第62号:ナノ材料科学
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リチウムイオン電池のナノフィルム電極材料

2011年11月21日

傅 正文

傅 正文(Fu Zhengwen):復旦大学化学系 教授

1998年、復旦大学卒(理学博士)。2000-2001年、北海道大学量子界面エレクトロニクス研究センターで博士研究員。2004年、ワシントン大学化学科で客員研究員。主に、全固体薄膜イオン電池の調製及びそのエネルギー貯蔵、太陽光薄膜材料の物理的・化学的研究に従事。国内外の重要な学術的定期刊行物等で論文130本以上を発表。引用は600回以上。1999年、上海市科学技術進歩三等賞。2005年、国家級教育成果賞二等賞。2009年、上海市自然科学賞三等賞。

共著者:周 永寧

1 はじめに

 リチウムイオン電池は軽量、高電圧、高容量、効率の高さ、放電の安定性、環境にやさしいなどの長所により、移動エネルギー貯蔵システムの中で潜在力が最も高いと認識されている。電極材料はリチウムイオン電池の中で中核的な構成部品の一つであり、電池性能に決定的な役割を果たす。新しい電極材料の模索と既存の電極材料の改良がこの分野における研究の主な目標となっている。近年、ナノテクノロジーの急速な発展に伴い、ナノ材料はその素材により異なる特殊性能によりさまざまな分野で広く注目されている。リチウムイオン電池の電極材料としてのナノ材料の運用にはその特殊性能による強みがある。例えば、ナノフィルム電極の厚さは一般に200nm未満で、粒子サイズは50nm未満である。この種の電極材料は充電・放電のプロセスでリチウムイオンと電子の輸送・拡散距離を大幅に短縮し、かつ拡散速度を向上させることができる。ナノ材料は、その大きな比表面積と多くの結晶粒界の存在のために、大量のリチウムイオンを急速に吸収・貯蔵できる一方で材料構造の悪化をもたらさない。このため、ナノテクノロジー及びリチウム電池の多くの研究者たちは、新型のナノ電極材料を共同で開発している。

 全固体薄膜リチウムイオン電池は薄膜化されたリチウムイオン電池の一種で厚さは20マイクロメートル未満であり、スマートカード、センサ、マイクロエレクトロニクス及びマイクロマシンシステム等の分野及びこれとマッチングするマイクロ電源として、軍事、医学、宇宙工学分野で実用化されている。電極材料の調製は一般的に、汎用されている液体電解質を用いたリチウムイオン電池の電極材料を薄膜化することにより実現されるが、薄膜電極材料の電気抵抗は一般に非常に小さく、カーボンブラック等の添加剤や接着剤をさらに加える必要がないため、薄膜電池の電極材料は一般に比較的純粋であり、電極活性物質の電気化学的属性の研究にとって条件がいい。

 ナノフィルム電極材料の研究は、薄膜リチウムイオン電池の電極としての電気化学的特性のみならず、体積の大きいリチウムイオン電池の電極材料の反応特性について研究する際の特有の方法である。本稿では、当実験室が近年、ナノフィルム電極材料について実施したいくつかの研究成果を含めて、ナノフィルム電極材料に関する研究の現状を全面的に紹介する。

2 ナノフィルム電極材料

2.1 LiMO型ナノフィルム電極

 LiMO型電極材料は最も広く実用されているリチウムイオン電池正極材料の一つで、主に層状構造とスピネル構造で構成される。このうち層状構造のLiCoO2は、現時点で商業化に最も成功した正極材料である。Tarasconらは、LiCoO2薄膜が薄膜リチウムイオン電池の陰極として利用できることを米国特許で最初に報告した。Dahnらは、レーザアブレーションによる積層法で初めてLiCoO2薄膜電極の調製に成功し、最終焼きなまし工程でLiCoO2には高温相のほか低温相も存在することを見出した。われわれの研究グループは、高周波マグネトロンスパッタリング法を採用してアモルファス及び傾向の異なる多結晶LiCoO2薄膜を調製した結果、焼きなまし温度の上昇につれてLiCoO2薄膜の結晶化度も高まることを見出した。Li/LiPON/LiCoO2全固体薄膜リチウム電池の電気化学試験結果によれば、比較的高い電流密度下での循環の際は、700℃の高温焼きなまし工程を経て調製された多結晶LiCoO2薄膜リチウム電池が最も優れた電気化学性能を示した。3.8~4.2Vで顕著な充放電プラットフォームが出現し、放電容量は55. 4 μAh/cm2μmに達し、循環性能は良好に維持された。

 層状構造のLiMO2型材料のほか、スピネル構造のLiMn2O4も薄膜電池の正極材料として研究された。Striebelらはパルスレーザー堆積法でLiMn2O4薄膜を調製したところ、薄膜は56μAh/cm2μmの可逆的比容量を有し、300回以上循環可能という電気化学特性を示した。われわれの研究グループは試みにZrO2をドープしたLiMn2O4薄膜を調製した結果、ZrO2のドープによりLiMn2O4薄膜粒子サイズを効果的に縮小できることを発見した。われわれはLiMn2O4/LiPON/Li及びLiMn2O4-ZrO2/LiPON/Li全固体電池をそれぞれ調製したところ、ZrO2のドープにより、もともとは4.0Vと3.0Vの2つの放電プラットフォームに位置していたLiMn2O4が3.0-4.0V間に位置する1つの傾斜的放電プラットフォームに変化するという電気化学特性を示した。これは、ZrO2のドープによりLiMn2O4の粒子サイズが効果的に縮小され、電極材料中の結晶粒界を大幅に増加させることによって電気化学反応プロセスにおける動力学的特性が変わったことによる。可逆的比容量は53μAh/cm2μmであった。この種の変化は薄膜電池の商業的実用化に資する。

2.2 LiFePO4型ナノフィルム電極

 LiFePO4はオリビン構造を有する正極材料であり、充放電プロセスで構造が安定しているため、大電流に適し、最も発展性のある正極材料として認識されている。しかし、現時点ではLiFePO4薄膜電極の研究に関する報告は比較的少ない。Sauvageらはパルスレーザー堆積法により、良好な結晶性を有するLiFePO4薄膜の調製に最も早く成功した。厚さは約300nmで、水性電解質及び非水性電解質のいずれにも優れた電気化学性能があることが見出された。Chiuはマグネトロンスパッタリング法による調製条件のLiFePO4薄膜性能に対する影響を研究した結果、-20Vのバイアス電圧下で堆積し、500℃で焼きなましたLiFePO4が最も優れた電気化学性能を示し、容量は170mAh/gに達した。

 LiFePO4の優れた電気化学性能及び安定した構造に鑑み、多くの研究グループが構造の類似する他のポリアニオン正極材料の調製を試みている。Westらは高周波マグネトロンスパッタリング法を用いてLiCoPO4薄膜を調製し、かつ、LiCoPO4/LiPON/Li構造による全固体薄膜電池の電気化学性能について初めて研究した結果、放電電位は4.8Vに達したが、比容量はわずか11μAh/cm2μmであった。われわれの研究グループは高周波マグネトロンスパッタリング法を用いてWO42-ポリアニオン・フレームのCuWO4及びLiFe(WO4)2ナノフィルムを調製したところ、CuWO4薄膜粒子のサイズは約20nmであった。電気化学特性試験の結果、放電プロセスには2.5V及び1.6Vに位置する2つのプラットフォームがあり、それぞれCu2+/Cu及びW6+/W4+の電気化学反応に対応した。CuWO4/LiPON/Li全固体電池は、最初の可逆的比容量が約65μAh/cm2μmであり、循環が進むにつれて容量の減衰が比較的顕著になるという特徴を示した。LiFe(WO4)2ナノフィルムもこれと同様、2つの放電プラットフォームを示した。それぞれ3.0V及び1.5Vに位置し、Fe3+/Fe2+及びW6+/Wx+(x=4或5)の電気化学反応にそれぞれ対応する。これを正極に使用して調製された全固体電池は、150回の循環を経てもなお、容量は56μAh/cm2μmを維持した。関心深いのは、この種のポリアニオン型正極材料は電気化学プロセスで2個の活性中心を示し、これには遷移金属Cu、Feの原子価の変化のみならず、Wの原子価の変化も含まれることである。

2.3 MX型ナノフィルム電極

 近年、ある新型の電極反応メカニズムが研究者たちから広く関心を集めている。それはナノ粒子に基づく変換反応メカニズムで既存のリチウム脱埋め込みメカニズムとは異なる。電気化学的充放電プロセスにおける反応式は一般に次のとおり。

 MX + nLi+ + ne- ↔ M + LinX

 MXが放電を経た後の生成物は一般的にナノレベルの金属粒子及びLinX化合物であり、金属粒子はLinX中に高度に分散する。充電のプロセスでMXはまた可逆的に生成されうる。これはナノ効果に基づく新たな電気化学反応メカニズムである。この種の反応メカニズムに基づく電極材料は非常に大きい可逆的比容量を持つ。例えば、ナノCoOの可逆的比容量は600mAh/gに達する。近年、この種の新型ナノ電極材料を薄膜電極とする研究も広く行われている。

2.3.1 金属酸化物MOナノフィルム電極

 2000年、Tarasconの率いる研究グループは、ナノ粒子の遷移金属酸化物は常温下でリチウムと可逆的電気化学反応を起こすことを初めてNature誌上で発表した。彼らの研究によれば、CoO、Co3O4、FeO、NiO等の遷移金属酸化物中にはいずれも類似の電気化学反応メカニズムが存在する。Dahnらは、in situ XRD及びin situ Mossbauerスペクトルを用いてナノ粒子で構成されるα-LiFeO2、β-Li5FeO4、CoO粉末電極を研究した結果、充放電プロセスでLi及び遷移金属原子の相互置換が存在することが同じように証明された。われわれの研究グループは、この種の新型の変換反応メカニズムによる電極材料を原料とした薄膜について最も早期に研究を行った。パルスレーザー堆積法により、われわれはNiO、ZnO、Ta2O5、Co3O4ナノフィルムを調製し、電気化学性能及び反応メカニズムを研究したところ、これら金属酸化物薄膜にはいずれもこの種の電気化学反応メカニズムが存在することが分かった。これら反応メカニズムに対する認識が深まるにつれ、われわれはこの反応メカニズムを他のタイプの金属酸化物にも応用できないかと考え始めた。その後、われわれはパルスレーザー堆積法によりSnO2、Sb2O3、In2O3和GeO2ナノフィルムを調製し、かつ、それらとLiの反応メカニズムを研究したところ、これら薄膜電極が1.0V以上にまで充電されたのちは、一部のLi2Oが分解され、かつ、新たに金属酸化物が生成されることが分かった。このことにより、この種の新型の変換反応メカニズムはナノレベルの遷移金属酸化物中に存在するのみならず、p系金属の酸化物中にも同様に存在することが見出された。

2.3.2 金属フッ化物MFナノフィルム電極

 Liらは、これら変換反応メカニズムは遷移金属フッ化物中にも同様に存在することを最初に報告した。彼らはTiF3及びVF3に関する研究により、充放電プロセス中のTiF3及びVF3は可逆的に分解・形成されうることを見出した。容量は約500~600mAh/gで理論上の反応電位は3V近く又はそれを上回り、リチウムイオン電池の正極材料となりうる。しかし、金属フッ化物は伝導性が非常に劣っていることが電気化学プロセス中の動力学的特性に著しく影響するため、金属フッ化物電極は充放電プロセスにおいて顕著な分極現象を示す。この種の電極の伝導性を引き上げるため、Badwayらは高エネルギーボールミリング法によりFeF3/Cナノ粉末電極材料を調製したところ、動力学的特性が大幅に改善され、2.8-3.5Vの間で200mAh/gに達する可逆的比容量が得られた。これは、Fe3+がFe2+的変換されるプロセスに対応する。われわれは最も早期にCoF2、NiF2、MnF2及びCuF2薄膜電極材料を調製し、電気化学性能及び反応メカニズムを研究した。薄膜粒子のサイズは約20~50 nmで、電気化学プロセスを研究した結果、CoF2と他の3種類の薄膜材料は異なる反応メカニズムを示した。これら4種類の薄膜電極は最初の放電プロセスでいずれも金属粒子(Co、Ni、Mn、Cu)及びLiFを形成した。充電プロセスにおいて、Ni(Mn、Cu)及びLiFは反応後、改めてNiF2(MnF2、CuF2)を形成したが、Co及びLiFは反応後も可逆的にCoF2を形成せずにCoFを形成した。その後の可逆的循環はCoF及びLiFの相互変換プロセスであった。

2.3.3 金属窒化物MNナノフィルム電極

 金属窒化物は金属リチウムと相似し、低く、平坦な充放電プラットフォームを示し、かつ、良好な可逆性と比較的大きな可逆的比容量を有する。その反蛍石構造又はLi3N構造により良好なリチウムイオン流動性が生じ(イオン伝導率は約10-2 S/cm)、期待に値するリチウムイオン電池陽極材料と見なされている。Batesらは最初にSn3N4及びZn3N2を全固体薄膜リチウムイオン電池の陽極材料にした。Amatucciの研究グループはZn3N2、Ge3N4及びCu3Nのリチウム電気の化学反応を詳細に研究したところ、Cu3N及びLiの電気化学反応と遷移金属酸化物の反応は類似し、ナノCu粒子により作動するLi3N/Cu3N変換反応によるものであることが見出された。Cu3Nの完全に可逆的な反応と異なり、Zn3N2の最初の放電容量及び可逆的比容量はそれぞれ1325 mAh/g及び555 mAh/gであり、大きな不可逆的比容量の損失が存在する。XRDの結果によれば、放電プロセスでZn3N2はまずLiと反応し、かつ最終的にはLiZn及びβ-Li3Nに変換されるとは言え、その後の充電プロセスにおいてもZn3N2構造は回復される訳ではなく、LiZnはその一部の金属Zn及び三元化合物LiZnNに変換される。Ge3N4のリチウム電気化学反応において、Ge3N4はLiと反応し、かつ、リチウム化反応が完了した後にLi-Ge合金及びα-Li3Nを生成しうるとは言え、ここでのα-Li3Nは電気化学的に「不活性」であり、その後の可逆的反応はLi-Ge合金及び金属Geの間でしか行われない。

 われわれの研究チームはパルスレーザー堆積法及びマグネトロンスパッタリング法を採用し、VN、CrN、Mn4N、Fe3N、Co3N及びNi3Nを含む一連の遷移金属窒化物薄膜を調製し、かつ、それらのリチウム電気化学反応メカニズムを研究した。その結果、VN、CrN及びMn4Nについては可逆的反応が金属窒化物及び金属/Li3Nの間で実現する一方で、Fe3N、Co3N及びNi3Nについては、最初の放電で不可逆的プロセスで生成される金属粒子はLi3N気質中に分散するものの、その後の可逆的反応では一部の金属粒子が窒化され、金属含量の少ない窒化物を生成することが分かった。他のもう一部の金属粒子は「活性傍観者」的な役割を果たす。例えば、Ni3N薄膜は充放電循環を経てNiNを形成し、その後の可逆的循環プロセスはNiN及びNi-Li3Nの可逆的変換の中で進行する。

2.3.4 金属セレン化物MSeナノフィルム電極

 金属セレン化物は、リチウムイオン電池の電極材料としてわれわれ研究グループが最初に提示した。近年、われわれは一連の金属セレン化物ナノフィルムを次々に調製し、電気化学性能及び反応メカニズムを研究したところ、金属セレン化物には一般的にいずれも一定の電気化学的な反応特性があるが、反応メカニズムには明らかな違いが存在することを発見した。

 Sn及びSbを含む負極材料はp系金属中で最も関心高く研究されている材料であるため、われわれは最初にSnSe薄膜及びSb2Se3薄膜を調製して研究したところ、p系金属セレン化物MSex(M=Sn、Sb)及びLiの電気化学反応は(1)金属セレン化物の分解/生成反応及び(2)金属のリチウム合金化/脱リチウム化反応の2段階の反応により表現されることがわかった。充電プロセスにおいて再度金属セレン化物を生成できることから、電気化学反応の可逆性は良好であるため、この材料の可逆的比容量は比較的大きく、2回の前循環における不可逆的比容量の損失は比較的小さいことが分かった。

 d系の遷移金属セレン化物については、われわれは主にFeSe、NiSe2及びMnSe薄膜を研究した。p系金属と異なり、d系遷移金属はLiとの反応で相応のリチウム合金類物質を生成できないため、リチウムの電気化学反応で異なる特徴を示す。研究の結果、FeSeの反応は比較的シンプルで、FeSeとFe/Li2Seシリーズとの間の単純な可逆的変換でしかないことがわかった。一方、NiSe2とNi/Li2Seの完全変換の関係は複雑で、2つの反応中間相β-NiSe及びNi3Se2を経た。α-MnSeは最初の放電では完全に分解されず、リチウムを豊富に含むLixMnSe相を形成したうえに、その後の充電プロセスでは、もともとのα-MnSe相はFeSe及びNiSe2システムのように再度生成されず、生成物はMnSeの別の結晶構造であるβ-MnSe相であった。

 われわれはds系の遷移金属セレン化物についても研究を行った。同じ遷移金属とは言え、ds系の元素はd系の元素と一部で異なる科学的性質を持つ。研究の結果、ds系の遷移金属セレン化物Ag2Se及びZnSeのリチウム電気化学反応はp系の金属セレン化物と類似し、セレン化物の分解/生成反応及び金属のリチウム合金化/脱リチウム合金化反応の2段階の反応として表現できることが分かった。しかし、p系の金属セレン化物と比べると、ds系の金属セレン化物の最初の2回の循環における不可逆的比容量の損失は大きく、循環性能は明らかに劣る。一方、Liとの反応でリチウム合金を形成できないCuについては、Seとの反応によりCu2Se、CuSe及びCuSe2という3種類の安定したセレン化物を形成することができ、このうちCuSe及びCuSe2はいずれもLiと異相の電気化学反応を生じてCu2Se及びCu3Se2を形成することができるため、Cu2SeはLiと変換と類似する反応を生じてLi2Se中に分散するナノCu粒子を得られる。

2.3.5 金属リン化物MPナノフィルム電極

 カナダのNazarが率いる研究グループは、MnP4、FeP2、CoP3、Cu3P等の一部の遷移金属リン化物の電気化学的挙動を最初に研究した。その結果、これら遷移金属リン化物のリチウム電気化学反応はそれぞれ異なった。MnP4とLiの電気化学反応はMnP4とLi7MnP4結晶体との間で変換される一次元のトポロジー反応によるもので、FeP2は第一次放電反応後もFe-P結合が完全に断裂しないものの"Li-Fe-P"で表示できる三元準安定化合物を生じ、可逆的比容量は1250 mAh/gであった。CoP3に対しては、ナノCo粒子は充電反応中に再度リン化されず、「活性化の傍観者」としてLi3PとLiPの間の変換反応を促進するものと彼らは考えた。また、Cu3Pに対しては、Cu3PとLiの間で発生するのは完全に可逆的な「トポロジー」置換反応であり、Cu3Pは反応中にまずLi2CuPを生成した後にさらにLi3Pを生成すると彼らは考えた。

 われわれの研究グループは、パルスレーザー堆積法により、CrP、Sn4P3及びInPナノフィルムのリチウム電気を調製して化学的挙動を研究した結果、InP及びSn4P3は相似する電気化学反応プロセスを有することがわかった。最初の放電プロセスにおいては、いずれもLi3P及び金属単体を生成した。充電後はいずれもさらに可逆的にInP及びSn4P3を生成したが、CrPシステムにおいては、放電により生成されたLi3Pは金属Crとの反応でCrPを生成しないどころか、Li3P自身の脱リチウム化によりLiPを生成した。その後の可逆的プロセスはLi3P及びLiPの相互変換であった。

2.4 リチウム含有ナノ複合薄膜電極

 2002年、Dahnが率いる研究グループはリチウム含有不活性基質及び遷移金属による新型複合電極材料を最初に報告した。彼らは高エネルギーボールミリング法によりLi2O又はLi2Sと遷移金属(Co,Fe)を混合し、Li2O-M及びLi2S-M複合電極を調製した結果、相当な電気化学活性を有することが分かった。最初の放電容量はいずれも約600mAh/gに達し、一定の可逆性があった。この種の電極の長所は、リチウムを含む電極材料であって、リチウムイオン電池のリチウム源としてより適切に正極材料と整合することにある。もう一つの特徴は、LiX化合物及び金属単体そのもののいずれも高い安定性があり、全固体リチウムイオン電池の負極材料として金属リチウムより安全な点にある。

 われわれの研究グループはパルスレーザー堆積法により、LiX(X=F,O,S,N)及び遷移金属M(Fe,Co,Ni)により構成される一連のLiX-Mナノ複合薄膜を調製し、電気化学性能及び反応メカニズムを研究した。LiF-Co薄膜及びLiF-Ni薄膜はそれぞれ546mAh/g及び313mAh/gの可逆的比容量があった。電気化学反応メカニズムの研究により、LiF-Mナノフィルムには充放電循環プロセスでいずれもLiFの可逆的分解及び生成のプロセスがあることが分かった。

 Li2S-Coナノフィルムの研究の結果、充電後に多結晶体のCoS2及びS単体を形成することが分かった。その後の可逆的循環プロセスにおいて、電気化学反応メカニズムには、CoS2中Liイオンのはめ込み及び脱離が含まれるだけでなく、Li2Sの可逆的形成及び分解プロセスが存在し、可逆的比容量は819mAh/gに達した。われわれはLi3N-Coナノフィルムの電気化学反応のプロセスについても検討したところ、充電プロセスではLi3Nに分解が生じ、かつ、Coと化合してCo2Nを形成した。放電プロセスでは主に三元化合物Li2.57Co0.43Nを形成し、かつ、少量のLi3Nも生成された。その後の可逆的プロセスでは主にLi2.57Co0.43N及びCo2Nの可逆的相互変換が生じた。これらの研究はいずれも、ナノレベルの遷移金属は電気化学反応プロセスでLiX (X=F,O,S,N)の分解を促し、かつ、充放電プロセスで可逆性を有することを示した。このことは、ナノ金属粒子は室温下でLiX不活性基質の分解を促しうるということに直接的な証拠を提供した。

 それでは、ナノレベルの非金属粒子もLiXの不活性基質の分解を促すことができるのだろうか?この問題に答えるために、われわれは試みにLi3N-Siナノ複合薄膜を調製したところ、電気化学特性試験の結果、これら薄膜は最初の充電プロセスで528mAh/gの容量を得ることができ、充電プラットフォームは4.3V前後であることがわかった。充電産物は多結晶体の六方構造のSi3N4であった。放電後はLi3N-Coナノフィルムの放電産物と類似し、Li5N3Siの三元化合物の一種を形成した。その後の可逆的循環プロセスはLi5N3Si及びSi3N4の相互変換で、可逆的比容量は約700 mAh/gであった。

3 まとめと展望

 本稿では近年のナノフィルム電極材料研究の進捗状況を紹介した。全固体薄膜リチウムイオン電池の電極材料は電子とイオンの混合輸送、貯蔵及び電荷の変換、電気化学プロセス中の相変換、固体電解質の界面反応等の多くの複雑な要素にまで関係が及ぶ。ナノフィルム電極材料は、動力学上の優位性や新しいリチウム貯蔵メカニズム及び反応特性、ならびにナノ構造上の特徴から、エネルギー貯蔵システムの研究でますます重要な役割を担うようになった。しかし、ナノ電極材料そのものにもいくつか欠点がある。例えば、熱力学的安定性が劣ったり、電気化学反応で容易に結合して活性を失いやすかったりする点、それから操作性や保存性に対する要求が高い等の点がある。将来のナノフィルム電極材料研究のポイントとして、次の点が挙げられる。1. 新たな電極材料の合成及び開発。2. 電極材料のナノ構造の最適化又は表面性質の改質。3. ナノサイズ効果の電気化学的挙動に対する作用の研究の進展による、新たなリチウム貯蔵メカニズムの開発。薄膜調製技術及びナノテクノロジーの一層の発展に伴い、各種新型の正負極材料は続々と登場するだろう。ナノフィルム電極材料はリチウムイオン電池分野に新たなチャンスと活力をもたらすだろうとわれわれは信じる。