第64号:レーザー技術
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一次元の有機マイクロ・ナノ光機能性材料の研究

2012年1月6日

姚 建年

姚 建年(Yao Jiannian):
中国科学院化学研究所研究員、中国科学院院士、
国家自然科学基金委員会副主任、中国化学会理事長

1953年9月27日生まれ。長期にわたり、新型の光機能性材料の基礎及び応用研究に従事。ナノスケール効果を利用した有機分子の光物理・光化学的性質の制御、無機及び複合材料の光による変色等の分野で一連の先行的な研究成果を収め、世界に大きな影響を与えた。これまでに、Nature,J Am Chem Soc,Angew Chem Int Ed,Adv Mater,Acc Chem Res等の国際学術誌上に論文270本以上を発表、中国発明特許11件、共著3冊、共訳書1冊。2004年に「新型光機能性材料に関する若干の基礎研究及び応用の探索」で国家自然科学2等賞を受賞(筆頭受賞者)。

共著者:趙 永生、崔 秋紅

1 はじめに

 ナノテクノロジーは1980年代末に誕生し、急速に頭角を現した新興の学問であり、物理学、化学、材料学、電子学、機械学、生物学、医学等の数多くの分野と関係がある。ナノ材料学はナノテクノロジー分野の最も主要な派生分野の一つとして、近年、新たな研究の関心事となっている。ナノ材料とは、材料そのものの三つの次元のうち少なくとも一次元がナノスケールの範囲(1~100nm,1nm=10−9 m)に含まれる物、または材料がナノスケール上の基本ユニットにより構成される物を言う。同成分のバルク材料に比べ、ナノ材料はその高い比表面積特性や量子サイズ特性、巨視的量子トンネル特性等により、特有の物理的、化学的、光学的、電気学的、機械的特性を有する。ナノ材料は次元から見て、大きく三つに分類される。すなわち、ゼロ次元ナノ材料、一次元ナノ材料、二次元ナノ材料であり、二次元及び一次元ナノ材料はナノスケールの範囲に入る。ゼロ次元及び二次元ナノ材料に比べ、一次元ナノ構造はその一次元的連続性と機械的柔軟性により、将来的には、例えば一次元のマイクロ・ナノ導波管、ナノワイヤ・レーザ、効率の高い太陽電池等の光電気部材等で、小型化や性質向上に大いに本領を発揮するものと考えられている。ナノ材料の化学成分に基づき、一次元ナノ材料はさらに一次元金属ナノ材料、一次元無機半導体ナノ材料、一次元高分子ナノ材料、一次元有機小分子ナノ材料に分類される。ここ十年ほどの研究において、有機一次元ナノ材料の調製方法及び性質の制御が研究者たちに広く関心を持たれ始めている。これは、有機小分子材料は無機化合物に比べて次のような顕著な長所があることによる。すなわち、(1)化学構造の種類が多いこと、(2)目的に従い機能分子の構造を改変でき、機能を多様に組み合わせ、集積させられること、(3)分子レベルで分子の秩序ある構成及びナノ構造の制御ができるため、材料の性質に影響を与えられることである。つまり、有機一次元マイクロ・ナノ材料は、レーザ、フォトダイオード、化学検出器等で、その特有の構造成長方式と優れた光学的性質を発揮することができる。一次元ナノ材料の構造特性及び有機小分子の光学的性質を組み合わせることにより、性質の調整可能なマイクロ・ナノ光学部材における有機小分子一次元ナノ材料、すなわち単一成分及び複合有機ナノ材料の活用が期待されている。

2 一次元有機ナノ材料の調製

 一次元有機ナノ材料の調製方法は、物理的方法と化学的方法の2種類に大きく分類される。物理的方法には、粉砕法、ボールミル法、イオン・スパッタリング法等の「トップダウン法」(top-down)のみならず、テンプレート法、溶剤熱法、物理気相成長法等の「ボトムアップ法」(bottom-up)がある。化学的方法とは一定の化学反応プロセスを経る物を言い、分子、原子レベルから出発してナノ材料を調製することから一般的にすべて「ボトムアップ法」であり、主にイオン共沈法、ゾル・ゲル反応、化学気相成長法等がこれに含まれる。一次元有機ナノ材料は主に「ボトムアップ法」により、有機小分子間の相互作用力(例えば水素結合、π-π結合、ファンデルワールス力)を利用して一次元ナノ構造を自己組織化する。以下によく用いられる調製方法を具体的に紹介する。

2.1 物理気相成長法

 物理気相成長法の一般的なプロセスは、純粋な化合物を高温エリアに置いた後に、キャリアガスを用いて揮発した化合物を比較的低い温度区間(すなわち成長区間)に送り込み、単結晶材料を成長させるものである。この方法の有機ナノ材料における応用は無機ナノ材料ほど普及していない。これは主に有機小分子そのものの融点が低く、昇華しやすいという特徴によるもので、気相成長法等の高温条件下でナノ構造を調製する際は、飽和度の制御がやや難しい。しかし、過飽和度は材料の外観及び規則性を制御する鍵であるため、本研究グループはシリカゲル、酸化アルミニウム等の吸着剤を有機小分子の気相成長法体系に導入し、有機分子と吸着剤の間の吸着-脱着バランスにより目的化合物の蒸気の飽和度を制御し、かつ、これら気相成長法の改善により、2,4,5-トリフェニルイミダゾール(TPI)及びトリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)の単分散に近似する有機一次元ナノ材料の調製に成功した。

2.2 再沈殿法

 再沈殿法とは、良質な溶剤中に目的化合物が少量溶けている溶液を大量の目的化合物が溶けている悪質な溶液中に急速に分散させることにより、有機化合物のさまざまな溶剤中における溶解度の顕著な差を利用して有機ナノ結晶を調製する方法である。悪質な溶剤としてよく用いられるのは水である。他の有機溶剤または混合溶剤であってもよいが、必ず良質な溶剤と相互溶解性がなければならない。再沈殿法は容易なうえにナノ構造が分散体系中に自由かつ単独に存在することができるため、メゾスコピック領域における有機ナノ構造の光物理的性質の研究に役立つ。

2.3 自己組織化法

 自己組織化法とは、有機溶液中で溶剤が揮発する際に、溶液中の有機小分子が凝集し、かつ、自己組織化して一定の構造を構成することを利用する方法である。この方法を使えば完全な単結晶構造を持つ巨視的な結晶が得られるとは言え、ナノスケール上ではナノ構造のサイズ、外観、規則性の制御が非常に難しい。有機単結晶プロセスでは溶剤分子は非常に混ざりやすいが、それでも広く注目され、応用されているのは溶剤法である。これは、有機単結晶マイクロ・ナノ構造を調製する上で、液相中の自己組織化がより簡単で低コストな方法であるからである。

2.4 テンプレート支援法

 テンプレート支援法とは、テンプレートの制限効果を利用して一次元ナノ材料を調製し、成長させた後に何らかの方法によりテンプレートを除去する方法である。テンプレートは主に硬質テンプレートと軟質テンプレートの2種類に分けられる。テンプレートは材料の合成において金型の役割を果たし、材料の形成には依然として電気化学析出、電気化学重合、化学重合、ゾル・ゲル沈積、化学気相成長法等のよく用いられる化学反応を使用する必要がある。

 「硬質テンプレート」とは、一般に孔径がナノスケールの多孔質固体材料を指し、カーボンナノチューブ、多孔質アルミニウム陽極酸化膜、ポリマー膜、分子篩、生体高分子等があり、以下のいくつかの長所がある。すなわち、(1)普遍的適用性が良好であること、(2)テンプレートそのものを一定範囲内で精密に制御できるため、得られる材料の外観、サイズがテンプレートの外観、サイズ、反応条件により制御できること、(3)ナノ構造配列の調製が容易であること、(4)また、テンプレート内の構成物質の成分ならびにナノチューブとワイヤのアスペクト比の改変によりナノ構造の性質を調整できること。例えば、ヘテロ結合ナノワイヤ、多層チューブ・ワイヤの調製等がある。本研究グループは、改良した多孔質酸化アルミニウムテンプレート法も用い、さまざまな有機小分子によるナノチューブを調製した。

 「軟質テンプレート」とは、一般に液晶、逆ミセル、コロイド自己組織化体系等を指す。軟質テンプレートは主に高分子を利用し、例えば界面活性剤がその溶液中で一定の濃度に達した際に形成される一部の秩序的構造で材料を制限して成長させる。界面活性剤の補助下では,単一成分のナノワイヤ、ナノチューブを調製できるだけでなく、ドーピングされたナノ構造も調製することができる。例えば、本研究グループでは化合物、1,3-ジフェニル-2-ピラゾリン(DP)及び4-(ジシアノメチレン)-2-メチル-6-(4-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)のエタノール混合溶液を界面活性剤、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)の補助作用下で簡単な再沈殿法により調製したところ、3段階式2成分の一次元ナノロッドが得られた。この方法を利用した段階式の一次元ナノロッドの調製は、他の調製方法に比べて操作が簡単でコストがやや安いうえに異相環境との相容性があるため、現時点では比較的理想とされる選択の一つとなっている。

3 一次元有機ナノ機能性材料の性質に関する研究

 近年、有機ナノ材料の新しい調製方法の開発、形成メカニズムの検討及び光電気特異性等の分野では、有機ナノ粒子の光学的吸收及び放出に関するサイズ依存度、ナノ粒子中の励起子有限域効果、蛍光増強、光導波路、誘導放出、電界効果トランジスタ等の数多くの興味深い現象にますます多くの注目が集まっている。有機一次元ナノ材料の光電気特性及びその機器上の応用に関する、ここ10年間の研究の進展及び成果を概観する。

3.1 多色発光及び白色発光材料

 有機小分子の発光材料は、化学、物理、材料、電子学等の数多くの学問に関係する研究分野である。無機材料と比べ、有機材料の方が発光効率が高く、発光色の選択範囲が広い。近年、有機発光材料に関する研究がますます関心を集めており、一次元有機ナノ材料はその構造の優位性から、発光ダイオード、レーザや光電気検知器等の小型光子器材に有効に利用されている。

3.1.1 単一成分による多色発光

 単色発光に比べ、制御可能な発光材料のほうがより広く応用される。ここ数年、研究者たちは一次元有機ナノ材料による多色発光性質の探究に力を入れている。一般的に、多色発光は蛍光染料のドーピングにより実現される。しかし、本研究グループは有機小分子、1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1,3-シクロペンタジエン(PPCP)単結晶の一次元ナノベルト及びその段階別自己組織化により多色発光を実現した。紫外線、ブルーレイ、緑色光を利用してPPCPナノベルトを励起したところ、さまざまな色の光を得ることができた。

3.1.2 複合材料による白色発光の放出

 上記の作業は、ナノ構造そのものの欠陥により発光を制御するものである。しかし、単一成分材料の発光制御範囲は多成分の複合材料に比べてはるかに小さい。なぜなら、多成分のナノ構造中には化合物間のエネルギー移転が存在するため、発光を大きな範囲で制御できるためである。このため、研究者たちは有機化合物によるナノ材料をますます多く研究している。本研究グループは、物理気相成長法によりルブレンを1,3,5-トリフェニル-2-ピラゾリン(TPP)中にドープし、分子間の蛍光共振エネルギーの移転(IFRET)を利用したところ、一次元ナノ白色発光放出機材の調製に成功した。

3.1.3 自己調整型によるマイクロ・ナノ白色発光の放出

 ドーピングにより白色発光の放出が得られるとは言え、これまでの研究の多くは巨視的な白色発光の放出をターゲットにしており、マイクロ・ナノ材料それぞれに対する具体的な白色発光の放出は単純なドーピングではとても実現できない。何故なら、(1)これまでの研究によれば、単結晶ナノ材料にはその電子伝達性能を向上させ、光電気性質を強化させられるという長所があるが、大部分の有機・ドーピング系統は不定形であること。(2)マイクロ・ナノ構造それぞれのドープ率は制御が難しいこと。(3)それぞれのマイクロ・ナノ構造中のドープ率を精密に制御できたとしても、単数のマイクロ・ナノ材料は複数・巨視的なナノ材料に比べて外的環境(空気、pH等)の影響を大きく受けるため、白色発光の放出品質にも影響を及ぼすことがある。これらの問題を克服してそれぞれのマイクロ・ナノ構造からの安定的な白色発光の放出を実現するため、最近、本研究グループは金属の一種、イリジウム化合物による燐光染料(BT)2Ir(acac)を合成し、かつ、蛍光染料9,10-ジフェニルアントラセン(DPA)とドープし(このうち、分子(BT)2Ir(acac)は橙光を放出し、分子DPAはブルーレイを放出する)、これら2種類の化合物間に存在する三重項状態・一重項状態間のエネルギー移動を利用したところ、さらに安定した自己調整型の白色発光ナノワイヤを得ることができた。

3.2 有機マイクロ・ナノ光導波管材料

 光導波管現象は、媒介を伝達する屈折率が周辺環境より高いことにより、光信号が光学密度の高い媒質中で界面の全反射によって絶えず前向きに伝播することにより生じる。ここ数十年のナノテクノロジーの発展に伴い、光導波管材料のサイズは小さくなり続けている。マイクロ・ナノスケールの光導波管機器では、回折極限範囲内で光信号を操作し、制御することができる。マイクロ・ナノ材料の光導波管はマイクロ化・光学機器において機能元素として応用でき、潜在的な応用としては光通信、情報伝達、光センサ、生化学センサ、光検知器等がある。一次元ナノ材料のうち、有機単結晶材料には次のような特有の長所がある。すなわち、(1)無機材料に比べ、有機材料には優れた光学的性質があること、(2)有機小分子は共益高分子に比べ高い結晶性があるため、光子結晶の相互作用及び電荷流動性に有利であること、(3)新しい有機分子の設計及び合成を通じて、ナノ光導波管の挙動における分子構造及び分子間の相互作用力を検討するのに便利であること、(4)有機化合物ナノ材料は調製が非常に容易なことで、制御可能かつ有意義な光電特性を得られるだけでなく、分子間の相互作用の研究にも有利であることがある。このため、一次元有機単結晶マイクロ・ナノ材料の光導波管は依然として研究の関心事となり続けるだろう。

3.2.1 低消耗有機マイクロ・ナノ光導波管

 有機単結晶光導波管の研究プロセスにおいて、その進展を制約する要素の一つは比較的高い光消耗である。有機光導波管材料の光学的消耗を減らすには、周辺環境の屈折率の低減を通じ、有機単結晶と空気環境との間の全反射を充分に利用すれば問題を克服することができる。これは、光伝播プロセスにおいて、周辺環境の屈折率の大きさが光導波管の効率を決める重要な要素であるためである。空気中のn空気=1のとき、nガラス=1.53である。このことから、合成ナノチューブはナノワイヤを垂直方向へ成長させ、光導波管中の消耗を効果的に低減できる可能性があることがわかる。本研究グループは、再沈殿法により9,10-ビス(フェニルエチニル)アントラセン(BPEA)分子のナノチューブを調製した。ナノチューブ中は空気の屈折率がやや低いため、BPEAナノチューブはナノロッドに比べ光消耗がやや低い。Huangの率いる研究グループは、1,5-ジアミノアントラキノン(DAAQ)分子を気相成長法によりナノ配列に引き延ばしたところ、垂直方向に成長させたナノワイヤの光伝達プロセスは、ガラスまたはその他の基材上に平らに敷かれる場合に比べて消耗がやや小さいことを証明した。

3.2.2 有機導波管調節器

 ここまでの考察に基づけば、一次元有機単一成分ナノワイヤには優れた的光導波管としての性能があることが分かる。しかし、より制御可能な導波管の性能は、単純なドーピングによって2成分系統においても実現できる。例え一定のドープ化合物に制限を受けても、2成分のマイクロ・ナノ構造の光導波管機器は光の伝達、光の有限域、光の波長の増加の面でよりよいパフォーマンスを示す。単結晶TPIナノ構造の調製に成功したのに続き、本研究グループはペリレンをTPI結晶格子中にドープして単結晶の2成分ナノチューブとナノロッドを調製した。TPIとペリレンとの間にはIFRETが存在するため、2成分のナノチューブ及びナノロッドは能動的な光導波管調節器として用いられ、小量のドープも光導波管の伝達効率を向上させる有効な方法であることが証明できた。

3.2.3 燐光発光による光導波管

 上述したいくつかの有機化合物はすべて蛍光発光材料である。蛍光発光は、一重項励起子の遷移により得られる。しかし、これまでの研究によれば、励起により生じた励起子のうち、一重項励起子と三重項励起子の比は1:3であった。このため、電気による効率的な発光は、燐光染料のドープにより実現できる。こうして、蛍光発光、さらには燐光発光により、光の放射効率を100%まで引き上げることができる。この考え方に基づき、本研究グループは液相成長法により燐光分子Ir(ppy)3 (tris-(2-phenylpyridine)iridium)の一次元ナノ構造を調製し、かつ、その光導波管としての性質を研究した。その結果、Ir(ppy)3マイクロロッド中には強い三重項-三重項光子が隠滅しているため、光に励起されるポンプレーザの実現に向かないことがわかったが、この知見は有機金属分子または燐光染料分子による微視的なサイズ機器の調製に効果的な理論的根拠を提供した。

3.3 有機ナノワイヤ・レーザ

 ここ20年間、有機材料は光電気機器において良好なパフォーマンスを示しており、レーザ及び光検出器中の応用においても急速な進展を見せている。無機半導体のナノ・光電ポンプレーザと有機高分子材料のレーザ研究に続き、有機小分子もナノ・レーザの調製に使用できることが証明された。これまでのp-6Pナノワイヤの光学性質に関する研究に基づき、Quochiらはp-6Pナノワイヤの光ポンプレーザとしての性質を考察した。本研究グループはこれまでの研究の中で、気相成長法と液相成長・自己組織化法によりTPIナノワイヤを調製している。気相成長法により調製されたTPIナノワイヤも、ナノ・光導波管及びレーザに使用可能なことが証明されている。

3.4 一次元有機ナノ材料による光電気変換

 ここまでは、主に有機ナノ材料に特有の光学特性の紹介に重点を置いてきた。しかし、ナノ材料の光学特性と電気特性は密接に関係し、切り離すことができないため、電気特性は光学特性の延長と言える。このため、一次元有機ナノ材料の光学特性が進展するにつれ、光学特性・電気特性間の相互変換も研究の関心事となっていった。有機半導体化合物は材料の合成、機器の加工・性質の制御面で優れており、有機発光ダイオード(OLED)、有機太陽電池(OSC)、ガスセンサ、有機薄膜トランジスタ/電界効果トランジスタ(OTFT/OFET)のような分子光電気機器の構築において非常に重要な役割を果たす。

 有機ナノ材料による電極化・発光の研究は、ナノ材料の光電気変換研究における重要な派生分野である。有機電極化・発光現象は早くも1900年代初期に見出されていたが、2002年には日本のHisaoらが(チオフェン/フェニレン)オリゴマー(BP2T)を原料に単結晶の電極化・発光機器を調製し、作動電圧(9V)の低減に成功したことによってようやく、各国の研究者から高い関心が寄せられるようになった。本研究グループは近年の研究を基礎に、電極化・発光材料の性質をナノスケールで研究した。物理気相成長法を利用してAlq3中に吸着剤を導入することで、直径の均一なナノワイヤの調製に成功し、かつ、さまざまな直径のAlq3ナノワイヤで電極化・発光機器を調製したところ、直径の変化に伴い機器の性質に違いが生じた。

 ナノ太陽電池の研究も、ナノ光電気化学分野における研究の一大関心事である。有機薄膜太陽電池の研究は広く行われているとはいえ、一次元有機単結晶材料は分子配列が高く、結晶粒界が少なく、電子有限域の濃度が低い等の長所があることから、単結晶材料には良好な電子伝達性質及び高い遷移率がある。このため、有機単結晶の研究は新しい有機半導体の設計と高性能の機器の調製に役立つ。単一成分のナノ材料に比べ、一次元ナノ・ヘテロ結合はその特殊な形態構造により、単一成分のものとは異なる、独特の光電気性質を持つ。ナノ材料の多成分・多構造研究において、p-nヘテロ結合は有機光電気学の研究の関心事となっている。このため、機器と電気回路の基本ユニットとして、今後の電気機器で重要な役割を果たすであろう。

4 総括と展望

 一次元有機ナノ材料は無機ナノ材料ほど研究が進んでいないが、有機材料には低コストで反応活性が高く、配列可能で良好な柔軟性を有する等の長所があるため、一次元有機ナノ材料の調製及びその性質は、研究の関心事となりつつある。ここまで、われわれは一次元有機ナノ構造に特有の光学的・電気的性質を詳述してきたが、これら特徴及び応用は主に分子構造及び結晶の外観に由来するものであった。有機染料の分子構造は光学特性・電気特性だけでなく、分子間の相互作用にも影響する。このため、今後の研究においては、新しい系列の染料分子の設計と合成が有機ナノ光子学において非常に重要となる。有機単結晶ナノ構造の調製方法は無機及びポリマーのものほど多くないとは言え、光学活性を有する大量の有機分子及び適切なドーピングによって発光性質が調整可能な有機化合物は、将来的に光電気機器において広く応用されるだろう。以上の考察に基づけば、有機の一次元ナノ材料の将来的な発展の方向性は、次のように予想される。すなわち、(1)ナノ光導波管材料の外観、サイズによる影響の明確な把握。(2) (ドーピング、ヘテロ結合等による)2成分有機ナノ材料の分子間の相互作用とエネルギー伝達の把握。(3)一次元ナノ材料の光学的・電気的性質は環境の誘電定数と表面上の欠陥により影響されることから、秩序的な一次元ナノ構造を調製すること非常に重要となる。すなわち、一次元有機ナノ材料は今後、低コスト、安定性、高効率という性質面での研究が重視されるであろう。