中国における産学研連携の概況(その5)
2015年 8月24日 孫福全(中国科学技術発展戦略研究院院務委員)
(その4よりつづき)
3.5 研究開発機関の設立
出資金または技術を株式に換算して出資することにより、研究開発機関は設立され、技術開発もしくは技術経営が行われる。現在、主に二つの形式がある。一つは、大学や研究機関と企業が共同で研究・開発・生産を行い、研究・生産・販売を一本化した研究開発機関を作る形式である。大学と研究機関の科学技術力という強みと企業の生産経営能力という強みを結合し、企業の運用モデルを使い、新型の科学技術企業を設立する者である。もう一つは、大学と研究機関が研究成果を株式に換算して企業へ参入投資を行うものである。
研究開発機関の設立という方式の長所は、株式分配を通して産学研の各機関の権益分配問題を解決し、利益紛争が生じにくいところにある。この方式は高い実力を有する大規模企業と大学や研究機関との長期的な連携や、高い潜在能力を有する中小企業が自らの研究開発・イノベーション能力を強化、発展させる場合の双方に適用できる。企業は技術開発コストを下げるとともに、自らのコア技術と特許技術を持つことができる。大学や研究機関は新たな科学研究プラットフォームを持つと同時に、長期的な経済収益も上げることができる。
すなわち、投資家から産業化に必要な資金がもたらされるとともに、市場化や産業化の方法を知る管理チームが参加することにより、該当産業に関する豊富な経験と資源によって、科学研究成果の産業化プロセスが強力に推進されるからである。
ただこの方式には、一方で限界もある。
(1)損益について責任を負う企業形式を取ることにより、収益が出ない場合または出る以前のコストと必要経費が大きなリスクになる。
(2)企業は利益の最大化を追求する組織であり、経済利益が最優先され研究へのニーズも経済利益に役立つものに限定され、往々にして科学研究の発展には不利な状況が生じてしまうことになる。
(3)こうした方式では、ときに技術による株式参入の状況が出現する。技術は会社に属することとなるため、技術発展の観念と経営理念とが衝突した場合、研究員が技術進展を進めたくても組織外の法律がそれを許さず、組織内においても相当な抵抗が出る。そのため、科学技術の発展に影響を与える恐れがある。
3.6 人材の共同育成と人材交流
大学と研究機関、企業では、人材育成特別基金の設置、教授や研究者による企業の顧問、学生の企業内での実習、企業人員の大学や研究機関での研修など、様々な方法を通して人材の共同育成や人材交流が行われている。
中国では、多くの企業と研究機関、大学が良好な人材交流の仕組みを形成しており、一部の大学は企業に教学実習拠点を設立し、一部の企業は研究機関や大学に人材育成基金を設立している。たとえば、北京青年企業管理研修学院とレノボグループの北京レノボ利泰ソフトウェア会社は、ソフトウェアエンジニアリング研究と情報技術に関わるIT人材の育成を共同で実施しており、北京レノボ利泰ソフトウェア会社は同学院の新入生と就職保障の合意を締結している。
人材の共同育成と人材交流の方式は、研究員のポテンシャルを高め、活躍の場も広がることで、企業と市場のニーズに適合していると言える。企業の研究員は専門機関の専門知識の育成を受け、基礎理論と先端技術に対する理解と認識を深めている。さらに、人的交流を通じて産学研各機関の知的交流と相互理解を深めることで、産学研連携を促進する環境が形成されている。
人材の共同育成と人材交流は、産学研の各機関による正式な契約行為の場合もあれば、個人の意向に基づく非公式の場合もある。さらに、企業が大学の研究員や学生を支援し、研究開発や学生を助ける公益的な行為の場合もある。
このうち、正式な契約行為について言えば、産学研各機関の技術力と相互信頼が長期的な連携のためには必要である。知識移転、訓練計画を通じて、大学と研究機関の研究員は企業の研究開発計画や技術的なボトルネックについて参考意見を出し、企業は大学のカリキュラム設計と研究計画に提案をすることができる。これとともに、研究員と大学生、企業人員の相互交流は知的交流と技術の向上を促進するものである。
また、公益的な協力行為について言えば、企業は委託側として受益の対象と範囲を明確にし、大学は代理人として誠実に信義義務を守ることが不可欠である。厳格で効果的な予算管理とプロジェクト管理を通じて初めて、企業の公益的な援助目標を実現し、長期的な人材の共同育成と人材交流の関係を企業と築くことができる。
3.7 産業技術連盟
産業技術連盟とは、大学や企業、研究開発機関、その他の関連組織が、契約に基づきリソースの共有と研究開発要素の最適配置により、産業の核心技術や基盤技術の共同研究を行う利益共同体である。当該方式は、産学研の各機関が戦略レベルでの緊密な協力関係を作ることであり、その目的は産業の核心技術と基盤技術の重要な課題の解決にある。
2008年、中国科学技術部は「産業技術革新連盟の構築推進に関する指導意見」を公布した。この中には「国家戦略産業と地域の主産業の技術革新ニーズに呼応し、産業の中心となる競争力の形成を目標とし、企業を主体とし、産業技術革新の連鎖体系に関し、市場メカニズムを利用してリソースを配分し、企業や大学、研究機関などの戦略レベルでの効果的な連携を実現し、産業発展の技術的な課題を共同で解決する」という考え方が示されている。
この「指導意見」を受け、産業技術連盟に急速な発展の機運が盛り上がった。2013年になると、科学技術部などが積極的に推し進めたこともあり、産業技術連盟の数は146に達した。中央政府の指導に基づき、地方政府も地方の経済社会の発展と産業の特徴とを結び付け、多くの産業技術連盟の設立を後押しした。もちろん、市場が自発的に設立した産業技術連盟も数多く設立されている。
産業技術連盟は一般的に、企業を中心とし、連盟内の企業のイノベーション能力の向上を目標とし、大学または研究機関は企業の技術ニーズを満たすために活動する。産業技術の発展に目を向ければ、企業自身の研究開発活動でも技術革新は見込めるが、企業がさらに将来性のある技術を求める場合には、大学や研究開発機関との連携が必要となる。その意味で、当該方式はまだまだ発展の余地がある。
産業技術連盟は、契約に基づき企業、大学、研究機関との間に長期的な連携に関する組織と制度を構築するものである。企業と大学、研究機関との間で、リソースの共有や研究開発要素の組み合わせの最適化を行うことで、リソースの最適配置が可能となる。また、主に革新技術や基盤技術を対象として共同開発を行う。こうした技術は関わる領域も広いため、国民経済全体に大きな社会効果をもたらすことは明らかである。
一方で、当該方式には限界もある。まず、多くの連携する機関の利益に関わることから、形成過程が複雑で維持コストが比較的高い。産業技術連盟に参加する企業は、業界内で技術力や資金力が高い企業であることが通例で、すべての企業が参加できるわけではない。さらに、この方式は技術独占の状況を産みだしやすく、連盟外の企業の技術発展を妨げる可能性もある。また、産業技術連盟が政府の支援を受ける場合では、連盟外の企業にとって不公平などが生じることもある。
前述の連携方式のほかにも、大学と企業による共同基金や大学における企業の産業基金の設立、大学による大学サイエンスパークや大学経営企業の設立なども重要な方式となっている[1]。その発展経緯を見ると、産学研連携は「点と点」の連携から、「点と面」、さらにネットワーク型連携へと、また連携関係も緩やかなものから緊密で戦略的な連携へと転換しつつある。
(その6へつづく)
[1] 蘇竣、何晋秋ら 「大学と産業連携関係----中国大学知識革新と科学技術産業研究」中国人民大学出版社、2009年12月出版。