地震関連トピック
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日本の大地震が与えてくれた4つの教訓

中国科技日報     2011年 7月11日

 3月11日13時46分、日本でマグニチュード9.0の地震が発生した。震源地は日本本州にある仙台港から東へ130km、震源の深さは24kmだった。東京でも強烈な揺れが感じられ、津波が発生するとともに、放射性物質漏洩危機が引き起こされた。

 科学者の話では、今回の地震の威力はすさまじく、地球全体が25mm動かされ、地球の自転速度や1日の長さが変化するなどした。また、地震による経済的損失は1,200~2,300億ドルと予測されている。

 〔2008年5月に中国で発生した〕 汶川・玉樹地震の喪もまだ明けぬうちに、今度は日本がマグニチュード9.0の大地震に襲われた。今回の災害において、人類が学ぶべきことは何か、とりわけ日本の地震が引き起こした大規模な津波と原子力安全事故は我々にどのような防災上の教訓を与えてくれたのだろうか。

原子力エネルギーの安全

見直しが必要な原子力発電所の耐震等級

 最近になって放射性物質漏洩事故は一定の転機を迎えたとはいえ、すでに問題続出の福島第1原発はおそらく「退役」の運命を免れないだろう。枝野幸男・内閣官房長官は3月20日、東日本大地震で被害を受けた同原発が最終的には廃炉になるとの見通しを示した。その前日には、日本は福島第1原発における放射性物質漏洩事故の評価尺度をレベル4からレベル5へと引き上げ、日本史上最も深刻な放射能漏洩事故となっていた。

 3月19日、あるメディアが開催した専門家とメディア関係者の座談会において、中国の多くの関連分野の専門家は今回の福島における原発事故の中国への影響について解説を行い、あわせて中国における原発の耐震等級見直しを指摘した。

 中国工程院院士・中国核工業集団公司科技委主任・中国核学会常務理事の潘自強氏は、福島での事故発生後、中国における核と放射能の安全について各方面の検査が行われるとともにガイドラインが制定され、核・放射能に対する安全問題は強化されたとの意見を提示した。

 中国核学会顧問・中国電力投資集団公司核電部専門家の兪卓平氏は、福島の事故後、世界の原子力発電業界は、今後の原発の耐震等級や防波堤の高さなどといった非常に多くの教訓を得られたことから、反省を経た上で改善がなされるだろうとの考えを示した。ただし、兪氏は「どのような技術であれ危険は付きものであり、いわゆる100%安全というものは現実にはあり得ない」と強調した。

 また兪氏は原発の安全問題について、世界の原子力発電業界と国際原子力機関(IAEA)が評価を行っており、また中国核安全局も原発の設計や運行などの評価について議論を進めていることから、耐震等級や大津波に対する耐性の必要性などについてはこれらの議論の後に決定されるだろうと述べた。

 「世界で最も先進的な原子力安全技術を保有している日本が今回遭遇した原発危機は、中国の原子力安全計画に対して大きな警告となった」。秦山原発の設計総責任者である欧陽予氏は、中国が今後の原発建設において、原子力施設としての要求に照らして全面的な安全管理を推し進めて、同時に第2世代の原発技術を第3世代のものへと代替して行くべきだとした。

津波警報

不足している津波観測のための基礎的設備

 3月11日、日本の沿海市町村の多くが地震の引き起こした津波に呑み込まれ、かつて世界記録としてギネスブックにも載った岩手県釜石港の「世界一の防波堤」も10メートルの高波には耐えられなかったことがニュースとなった。

 「日本ではよく地震と津波が発生するため、日本人は十分な知識と防備を持っていた。例えば、日本の建築物の防震機能はとても優れていた。しかし、地震は防げても、津波は防ぎきれなかった。水の力はあまりに大きすぎた」。中国国家海洋環境予報中心副主任の于福江氏はこのように述べた。

  「日本と比べて中国で大規模な津波が発生する確率は低いと言えるが、一部の地域には一定の危険性がある」として、于氏はフィリピンのルソン島の西側にあるマニラ海溝が比較的強い地震を引き起こしやすく、もしここで大きな地震が発生すれば、中国の南海地区、とりわけ珠江の河口が影響を受けると述べた。

中国ではすでに津波予報の研究が始められ、津波警報システムも構築されているが、先進国と比べて中国の津波に対する警報と防備は増強する必要があると于氏は指摘した。

 例えば、津波を観測する基礎的施設が明らかに不足している。津波ブイは津波を観測するのに最も有力な装備で、米国は津波ブイを現在40数個保有し、この10年間で10億ドルを投入して観測、警報、衛星通信システムを整備して来た。こうした米国と中国との差は大きい。

 また、災害情報速報システムの構築もまだ不十分である。同システムはまたの名を津波警報の「ラスト・マイル」と呼ばれ、「もし災害速報が政府や一般の人々の手元に届かなければ、それまでの作業などがすべて無に帰する」。于氏によれば、目下のところ、電話、ショートメールなどの方式によって情報は速やかに関連部門に送付されるが、公共サービス面ではテレビ、ラジオ、微博(マイクロブログ)などに頼るところが大きいとのことである。

 さらには、防災・減災文化の教育・周知が滞っていることが挙げられる。防災・減災は中国の学校や社区などにはまだ十分根付いていない。青少年の地震・津波災害に対する知識はかなり欠如しており、社区では、災害発生の際にどのように住民を疎開させるか、対応措置を整備する必要がある。

 于氏がとくに言及したのは、地震・津波といった災害は国家の経済的発展に影響を及ぼすことから、国家は発展計画において津波の影響を考慮するだけでなく、沿海地域の施設や大型建築物を厳格な国家基準に基づいて建設しなければならず、そのためには「好き勝手し放題」な状況の存在を許容せず、まずは建築物がどの程度の災害に耐えうるのかを算出する必要があるということだった。例えば、沿海地域の発展には海の埋め立てを伴うものだが、これは海洋災害の脅威にさらされる可能性が出て来ることを意味する。沿海地域の産業計画は必ず海洋災害アセスメントを経るべきだろう。

建築物の耐震

引き上げが必要な耐震基準、発展する免震・減震建築

 「日本で発生したマグニチュード9の大地震は、我々に警告を与えてくれた。中国の耐震基準を引き上げるべきだ」。

 地震の専門家で、中国工程院院士・広州大学工程抗震研究中心主任の周福霖氏はインタビューで、中国の建築物の耐震防備は法で定められているとしつつ、「国の測量探査法は、国が公布した震度に照らして調査を進めて耐震基準を審査・決定しなければならないことを明確に規定している。問題は耐震震度が低すぎるということだ。例えば、日本では基本地震加速度を0.3Gと定めているのに対して、中国の設計基準はわずか0.1Gだ。中国の経済発展はここ2、30年のことであり、従来のこうした基準が低いのは当然の現象ではある。防備基準を引き上げる必要があり、そうしてはじめて大地震を防ぐことができる」との見解を示した。

 統計によれば、日本にはすでに4,000棟あまりの免震建築物があるが、中国ではわずか1,000棟ほどで、そのうち広州には20棟あまりがある。また、減震建築物も日本では非常に普及しているが、中国ではまだまだである。周氏は、免震、減震、制震はすべて「柔を以て剛を制する」という優れた耐震方法であり、今後の潮流で、その効果は建物の柱を強化する「強化による耐震」より遙かに勝っていると考えている。

 免震・減震構造はまた「有効かつ安価」な技術だと言われる。簡単に言えば、建築物の下部に柔軟層を作って、地震が来た際に「柔を以て剛を制する」効果を作り出すのであり、伝統的な「強化による耐震」から「柔軟性による耐震」への転換である。台湾海峡で発生したマグニチュード7.3の地震や雲南省武定で起きたマグニチュード6.5の地震では、伝統的な耐震建築物が激しい揺れに見舞われ、屋内では人が立っていられなかったことに比べて、新技術を採用した耐震建築物では人々はほとんど揺れを感じなかった。

 周氏によれば、免震技術を採用した建築物は国内では20階程度が限界だが、日本では50階建ても可能になっており、中・高層建築物は減震技術を採用しているとのことだ。建築物の免震・減震は未来の発展的潮流であり、今後2、30年で中国でもますます増えて行きそうだ。

科学的知識の国民への普及

中国人に早急に必要な科学的素養の「補習授業」

 日本での地震発生後、「月の地球への大接近」がネット上で騒がれ、さらには塩〔中国ではヨードが添加された塩が広く普及している〕 を食べると放射能を予防できるとして「塩を求めて人々が殺到」した。公共安全上の事件が発生した後、中国人の科学的素養は試練に耐えられなかったのである。とはいえ関係者は、荒唐無稽な「塩への殺到」現象であれ、実際にはあり得ない「月の地球への大接近」であれ、人々はそんなことがあり得ないということにすぐに気付いたと指摘している。つまりは絶好の補習授業への入り口となったのである。

 少なからぬ人々が「塩への殺到」現象を振り返りながら、中国人は科学的素養をもっと身につけるべきで、「補習授業」が焦眉の急だと述べる。デマが騒ぎになったら、人々の間で権威のある科学者がテレビで講演するか、あるいは大衆向きの分かりやすい文章を書けば、各種のデマによって人々が分別を失うことを制止するのに有効だというのだ。

 ただし、大衆と密接な結び付きがあり、人々の心中に入り込んでいてかつ権威のある科学者は決して多くはないだろう。

 多くの科学者は、現状では科学者が科学知識の啓蒙に携わるには制度的な保障が欠けていると指摘する。例えば、こうした啓蒙活動は業績評価として加算されないだけでなく、場合によってはマイナスにすらなってしまうというのだ。こういった状況が改善されない限り、科学者の気は削がれ、我が国の科学知識普及事業の制約となり続けるだろう。

 著名な科学作家である卞毓麟氏は「国家の強さは国民の素質の高さと切り離すことができず、素質の高い国民は必ず科学的な知識で武装している。“月の地球への大接近”や“塩への殺到”は、現代社会における科学技術の発展は日進月歩であり、科学的知識普及能力を確立し、新たな科学知識普及形式を創り出し、科学知識普及ネットワークを構築して、国民の科学的素養を引き上げることが急務だということを示唆している」と述べる。