第92号
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2013年中国生命科学分野の注目人物(その4)

2014年 5月21日 米山春子(中国総合研究交流センターフェロー)

石正麗 中国科学院武漢ウイルス研究所研究員

新型SARSウイルスの研究

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 2002年から2003年にかけて起こった重症急性呼吸器症候群(SARS)のコロナウイルス(SARS-CoV)の大規模な流行は、ここ数年で最も深刻な公共衛生事件の一つとなった。現在も、中 東呼吸器症候群コロナウイルスの流行が続いており、この種のウイルスが人類に疫病をもたらす主要な脅威の一つであり、その分布が考えられていたよりもずっと広範囲であることがわかった。こ うした状況に対応するため、中国科学院武漢ウイルス研究所が指導し、オーストラリアやシンガポール、米国の科学者も加わった国際研究チームが組織され、S ARS-CoVの自然の宿主がキクガシラコウモリであるという観点にこれまで最も有力な証拠を提供している。この研究結果は、2013年10月30日の科学誌『ネイチャー』にオンラインで発表された。

SARS起源はキクガシラコウモリ 科学者の実証進む

 中国科学院武漢ウイルス研究所の石正麗研究員が率いる国際研究チーム(Ecohealth Alliance、Australian Animal Health Laboratory、One Health Institute、School of Veterinary Medicine、University of California、Davis、華東師範大学、Duke-NUS Graduate Medical School、Singaporeなどが参加)はこのほど、SARS(Severe acute respiratory syndrome)の コロナウイルスとほとんど一致する新型のSARSコロナウイルス(SARS-like CoV)の分離に成功し、中華キクガシラコウモリがSARSウイルスの起源であるという実証を進めた。

 SARSコロナウイルスは、2002年から2003年にかけてのSARS大流行の病原体で、世界で8094人が感染し、774人が死亡するという深刻な状況を引き起こした。感 染症学的な証拠と生物情報学の分析によって、SARSコロナウイルスの直接的な起源は野生動物市場のハクビシンであったことがわかっている。アフリカや欧州、中国など世界各地のコウモリの体内からはいずれも、S ARSウイルスと似たSARS状コロナウイルスが発見されているが、これらのウイルスはヒトやハクビシンのACE2(体内のSARSウイルス受容体)を受容体とすることはできず、S ARSウイルスの直接的な仲間とはみなされていない。同研究チームが分離したSARS状コロナウイルスは、ヒトやハクビシン、中華キクガシラコウモリのACE2を作用受容体とすることができ、ヒトやブタ、サル、コ ウモリの他種類の細胞に感染することができる。この実験結果は、中華キクガシラコウモリがSARSコロナウイルスの自然宿主であるという見方にさらなる直接的な証拠を提供するものとなる。この最新結果は、2 013年の科学誌『ネイチャー』に発表された。同チームは2005年にも、「SARS状コロナウイルスの自然宿主はコウモリである」とする論文を『サイエンス』に発表しており、同 分野でのこれに続く重大な進展を実現した。

 研究者によると、コウモリは様々なウイルスを保有しているが、これらのコウモリのウイルスがヒトに感染するケースは多くない。コウモリは、花粉の伝播や害虫の駆除など、生 態環境において重要な役割を持っており、自分から人類を攻撃することはない。コウモリなどの野生動物が生きる環境を保護することは、野生動物が保有する病原体の感染を避ける最良の方式である。