中国の海岸帯の直面する脅威、管理の実践、「十三五」科学技術サポート活動の重点―青島市・東営市・連雲港市を例に(その1)
2015年11月18日
張 傑:国家海洋局第一海洋研究所
略歴
1963生まれ。内モンゴル自治区包頭市出身。博士、研究員。研究テーマ:海洋リモートセンシング技術・応用研究。
王 進河:東営市海洋・漁業局
崔 文連:青島市環境監視測定セントラルステーション
趙 新生:連雲港海域使用保護動態管理センター
馬 毅:国家海洋局第一海洋研究所
海岸帯は、海洋と陸地の交差地帯であり、人類が最も密集し、開発活動が最も活発で、経済が最も発達したエリアであり、資源・環境の矛盾が最も際立ったエリアでもある。中国の海岸帯は、人口の最も多いアジアと資源の最も豊富な太平洋の交錯地帯に位置し、海陸交通の双方向の波及効果があることから、海岸帯エリアは、陸域経済区の核心であり外海への通り道であると同時に、海洋経済区の核心であり海洋開発活動の拠点ともなっている。
高潮や赤潮、緑潮、石油流出、海氷、海岸侵食などの海洋災害が頻発し、埋め立てや海岸観光、海水養殖、海岸工事などの人類の開発活動が激しいことから、中国の海岸帯エリアは現在、深刻な脅威に直面している。海岸帯エリアの持続可能な発展を実現するためには、一連の有効な措置を取り、海岸帯資源環境の開発と利用をコントロールし、海岸帯エリアの保護と管理を強化する必要がある。
本稿は、中国の海岸帯エリアが受けている圧力と直面している脅威を概述するものであり、青島市・東営市・連雲港市の海岸帯を例として、海岸帯の総合管理において取られている関連措置の実践を紹介し、「十三五」期間の中国の海岸帯総合管理の科学技術サポート活動の重点を提起するものである。
1 中国の海岸帯が直面する脅威
海岸帯経済の急速な成長に伴い、海岸帯エリアが受けている巨大な圧力と直面している厳しい脅威は主に、海洋災害の頻発や人類開発活動の激化などの形を取り、海岸帯エリアの持続可能発展を制約している。
1.1 海岸帯における海洋災害の頻発
頻発する高潮や赤潮、緑潮、石油流出、海氷、海岸侵食、外来種侵入、海水汚染などの海洋災害は、海岸帯エリアに深刻な影響をもたらしている。
1.1.1 高潮
高潮は、激しい大気の運動、強風や気圧の急変(通常は台風や温帯低気圧などの災害性天気系統)によって海水の異常な昇降が発生し、その影響を受けた海域の潮位が平常の潮位を大きく上回る現象である[1]。高潮は、中国沿岸地区に対する影響が最も大きい海洋災害である。ここ5年、中国の沿岸では高潮現象が132回起こり、災害となったものは45回を数えた(詳しくは表1を参照[2])。例えば、2013年5月26日から28日、黄海のサイクロンの影響を受け、渤海と黄海の沿岸には比較的強い温帯高潮現象「130526温帯高潮」が発生した。沿岸では最大138cmの増水(山東濰坊観測所)を記録し、山東省における直接的な経済損失は1.44億元に達し[2]、青島のシンボル的な建築物である「百年桟橋」の橋体も約30mにわたって崩壊した。
高潮の類型 | 高潮回数/災害高潮回数(回) | |||||
2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 合計 | |
台風高潮 | 10/5 | 10/7 | 9/5 | 13/9 | 14/11 | 56/37 |
温帯高潮 | 22/3 | 18/1 | 13/1 | 11/0 | 12/3 | 76/8 |
合計 | 32/8 | 28/8 | 22/6 | 24/9 | 26/14 | 132/45 |
1.1.2 赤潮
赤潮は「紅潮」とも呼ばれ、通常、海洋の微細藻類や原生動物、細菌が水中で過度に繁殖・集中することによって海水が変色する現象を指し[3]、漁業生産と海岸観光に深刻な影響を与え、海域に元々あった生態バランスを破壊している。2013年、中国の沿岸では合計46回の赤潮が発見され、そのうち有毒な赤潮は7回、最大面積は100km2を超えた(赤潮の統計は表2参照[2])。例えば2012年5月8日から11日まで、青島市五四広場付近の海域でヤコウチュウによる赤潮が発生し、被害面積は約10km2に達し、最大密度は54.9×105個/Lに達した[4]。
発生期間 | 発生海域 | 赤潮の優勢種 | 最大面積(km2) |
5月25日~8月31日 | 秦皇島—綏中付近海域 | アウレオコッカス | 1450 |
7月5~8日 | 臨港経済区東部海域 | スケルトネマコスタツム | 154 |
7月16~25日 | 漢沽海域 | ヤコウチュウ | 100 |
5月30日~6月1日 | 連雲港海州湾海域 | ヘテロシグマ・アカシオ | 450 |
5月13~29日 | 温州蒼南海域 | Prorocentrum donghaiense | 450 |
5月18日~6月2日 | 台州玉環坎門海域 | Prorocentrum donghaiense | 120 |
5月20~24日 | 寧波韮山列島東南海域 | Prorocentrum donghaiense | 140 |
6月3~9日 | 舟山東福山島付近海域 | Prorocentrum donghaiense | 100 |
6月22~24日 | 朱家尖島東北部—中街山列島西部海域 | Prorocentrum donghaiense | 200 |
8月9~13日 | 湛江港湾近岸海域 | スケルトネマコスタツム | 113 |
1.1.3 緑潮
緑潮は、海洋中の一部の大型緑藻(アオサなど)が一定の環境条件下で爆発的な増殖・集中によって一定レベルに到達し、生態環境の異常をもたらす現象である。黄海海域では2008年、これまで文献に記録されたうちで世界最大規模の緑潮が発生し、青島地区で引き上げられたアオサだけで100万トンに到達し[5]、この年に青島で行われた五輪大会ヨット/セーリング種目の開催に大きな圧力をもたらしただけでなく、青島市の水産養殖や海岸観光、海上交通運輸、海洋環境に悪影響を与えた。黄海南部では2007年から現在まで、緑潮災害が毎年発生している。2008年から2013年の中国の黄海沿岸海域での緑潮の最大分布面積と最大カバー面積は表3の通りである。このうち2013年3月から8月まで、緑潮災害は中国の黄海沿岸海域に大きな影響を与え、カバー面積は6月27日に最大の約790km2に達し、分布面積は6月30日に最大の約2万9733km2に達した[2]。
年 | 最大分布面積(km2) | 最大カバー面積(km2) |
2008 | 25000 | 650 |
2009 | 58000 | 2100 |
2010 | 29800 | 530 |
2011 | 26400 | 560 |
2012 | 19610 | 267 |
2013 | 29733 | 790 |
1.1.4 石油流出
石油流出は、石油の調査や開発、精錬、運搬、保管の過程で、予想外の事故または操作ミスによって、原油または石油製品が作業現場または容器からもれ、地面や海岸、海面に流出する現象を指す。
石油流出は、海洋の生態環境を大きく破壊する。東営市は勝利油田の所在地であり、また青島市と連雲港市は大型港湾を保有しており、石油流出事故のリスクがいずれも高い。2011年の蓬莱19-3油田の石油流出事故では、周辺と北西部の約6200km2にわたる海域の海水が汚染され(一類海水水質基準以下)、そのうち870km2の海水汚染は深刻で(第4類海水水質基準以下)、海水中の石油類の最高濃度(観測点)は6月13日、バックグラウンド値の53倍を超えた。汚染面積は6月下旬には3750km2、7月には4900km2に達したが、8月には1350km2に縮小した。9月になると、蓬莱19-3油田の周辺海域の海水石油類汚染面積は明らかに減小したが、12月末になっても蓬莱19-3油田の海域の海面の一部では依然として油膜が見られた[6]。2013年11月22日には、中国石油化工の東黄石油パイプラインで爆発火災事故が発生し、原油が青島の膠州湾に漏れ出した。石油流出は、膠州湾と港湾付近海域の海洋環境を汚染したが、黄島区大石頭付近の海岸では深刻で、青島前海の一部海域でも石油流出事故による石油汚染と油膜が見られた[7]。
1.1.5 海氷
中国の海氷災害は主に、渤海と黄海の北部沿岸海域に分布している。海氷災害は、船舶の毀損や港湾・埠頭の凍結、海上作業台の倒壊、漁業生産の損害をもたらし、沿岸地区の社会・経済に深刻な影響をもたらす。2010年1月中下旬には渤海と黄海北部でここ30年で最も深刻な海氷現象が発生し、遼寧・河北・天津・山東に被害をもたらし、災害による直接的な経済損失は63.18億元に達した[8]。2012年と2013年の冬季にも、渤海と黄海北部の海域は海氷災害の影響を受け、直接的な経済損失は3.22億元に達し、2011年と2012年の2.08倍に及んだ。これらは主に水産養殖での損失によるものである[5]。2012年と2013年の冬季の渤海と黄海北部の海氷状況は表4の通りである[2]。
影響のあった海域 | 氷結開始日 | 氷結終了日 | 浮氷最大カバー面積(km2) | 浮氷の岸からの最大距離(nmi) | 浮氷の一般的な厚さ(cm) | 最大の厚さ(cm) |
遼東湾 | 2012-12-04 | 2013-03-20 | 23041 | 89 | 10~20 | 45 |
渤海湾 | 2012-12-12 | 2013-02-28 | 6490 | 22 | 5~15 | 25 |
莱州湾 | 2012-12-18 | 2013-02-22 | 4102 | 28 | 5~10 | 25 |
黄海北部 | 2012-12-16 | 2013-03-05 | 6821 | 24 | 5~15 | 25 |
1.1.6 海岸侵食
海岸侵食とは、海洋の動力の作用の下、海岸線が陸に向かって移動するか、潮間帯の海岸と潮下帯の底が下方向に侵食する海岸変化の過程であり、一種の緩やかな海洋災害である。中国の砂浜の70%前後と河川デルタ地区や開放干潟のほとんどは、異なる程度の海岸侵食を受けている[9]。2013年の重点海岸区間の海岸侵食監視測定によると、中国の砂質海岸とシルト質海岸は侵食が深刻で、一部の地区の侵食速度は加速している。例えば、河北省滦河口から戴河口までの砂質海岸は平均年間9.1mの速度で侵食が進んでいる。江蘇省振東河水門から射陽河口までのシルト質海岸は平均年間26.4mの速度で侵食が進んでいる。海岸侵食は、土地の流失をもたらし、家屋や道路、沿岸施設、観光設施、養殖区域に損傷を与え、沿岸地区の社会経済に大きな損失をもたらしている[2]。2013年の重点監視測定区間の海岸侵食状況は表5の通りである[2]。
区分 | 重点区間 | 海外侵食の類型 | 監視海岸の長さ(km) | 侵食海岸の長さ(km) | 平均侵食速度(m/y) |
遼寧 | 綏中 | 砂質 | 112.0 | 28.1 | 1.8 |
蓋州 | 砂質 | 21.8 | 18.0 | 3.8 | |
河北 | 滦河口 ―戴河口 |
砂質 | 99.7 | 0.3 | 9.1 |
山東 | 三山島 ―刁竜嘴区間 |
砂質 | 15.8 | 6.3 | 2.6 |
江蘇 | 振東河水門 ―至射陽河口 |
シルト質 | 62.9 | 36.7 | 26.4 |
上海 | 崇明東灘 | シルト質 | 48.0 | 2.5 | 10.1 |
広東 | 雷州市赤坎村 | 砂質 | 0.8 | 0.4 | 2.0 |
海南 | 海口市鎮海村 | 砂質 | 1.4 | 0.8 | 8.0 |
1.1.7 外来種の侵入
外来種の侵入とは、生物種が原産地から自然または人為的なルートを通じて新たな生態環境に移動する過程を指す。外来種は、在来種の生存空間を占領し、現地の生態環境に影響を与え、現地の生物多様性に損害をもたらす。スパルティナ・アルテルニフロラは米国東南部の海岸を原産地とし、1979年に中国に導入され、山東・江蘇・上海・浙江・福建・広東などに広まった。スパルティナ・アングリカは1963年から1964年に英国とデンマークから導入された[10]。これらの品種の人工導入は、一定の効果を上げたが、大きな危害を生むこととなった。主な危害としては、(1)近海生物の生息環境を破壊し、海岸における養殖に影響する、(2)航道をふさぎ、船舶の港湾への出入りに影響する、(3)海水交換能力に影響し、水質の低下をもたらし、赤潮を誘発する、(4)本土の海岸の生態系に脅威を与え、大規模なマングローブの消失を招いている――などが挙げられる。
1.1.8 海洋汚染
海洋汚染とは、海洋の自浄能力を超えた物質やエネルギーを人類が直接的または間接的に海洋に排出し、海洋環境の質を低下させ、人類の生存と発展、生態系と財産に悪影響を与える現象を指す[11]。陸から海への排出口や主要な河川や水流での汚染が海洋汚染の主因となっている。中国の主要河川72本からの海水への汚染物流出に関する調査によると、2013年にはCODCrが1382万トン、アンモニア態窒素が29.3万トン、硝酸態窒素が221万トン、亜硝酸性窒素が5.7万トン、総リンが27.2万トン、石油類が3.9万トン、重金属が2.7万トン、ヒ素が2976トン流出した。陸から海への排出口431カ所の測定によると、工業排出口が34%、市政系統の排出口が38%、排出用河川が23%、その他の排出口が5%を占めた。年間測定で基準を超過した排出口は129カ所に達した。排出口に隣接する海域の環境の質は全体として低く、所在海域の海洋機能区の環境保護要求を満たさない海域は80%以上に達した[12]。
(その2へつづく)
※本稿は中国科学院海洋研究所より許可を得て翻訳・転載したものである。
【原文】http://www.marinejournal.cn/hykx/ch/reader/create_pdf.aspx?file_no=20150203&flag=1&journal_id=hykx&year_id=2015
参考文献:
[1] 孫湘平『中国近海区域海洋』[M]. 北京: 海洋出版社, 2008.
[2] 国家海洋局『中国海洋災害公報』[EB/OL]. http://www.soa.gov.cn/zwgk/hygb/zghyzhgb/, 2009~2013.
[3] 周名江, 朱明遠, 張経「中国の赤潮の発生傾向と研究進展」[J]. 『生命科学』, 2011, 13(2): 54-59.
[4] 青島市海洋与漁業局『2012年青島市海洋環境公報』 [EB/OL]. http://www.soa.gov.cn/zwgk/hygb/zghyhjzlgb/201305/t20130528_25747.html, 2013-05-28.
[5] 唐啓升, 張暁雯, 葉乃好ら「緑潮研究の現状と問題」 [J]. 『中国科学基金』, 2010, (1): 5-9.
[6] 中国新聞網『蓬莱19-3 油田石油流出事故調査処理報告が公表』[EB/OL]. http://www.chinanews.com/gn/2012/06- 21/3980404_3.shtml, 2012-06-21
[7] 青島市海洋・漁業局『2013年青島市海洋環境公報』 [EB/OL]. http://ocean.qingdao.gov.cn/n12479801/ n28192913/28337806.html, 2014-05-13.
[8] 国家海洋局『2010年中国海洋災害公報』[EB/OL]. http://www.soa.gov.cn/zwgk/hygb/zghyzhgb/201211/t20121105_ 5543.html, 2011-04-22.
[9] 陳吉余, 夏東興, 虞志英ら『中国海岸侵食概要』 [M]. 北京: 海洋出版社, 2010.
[10] 徐海根, 強盛『中国外来侵入品種編目』[M]. 北京: 中国環境科学出版社, 2004.
[11] 趙進平, 関道明『フラックス監視測定区域の統治: 近海汚染監視測定の新モデル』[M]. 北京: 海洋出版社, 2013.
[12] 国家海洋局『2013年中国海洋環境状況公報』[EB/OL]. http://www.soa.gov.cn/zwgk/hygb/zghyhjzlgb, 2014.