第111号
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中国における産学連携に関する課題と促進方策(その1)

2015年12月15日 孫福全(中国科学技術発展戦略研究院院務委員)

 中国の産学研連携は順調な発展傾向を見せているものの、産学研の各主体の目標とする機能や追求する利益が異なることから、協力過程では様々な問題が現れている。こうした問題は普遍的なものとは言えないが、一部の問題は長期的に継続し、また一部の問題は中国以外の国にも存在するなど、一定の共通性が見られる。中国の産学研連携の健全な発展を実現するためには、こうした問題の克服や解決が必要となる。

1、産学研連携の原動力をめぐる問題

 中国の産学研連携には原動力不足という問題がある。学術研究の角度から考えると、大学や研究機関が産学研連携を行う動機としては、研究経費獲得や新たな知識の獲得、知識の生産力への転化、人材育成などが挙げられる。だが近年、大学と研究機関の研究経費は、国家・地方の研究計画(基金)からの経費が大幅に増加し、さらに国家・地方のプロジェクト担当は学術成果の認定や職階審査に有利となるため、一部の大学や研究機関の企業との協力の動機付けは弱まっている。大学や研究機関が望んでいるのは、基礎的な研究や将来性のある研究を展開し、知識産出の能力を高めることであり、知識の応用は十分に重視されているとは言えない。また知識の応用・転化には有効な利益奨励の仕組みが欠けており、知識の応用・転化を企業と共同展開する動機の弱さにつながっている。

 企業の角度から考えると、企業が産学研連携を行う動機としては主に、商業利益の獲得や技術革新能力の向上、企業の人材の育成や訓練などが挙げられる。だが中国の企業は往々にして、短期的に効果がわかる研究開発プロジェクトに偏り、長期的な視点に立った将来的な考慮を欠いており、大学や研究機関との基礎的・先見的研究を展開する需要が不足している。また大型企業はすでに高い技術革新能力と整った技術革新体系を備えており、産学研連携の切迫性は中小企業の方が高い。だが中小企業は資金や人材が不足しており、高水準の産学研連携には踏み出せない。

 産学研各主体の協力の原動力不足という問題を解決するには、大学と研究機関に対してそのタイプに応じた指導と評価を行う必要がある。政策面では、一律的な処理を避け、問題志向型の研究の方向付けを確立し、論文や成果の数をことさら重視して実際の革新に対する貢献や研究成果の転化を無視する傾向を転換する必要がある。

 国務院の関連主管部門は、大学と研究機関の評価にあたって、研究成果の転化の実績をより重んじなければならない。大学と研究機関は、研究成果の転化に従事する研究員に対して、利益の仕組みを通じた効果的な保障を与え、職階の評定においても研究成果の転化の重みを高める必要がある。企業については、国有企業の財産権制度改革を進め、国有企業の革新の原動力を高め、大学や研究機関と国有企業との協力ニーズをさらに引き出さなければならない。国家・地方政府の財政資金による支援としては、中小企業の産学研連携展開に対する計画・プロジェクト・基金・事後補助・革新バウチャーなどの形での支援が考えられる。

2、産学研連携における情報の非対称性の問題

 産学研連携においては、技術の供給者と需要者との間の情報の非対称性の問題が際立っている。江蘇省や広東省などにはいくつかの産学研連携情報プラットフォームが設立されており、マクロレベルでも「中国産学研連携促進会」による産学研連携情報交換のウェブサイトが設立されているが、情報の非対称性の問題は適切に解決されているとは言いがたい。

 主な問題としては、▽情報更新の速度が遅く、一部のウェブサイトは長期にわたって新たな情報が掲載されていない、▽検索機能が整っておらず、必要な情報がなかなか見つからない、▽行政事務の情報が多く、ほとんどは通知や通告、政策法規などで、技術の需給情報は少ない、▽技術のマッチングに関する情報が少なく、どのようなマッチングが成功したか、マッチングの進展状況はどうかなどの情報がウェブサイトにほとんど見られない――などがある。さらに産学研連携向けのパイロットテストや分析、測定、鑑定、評価などの技術サポートのプラットフォームも整備されておらず、科学技術分野の仲介サービス機構の信頼度やサービス水準もまだまだ低い。

 産学研連携における情報の非対称性の問題を解決するには、産学研連携向けの公共技術プラットフォームとサービス体系の構築を加速する必要がある。第一に、既存の産学研連携情報プラットフォームを改良すると同時に、政府が支援し筆頭となって全国的な産学研連携情報プラットフォームを構築し、全国の産学研連携の情報資源を統合・整理し、全国的な産学研連携情報ネットワークを構築し、産学研の各主体に産学研連携情報を無料で提供する。産学研連携情報プラットフォームの構築にあたっては、企業へのサービスや使いやすいインターフェイス、カスタマイズされたサービスの提供を原則とし、専門機関や専門チームに運営を委託し、サービスの効率と水準を継続的に高める必要がある。

 第二に、パイロットテストや分析・測定、技術鑑定、評価などの技術サポートプラットフォームの建設を進め、技術の成熟化のプロセスを加速し、企業の需要と研究者の供給との距離を縮める。

 第三に、知的財産権情報サービスプラットフォームの構築を加速し、国内外の知的財産権データを統合し、産学研連携に向けて知的財産権情報の検索や分析、加工、再開発などのサービスを提供する。

 第四に、産学研の結合を促進する各種の専門仲介機構を発展させ、情報の疎通や技術の評価、法律の問い合わせ、組織や協調、知的財産権サービスなどの仲介能力を発揮させ、サービスの水準を高める。

 第五に、業界団体の強みを発揮させ、業界内の産学研連携の組織や協調を強化させる。

その2へつづく)