中国高速鉄道の現状と今後の見通し
2015年 5月20日 金 振(中国総合研究交流センター フェロー)
習近平(シー・ジン・ピン)指導部が推進している「一帯一路」戦略の成敗は、中国高速鉄道のアジア横断の実現にかかっている。中国政府は、国家首脳によるトップセールスのもと、タイ、ミャンマー、パキスタン、ロシアなどの国と鉄道輸出に関する合意にたどり着いた。中国の高速鉄道の発展状況、国際競争力、今後の見通しについて整理してみた。
敷設距離、7年間で24倍以上
近年、中国の高速鉄道の建設は著しい。筆者の試算によれば、営業運転を行っている高速鉄道路線の総距離は、2008年の672kmから急速に伸び、2014年には165,197kmに達した。これは、2008年時点の総距離の24倍以上に相当する。高速鉄道が国全体の鉄道営業距離に占める割合は、2008年の0.8%から、2014年の14.8%までに拡大した(図1)。
図1 中国高速鉄道の運営距離、全体運営距離における割合
世界全体の58%
2015年現在、世界全体における高速鉄道の運営距離は、のべ28,673kmに達しており、中国だけで世界全体の58%を占める計算になる(図2)。
図2 世界全体における高速鉄道の割合
利用者数は73倍増
中国高速鉄道の利用者数は、2008年の734万人/回から、2014年の5.3億人/回に拡大した(図3)。これは、7年間で73倍に増加した計算にまる。全体鉄道利用者における高速鉄道利用者数の割合は2008年の0.5%から、2013年の25%までに成長した。
図3 中国高速鉄道の利用者数、全体利用者における割合
中国高速鉄道の競争力
世銀の調査報告書によれば、設計速度300km/h以上の場合、中国の高速鉄道敷設コストは、おそよ1億元から1.25億元の間であり、ヨーロッパの約1.47元~2.29億元よりコストが安い。また、施工区間によっては、中国のコストはヨーロッパの1/3以下になる場合もある(出典:UIC,HIGH SPEED LINES IN THE WORLD,2014)。
敷設コストも安い。例えば、中国はドイツのスラブ製造機械の輸入に頼っているが、スラブ製造コストは同じ機器によるドイツ製スラブの1/3以下に押さえられている。今後、設備の国産化が進むことによって、製造コストはさらに低下する。
上記の調査報告書がまとめた高速鉄道のコストには、中国事業者の初期設備投資も含まれている。後続の建設プロセスでは、初期設備投資に関する事業者の負担が軽減されるので、全体コストはさらに下がる。
今後の見通し
2004年に発表した「中長期鉄道網計画」は、2020年まで、客運専用鉄道(高速鉄道)を1.2万km以上敷設する目標を掲げているが、2014年にこの目標がすでに達成された。2020年まで、中国高速鉄道の運営距離は4.7万kmまでに到達する見方もある。
今後の見通しとして、2015年まで、中国の高速鉄道は、50万人以上人口をもつ302都市(2010年国民経済普査)をすべてカバーするネットワークとして成長する。高速鉄道の普及に伴い、今後、中国では多数の「一時間経済圏」が形成される。中国政府が推進している戸籍改革制度との相乗効果もあって、高速鉄道網の整備は、今後、さらなる人口流動を生み、経済活性化が一段と加速しそうだ。
習近平(シー・ジンピン)指導部が推進している「一帯一路」戦略の成否は、中国高速鉄道のアジア横断計画の実現にかかっている。中国政府は、国家首脳によるトップセールスのもと、タイ、ミャンマー、パキスタン、ロシアなどの国と鉄道輸出に関する合意にたどり着いた。
「一帯一路」戦略の「背骨」ともいえる中国高速鉄道に動向につき、今後とも注目していきたい。