光ファイバセンサに対する放射線の影響に関する研究の状況
2011年10月17日
周 次明(Zhou Ciming): 武漢理工大学教授
光ファイバセンシング技術国家工程実験室 機器・ネットワーク研究室主任。1973年5月生まれ。2003年、華中科技大学物理電子学専攻卒(工学博士)。2011年、カナダ・トロント大学客員教授、S PIE会員。国家自然科学基金重点プロジェクト2件、湖北省自然科学基金重点プロジェクト1件を主管。「863計画」などの各種研究プロジェクト10数件に成功。省レベルの科学技術賞の1等賞(2件)お よび2等賞(2件)を獲得。発表論文30編余り。主な研究分野:光ファイバ電流センサ、新型光ファイバセンサとその実用、光ファイバレーザ、光ファイバセンシングによるモノのインターネット(IoT)。
共著者:張 方、丁 立、姜 徳生
1. はじめに
宇宙や核反応、高エネルギー素粒子実験等の環境下で、各種機器・設備はさまざまなレベルでα線、β線、γ線や電磁パルス等の粒子による放射線照射を受け、機 器の素材や特性に著しい変化が生じる可能性があることから、深刻なシステム故障を引き起こし、設備の安全性に脅威となることさえある。しかし、放射線などの影響により、作 業員が当該環境下で部品またはシステムを直接修復することができず、莫大な経済的損失をもたらすこともある。例えば、宇 宙空間で作動する衛星はいったん軌道に投入されると衛星内の設備の修復はほとんど不可能であり、特に、強い放射線環境に直接さらされる各種部品の温度、応力変形、変位などのパラメータについては、オ ンライン観測をリアルタイムで実施する際は、センサの耐放射線性能に対する要求がさらに高くなる。このため、これら機器・設備に対する放射線の影響を詳細に検討し、かつ、設 計や設置に際しては特別な措置を講じる必要があり、特に当該環境で実用化される各種センサに大きな関心が集まっている。
光ファイバセンサは、光ファイバを利用して外界物理量およびその変化を観測すると同時に、光ファイバにより被験パラメータを帯同する光信号を遠隔端末まで伝達し、セ ンシングと送信の一体化を実現した新型センサとなっている。数十年間の発展により、光ファイバセンサは国内外で広く重視され、海外ではすでに軍用および民用分野の一部で実用化されて良好な成果を得ており、従 来のセンサでは実用化が難しかった劣悪な環境下でも高い将来性のある一種のセンサとして広く認識されている。放射線環境下における光ファイバセンサは重要な研究分野の一つであり、国内外ですでに、放 射線環境下における各種主要光ファイバセンサの特性について多くの研究が行われているうえ、その一部は実用化されている。本稿では、ファイバブラッググレーティングセンサ(FBG)、ファブリ・ペロー式(FP)光 ファイバセンサ、分布型光ファイバセンサならびに放射線環境下における光信号の性能およびいくつかの実験結果を総合的に紹介することで、放 射線環境下における光信号の伝送および耐放射線光ファイバセンサの研究開発のために参考情報を提供する。
2. ファイバブラッググレーティングセンサ(FBG)
図1 中性子流量に対する波長の変化
FBGの基本原理は、外界環境の作用によりBraggの中心波長にドリフトを生じさせ、この波長のドリフト量を測定することにより外界の温度、応力などの変化を測定するものである。F BGは軍用および民用分野ですでに多くの実用例があり、放射線環境下での実用研究も多くなされているが、光ファイバ回折格子に対する放射線の作用メカニズムについては今なお論争がある。例えば、K. Fujitaらは、光ファイバ回折格子に対する放射線の影響には、光ファイバそのものの化学組成と回折格子の書き込み方法が関係すると考える。そのため、位 相マスク法を用いて各光ファイバ上に回折格子を書き込んだうえ、ファイバブラッググレーティングセンサ(FBGs)を中性子とγ線の放射線環境下にそれぞれ置いて測定を行った。中性子の放射線環境下では、中 性子流量の増加につれて波長は軽微な増加傾向を示す。流量と波長の関係は図1のとおりである。流量が1.0×107n/cm2を超えるとGr2の波長は明らかに変化し、かつ、この変化は可逆性を呈する。こ れらの変化は、応力または回折格子の湾曲でよるもので、放射線によるものではない。当該実験は、γ線照射と中性子照射の結果は基本的に同じであり、放射線により波長のシフトが引き起こされ、かつ、こ のシフトは予測・修正可能であることを証明している。
しかし、Henning Henschelらは、放射線による回折格子の波長のシフトと光ファイバの化学組成との関係は小さいと考える一方、光ファイバの水素負荷プロセスにおいて、水 素圧力の強度により波長の変化に違いが生じ、さらに回折格子の書き込みプロセスにおける光ファイバの張力の増大により回折格子屈折率の増大がもたらされ、回 折格子の放射線感受性に影響する可能性があると考えている。Henschelらはコーニング社とFiberLogix社の光ファイバにそれぞれ異なる圧力で水素を負荷し、回折格子の書き込み時には、被 験光ファイバに標準張力と受容可能な最大張力をそれぞれ印加し、回折格子に書き込んだ後に一部の回折格子を改めてコーティングした。照射前後の回折格子の波長の変化を比較すると、照 射時間内のBragg回折格子のピークは高くなり、水素負荷をしなかった回折格子の波長シフトは小さくなり、水素負荷圧力が100 barと200 barの回折格子には顕著な変化はなかった。しかし300 bar時では、コーニング社の光ファイバの変化は非常に小さいが、FiberLogix社の光ファイバには100 barと200 bar時と比べ明らかな変化が見られた。回折格子書き込み時の張力の変化は、コ ーニング社の光ファイバにはほとんど影響がなく、FiberLogix社の光ファイバでは、張力が最大の時の光ファイバの波長シフトが24%減少した(図2と図3を参照)。
図2 コーニング社の光ファイバの/図3 FiberLogix社の光ファイバの波長シフト波長シフト
このため、光ファイバ回折格子に対する放射線の作用メカニズムに関する研究は、なお継続して進める必要がある。さまざまな放射線量やドーパント、コーティング素材、そ して書き込み方法による光ファイバ回折格子の耐放射線性能に対する影響についての研究はすでに大量の実験結果を見ている。A. Gusarov、Fernandezらはそれぞれ一連の実験の結果、高 強度のγ線放射環境下では、放射線は光ファイバ回折格子の波長のシフトにのみ影響し、長時間にわたり低強度の放射線照射を受けた回折格子における光ファイバの感光性の変化は小さい一方で、さ まざまなコーティング素材及びドーパントを施したコアについては、ベアファイバは最も低い放射線感受性を示し、o rmocerコーティングを有する光ファイバ回折格子に最大のピーク値オフセットが見られることを発見した。さらに、さ まざまなドーピングを施したコアを有する光ファイバ回折格子を核放射環境下において安定性を観察したところ、水素を負荷した回折格子に比較的高い放射線感受性があり、高 濃度のGeドープ光ファイバがより安定していることがわかった。回折格子に書き込まれる従来型のレーザは強度の低い紫外線レーザであったが、A. Gusarovらは強度の高い紫外線フェムト秒レーザを採用してさまざまなタイプの光ファイバに回折格子を書き込んだところ、γ線照射環境では、すべての光ファイバの波長のシフトがほとんど同一であり、異 なるタイプの光ファイバの回折格子の強度には非常に小さなシフト差しかないことがわかった。これらの紫外線照射技術は、放射線環境下における回折格子の研究に、さらなる実用化の可能性を提供した。
つまり、上記の放射線環境下におけるファイバブラッググレーティングセンサの研究結果によれば、FRBに対するγ線照射の影響の特徴は、Braggピーク値の長波長側へのシフトである。セ ンサの耐放射線性能は光ファイバ素材、ドーパント濃度および回折格子の書き込み方法と相関性があるだけでなく、回折格子書き込みプロセスにおける水素負荷の強さや光ファイバ張力、回 折格子の再コーティングプロセスの違いによりある程度の差が生じる。
3. F-Pセンサ
ファブリ・ペロー式光ファイバセンサ(F-Pセンサ)の基本原理は、F-Pハウジング上で作動する外界物理量に変化が生じた際に、ハウジングの長さもこれに伴い変化し、出 力される干渉縞に変化が生じるため、観測された回折格子の大きさと方向により、外界物理量の変化の大きさを求めることができる。Francis Berghmansらは、線量率114 Gy/h及び3.4k Gy/hでF-P温度・応力センサに照射を行ったところ、温度センサで検測された温度値に明らかな降下が見られ、照射を停止した後もわずかしか回復しなかった。これは、放 射線照射による波長選択の吸収により引き起こされたものである。応力センサについては、受けた総線量の違いにより、測定結果について放射線により信号の減衰がもたらされ、かつ、有効波長域の干渉縞が消去され、当 該センサは放射線照射を受けた後は正常に作動しないことがわかった。そのうえ、この減衰は照射された総線量とは相関性がなく、3つのF-Pセンサで生じた現象は一致するものであった。
温度センサの実験において、光ファイバの熱光学係数が温度変化を計る重要な要素である。Cheng -Chih Laiらは、照射前後のコーニング社のシングルモード・光 ファイバの熱光学係数の変化を測定・分析した。そこから得られた結果によると、照射後にすべてのセンサの測定結果は基本的に同じになるうえ、出力される信号は0~150℃の範囲内で周期的な変化を呈し、信 号の強度と温度変化の相関を示す理論曲線は基本的に一致する。さらに、これらF-P温度センサは熱光学係数の相対変化量が3%を下回り、放射線量が1 MGyを上回らない環境下に適応することが分かった。
Han ying Liu及びDon W.Millerらは別の種類のF-Pセンサを紹介しており、これらセンサには独自のシグナル処理技術及び動力損失を低減させる特性があり、放 射線量が133Mradを上回る際も、センサの性能には顕著な後退は見られず、正常に作動する。
このため、F-Pセンサは比較的大きな線量の放射線(3.3kGy)を受けると温度の誤差が大きくなり、有効区間の信号の減衰も深刻であるが、低線量の放射線環境下では良好な測定効果を示す。信 号処理と動力損失の低減技術に改善があれば、放射線レベルの高い環境下でも良好な測定効果を示すだろう。
4. 分布型光ファイバセンサ
図4 ブリルアンセンサ装置
グレーティングセンサおよびF-Pセンサと比較すると、分布型光ファイバセンサは光ファイバ全線をセンシングメディアとしており、分布型の測定を実現でき、波長変化の制約を受けることもないため、放 射線環境下での実用において将来性が見込める。レイリー散乱光センサは製造及び使用上の不便、温度測定範囲の狭さなどの要素から、センシング技術における研究及び実用が徐々に減少し、現 在はブリルアン散乱光を利用した光ファイバセンサとラマン散乱光型光ファイバセンサが研究の中心となっている。
4.1 ブリルアン散乱を用いた分布型光ファイバセンサ
媒介分子の内部に一定形式の振動が存在し、媒介の屈折率に時間的・空間的な周期性起伏が生じることから、自発の音響波動場が生じ、光が光ファイバ媒介に指向入射された際に当該音響波動場の作用を受け、ブ リルアン散乱が生じる。外界気温または応力に変化が生じると、ブリルアン周波数がこれに伴って変化する。
放射線の影響で非常に大きな放射線の吸収が生じ、動力損失が増大したとしても、ブリルアン型センサは周波数調整を受けるため、放射線環境下でも非常に高い実用の潜在性がある。目下、ブ リルアン型センサは比較的新しい光ファイバセンサの一種であり、放射線環境下での研究および実用例は少なく、まだスタート段階にある。Dario Alasiaらはブリルアン型センサに対する核放射の影響を研究している。実験には標準的なGeドープ光ファイバを採用し、光ファイバを長さ50mの4段階のサンプルに分け、27 kGy/hの線量で同時に照射したが、4段階の光ファイバが吸収した放射線の総線量は異なった。実験結果によれば、放射線に誘導された動力損失がSN比に影響を及ぼし、放 射線総線量の増大に伴ってブリルアン周波数および線幅が非線形的な増加を呈した。放射線量が最大の時(約10MGy)、ブリルアン周波数および線幅の変化は約5MHzであった(表1参照)。
表1 ブリルアン散乱の特徴的パラメータ
このため、実用化においては、放射線によるブリルアン周波数のシフトは非常に小さく、周波数が調整された光ファイバセンサの耐放射線レベルは比較的高いことを物語っている。しかし、ブ リルアン光ファイバセンサに対する放射線の影響は、FBGに対するそれと同じであるか否かについては光ファイバの素材やドーパント、コーティングなどの要素と関係し、さらなる研究の価値がある。
図5 温度循環試験
よって、われわれは数種類の異なるコーティング素材を用いた光ファイバについて初歩的な実験を行った。炭素コーティング光ファイバ、銅コーティング光ファイバ、コーニング社の汎用光ファイバ、長飛社(※長 飛光纜。中国の光ファイバメーカ。)の光ファイバを6段階に分けて0.1 mSv/hの放射線環境下におき、それぞれ1~6ヶ月間放射線を照射した。実験ではDiTeSt STA-Rブリルアンセンサを用いた。セ ンシング原理は図4のとおりである。
放射線照射後の光ファイバをすべて未照射の光ファイバと溶接し、温度試験室に一緒に入れてブリルアンセンサを用いて計測を行った。温度循環範囲は0℃~80℃で、10℃ごとに1回計測したところ、図 5のような結果が得られた。放射線照射後の炭素コーティング光ファイバのブリルアン周波数は照射前に比べて約4MHz変化し、Dario Alasiaらの研究結果と基本的に一致した。しかし、依 然として約1MHzの差があるのは、光ファイバのコア素材、コーティング素材または放射線照射線量と関係するものであろう。光ファイバの一部の突起部分は光ファイバ同士を溶接したポイントであり、光 ファイバのその他の部分は照射前後でほとんど変化がなかった。銅コーティング光ファイバは10℃ごとのブリルアン周波数の変化が他の光ファイバと比べてやや大きかったが、こ れはコーティング素材そのものによるもので、放射線照射と関係しない。これら数種類の光ファイバのブリルアン周波数が比較的高い放射線環境下でどのように変化するかについては、現在研究を進めている。
4.2 ラマン散乱型光ファイバセンサ
ラマン散乱は応力に敏感でないが温度には敏感であるため、温度センサとしてよく使用される。冷却構造循環による熱疲労損傷を正確に推測するために、温度観測の必要性は高い。Fredrik Jensenらが、原子力発電所の原子炉冷却循環試験にラマン温度センサを用いて観測を行ったところ、原子炉の温度が80℃以下に維持された場合に、ラマンセンサに対する放射線の影響は小さく、室 温環境下と比べて、システムが300℃であったときの放射線による損傷は10倍低減された。実験結果によれば、放射線照射が200 R/hのときは、ラマンセンサは原子炉の冷却循環に用いることができ、放 射線の影響も比較的小さい。
Atsushi Kimuraらによれば、放射線によりラマン散乱のストークス光とアンチストークス光に変化が生じるため、これら変化によって生じる誤差を消去するために、彼 らは2種類の修正装置を用いてラマンセンサを改良した。そのうちの一つは熱電対修正装置(図6参照)であり、もう一つはループ型修正装置(図7参照)であった。
図6 熱電対修正装置/図7 ループ型修正装置
試験で得られた誤差値および損傷値は、放射線照射線量の増加に伴い飽和状態に向かった。また、試験により、Fドープ光ファイバのほうがOHドープ光ファイバよりも耐放射線性能があるうえ、い ずれの修正装置も温度測定に使用できるが、温度が急激に変化する場合は、ループ型装置の方が熱電対装置より安定性があり、正確であることがわかった。
しかし、修正技術によりシステムの複雑さが増大するうえ、劣悪な環境下では取り付け費用が高額になるため、A. Fernandez、P. Rodeghieroらは、商業用のマルチモード・光 ファイバの両端におけるラマン計測の方法により放射線照射で生じる損傷と誤差を解決し、特別な修正技術を必要としない方法を提案した。両端計測はシステム計測の正確さを高めることができ、かつ、光 ファイバそのものの強度の強度により、当該システムは放射線環境下での実用に一層適したものとなった。
試験の結果、ラマンセンサはその温度に対する感受性と分布型計測原理により、冷却循環システム、原子量廃棄物の処理、大型の原子力施設における計測などの放射線環境下で使用できることが分かった。& amp; amp; lt; /p>
5. 光ファイバの伝送に対する放射線の影響
光ファイバセンシングシステム全体の中で、光ファイバの伝送は極めて重要な部分であるため、放 射線環境下におけるさまざまな光ファイバの伝送によるパフォーマンスの研究はシステム全体における必要性が高い。先行研究によれば、光ファイバのコーティング素材は回折格子の感光性に影響することから、そ の耐放射線性能にも影響を及ぼすことや、放射線照射による損傷は光ファイバのドーパントと密接に関係すること、また、光ファイバモデルの選択と放射線量率の違いにより、光 ファイバの耐放射線性能にも変化が生じることが分かっている。
光ファイバの伝送に対する放射線の影響は、主に損傷および蛍光効果の発生にある。光ファイバは光ファイバセンサの重要な構成部分として、システム全体の耐放射線レベルに重要な役割を果たすため、異 なる放射線量レベルと実用環境に応じてふさわしい光ファイバの伝送方法を選択し、伝送過程におけるセンシング信号のひずみを極力減らす必要がある。
6. 終わりに
核放射環境下におけるパラメータ計測および観測制御は、長らく解決の難しい問題であったが、光ファイバセンサの発展により、選択可能な新技術が提供された。光 ファイバ回折格子は複数ポイントでの観測が可能な上に構造がシンプルである。しかし放射線の影響により被験パラメータ情報にbragg波長がもたらされるうえ、これらの影響度は光ファイバ素材やドーパント濃度、光 ファイバ回折格子の書き込み方法など多くの要素と関係し、さらには光ファイバ回折格子のコーティング過程とも関係するため、さらなる研究が必要である。F -Pセンサおよびラマンセンサは放射線レベルの低い環境下での測定効果が比較的良い。試験により、周波数調整センサであるブリルアン型センサは、ブリルアン周波数に対する核放射線の影響が小さく、そ の測定距離や精度も優れており、将来性が見込めることが初歩的に明らかになった。