第57号:バイオエネルギー技術
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バイオリファイナリー細胞工場の科学的基盤

2011年 6月 3日

馬延和

馬延和(Ma Yanhe):中国科学院微生物研究所 研究員

「973」計画プロジェクト首席科学者。現在、中国科学院微生物研究所研究員、中国科学院天津工業生物技術研究所(籌)副所長、工業酵素国家工学実験室主任、微生物資源前期開発国家重点実験室副主任。1961年10月生まれ、2005年、江南大学生物工学専攻博士号取得。国家生物産業発展コンサルティング専門家委員会副秘書長、中国生物工学会副理事長、中国科学院工業生物技術専門家委員会副主任、国際定期刊行物Saline Systems 副編集長、Appl Environ Microbiol及びBiotech 編集委員を担当。2000年度国家科学技術発明二等賞受賞。主に極限微生物の研究と利用に従事、工業バイオテクノロジーの発展に尽力。重要な応用価値を有する多くの極限微生物の新たな機能遺伝子を発見、同定し、その環境適応メカニズムを解明。J Biol Chem, J Bacteriol, Appl Environ Microbiol, Proteomics, Extremophiles 等の国際専門刊行物に論文50篇余りを発表、発明特許20件余りを出願。

 石油精製を基盤とした現代の工業体系は国家の経済発展の支柱であるが、再生不可能な化石資源への過度な依存のせいで、社会経済の持続可能な発展はまさにエネルギー資源の不足、生態環境の悪化という未曾有の困難に直面している。一方、バイオリファイナリーは生物という再生可能な資源を原料基盤として、エネルギーと化工製品を生産する新しいタイプの工業モデルであり、新たなバイオベース産業を創造する最も将来的可能性のある道と考えられている。エネルギー・資源・環境問題が日々深刻化するにともない、バイオリファイナリーはすでに世界各国の戦略的研究となっている。比較ゲノミクス、システムバイオロジー、高速計算技術の発展は、我々のためにDNA配列に基づいたタンパク質情報と、生物体外の生物物理及び生物化学的知識を提供している。生物体、特に微生物の潜在能力を発揮させるには、生物系統全体の枠組みの下で、微生物の遺伝子、タンパク質、ネットワーク及び代謝過程の本質を解析し、分子、細胞、生態系という尺度の上で、多水準、多段階的に微生物を認識、改造するとともに、微生物の広範な物質分解変換と卓越した化学合成能力を利用し、人工制御の組み換えと最適化によって、微生物の細胞代謝の物質の流れとエネルギーの流れを再分配し、微生物を名実ともに備わった一つの細胞工場に改造し、生物エネルギー及び、石油化工原料に代わるプラットフォーム化合物を効率よく調製することがぜひとも必要である。したがって、細胞工場はバイオリファイナリーの生物学的中核技術であり、その発展はバイオリファイナリーが徐々に伝統的な石油精製にとって代わることを促し、人類の直面している日々深刻化するエネルギー・資源・環境問題を解決するであろう。

1. バイオリファイナリー細胞工場の直面している重要な問題

 経済の持続可能な発展には、高効率で経済的な現代のバイオリファイナリー技術体系が必要である。バイオリファイナリー過程の鍵は、バイオマスの利用率と製品の指向的合成能力を高めることにあり、この技術上のボトルネックを解消する鍵は、指向的変換・合成能力を有する細胞工場を設計、構築、適性化することであり、それにはバイオリファイナリー細胞工場の構造、コントロール、性能等方面の鍵となる問題を解決することが必要である。

1.1 微生物糖代謝の分子基盤と相互作用

 バイオリファイナリー技術のボトルネックとなっている問題の一つは、リグノセルロースの生物学的利用・変換能力であり、微生物の代謝能力を高めることは我々の直面している主要な任務である。現在、自然界にはなぜ五炭糖と六炭糖を同時に、かつ等価に代謝できる微生物が一つもないのかということを、我々はまだ十分に理解できていない。さまざまな微生物の細胞内の物質分解・変換メカニズムについても、あまりよくわかっていない。また、生物体内の代謝経路は往々にして、一つの酵素またはタンパク質によって制御されているのではなく、経路中の分子の相互作用の影響と全局的制御を受けている。微生物代謝ネットワーク中の代謝物ノードの間、代謝物と酵素の間、酵素と補因子の間、酵素と酵素の間の相互作用を理解していなければ、改造すべき鍵となるノードを探し出すことにより、微生物の代謝能力を最適化するということはできないのである。

1.2 細胞工場のコントロールシステム

 微生物による大口化学品合成の経済性の問題は、バイオファイナリーの不足と石油精製の競争における主要な問題であり、微生物の代謝産物が過量に合成できないことは、その長期にわたる進化及び生存本能と関係がある。微生物は一つの立体的細胞工場として、その代謝経路は往々にして独立したものではなく、複雑な代謝ネットワークの中に存在しており、かつ種々さまざまなコントロールネットワークの制約と制御を受けているため、微生物代謝はその自然の使命を達成することにのみ忠実で、産業的期待とは遠くかけ離れたものとなっている。全体的に言って、今日、微生物代謝のコントロールに対する認識にはまだまだ限りがある。したがって、バイオリファイナリーに用いる高効率の細胞工場を構築するには、さらに生物の代謝メカニズムを理解した上で、細胞のコントロールメカニズムについて認識し、遺伝子の発現コントロールネットワークを再構築し、それによって、代謝経路と合成システムをどう合理的に設計するかをよりうまく指導し、細胞代謝の物質の流れとエネルギーの流れを分配し直し、化学品の合成効率を高めることが必要である。

1.3 細胞工場の構築

 バイオマス資源を利用して化石資源を代替させるには、さらにバイオリファイナリーの能力範囲の問題を解決し、多様な化学品体系を確立することにより、産業ニーズに応えることが必要である。微生物代謝の分子基盤、相互作用、コントロールメカニズムを発見、認識し、微生物細胞工場の設計のために理論基盤を築くにあたって、より重要なことは、生物合成システムの構築・最適化原理をさらに一歩進んで理解・把握し、さまざまな経路の組織戦略と遺伝子改造方法を開発・開拓することによって、有効な細胞工場を作り出し、それに一種類または多種類の化学品を過量に蓄積させること、さらには、それが元来決して合成しない製品も生産させて、伝統的石油加工製品の生物合成経路のニーズを満たし、それにより、微生物を一つの名実ともに備わった細胞工場にしなければならないということである。

1.4 細胞工場の最適化(産業適応能力の向上)

 大口化学品のバイオリファイナリープロセスは往々にして、収量が十分に高く、培養基組成及び操作工程が十分に簡単であることが求められるが、それは産物の生産速度、収率、最終濃度を上げ、工業菌株の栄養要求性を下げ、かつその基質及び産物の耐性を高めること、すなわち細胞工場の産業適応能力を高めることが要求されるということである。細胞工場の適応能力を高めることによって、初めてその実際の産業応用能力を実現し、高収量、高効率の経済的な現代工業のバイオテクノロジー産業の発展のために、サポートを提供することが可能になるのである。

2. バイオリファイナリー細胞工場についての研究の進展

2.1 微生物の糖代謝変換

 バイオマスは成分の多様化と構造の複雑性のせいで、微生物によって完全に利用されることが非常に難しい。植物繊維材料の加水分解液中では、グルコースが約65%、キシロースが約25%を占めるが、セルロースの加水分解液からグルコースとキシロースを別々に分離してくることは非常に難しく、操作コストも高い。したがって、五炭糖に対する微生物の利用を実現すること、特に五炭糖/六炭糖の同時利用を実現することは、バイオリファイナリー過程のコストを低減させることになる。

 現在、ペントース(五炭糖)代謝についての研究は、主にペントース代謝経路の導入に集中している。アメリカとオーストラリアの研究者は、大腸菌における五炭糖(キシロースとアラビノース)利用の経路をザイモモナスモビリスに導入し、さまざまな糖代謝経路の組み換えを実現し、工学的細菌に木屑加水分解液(主要成分はキシロース)を利用してエタノールを生産させた。オランダの研究者は酵母菌に外界由来のキシロースイソメラーゼを導入し、構築された工学的細菌は合成培養基の中でキシロースを利用して成長し、グルコースを用いて培養するのと同程度の収量を達成することができた。この結果もまた、簡単な代謝工学的改造を経れば、高効率のペントース発酵酵母の工業菌株が得られるということを証明している。キシロースの膜貫通輸送はキシロース利用におけるもう一つの障害と考えられており、しかもかなり重要な制限要因である可能性がある。研究者は一株の工業菌株について、キシロース制限の条件下でのナチュラルスクリーニングを行い、グルコース存在下におけるキシロース利用速度の高い菌株を獲得し、混合糖発酵によるエタノール収率が0.49g/gに達した。この分野では、国内外の研究はいずれも相対的に少なく、キシロース輸送システムについての理解が比較的浅いため、当該分野は新たな研究の焦点になる可能性がある。中国科技部973計画「バイオリファイナリー細胞工場の科学的基礎」の支援の下、中国の科学研究者は有芽胞桿菌、クロストリジウム・サーモセラム、クロストリジウム・アセトブチリカムを対象として、膜プロテオミクス研究を行い、クロストリジウム・サーモセラムの膜タンパク質の中から35個のタンパク質複合体を発見した。これを踏まえて、ゲノム、プロテオーム、トランスクリプトームのレベルから分析を行い、差次的プロテオーム解析により、大量の遺伝子が差次的に発現されていることを発見し、糖代謝のコントロールメカニズムを認識するための情報を提供した。我々はさらにタンパク質輸送活性を評価する一組の高フラックス・スクリーニング体系を確立し、キシロースの輸送タンパク質の分子改造を行った。得られた突然変異株のキシロース輸送基質類似物の能力は、野生型の8倍に高まった。

2.2 細胞代謝ネットワーク及びコントロールネットワーク

 大腸菌、乳酸菌、バシラス・サブチリス、コリネバクテリウム・グルタミクム、酵母菌、黒色アスペルギルスなど多くの重要な工業微生物の高解像度代謝ネットワークが、相継いで確立されている。これらのネットワークを利用して、ネットワークのトポロジー特徴を計算したり、線形モデルを構築したりすることができる。これらの代謝ネットワークモデルは、我々がシステムレベルから複雑な微生物代謝機能を認識し、細胞の生理学的属性を認識し、遺伝的変化または環境変動後の細胞の代謝応答を予測し、形質転換したターゲット遺伝子をバーチャルスクリーニングして、細胞工場の設計と構築の指導に用いることを可能にし、また新しい生物メカニズムの発見を促進することも可能にした。

 韓国の研究者はルーメン細菌のゲノム配列を測定するとともに、代謝ネットワークを再構築した。代謝流束解析から、二酸化炭素消費、PEPカルボキシラーゼ反応とコハク酸生成には密接な関係があることがわかった。ネットワークの遺伝子ノックアウト予測と実際の測定結果は、ぴったり合致した。Jens Nielsenの研究チームは酵母菌代謝ネットワークについてのシミュレーションを通じ、エタノール収量を高める代謝工学的戦略―酸化還元代謝を変えてグリセロール産生を減らし、エタノール収量を増やすこと―を提示した。コンピュータシミュレーションの指導の下、グリセロール産生は40%低下し、キシロース、グルコース混合培養基におけるエタノール収量は25%増加した。環境因子及び32株の遺伝子ノックアウト工業菌計266種の組合せの下におけるトランスクリプトームの定常状態または動態の変化を測定することにより、古細菌Halobacterium salinarumの動態コントロールネットワークモデルを構築し、得られたネットワークは9種の環境因子と72個の転写調節因子に応答することができた。このモデルが他の147の独立した実験によって得られるトランスクリプトーム・データをきちんと予測することができたことは、このデータドリブンによって確立されるコントロールネットワークがすでに相当完備していることを示している。中国の研究者は代謝ネットワークのフラックスバランス解析という手段を通じ、E.coliゲノム尺度のin silico モデルiJR904(904個の遺伝子、931の反応、625個の代謝物)を使用して、コハク酸の理論的最大収率が1.60mol/molグルコース(乾式試験)であることを究明した。実験で測った代謝フラックス(湿式実験)と比較することにより、さらに一歩進んだ代謝工学の3つの標的キー遺伝子と経路(PTS、ピルビン酸カルボキシル化経路、グリオキシル酸サイクル)を確定し、最終的に代謝工学的操作を通じて、工業菌株のコハク酸収率は1.29mol/molグルコースに達し、当該モデルが良好な予測及び指導価値を有していることが実証された。

2.3 細胞工場の構築

 DNA組み換え技術、代謝工学、システムバイオロジー、合成生物学技術の急速な発展にともない、細胞工場の構築は理論予測から実際の操作、さらには工業化生産まで、いずれも長足の進展を遂げてきた。細胞工場合成システムの構築戦略は二種類に分かれている。一つは細胞自身の代謝ネットワークを改造し、標的製品を専一に生産する合成システムを再構築することである。現在、研究者たちはD-乳酸、ピルビン酸、酢酸、コハク酸、ブタノール、1,2-プロピレングリコール、L-バリン、L-スレオニンなどの製品を生産する大腸菌細胞工場、各種アミノ酸を効率よく生産するコリネバクテリウム・グルタミクム細胞工場、ブタノール、1,3-プロピレングリコールを効率よく生産するクロストリジウム・アセトブチリカム細胞工場、エタノールを効率よく生産する好熱性細菌(Thermoanaerobacterium saccharolyticum)細胞工場の構築にすでに成功している。もう一つの細胞工場構築戦略は、新しいタイプの代謝経路を導入し、細胞中に一つの新しい合成システムを構築することにより、それ自体には決して合成できない製品を生産させるというものである。この戦略もまた三つの段階に分かれている。一つ目は微生物の天然代謝経路を異種宿主菌に導入し、それ自体では合成できない天然製品を生産できるようにするものであり、現在、研究者らはすでに大腸菌とサッカロマイセスセレヴィシエの中に、エタノール、L-乳酸、キシリトール、L-アラニン、1,3-プロピレングリコール、イソプロパノール、ブタノール、ヨモギスズメノカタビラ酸、フラボノイド類化合物の合成システムを構築することに成功している。第二段階は、微生物の天然合成経路を拡張して、非天然製品を生産させること、すなわち、定性的に進化改変した合成経路中の鍵酵素の触媒特異性を利用するか、またはバイオテクノロジーの組み合わせを利用して、さまざまな微生物の合成遺伝子を整理統合することであり、いずれも新しい化合物を産生することができ、この方法はすでに新しいタイプのカロチンを産生する大腸菌細胞工場を構築することに成功している。第三の段階は非天然経路のデ・ノボ 設計(de novo design)であり、すなわち、細胞工場の合成能力をよりいっそう拡張するには、既存の天然合成経路の制限を打破し、非天然の高効率な合成経路をあらためて設計することが必要である。James Liaoの研究チームは大腸菌代謝ネットワークにケト酸脱炭酸・還元経路を導入し、一つの新しいタイプの長鎖アルコール合成経路を設計した。Cargill社は非天然の酵素触媒反応(アラニンイソメラーゼ)を開発することにより、一つの新しいタイプの3-ヒドロキシプロピオン酸合成経路を設計した。中国の技術者はすでに、エタノール、ピルビン酸、コハク酸を産生する大腸菌、3-ヒドロキシプロビオン酸を産生するカンジダ菌、エタノールを産生するザイモモナスモビリス、ブタノールを産生するクロストリジウム・アセトブチリカムなどの細胞工場モデルを構築することに成功している。リポアミドデヒドロゲナーゼ遺伝子の欠けた大腸菌を構築し、炭素源として高濃度のキシロースまたは果糖を利用し、ピルピン酸が生産できるようになった。大腸菌中にザイモモナスモビリスのピルビン酸デカルボキシラーゼとエタノールデヒドロゲナーゼを発現させたところ、エタノール収量が26倍になった。グリセロールデヒドラターゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子をCandida glycerinogenes細胞に導入し、3-ヒドロキシプロピオン酸細胞工場を構築し、糖質原料から3-ヒドロキシプロピオン酸への直接的変換を実現した。ザイモモナスモビリス中にキシロースイソメラーゼ、キシルロースキナーゼ、トランスアルドラーゼを発現させ、組み換え菌によるエタノール収量を44.7%増やした。ザイモモナスモビリスの遺伝子チップの解析結果に基づき、ザイモモナスモビリス中のフルクタンインベルターゼ遺伝子をノックアウトしたところ、エタノール収量が19%高くなり、スクロースがエタノールに変換する収率が80%から95%に高まった。このほか、クロストリジウム・アセトブチリカム中にギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を発現させたところ、細胞内NADHの濃度が上がり、工業菌株によるブタノールの代謝の流れが強化され、グルコースに対する変換率が27%高まった。

2.4 細菌工場の最適化

 高効率の細胞工場は優れた産業適応能力を具えていなければならない。現在、微生物の生理的性能の最適化と、産業適応能力の向上に用いる戦略は主として二種類ある。一つ目は、代謝技術の進化であり、外国の研究者はこの技術を利用して、大腸菌細胞工場のエタノール、D-乳酸、L-乳酸、L-アラニン、コハク酸生産の産生速度、収率、最終濃度を大きく高め、栄養要求性を引き下げ、基質と産物の耐性及び、リグノセルロース加水分解液中の毒性物質に対する抵抗力などを高めてきた。二つ目は、グローバル・パータベーション技術であり、それは的をしぼって微生物ゲノムに突然変異を引き起こし、高フラックス・スクリーニングのターゲットの生理的機能と結びつけることにより、遺伝的背景のはっきりした代謝工学的細菌を得ることができ、かつ最適化した生理的機能をその他の細胞工場に手軽に移すことができる。グローバル・パータベーション技術には主に、トランスポゾン突然変異、プラスミドのコードするゲノムライブラリー、グローバル転写機構改造、転写因子改造、リボソーム改造、ゲノム再編成技術などがあり、これらの技術もすでに細胞の抵抗機能の向上、ターゲット製品の合成の最適化にうまく活用されている。研究者は大腸菌、クロストリジウム・アセトブチリカム、コリネバクテリウム・グルタミクム等モデルの細胞工場の最適化を行い、現在すでに細胞工場の生理的機能、抵抗力、生産能力を高める一連の鍵となるターゲット遺伝子の同定に成功している。放射線耐性遺伝子(irrE)をザイモモナスモビリスにクローニングし、組み換え菌株の抵抗力(高温耐性、高糖耐性、エタノール耐性、副産物耐性)を著しく向上させた。遺伝子発現システムを最適化し、コリネバクテリウム・グルタミクム中にPHAを蓄積することにより、細胞の乾燥重量を10%増やし、グルコースの消費を13%増やし、グルタミン酸の収量を23%増やすことができた。コリネバクテリウム・クルトゥナム、クレブシエラ菌、バシラス・サブチリス中にビトレオシラヘモグロビンを発現させたところ、宿主細胞の酸素に対する利用率が高まり、グルタミン酸、2,3-コハク酸、リボフラビンの収量が15~25%増加した。これらの成功の実例からも明らかなように、代謝工学によって微生物細胞を改造し、微生物の広範な物質分解変換及び卓越した化学合成能力を深く掘り起こし、それを名実ともに備わった細胞工場にすることは、完全に実現可能なのである。

3. 展望

 近年、グローバルな産業革命は炭水化物を基盤とした方向に向かって発展しつつあり、それはすでに社会の持続可能な発展の一つの重要な趨勢となっている。現有の技術はすでに数日間のうちに50kb以上の長さのDNA断片を合成することができ、遺伝子合成の費用もすでに0.5米ドル/核酸塩基まで下がり、低廉な価格と高速・高効率なDNA合成技術は、すでにゲノムの大規模合成のため、それによる人工生命・細胞の構築のために可能性を提供している。2008年、J.Craig Venter研究所はマイコプラズマジェニタリウムゲノムの合成とスプライシングを初めて完成させたが、これは生命科学研究におけるもう一つの里程標であり、また再生可能なバイオマス資源を利用した石油加工製品生産のために新たな基礎を築いた。予想可能な未来において、分子生物学、システムバイオロジー、合成生物学の急速な発展という背景の下で、ゲノム情報と遺伝子発現、分子機械、代謝経路、代謝ネットワークコントロール及び細胞機能の再構成原理をさらに理解することによって、細胞は完全に改造され、ひいては完全に創造されることさえできるようになり、それによって人造細胞工場が構築され、人類社会の持続可能な発展のために巨大な貢献を果たすことになるであろう。