第109号
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中国の大学サイエンスパークについて(その9)

2015年10月26日  康琪(中国科学技術発展戦略研究院体制管理研究所 シニア研究員)

その8よりつづき)

事例2 華中科技大学サイエンスパーク

1 概況

 華中科技大学サイエンスパークは、武漢東湖ハイテク区大学サイエンスパークの最初の事業となる重点プロジェクトで、「武漢•中国オプティクスバレー(光谷)」の重要な一部を構成している。敷地面積は約67万平方メートル。インキュベーション・アクセラレーション・産業化という3つの機能に基づき、「サイエンス企業インキュベーション区」「サイエンス企業アクセラレーション区」「サイエンス企業産業化区」に分かれている。1999年9月、華中科技大学は武漢東湖開発区と華中科技大学サイエンスパークの建設準備に着手した。1999年12月、「武漢華工大学サイエンスパーク発展有限公司」が設立され、パークの開発・建設・サービスを担当することとなった。2001年9月、サイエンスパークのインフラ建設が全面的に竣工した。同年、華中科技大学サイエンスパークなどの5つの大学サイエンスパークからなる「東湖ハイテク区国家大学サイエンスパーク」が科技部と教育部によって最初の22カ所の国家大学サイエンスパークの施工対象の一つに認定された。2013年11月22日、華中科技大学サイエンスパークが科技部によって認定された国内最初の「起業養成所―インキュベーター―アクセラレーター」の科学技術起業インキュベーションチェーンの模範機構と認定された。

2 発展の現状

 十数年の発展を経て、華中科技大学サイエンスパークは、経済的利益の飛躍的な成長を実現した。2001年の設立当初、入居企業は6社、育成企業は5社、延床面積は4.36万平方メートル、企業インキュベーション面積は0.88万平方メートル、開発・生産・販売の総収入は2.22億元、利潤は0.15億元、納税額は0.10億元、従業員数は760人だった。2009年になると、入居企業は89社、育成企業は52社、延床面積は30.36万平方メートル、企業インキュベーション面積は7.65万平方メートル、開発・生産・販売収入は47.50億元、利潤は3.22億元、納税額は2.68億元、従業員数は8896人に増えた。生産額・利潤額・納税額のいずれも最初の10年で大きく伸びた(図8から図10参照)。

 現在、華中科技大学サイエンスパークの入居企業は146社に達している。このうち上場企業は6社、世界トップ500社にランクインした企業は2社あり、入居企業の60%以上が光電子産業を中心としている。2013年度のパーク内の販売収入は72.87億元、納税額は4.1億元、従業員は1万5220人だった。累計の販売収入は465.95億元、納税額は23.90億元。国家科学研究・産業化プロジェクトの累計担当数は506件、国家科学研究・産業化支援金の取得額は6.56億元。省・市科学研究開発プロジェクトの累計担当数は252件、省・市科学研究開発プロジェクトの支援金の取得額は5.04億元。研究成果としての査定を通過したプロジェクトは累計459件、自前の知財権を持った製品の開発は累計628件、国家特許の取得は累計624件、プロジェクトの申請数は873件である。

図8

図8 華中科技大学サイエンスパークの10年間の生産額統計(億元)

図9

図9 華中科技大学サイエンスパークの10年間の利潤額統計(億元)

図10

図10 華中科技大学サイエンスパークの10年間の納税額統計(億元)

 総体的に見て、華中科技大学サイエンスパークはすでに、「大学科学技術成果の転化基地」「産学研協力のモデル基地」「ハイテク企業のインキュベーション基地」「イノベーション・起業人材の養成基地」として発展し、地域経済の発展と産業技術の進歩、武漢東湖の「第二創業」の主要なイノベーションの源泉となり、多くの優れた企業を育て、多くの優秀なイノベーション・起業人材を養成した。

3 パーク発展の主な特徴

 華中科技大学サイエンスパークは、「世界一流の大学サイエンスパーク」を建設することを目標とし、各級政府の提供する政策環境や中部地域の台頭という経済環境、華中科技大学の専門学科の技術環境、大学が密集する武漢地区の人材環境を拠点として、企業に向けたイノベーション・起業サービス体系の改善を続け、特定産業を主導とした産業構造を打ち立て、研究成果の「4ステップ」モデルを模索し、大学の科学技術成果の持続的転化を可能とする体系を構築した。

3.1 有力リソースの集中と産業構造の構築

 華中科技大学の人材や学科、技術の強みに基づき、同大学サイエンスパークは、光電子産業を中心とし、先進製造業と新材料、ソフトウェア産業が同時に発展する局面を構築し、国家級ハイテク産業化モデルプロジェクトの一連の拠点の形成と集積を実現した。これにはデジタル制御システム産業化基地、レーザー産業基地、センシティブデバイス産業基地、光通信産業基地などが含まれる。「華工科技」「華工レーザー」「華中デジタル制御」「天喩情報」「中元華電」などの有名ブランドを形成し、「四方継保」「地中海航運」「江鑽股份」「合康変頻」などの有名企業を誘致し、「武漢•中国オプティクスバレー」の中核となる勢力を形成した。

3.2 研究成果転化の「4ステップ」モデル

 華中科技大学サイエンスパークは、科学技術の研究成果の転化サイクルと企業のライフサイクルの特徴に基づき、企業の成長と技術の革新の全プロセスに適応した4ステップの転化モデルを形成した。第一段階では、華中科技大学のキャンパス内に製品の研究開発プラットフォームを構築し、市場ニーズと製品開発のマッチングをはかり、産業化の見込みのあるイノベーション成果を絶えず提供し、ハイテク産業の「シード」を育てる。第二段階では、キャンパス周辺にサイエンス企業のインキュベーション基地を設立し、企業のインキュベーション環境を提供し、良好な起業の雰囲気を作り出し、サイエンス企業の良好な発展を推進する。第三段階では、開発区内に産業パークを形成し、資産の再編や資本誘致による増資などの方法で、大規模なハイテク企業群を形成し、ハイテクの放射効果を実現し、地域経済をレベルアップさせ、貢献によって支援を求め、貢献によって発展を求める。第四段階では、株式の譲渡やリソースの最適化を通じて、企業の株式を企業の発展に有利な株主に計画と秩序をもって譲渡し、企業のさらなる発展を促進する。同時に大学の経営資本の戦略的な撤退も実現し、新たな製品開発や企業育成への使用を可能とする。

3.3 大学研究成果の継続的な転化を可能とする体系の構築

 国家イノベーション系統の視点から見ると、大学の役割は主に知識のイノベーション、企業の役割は主に技術のイノベーション、大学サイエンスパークの役割は主にイノベーション・起業サービスの提供にある。華中科技大学サイエンスパークは、これら3つをうまく統合し、良好なイノベーション・起業サービスの提供を土台として、大学の研究成果の継続的な転化が可能な体系を構築し、地域イノベーションを促進している。

その10へつづく)