中国の高等教育機関イノベーション能力向上計画(2011計画)
2014年 8月29日 趙晋平(科学技術振興機構 中国総合研究交流センター フェロー)
「高等教育機関イノベーション能力向上計画」(以下略称「2011計画」)は、「985プロジェクト」と「211プロジェクト」に引き続き、中国高等教育分野で実施となった新たな重大国家戦略である。
イノベーションは現在、経済社会発展の主要な動因となりつつあり、知識イノベーションは国家競争力の核心的要素と言える。だが中国では、イノベーション主体がそれぞれ孤立し、イ ノベーション能力が不足しており、効率が低いことなどが、社会経済の発展を制約する弱点となっている。イノベーション体系において主体的な地位を占める大学も、企業や地方との緊密な協力が不足している。大学は、先 端分野の研究を強化し、独自のイノベーション能力を向上させると同時に、産業・企業・地域の問題における連携を促進し、協調して解決をはかる必要がある。このような状況を背景に、2011年4月、胡錦濤国家主席( 当時、以下同)は清華大学の創立百年式典で、「共同イノベーションを積極的に推進し、体制・制度のイノベーションや政策・プロジェクトの指導を通じて、研究所や企業と大学との緊密な協力を奨励し、共 同イノベーションのための戦略連盟を設立し、資源の共有を促進し、重大研究プロジェクトでの難題攻略を共同展開し、カギとなる分野で実質的な成果を得る」との方針を打ち出した。
胡錦濤主席のこの指示はすぐに、政府の具体的なプランにまとめられた。教育部や科技部、国家発展改革委員会などの部門と多くの専門家による審議と論証が重ねられたこのプランは2012年3月、「教育部・財 政部の高等学校イノベーション能力向上計画の実施に関する意見」として正式発表された。これにおいては、2013年から2017年までに、国 際的な先端科学分野と国家の経済社会発展の必要性が最も急迫する分野を選び、優秀なものや重要性の高いものから80以内の「2011共同イノベーションセンター」を認定することが求められた。
「2011計画」における共同イノベーションセンターの建設は、「点」によって「面」の発展を促し、高等教育の質を全面的に高めると同時に、科 学技術を第一とする生産力と人才を第一とする資源とが結びついた高等教育独自の役割を十分に発揮させるものとなった。「2011計画」が目指すのは、国家と地域の発展の重大な必要性に向けて、共 同イノベーションセンターを、国際的な影響力のある学術の優位性のある拠点に、また業界・産業の基盤技術の開発拠点に、そして地域のイノベーション発展を率いる拠点として発展させることだ。
共同イノベーションセンターは機能や位置付けに応じて、「先端科学向け」「文化伝承イノベーション向け」「業界・産業向け」「地域発展向け」の4種類に分けられる。
2013年5月、専門家の初期審査や会議の質疑応答、現地視察、総括協議、一般公示などを経て、第一弾の共同イノベーションセンターとして14組織が認定された。この14センターには、2 5大学と13研究所のほか、大企業や工業パークが参加した。地理的には華北・華東・華中地区に集中し、北西・南西・華南地区の大学は選ばれなかった。
番号
|
名称
|
主要共同単位
|
種類
|
1 |
量子物質科学共同イノベーションセンター |
先端 |
|
2 |
生物治療共同イノベーションセンター |
先端 |
|
3 |
天津化学化工共同イノベーションセンター |
先端 |
|
4 |
量子情報・量子科技先端共同イノベーションセンター |
先端 |
|
5 |
中国南海研究共同イノベーションセンター |
南京大学、中国南海研究院、海軍指揮学院、中国人民大学、四川大学、中国社会科学院辺境史地研究センター、中国科学院地理科学資源研究所等 |
文化 |
6 |
司法文明共同イノベーションセンター |
文化 |
|
7 |
宇航科学技術共同イノベーションセンター |
哈爾濱工業大学、中航科技集団等 |
産業 |
8 |
先進航空発動機共同イノベーションセンター |
北京航空航天大学、中航工業集団等 |
産業 |
9 |
非鉄金属先進結構材料・製造共同イノベーションセンター |
産業 |
|
10 |
軌道交通安全共同イノベーションセンター |
産業 |
|
11 |
河南食糧作物共同イノベーションセンター |
河南農業大学、河南工業大学、河南省農業科学院等 |
地域 |
12 |
長江デルタ緑色製薬共同イノベーションセンター |
浙江工業大学、浙江大学、上海医薬工業研究院、浙江食品薬品検験研究院、浙江医学科学院、薬物製剤国家工学研究センター等 |
地域 |
13 |
蘇州ナノ科技共同イノベーションセンター |
蘇州大学、蘇州工業パーク等 |
地域 |
14 |
江蘇先進生物・化学製造共同イノベーションセンター |
地域 |
第一弾に選ばれた14の共同イノベーションセンターのうち、「量子物質科学共同イノベーションセンター」や「生物治療共同イノベーションセンター」な ど先端科学向けの共同イノベーションセンターはとりわけ、重大な科学的価値のある独自のイノベーション成果の産出と、国際的な視野と傑出したイノベーション能力を備えた研究人才の集合と育成に力を入れている。
「2011計画」の影響を受け、各地方政府も次々と地域規模の「2011計画」を打ち出し、地域のイノベーション能力の向上促進をはかっている。共同イノベーションセンターを持っているかどうかは、大 学が一流大学であるかをはかる物差しとなっている。
2014年8月には、第二弾の共同イノベーションセンターの候補である24組織が専門家による調査を完了した。その最終の選出結果はまもなく公表される。