第96号
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中国の宇宙開発事情(その14)突然発表された第3世代北斗航行測位衛星

辻野 照久(科学技術振興機構研究開発戦略センター 特任フェロー)  2014年 9月18日

第2世代の周回衛星は計画放棄か

これまでに中国は航行測位衛星を21機打ち上げている。第1世代の静止衛星が5機、第2世代は中高度周回衛星5機、静止衛星6機、準天頂衛星5機の計16機である。この中で、周回衛星は5機しかなく、24機まで増えないと米国のGPSやロシアのグロナスのような全球測位システム(GNSS)は完成しない。後続の周回衛星打上げは2年以上前から中断されたままで、最初の5機は設計寿命が刻々と迫っている。また準天頂衛星は3機1組だが、5機というのも中途半端であった。それでも、中国は地域航行測位衛星システム(RNSS)を完成させたと2012年12月に宣言した。最新の情報により、中国はどうやら第2世代の周回衛星を完成させることを断念し、第3世代の衛星群をゼロから構築し始めるつもりであるらしいことがわかった。

第3世代の北斗航行測位衛星

 2014年5月に江蘇省南京市で開催された第5回中国衛星導航学術年会において、中国衛星導航系統管理弁公室(CSNO)主任の冉承其(Ran Chengqi)は、「新一代北斗導航衛星」すなわち北斗3系列の衛星を2014年末までに5機打ち上げると発表した1)。

 第3世代の新型航行測位衛星は、早ければ2014年10月から打上げが開始される。2015年以降の打上げとなる6機目以降からは打上げロケットが長征5型になる可能性もある。

 第3世代の静止衛星も現在運用中の第2世代の静止衛星5機をすべて置き換えることを計画している。準天頂衛星は3機の打上げを計画しており、第2世代と混合運用される可能性もある。

 中国は2020年までに、合計32機に及ぶ第3世代の衛星群を構築すると、こともなげに発表しているのである。

第2世代衛星との比較

 早々と現役を退きそうな北斗2系列の衛星は、東方紅3型衛星バスを適用し、設計寿命は8年である。測位精度は10mで、打上げロケットはCZ-3系列を使用している。これまで安定した性能を維持しており、打上げ実績(種類別・年毎の打上げ数)は次のようになる。

  • 周回衛星(M) 2007年打上げ(1機)・2012年打上げ(4機)
  • 準天頂衛星(IG) 2010年打上げ(2機)・2011年打上げ(3機)
  • 静止衛星(G) 2009-年打上げ(1機)・2010年打上げ(3機)・2012年打上げ(2機)

 以前は、第2世代北斗衛星は35機で構成するとし、周回衛星の残り19機が打ち上げられる計画であるとされていた。しかし、参考文献1により、「中国は次世代の北斗衛星を打上げ」と報道され、2020年までに完成させる計画であることが明らかにされた。これは、構築途上にある第2世代衛星の追加打上げや更新をこれ以上行わないことを意味している。第2世代衛星により中国の航行測位衛星整備計画の第2段階となる地域航行測位システムを完成させ、「北斗衛星空間信号受信制御文書(2.0版)」と「北斗衛星サービス性能規範(1.0版)」が正式に発布され、中国とその周辺地域において測位精度10mのサービスを開始した。そのような第2世代の衛星群構築を途中で放棄してまで、新たな衛星群を構築するからには、第3世代衛星において顕著な技術的進歩があるものとみられる。前述の冉主任は、測位精度を4倍の2.5mに向上させ、全球をカバーし、地上の管制施設に頼らず衛星同士で管理する新システム(自主運行管理能力)を採用し、十数のプラットフォームと160以上の新技術を用いると紹介した。

 第3世代の周回衛星は、質量800kg、設計寿命5年。打上げロケットが長征3Bの場合は2機同時打上げだが、長征5型の場合は4機同時打上げとなる。最初の1機は長征3C型で打ち上げられる。

 静止衛星5機は第2世代衛星の後継となる。準天頂衛星は北京-香港ラインの3機だけが新系列に更新され、西部の2機の準天頂衛星はそのまま残されると思われる。

タイの地上局整備

 既に東南アジア地域でも本格的な利用が進んでいる北斗2は、赤道に近いため静止衛星も準天頂衛星のようになり、場所によっては測位精度が5mまで向上する。武漢の光谷北斗控股集团有限公司は2014年6月にタイ国内に3か所の地上基準点設備を設置した。同社は今後同様の基準点施設をタイ国内で220か所まで増やすという。

このように実利用が進み、経済的な波及規模も大きくなった北斗2号であるが、上述のように2020年頃までには多くの衛星が設計寿命を迎え、運用終了となるものと予想される。

2014年の打上げ計画の補足

 8月の特集記事「飛躍的発展段階に入る中国の宇宙開発活動」では、2014年の打上げで確実な回数は2回だけと記した。その後、何の前触れもないまま衛星打上げが突然行われ、8月からの1か月間だけで4回打上げがあった。今後、第3世代北斗で3回から5回、嫦娥5号帰還時再突入試験機、風雲2G、CBERS-4と続き、これだけで年間11回から13回に達する。9月8日までに行われた高分、遥感、創新など、これまでに繰り返し打ち上げられてきたおなじみのシリーズ衛星が次々に打ち上げられている。その中で、突然浮上した北斗3の打上げ計画はサプライズであったといえる。なお、米国は8月末までにほぼ予定通り17回の打上げを行い、まだ多数の打上げ計画を残している。スペースX社のファルコン9ロケットだけで中国と同じ打上げ数である。しかも、中国は小型衛星ばかりのため、打上げ時重量では10倍以上の差がついている。米国では異端児のような存在のスペースX社であるが、8月と9月に33日の間隔で大型静止衛星の2回連続打上げに成功しており、アリアンやプロトンに匹敵する運用性の高さを実証している。

 それでも今後数年を展望して、「スペースXに対抗できるのは中国だけ」という筆者の予想は変わらない。


参考文献

1) 5颗新一代北斗卫星年底发射、新華網(2014年05月22日)