第111号
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海洋漁業産業クラスター研究概論(その1)

2015年12月18日 秦宏、馬添(中国海洋大学管理学院)

 産業クラスターの発展はすでに、世界的な経済現象と言える。先進国でも発展途上国でも、競争優位を備えた産業は往々にして、地域の特性を鮮明に持つ産業クラスターの形をとる。農業産業クラスターも世界に比較的広まった現象であり、広義の農業の一部である海洋漁業産業クラスターも急速に発展している。

 海洋漁業産業クラスターの発展が良好な国としては、ノルウェーやアイスランド、日本などがあり、比較的成熟したクラスターが形成されている。中国の一部沿岸省市でもここ数年、海洋漁業産業クラスターが一定の発展を遂げ、一部地域の海洋漁業産業クラスターはすでにある程度の規模を備えている。実践の進行と同時に、海洋漁業産業クラスターの発展にかかわる国内外の専門家や研究者の研究も進み、海洋漁業産業クラスターの内実や特徴、直面する課題と対策、地域の海洋漁業産業クラスターの発展と地域経済の発展に対するその働きなどが研究されている。

 本稿は、既存の海洋漁業産業クラスターの研究をまとめ、未来の研究を展望するものである。

1 産業クラスターの内実とその分類

1.1 産業クラスターの内実

 1990年、米国の研究者Porter[1]は、『国の競争優位』において初めて、「Industrial Cluster」(産業クラスター)という言葉を使い、産業の群生現象の分析に用いた。Pykeら[2]は産業クラスターを「生産過程において相互に関連する企業の集積」と定義し、産業クラスターは通常、特定の産業内に形成され、特定の地域に根付くものとした。Bagellaら[3]は産業クラスターを「投入・産出関係を持ち、共同の社会規範の制約を受けた中小企業が特定の地理的範囲において高度に集中することによって形成された企業のネットワーク」と定義した。

 中国の研究者では、王緝慈[4]が、産業クラスターと地域経済学を中国国内の研究界に引き入れ、新型の地域発展理論を提出した。王は、産業クラスターの最も顕著な特性は、技術の革新を地域経済の進歩の最大の推進力とすることを可能とすることだと指摘し、そのほかにも地域内部の取引費用の引き下げとインフラの共同使用によるコスト節約という2つの利点があるとした。曾忠禄[5]は、産業クラスターとは、同一産業の企業とこの産業の関連産業、この産業を支える産業の企業が地理的に集中することを指すと主張した。徐康寧[6]は、産業クラスターとは、同じ産業が特定の地域に高度に集中する産業成長現象を指すととらえた。柳卸林ら[7]は、産業クラスターの内実を地域内の関連産業の集中と総括し、地域の協力を通じて収益面での優位性を獲得することを可能にするものだとした。

1.2 産業クラスターの分類

 産業クラスターの分類について、Markusen[8]は、産業地域の構造の特徴に基づき、産業クラスターを「マーシャル型産業地域」(イタリア型産業地域はそのバリエーション)、「ハブ・アンド・スポーク型産業地域」(一種または複数の種類の産業の一つまたは複数の主要企業を中心とした地域構造)、「サテライト型産業プラットフォーム」(主にグローバル企業の現地工場からなる)、「政府アンカー型産業地域」(国家の力に頼った産業地域)に分類した。Knorringaら[9]は、発展途上国の産業クラスターの研究において、産業地域に対するMarkusenの分類方法を参考とし、産業クラスターを(1)イタリア型産業クラスター、(2)サテライト型産業クラスター、(3)ハブ・アンド・スポーク型産業クラスター――の3つに分類した。Guerrieriら[10]は、企業の関係に基づき、産業クラスターを「企業の地理的な集中」「マーシャル型産業地域」「ある種のリーダーシップの形を伴う企業ネットワーク」に分けた。米国人研究者Mytelkaら[11]は、産業クラスターの内在関係に基づき、産業クラスターを「非正式クラスター」「組織的産業クラスター」「革新型クラスター」の3つに分類した。

 産業クラスターの分類については中国の研究者による研究も多くある。仇保興は、企業の性質に基づき、クラスターを「製造業クラスター」「販売業クラスター」「混合企業クラスター」などに分けた。羅若愚[12]は、クラスターの形成方式に基づき、中国国内のいくつかの産業クラスターを、「原生型」の浙江企業クラスターと「はめ込み型」の広東企業クラスター、「派生型」の天津自転車企業クラスターに分類した。周兵ら[13]は産業クラスターを、(1)学習型産業クラスター、(2)ブランド型産業クラスター、(3)機能関連型産業クラスター、(4)定着型産業クラスター、(5)統合マーケティング型産業クラスター――の5類型に分けた。霍麗ら[14]は、産業クラスター形成における制度の役割に基づき、産業クラスターを「外生型産業クラスター」と「内生型産業クラスターに分け、公式の制度は「外生型産業クラスター」の形成を促し、非公式の制度は「内生型産業クラスター」の形成を育むとした。

2 海洋漁業産業クラスターの内実

 海洋漁業は、農業一般と比べると特殊性があるものの、広義の農業の一部であることからわかるように、二者の間には一定の共通性が存在する。農業産業クラスターの内実を把握することは、海洋漁業産業クラスターの内実を認識する手助けとなる。

 農業産業クラスターの概念について海外の研究者の間では主に二つの観点がある。一つは、クラスターの活動という視点からとらえたもので、米国のOklahoma[15]の商務部門は、農業産業クラスターの活動を「農業生産」「農業支援」「付加価値加工」の3つに分けている。もう一つは、クラスターの構成という視点からとらえたもので、Kulshreshthaら[16]は、農業産業クラスターは「農業生産サブクラスター」「食品加工サブクラスター」「農場投入製造サブクラスター」の3つのサブクラスターから構成されると考えた。経済協力開発機構[17]は、農業産業クラスターを「農産品の生産と加工に従事する企業やサポート機構が地理的に相互に隣接する形で農業生産拠点の周囲に集まり、共通性や相互補完性から一つにまとまって形成された有機的な全体」と定義し、農業産業クラスターを「産業の部門またはレベルのカテゴリー」に組み込んでいる。

 農業産業クラスターについては中国国内の研究者も数多くの定義をしている。向会娟ら[18]は、クラスターの成因という角度から、農業産業クラスターを「農業活動を中心とし、大量の専門的な企業と関連支援機関がその共通性と相互補完性から農村コミュニティーの範囲内に緩やかに集中し、農村経済の発展を共同で推進することを目的として形成された密集型の協力ネットワーク」と定義している。王竜鋒ら[19]は、特色ある農業の角度から出発し、農業産業クラスターを「特色ある農業の分野において、特色ある農業と密接な関係を持つ多くの生産者や企業、関連支援機関が空間的に集中したもの」と定義している。任青糸[20]は、農業産業クラスターを「農産品生産拠点付近の一定の範囲内で、これと関連する大量の企業と関連支援機関が空間的・地域的に緩やかに集中し、専門性と規模によって独自の競争優位を得ているネットワーク集合体」とした。

 海洋と漁業の産業クラスターに関する研究は1990年代、世界的に芽生え始めた。海洋産業クラスターの概念について、海外の研究者では、Wijnolstら[21]が、海洋産業クラスターの内実を「海洋分野において相互に連携した企業や組織が地理的に集中したもの」とまとめ、海洋産業クラスターにおいては「地理的位置」の定義がより広いものとなると指摘している。例えばノルウェーにおいては、主要なクラスターを中心として、いくつかの小さな付属群が周辺地域に散らばっている。つまり一つの産業クラスターが、いくつかの異なる地域にあるということがあり得るということである。漁業産業クラスターの概念については、Sigfussonら[22]が、漁業産業の内実(漁業養殖、漁業加工、漁業販売)に基づき、「漁業産業クラスターは、この3種の活動のために資源とサービスを提供する産業の集合である」とした。

 中国国内の研究者では鄧雲鋒[23]が、「漁業産業クラスターの発展は、市場を方向付けとし、漁業従事者の経営を土台とし、複数のタイプの組織を拠点とし、経済収益を中心とし、一連のサービスを手段としたもので、『生産・提供・販売』と『栽培・養殖・加工』の一体化経営を実施し、漁業の再生産プロセスの生産前・生産中・生産後の各段階を一つの漁業系統としてまとめるもの」と定義付けている。盛国勇ら[24]は、「漁業産業クラスターは、新たな漁業生産の組織形式であり、産業内の各経済主体の資源の統合を通じて資源の最適配置を実現し、生産効率と市場効率を向上させ、競争優位を実現するもの」としている。王苧萱[25]は、「海洋漁業産業クラスターは、自身の資源要素の優位性または政府の関連政策の促進によって発展するもので、捕獲業・養殖業・水産品加工業・船舶製造業・海洋バイオ製薬業などを含む」と指摘している。王文彬[26]は、漁業産業クラスターを「特定地域において、競争と協力の関係を持ち、地理的に集中し、互いに関連性を持った漁業企業や専門サプライヤー、サービスサプライヤー、金融機構、研究機構、その他の関連機構によって構成される集積体」と定義している。李雯ら[27]は、海洋漁業産業クラスターの目的は、エコ漁業や効率漁業、ブランド漁業を重点的に発展させ、大規模な産業体系を形成することにあると指摘している。

3 海洋漁業産業クラスターの特徴

 高健ら[28]は、中国の海洋漁業産業クラスターの産地や市場は高度に集中していると指摘する。品種の地理的な優位性が際立ち、加工貿易企業は沿岸地域に高度に集中し、消費市場は明らかな地域性を備え、流通市場には一定のクラスター化の特徴が見られる。韓立紅ら[29]は、山東省海洋漁業産業クラスターの発展の分析を通じて、山東省では海洋漁業産業クラスターがすでにほぼ形成され、海洋漁業の生産・加工貿易企業が高度に集中し、海洋漁業の流通産業と消費市場の地理的な一定程度の集中という特徴がすでに備わっていると指摘する。高麗娜[30]は、山東省栄成市の海洋漁業産業クラスターの発展の特徴を分析し、その特徴として、(1)地方政府が漁業インフラの建設を重視し、クラスターの急速発展の土台を築いている、(2)科学技術の革新が積極的に進められ、効率漁業産業クラスターの発展に技術的な支えが提供されている、(3)漁業資源と資金の強みが生かされ、産業チェーンが絶えず拡張され、日増しに整った産業体系が形成されている――との点を挙げている。

その2へつづく)


※本稿は中国水産学会『水産学報』編集部より許可を得て翻訳・転載したものである。
【原文】http://www.marinejournal.cn/hykxen/ch/reader/create_pdf.aspx?file_no=20140618

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