある。児童の思考には、具体的形象と抽象的概括が入り交って発達するという特徴があり、年齢が高くなるにつれ、彼らの思考は徐々に形象的思考から抽象的思考へと移行していく。子供の思考に寄り添うということは、生徒の思考発達の特徴に順応しなければならないということであり、まず第一に、教師は十分に教材を研究し、生徒を研究し、教育の内容と生徒の思考の間のギャップを見つけなければならない。第二に、生徒の思考発達の進み具合と特徴を発見するために、具体的な教育行為の中で、生徒が自分の思考プロセスと思考の結果をさらけ出すことを奨励する。第三に、「学」(学習)に基づいて「教」(教育)を位置づけ、生徒がインタラクティブな討論を展開するよう指導する。最終的に、生徒の思考が昇華され、問題が解決されるようにする。
事例3:
都市の子供というものは、種子の発芽率についてよく理解しているわけではなく、種子でありさえすれば発芽するに違いないと思っている。彼らに必要なのは、発芽率とは何かを知ることだけでなく、発芽率とはいったいどういうものなのかを知ることである。このような現象に的をしぼって、本校のある教師は「百分率」の授業をする際、次のようにして教育を行っている――1週間前に、クラスの全生徒に一つの任務を与え、一人ひとりに透明のコップまたは鉢を使ってエンドウやダイズ、トウモロコシ、リョクトウを栽培させ、発芽前の種子の数と発芽した種子の数を記録させておく(生徒は非常に興味を持ち、高い積極性を示す)。
一週間、丹念に種子の世話をしたあとで、教師が「百分率」の授業をすると、生徒たちは学習内容に対して気持ちが集中し、身をもって実践が行えるようになる。
教師:君たちの種はみんな芽を出したかな?
生徒:私のは全部芽が出ました。
生徒:僕のは全部は出ていません。
教師:本当に、やってみてびっくりなんだけど、すべての種が発芽できるわけではないんだね。
教師:では今から、グループごとに下の表に記入してください。発芽した粒の総粒数に占めるパーセンテージを計算してから、自分たちの植えた植物の種を見ると、どんなことに気づくかな?(子供同士、席を立って交流してよい)
植えた者 | 植えた種類 | 植えた総粒数 | 発芽した粒数 | 発芽粒数の総粒数に占めるパーセンテージ | 気づいたこと |
徐 洋 | エンドウ | 20 | 19 | 95% | |
陳珂珂 | ダイズ | 15 | 13 | 86.7% | |
鄭 勇 | トウモロコシ | 20 | 17 | 85% | |
鄭 旭 | ダイズ | 30 | 26 | 86.7% | |
袁 怡 | リョクトウ | 10 | 10 | 100% |
この授業において、教師は生徒に植物の種子を植える実験をさせるという方法により、学習内容に対する彼らの興味を刺激している。カリキュラムの内容と生徒たちのニーズを結びつけ、生徒に生活の中でのパーセンテージの広範囲な応用についてわからせ、算数が我々のごく身近にあることを体験させ、算数学習の面白さと効率を高め、さらに、パーセンテージの意味を理解させることを通じて、生徒の観察・分析・比較・概括能力や、情報収集、情報処理の能力を高め、生徒の応用意識を強化し、生徒の数育的思考を発達させている。
親密な教室は子弟関係の親和にかかっているだけでなく、それ以上に、学習に対する生徒の現実化、教師・生徒のエネルギーのほとばしりによって、教師・生徒のイノベーションの火花をかき立てなければならないのである。
四、専門性の発展により、高レベルの教師集団を作り上げる
(一)教師の訓練を持続的に展開し、教師の科学技術的資質の向上に力を入れ、中堅教師の力を作り上げる
- 「招き入れ、派遣する」という訓練方式。数年来、このような訓練方式により、我々は全教師の知的構造を絶えず更新し、教師の科学的資質を高めてきた。たとえば、科学技術館を媒体として、中国科学技術大学の専門家に先端科学の訓練をしてもらい、展示品の関連知識を理解する。有名な科学技術教育の専門家を学校に招き、本校教師に対し科学技術イノベーションコンテストの指導訓練、コンピュータロボットの教育技能訓練、科学技術活動の展開方法についての訓練などをしてもらう。中国科学院院士を学校に招いて協働講座を開き、絶えず教師の科学的資質と業務水準を高める、等。同時に、教師を時期を分けて教育の発展した先進国・地域に派遣し、学習交流を行い、相次いで20人余りが北京、上海、香港、マカオ、台湾、韓国、イギリス、アメリカなどにそれぞれ実地視察、学習に派遣されてきた。教師たちは学習活動の中で見識を高め、視野を広げ、科学技術教学の理念と水準を高めている。
- 学校ベースの教育研究活動を積極的に展開する。学校ベースの教育研究を通じて、教育観念を更新し、教室において教師・生徒の協働を実現し、教室教育のレベルを確実に高めている。新しい理念を学ぶことは、教師の自己反省を促し、教師の教育総括能力、評価能力及び教育の理論的レベルを高めた。積極的に教育研究チーム同士の協働を展開し、教師が経験型から研究型、専門家型へと変わるよう導いている。中堅教師、ベテラン教師の指導的役割を十分に発揮させ、毎週の教育研究活動の時間を利用して「授業の報告、授業の意見交流、授業の研究討論、授業の評議」の4つの授業活動を展開し、学校ベースの教育研究を着実に実施している。
- 活用と育成の結合。我々はさらに、学校内部の現有の教員人材力を十分に発掘し、各人の専門技能を発揮させ、科学技術教育の名教師の育成に力を入れてきた。本校は理科教師2名、総合実践活動の教師1名が相次いで、市・区「中堅教師」、「教科リーダー」の称号を授与され、うち1名の理科教師は「科技教育出版社」に招聘され、初の理科専門家チームメンバーとなった。別の5名の教師は全国「宋慶齢基金会青少年発明賞」優秀指導教師、「こども実験家体験活動」優秀指導教師に選ばれた。同時に、相次いで4名の教師が重慶市「優秀科学技術指導員」の称号を受けた。
- 大学・専門学校及び社会資源と十分に連係し、学校の科学技術教師集団を充実させてきた。たとえば、重慶郵電学院、重慶工商大学の専門家・教授を学校に招き、生徒のロボット科目、ロボット活動を指導してもらい、中国の有名な科学普及の専門家・王渝生を本校の科学技術顧問として招聘し、中国科学技術大学の専門家を招いて本校の科学技術館建設を指導してもらった。また、中国教育学会の専門家・羅凡華に定期的に本校に赴いて小発明、創造科の授業を担当してもらい、地区少年科学教師を招聘して科学技術活動の展開を指導してもらい、学校周辺コミュニティの切り紙のエキスパートを招き、校内で切り紙のやり方を教わったりしている。一連の訓練活動の展開は科学技術教師の理論水準を引き上げ、彼らの実践操作能力を高めてきた。
(二)人力、財力、物力による支援を与え、優秀な教師の飛び抜けた成長を促す
小テーマ研究要員のために、関連活動資金及びその他の便利な条件を提供している。教育研究活動の中で一定の成果を上げた教師に対し、物質的な褒賞を与えるほか、職務評価、優秀教師選定などの面でも優先的に配慮し、それによって多くの教師が教育研究を積極的に展開し、本校の科学技術教育の水準を高めるよう奨励している。
五、数年にわたる努力の結果、科学技術の成果を山ほど蓄積
「努力した分だけ必ず成果は上がる」。珊瑚実験小学校の長年にわたる学校運営の過程では、国家のためにイノベーション型人材を養成するという責務と使命を履行し、模索と努力の中で、我々自身の鮮明な「大科学技術観」という学校運営の特色を作り上げ、保護者、生徒、社会各界から広範な賞賛を得てきた。
2004年、ポルトガルの第8回青少年コンピュータロボット・ワールドカップ決勝において、本校の選手が金賞を受賞した。
2005年8月、日本の第9回青少年コンピュータロボット・ワールドカップ決勝において、本校が再び当該種目の銅賞を受賞した。
2006年にスタートし、すでに5期続けて選出の行われている「重慶市青少年科学技術イノベーション市長賞」は、毎回5~10人しか入選・入賞しないが、本校は4名もの生徒がこの栄誉を受けている。
2006年8月、本校の「田畑作業室」の重要なメンバー――「田畑小朋友」が、中国国際青少年書画撮影展にその創意あふれる絵画作品を展示した。この活動は、中国美術館、国際美術家協会、大韓民国k_art国際交流協会、日本佐賀美術協会など多数の協会によって共同開催されている。
2007年、アメリカの「ワールドカップ」国際青少年ロボットコンテスト捜索救出種目で、本校生徒が第2位、第3位になった。
2009年5月、本校が重慶市政府の表彰する「第1回重慶市青少年科学技術イノベーション育成賞」を受賞した(表彰を受けた唯一の小学校代表)。
2009年10月、本校の「陽光体育活動」映像資料が教育部教育展示成果に入選し、北京天安門広場の建国60周年閲兵・祝賀式典において放映された。
2009年11月、本校生徒代表が第3回アジアロボット選手権大会オートマチック種目第1位、オートマチック・マニュアル一体種目銅賞、コンテスト最優秀イノベーション金賞を受賞した。
2010年2月、本校「ホタル」児童合唱団が第6回「ゴールデン・バウヒニア」音楽・ダンス公演活動金賞を獲得した。
2010年7月 本校「ホタル」児童合唱団がウィーン狂想曲国際学生合唱祭でパフォーマンス金賞を受賞した。
2010年8月 本校が栄えある「全国第1回科学技術教育イノベーション・ベストテン学校」の称号を獲得した。
2010年12月、本校生徒代表がDIイノベーション思考コンテスト(中国地区)決勝戦に参加し、ダ・ヴィンチ賞(傑出創意賞)を受賞。さらに2011年にアメリカで開催されるDI創意コンテストの世界決勝に参加する予定である。
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近年、中国中央テレビ、『実話実説』、『少年児童チャンネル』、『フェニックス・テレビ』、『人民教育』、『中国教育報』、『重慶日報』など、国内の権威あるメディア及び雑誌、定期刊行物は、本校の学校運営成果について、広く報道を行ってきた。
以上述べてきたことは我々の初歩的な模索、実践にすぎない。我々はこの文章によって、教育研究の志を持つより多くの同業の方々と知り合い、素晴らしい明日のために共に前進していきたいと願っている。