中国人民大学附属中学の学校運営方法と教育成果
2011年 5月 9日
王海玲(Wang Hailing):中国人民大学附属中学副校長、
地理特級教師
1957年8月生まれ。1982年、中国河北省河北師範大学を卒業、地理教育専攻で理学学士の学位を取得。1982~1984年、河北保定地区教育学院に奉職。1984~2001年、河北省河北師範大学附属中学に奉職。1993年、高級教師、地理教研室主任。1999年、中学高校「特級教師」。最初の国家級中核教師の1人。2001~2011年、北京・中国人民大学附属中学に奉職、地理教研室主任、副校長。
1.本校の概況
写真1 環境に恵まれた人大附中のキャンパス
中国人民大学附属中学(人大附中と略)は中国教育省直属の重点学校であり、北京市初のモデル高校の1つでもある。本校は1950年に創設された。所在地は北京市中関村大街37号で、北京中関村サイエンスパークの中心部に位置する。キャンパスの敷地面積は約9.5ha。環境に恵まれた庭園式学校である。キャンパスの緑の草はしとねのようであり、建物は壁が赤く、窓が白く見える。学びの園は規則正しく、整然とし、素朴で清新な自然がそこに溶け込んでいる。本校の左側は北京大学と清華大学に隣接し、右側には中国人民大学が控え、街路を1つ隔てた所に中国科学院がある。人文地理の優位性が高く、科学と文化の雰囲気に包まれている。
写真2 明るい日差しの下、自信に満ちた人大附中の生徒
人大附中には現在115の学級がある。教職員と用務員が403人おり、生徒数は4,750人。本校は近代的な教学施設を備えている。例えば、バーチャル科学実験室、電子制御実験室、設計技術教室、デジタル化ネットワーク実験室、デジタル画像教室、遠隔教室、自動車運転シミュレーション教室、マルチメディア視聴覚教室、生徒ネットワーク実験室、200人を収容できる生徒ネットワーク閲覧室、基礎知識ネットワーク実験室、陶芸教室等の多くの専用教室及び、先進的設備を持つ各種の学科実験室。キャンパス・ネットワークは容量が大きく、機能が高く、帯域幅に余裕がある。本校はさらに一流の文化娯楽スポーツ施設を備えている。例えば、近代的な学術報告センター、設備の整った生徒活動センター及び、400mプラスチック製トラック付きの標準人工芝サッカー場、体育館、各種の夜間競技場、屋内プール、芸術宮等。その他、敷地面積12haのサッカー訓練基地、一流の設備を持つ食堂、面積30,000m2の生徒寮がある。
写真3 デジタル画像教室写真4 屋内プール
2.校長の簡単な紹介
写真4 人大附中校長の劉彭芝女史
劉彭芝女史は1997年から本校の校長を務めている。劉女史は北京市数学特級教師、博士課程院生指導教官である。彼女は全国先進的活動家、全国三・八紅旗手、全国教育部門先進的活動家、全国労働模範等の多くの栄誉称号を受け、国務院から政府特別手当を支給されている。2009年11月、中国国務院参事として迎えられる。劉女史の導きの下、人大附中は「国内をリードし、国際的に一流となり、世界の有名校を築く」との学校運営目標をわずか十数年で実現し、国内外に知られる有名高校となった。
3.学校運営理念
人大附中の学校運営理念は「個性を尊重し、潜在力を掘り起こし、全ては生徒の発展のため、全ては祖国の飛躍のため、全ては人類の進歩のため」である。人大附中の運営目標は国内をリードし、国際的に一流となり、世界の有名校を築くことである。人大附中の校訓は「徳の重視、博学、イノベーション、現実の直視」である。人大附中の生徒育成目標は「全面的発展+際立つ特長+イノベーション精神+気高い品性」を備えた優秀な人材である。
人大附中の学校運営理念のうち、「個性を尊重し、潜在力を掘り起こす」は人間本位の思想を体現することである。即ち学校はあらゆる可能性を尽くして各教師・生徒・職員・用務員の発展のための機会を生み出し、プラットフォーム(場)を築き、彼らが個性と潜在能力を十分に発揮し、人生価値を実現できるようにする。「全ては生徒の発展のため」は生徒本位の思想を体現することであり、即ち学校の活動はいずれも最終的に生徒の健全な成長と潜在能力の開発を図ることを目的としている。「全ては祖国の飛躍のため、全ては人類の進歩のため」は社会本位の思想を体現することである。即ち人大附中は国内をリードし、国際的にも一流の世界の有名校を築かなければならず、最終的には際立つ特長とイノベーション精神を備え、且つ祖国に役立ち、人類に幸福をもたらすことのできる優秀な人材を育成することを目的としている。
上記の学校運営理念に従い、人大附中は各生徒の発展に適した教育を造り出すことに努力を払い、各生徒の潜在能力を引き出すため、広々としたプラットフォームを築き、豊かな運営経験を蓄積した。本校は学校運営において鮮やかな特色を打ち出し、独特の人材育成モデルを生み出し、中国の良質な中学高校の際立つ代表となったのである。2010年9月9日、中国の26回目の教師の日を前に、胡錦濤国家主席が人大附中を訪れ、教師・生徒・職員・用務員の労をねぎらい、教師に祝意を表した。胡錦濤国家主席は教師に対し、「この数年来、人大附中は党の教育方針を全面的に貫き、素質教育に力を入れ、生徒の全面的発展を促す面で際立つ成果を収め、多くの優秀な卒業生を育て上げた。先生方はこのために多大の心血を注ぎ、汗を流された。党と政府を代表し、また、子供達の父兄に代わって感謝申し上げる」と述べた。
写真5 設計技術教室で、まめに手を動かし、頭を働かせ、本当の才能と堅実な学問を身に付けるよう生徒を励ます胡錦濤主席(前列左から3人目)
4.学校運営方法
この十数年の間に、人大附中は急速な発展を遂げ、当初の一般校から国内外に名を知られる有名校となることができた。これは主に以下の幾つかの運営経験と方法によるものである。
①リードの役割を果たす劉校長の先進的な理念
人大附中が素質教育を全面的に推進する面で収めた際立つ成果は、劉彭芝校長の先進的な教育理念が学校をリードしてきたことと切り離すことができない。劉彭芝女史は40年余りにわたり教育事業に携わってきた。本校の校長に就任してから既に十数年が経つ。劉女史は教育家タイプの校長として、独自の教育思想を作り上げた。彼女の教育思想は「愛は教育の最高境地であり、愛は自然に発露する奉献である。尊重は教育の真髄であり、尊重は創造の源泉である」と概括することができる。こうした教育思想は学校の運営面に具体的な形となって現れた。即ち人大附中のために「個性を尊重し、潜在力を掘り起こし、全ては生徒の発展のため、全ては祖国の飛躍のため、全ては人類の進歩のため」という運営理念を確立したのである。より大切なことは、傑出した指導力を持つ校長として、彼女が先進的な教育理念で全校の教職員をリードするとともに、この理念を彼らの主体的・自覚的な教育行動に転化させたことだ。人大附中において、愛と尊重、創造は各生徒の発展を図る教育に適したものであり、これは既に1つのメカニズム、1つの文化となり、学校の日常的な教育教学活動に溶け込んでいると言うことができる。人大附中が素質教育を全面的に推進し、際立つ成果を上げた原動力はここにある。
劉彭芝校長は先進的な教育理念を持つだけでなく、しっかりと地を踏みしめ、教育の理想を現実に生かすことのできる手堅い実務家でもある。劉校長は「世界的な視野、歴史の観点」から教育を見詰め、世界の有名校との深い交流及び校内事情の歴史的分析を通じ、人大附中のために「国内をリードし、国際的に一流となり、世界の有名校を築く」との発展目標を定めた。さらに世界一流の中学高校を築くための「10の基準」を率先して打ち出した。これを基礎に、彼女は真理を求め実務に励む精神でチャンスをとらえ、「思想と行動を統一させ、知恵と力を結集し」、全校の教職員・生徒を率い、目標実現のために努力を重ねてきた。十数年の奮闘を経て、この教育理想は現実のものとなった。
写真6 劉彭芝校長は英国のイートン・パブリックスクール(左の写真)と米国のトーマス・ジェファーソン・スクール(右の写真)を視察に訪れ、英国と米国の高校カリキュラム設置及びその教学状況を理解した。
この十数年の間に、劉彭芝校長は全校の教師・生徒を率い、中国の基礎教育分野で多くの突破口を開いた。具体的に言うなら、全生徒を対象とする多元的・開放的なカリキュラム体系を築いたこと、「創造発明課程」、「青少年科学技術クラブ」、「少年科学院」を拠り所とする生徒の科学技術イノベーション能力の育成体系を確立したこと、また、生徒の潜在能力を伸ばす多元的な素質教育の舞台を用意し、傑出したイノベーション人材の早期育成のための効果的な道を探求したこと等......。これらの成果によって、本校は一般的な重点校から世界の一流校へと飛躍を遂げるとともに、中国の基礎教育改革のために貴重な経験と参考事例を提供したのである。
②資質の高い教師陣の育成
人徳と才能を兼ね備えた教師及び傑出した教育専門家の育成は世界の有名校となるためのカギである。人大附中の教師陣育成目標は「教育事業に献身し、気高い品性を備え、先進的な教育観を持ち、学問への取り組みが厳格で、一流の教育レベルに達し、人の育て方がうまく、生徒を熱愛し、イノベーションを続ける教師陣の育成に努める」ことである。
人大附中は以下の幾つかの面で資質の高い教師陣の育成に取り組んだ。
第1は卓越を追求する情熱を教師に持たせることである。劉校長は教育に対する自らの熱情と熱愛、こだわりの理想と進取の遠大な志によって、新たな奮闘目標を次々と打ち出し、理想を持ち、才能があり、奉仕の精神を備え、卓越を追求する教師陣を結集した。
第2はプラットフォーム(環境)を築き、教師に人生価値を実現させることである。劉校長は教師の才知と特長を見つけるのがうまく、彼らを適切なポストに就け、その才能を存分に発揮させた。また、本校は教師が有能な人材となるための条件と機会を作り出し、彼らを学外及び国外に送り出して、世界の一流の教育水準を理解させ、一流の生徒を育成できるようにした。
第3はチームワークを生かし、教師を共に発展させることである。人大附中の諸成果は教職員の団結・協力、相互援助と切り離すことができず、ベテラン教師、有名教師と若手教師が教え学び合い、好成績を生み出した。
第4は校内研修を実施し、教師がそれぞれの持ち場で有能な人材となるよう促すことである。本校は多段階の校内研修制度を確立した。毎年冬と夏の休みを利用して科学研究集会を開き、教師の持ち場研修を行っている。また、普段は教師の様々なニーズに合わせ、各種の通常業務研修を行う。校内研修は本校が発展するための原動力となり、教師が有能な人材となるのを助けている。
現在、人大附中には中学高校特級教師が30人、国家級中核教師が16人、北京市中核教師が16人いる。70%以上の教師が中級・高級教師の専門技術職にあり、また、若手教師の90%以上が博士・修士の学位を持つ。新しい知識と理念、高い資質とレベルを備える教師陣が作り上げられた。
写真7 人大附中が毎年冬と夏の休暇期間中に開く科学研究集会
③健全・向上を旨とする学校文化の構築
人大附中はキャンパス文化づくりを人間育成環境を改善、最適化するための重要な手段としている。劉彭芝校長は、本校が中短期の発展を実現するには教育とブランドに依拠し、長期の発展を実現するには学校文化に依拠しなければならないとの考えである。本当に良い学校はそのキャンパス文化が最大の魅力となっている。劉校長の希望は人大附中を創造に満ちた青春のキャンパスに変え、生徒が自由に羽ばたくための天空を作り出し、各生徒が自らの才能を発揮する舞台を見つけられるようにした。キャンパスは子供達が最も憧れ、最も好きで、最も名残惜しく思う場となったのである。このため、「尊重、調和、イノベーション、奉献、科学、開放」は時代の精神を備えた本校文化の際立つ特徴だと言えよう。
本校は多様な形態の社会的実践活動を手配し、生徒が社会に入り、生活の中に入って、身近な体験を通じ、愛する心を培い、健全な人格を形成し、社会的責任感を養うよう導いている。例えば、本校は2002年に「人大附中ボランティア団」を結成し、養老院、児童福利院、聾唖学校、太陽村等を訪れ、社会奉仕を行った。ボランティア団の導きの下で、全校の教師・生徒による愛する心を伝える活動が繰り広げられ、農村に入って医療知識の宣伝を行い、出稼ぎ農民の子女教育の状況を調査し、また、終末医療病院で老人に奉仕した。こうした教育に感化されて、生徒は他人を思いやり、社会に奉仕することを学び、人品・学業共に優れ、社会的責任感を持つ優秀な生徒となったのである。
キャンパス文化を築く過程で、本校は生徒の道徳向上に対し、優秀な伝統文化が果たす牽引的役割を重視してきた。「中華の伝統文化の源を探す」、「中華の伝統文化普及講座」「華夏(中国の古称)文化祭」等の活動を繰り広げ、中華の伝統文化を広く発揚する気風をキャンパスに作り上げた。同時に又、本校は生徒がオープンな気持ちで世界の先進的文化を吸収するよう導いている。英語コンテスト、英語劇、模擬国連、オリンピック文化祭は時代と世界の要素をより多く取り入れたものとなった。生徒は各種の文化活動とサークル活動を自ら手配しており、例えば、司会者コンテスト、歌と踊りのカーニバル、映画祭、詩歌朗唱会、文化祭、体育祭等は生徒が自我に目覚め、才能を発揮し、夢を育み、人生の目標を探す大きな舞台となった。
写真8 人大附中で開かれた「華夏韻」古典詩歌朗唱会。教師と生徒が同じ舞台で演じる
④多元的・開放的なカリキュラム体系の構築
本校は1990年代から人大附中の特色を持つ教科書カリキュラムの作成に取り掛かった。カリキュラムの設置を通じてその構成と学習内容を最適化し、さらには人材育成の方式を改めることに力を注ぎ、これにより、カリキュラムは生徒の個性を伸ばすとの要請に一層適うものとなった。本校はカリキュラムの設置において、必修科目をきちんと開設し、選択科目を豊かにし、特色科目を際立たせるとの方針を採っており、教科書カリキュラムには自主性、多元性、選択性が具現されている。カリキュラムの内容では時代性、総合性、実践性を際立たせ、素質教育の全面的実施に役立つようにした。本校はカリキュラム改革とイノベーションを進める過程で、中国の伝統的教育と欧米の近代的教育の優れた構成要素を吸収し、科学の精神とヒューマニズムの精神の要点を押さえることに心掛けてきた。哲学、社会科学及び人文科学の教学内容を増やし、情操教育に深まりと広がりを持たせ、文学芸術で生徒の魂を浄化し、その思想を昇華させた。生徒が科学の精神だけでなく、ヒューマニズムの精神も備え、現実に立脚するだけでなく、遠大な理想も持つように育てている。人大附中の特色を備え、社会の発展要請と生徒自身の発展要請に適した多元的・開放的なカリキュラム体系が出来上がった。
現在、本校には言語と文学、数学と自然科学、人文と社会科学技術、総合実践、体育と芸術等の各分野を含む150余りの教科書カリキュラム及び特色カリキュラムがある。その中で、英語の他に10の第2外国語課程が開設され、同時に、英語物理、英語地理、英語演劇等の外国人教師が教える18の教科英語も設けられた。2007年、中国は新たなラウンドの高校カリキュラム改革に着手した後、国家カリキュラムの中で必修科目の他に、100余りの国家選択履修課程を追加した。これらのカリキュラムは生徒が大学に進学して高度な学問を身に付けるための基礎を定めるものであり、そのうち90%は既に本校で開設されている。現在、本校の各学年において生徒が自主的に選択することのできる各種の選択履修課程は200を超え、生徒の個性と特長を伸ばし、その学習能力を高め、イノベーション精神と実践能力を養う面で好ましい役割を果たしている。
200を超える国と学校の選択履修課程を前に、本校は生徒が自分に適したカリキュラムを効率よく選択するのを指導するため、ネット課程選択システムを構築するとともに、選択科目の「スーパーマーケット」を開設した。生徒はネット課程選択システムを通じ、各カリキュラムの情報を入手でき、また、「選択科目スーパー」で教師に直接相談することができる。
写真9 人大附中が各学期の初めに行う選択科目「スーパーマーケット」活動の様子
⑤科学技術イノベーション教育の強力な推進
人大附中は科学技術イノベーション教育を素質教育推進のための重要な段階と位置づけ、全生徒に目を向け、カリキュラム改革との整合を図り、生徒のイノベーション精神と実践能力を育てている。各種の科学技術活動を通常の教育に取り入れ、カリキュラム化を実施し、健全な発展を実現した。また、科学の普及と向上を結び付け、生徒全体の科学技術の素養とイノベーション能力を高めると同時に、将来性のある生徒のために広々とした発展の余地を与えている。
写真10 建築設計科目(左の写真)と電子技術科目(右の写真)の授業を受ける生徒
人大附中の科学技術関連の必修課程と選択課程は生徒に対し、科学教育を行うための主要ルートである。そのうち選択課程は80余りを数える。これらのカリキュラムは革新性、多様性、実践性、開放性、選択性を際立たせ、全生徒を対象に開設されたものであり、生徒が科学への興味を深め、その特長を伸ばすのに役立つ。生徒の科学研究能力を向上させるため、本校は高校の研究的学習カリキュラムを利用し、「科学研究課程」を開設した。生徒が科学的問題を提起し、問題解決の方法を探究し、科学研究のプロセスを感じ取れるようにしており、これは彼らが将来の科学技術イノベーション人材に成長するための基礎となるものである。
劉彭芝校長は、科学技術イノベーション教育を進め、生徒のイノベーション能力と実践能力を養うには先取り意識を持ち、スタートラインを高くし、生徒に科学技術の最前線に立つ機会を与えなければならないとの考えである。本校は中関村に所在し、中国科学院及び清華大学、北京大学等の有名校に隣接している。我々はこうした地理的優位性を積極的に生かし、生徒を率いて大学、科学研究院・所を訪れ、科学者の報告を拝聴し、科学フォーラムに参加し、科学的考察を行うとともに、優秀な生徒を大学と国家重点科学研究実験室に直接送り込み、課題研究等に参加させている。こうすれば、科学の研究と探究を志す青少年はその最前線の情報に触れる多くの機会とルートが得られ、彼らの科学探究への興味を引き出し、さらには資質の高い将来の科学技術イノベーション人材を育てることができる。現在、本校は米国のトーマス・ジェファーソン・スクール及びイリノイ・サイエンスハイスクールと共同で新エネルギー開発利用の課題研究に取り組んでいる。当校は北京大学、北京航空宇宙大学、中国科学院の教授及び研究員を課題顧問として招き、特別選択科目を開設した。中米両国の生徒は遠隔方式の交流と研究討論を定期的に行うとともに、教師・生徒の相互訪問を実施し、互いに学び合い、向上を図っている。
写真11 2011年1月、イリノイ・サイエンスハイスクールのDr.Max McGee校長(左から2人目)と生徒が人大附中を訪問し、新エネルギー開発利用の課題を共同で研究した。[注:写真の中の米国人男生徒(右から2人目)は当校の生徒から贈られた人大附中の制服を着ている]
本校は生徒の年齢層と特徴の違いに応じ、多様な科学技術活動を行っている。少年科学院、青少年科学技術クラブ、天文社等のサークルを拠り所として、科学普及教育とキャンパス科学技術活動のための広々としたプラットフォーム(場)を築いた。これらのプラットフォームを通じ、バラエティーに富む多くのキャンパス科学技術活動が毎年実施され、科学を尊ぶ良好な雰囲気が作り出され、全ての生徒がこれらの活動に参加している。当校の科学技術活動はバラエティーに富んでおり、伝統と特色のある活動が定着した。例えば、「発明と創造」、「科学実践活動」、「キャンパス科学普及活動」、「天文科学技術活動」、「知能ロボット」、「パソコンによるクリエイティブデザイン」及び、少年科学院の「構造設計、クリエイティブデザイン、紙の橋を渡る車」という3大競技等である。
写真12(左)少年科学院実施の「紙の橋を渡る車」競技/(右)数名の教師及び生徒が参加した北極科学視察活動
⑥天才児の育成モデルの探究
1985年以降、人大附中は個性尊重、適所教育の理念の下、英才教育の探究・実践を進めており、この25年の間に教育教学、カリキュラム改革、科学研究陣と教師陣育成等の面で豊かな経験を蓄積した。人大附中の定義によれば、天才児とは言語、数学、音楽、スポーツ、演技、絵画、交際等の1つの方面又は幾つかの方面で並みはずれた潜在能力を持ち、且つ健全な人格と心理を備えた子供である。本校の天才児育成目標は、天才児の基本的素質を伸ばし、全面的発展を踏まえ、彼らを各分野のレベルの高い、抜きんでた精鋭人材の後継者に育て上げ、将来、国の重責を担う人材、世界の先端を行く人材となるための基礎を固めることである。本校の英才教育の目標は、中国の英才教育事業の発展のために新たな道を探り、中国の基礎教育改革のために実験基地を提供し、経験を蓄積することである。また、本校の英才教育の任務は、(1)科学的且つ実用的で、簡便な天才児識別・選抜方法を模索する、(2)天才児に適した実用的な教材を作成する、(3)英才教育に携わる資質の高い教師陣を育成する、(4)天才児の成長と発展に適した新しい体制を確立することである。
人大附中は天才児教育で際立つ成果を上げ、人材の早期育成において、小学・中学・高校「一体化」の人材育成モデルを探り当てた。教育内容面では、天才児の特徴に見合う多様な教科書カリキュラムを設置し、彼らが学ぶ知識の内容を深め、多くの関連教材を編集・出版した。また、教学方法面では、弾力的な教学を通じ、生徒の独立思考と自主的学習能力を培い、課内と課外を結び付けることを通じ、彼らの視野を広げ、潜在能力を掘り起こし、創造能力を育てており、開放的な教育モデルを作り上げた。長年の間に、全面的な発展を遂げ、特長が際立ち、国内外の科学技術イノベーション大会、各種学科コンテスト、スポーツ・芸術大会等で抜群の成績を収める多くの生徒が育成された。国際オリンピックの5種目の中高生コンテストで過去10年間に金メダルを獲得した北京市の生徒は12人いるが、そのうち7人は人大附中の生徒であり、彼らはいずれも本校の英才実験クラスに所属していた。2004~2010年の7年間に、人大附中の生徒は6度にわたり北京市の大学入試で首席合格となった。北大、清華、人大等の重点大学の合格者数は数年連続して同市のトップに立つ。また、毎年数十人の生徒がケンブリッジ、ハーバード、イェール、マサチューセッツ工科大等の世界の有名校にストレートで合格している。
写真13(左)第50回国際オリンピック数学コンテストで金メダルを獲得した当校生徒の林博さん
(右)全国中高生科学技術最高賞「明日のミニ科学者」の称号を獲得した当校生徒の范逸臨さん
⑦スポーツ・芸術教育を通じた生徒の特長の伸長
人大附中はスポーツ・芸術教育を通じ、生徒の特長を伸ばすことを一貫して重視しており、目覚ましい成果を上げた。
1992年、人大附中は「三高サッカークラブ」を立ち上げた。これは一般の中学高校が正式登録した中国初のサッカークラブである。「三高」は「道徳的品性が高く、文化的素質が高く、運動レベルが高い」という意味である。その育成目標はクラブの各選手が人品・学業共に優れ、一流の運動レベルを備えた資質の高い人材となることである。
写真14(左)2009年全国高校リーグ戦で優勝したサッカーチーム/(右)球技を披露する当校サッカーチームの選手
「三高サッカー基地」は教学クラスと訓練チームの二重管理モデルを採用している。専門のコーチを招いて選手に対し、日常的なハイレベルのサッカー訓練を行う一方、人大附中の各学科の優秀な教師が訓練基地に来て教育に当たるというものである。スポーツで天賦の才を備えたこれらの生徒はその特長を伸ばすとともに、一般教養でも好ましい資質を備えるようになり、彼らの生涯の成長のための基礎が築かれた。「三高サッカー基地」は創設以来、世界の大会で優勝、準優勝を何度も飾っており、中国サッカー事業の奇跡を成し遂げ、ナショナルチームとプロのクラブに数十人のメンバーを送り込んだ。また、100人余りの選手が北大、清華等の重点大学に入学し、その一部は既に博士課程院生、修士課程院生となっている。「三高モデル」は中国スポーツの予備人材育成のための新たな道を探り出し、正規の高校教育を踏まえ、プロスポーツ競技の予備人材を育成する新たなモデルを生み出した。
人大附中の芸術団設立の趣旨は、芸術面で天賦の才を持つ子供が正規のハイレベルの基礎教育を受けると同時に、ハイレベルの専門的な芸術訓練を受け、自らの芸術的特長を十分に伸ばせるようにすることだ。本校の芸術団は交響楽団、合唱団、舞踊団、マーチ管楽団、武術チーム、エアロビクスチーム、電気音響楽隊の7大芸術サークルから成り、芸術的特長と興味・好みの異なる生徒に広々とした発展の場を与えている。芸術団は設立以来、国内外の各種コンテストで何度も抜群の成績を収めている。同時に又、彼らは文化の使者として、中国文化省から世界の多くの国々に派遣され、公演を行い、高い評価を得た。
写真15 本校舞踊団の公演写真18 本校武術チームの公演
5.本校の成果
人大附中は60年の学校運営の歩みの中で、特に改革・開放以降、時代と共に進み、教育イノベーションを堅持し、輝かしい成果を生み出した。本校は中国教育省と北京市教育部門からそれぞれ栄誉称号を授与されている。本校は2002年に「北京市初のモデル高校」の1つとなり、2007年に「全国教育系統先進集団」の称号を授与された。また、2010年には「全国10傑科学技術教育イノベーション学校」に選ばれるとともに、全国の高校の中で唯一の「全国科学技術教育イノベーションの星学校」となった。
人大附中はそれぞれの生徒の発展に適した教育を生み出すことに努力を払い、以下の幾つかの方面で注目すべき成果を得た。
- 全生徒を対象とする多元的・開放的なカリキュラム体系を創設した:「現代少年科目」、「創造発明科目」等の数十の教科書カリキュラムを設けている。また、自然科学、社会科学、総合実践活動、スポーツ・芸術の4分野に及ぶ150余りの選択科目があり、これには外国人教師が担当する英語数学、英語歴史、英語演劇等18の英語科目及びフランス、ドイツ、日本、韓国、ロシア、オランダ、スペイン、イタリア、アラビア、フィンランドの10種類の第2外国語科目が含まれる。多元的なカリキュラムにより、生徒は学習の中で選択を身に付け、選択の中で自己を発展させ、発展の中で人生を計画することになる。
- 科学技術イノベーション能力の育成体系を確立した:科学技術カリキュラム、科学技術サークル等を科学技術教育の媒体としており、千人以上の生徒が国内外の各種青少年科学技術発明コンテストで賞を獲得した。受賞者の多さ、そのランクの高さは中国でもまれに見るものだ。2005年以降、生徒が獲得した重要な科学技術部門賞は次の通り。インテル国際科学技術フェアで、本校の生徒5人が賞を獲得した。中国の高校生科学技術活動で最高の賞となる「明日の豆科学者」の選考において、本校は3人の生徒が「明日の豆科学者」の最高栄誉称号を受けるとともに、11人が「明日の豆科学者」活動の1等賞を獲得した。全国青少年科学技術イノベーション大会で、人大附中の13人の生徒が金賞を受賞した。また、北京市が設けた中高生科学技術部門の最高の賞-「青少年科学技術イノベーション市長賞」で、本校は既に6年連続し、計8人の生徒がこの特別の栄誉を得ている。
- 学科コンテストと大学入試の両方で「豊作を収める」という素晴らしい成果を上げた:2001年以降、本校は7人の生徒が国際科学オリンピックの数学と物理で金メダルを獲得しており、北京市で最も多い。2004~2010年の7年間に、人大附中の生徒は6度にわたり北京市大学入試の文科又は理科で首席合格となった。北大、清華、人代等の国内一流大学の合格者数は数年連続して同市のトップに立つ。また、毎年数十人の生徒がケンブリッジ、ハーバード、マサチューセッツ工科大等の世界の有名校及び香港の各重点大学にストレートで合格している。人大附中の質の高い教学水準と教学成果により、本校は多くの生徒とその父兄が憧れる学校となった。
- 各生徒の潜在能力を伸ばすことを旨とする多元的な素質教育の舞台を築く:芸術、スポーツ等の分野における人大附中の成績は数学・物理・化学教育と科学技術教育で得た栄誉に決して劣るものではない。「三高」サッカーチームは世界と中国のユース選手権大会で何度も優勝、準優勝している。チェスチームは世界中高生団体戦で2度優勝した。囲碁チームは7年連続して大学と高校のチームを破り、「大三元杯」団体戦で連続優勝するとともに、世界囲碁棋王戦を制した。また、女子中高生の世界エアロビクス大会で個人優勝を飾った。交響楽団は第35回ウィーン国際青少年音楽祭の交響楽部門で金賞を獲得した。芸術団は文化省から派遣され、米国、ロシア、英国等で何度も公演を行い、広く称賛され、センセーションを巻き起こした。
- 英才教育の実験を堅持し、傑出したイノベーション人材を育成する:1985年から天才児教育の実験を行っており、小学、中学、高校「一体化」の天才児育成体系を築き上げた。天才児実験クラスを開設し、数理、言語、コンピュータ、創造発明等の各学科分野の天才児を育てている。「三高サッカークラブ」を結成し、サッカー、棋類等のスポーツで天賦の才を持つ生徒の育成を進めてきた。「人大附中芸術団」を結成し、芸術面で天賦の才を持つ生徒の特長を伸ばした。数理、言語、音楽、絵画、舞踊、スポーツ、スピーチ、創造力、指導力等の1つの方面又は幾つかの方面で際立つ潜在能力を持つ天才児は人大附中の英才教育を受けた後、国の傑出したイノベーション人材の予備バンクに次々と仲間入りしている。
- 国際交流の大舞台を作り出し、国際的な人材を育成する:本校の国際姉妹校は27校あり、米国、英国、フィンランド、イタリア、日本、韓国、デンマーク、オーストラリア、スイス、スペイン、メキシコ、シンガポール、ドイツ等の国々に広く分布している。その上、これらの姉妹校はいずれも所在国又は世界の有名校であり、例えば英国のイートン・パブリックスクール、ウェリントン・スクール、米国のジェファーソン・サイエンススクール、シンガポールのラッフルズ・インスティチューション、日本の武蔵高校等だ。人大附中は「世界有名高校校長フォーラム」を何度も開催している。人大附中は国内外の姉妹校との交流、融和の中で共に進歩を図り、国際的視野、科学的精神、ヒューマンケア及び実践能力を持つ人材を育成し、自国を心から愛するだけでなく、世界の平和も深く愛する人を育ててきた。
- 社会的責任を履行し、良質な資源を共有する:2003年以降、人大附中は自校の良質な教育資源モデルを広めることに積極的に取り組んできた。例えば、河南省新密市、寧夏・六盤山に分校を新設又は共同で学校運営を行い、中国中西部地区での教育の発展を支援した。また、北京市海淀区にある基礎の弱い幾つかの学校で教学の質を高めるのを援助した。さらに人大附中分校を数校開設し、良質な資源の共有を促した。2009年、劉彭芝校長は上海市教育委員会と北京市教育委員会からそれぞれ招きを受け、基礎教育上海卓越校長・卓越教師育成基地、北京前衛校長育成基地の統括者となった。7月、中国基礎教育卓越校長・卓越教師育成基地が人大附中に設立され、劉彭芝校長が統括者を担当した。基地では多くの訓練活動が行われ、素晴らしい成果を上げている。劉校長はこうした方式で国のためにより多くの立派な校長、立派な教師を育てることを望んでいる。
6.今後の展望
劉彭芝校長は人大附中の将来の発展目標を打ち出した。それは「国内をリードし、国際的に一流となり、世界の有名校を築く」ことを踏まえ、「百年の有名校、千年の有名校」となることである。人大附中は独自の教育的風格と鮮やかな学校文化の特徴を引き続き保つと同時に、学校制度づくり、カリキュラム体系づくり、教学の質管理、人材育成モデル等の各方面で時代と共に進み、イノベーションを継続し、常に時代の最前線に立ち、本校を際立つ特色と影響力を持つ世界の一流校とする考えである。
謝辞
本論文のために多くの資料及び素材となる文章を提供してくれた人大附中の崔璐、蕭遠騎両先生に特に感謝申し上げる)