中国における地質災害気象警報の実践(その2)
2016年 2月29日 劉伝正、劉艶輝、温銘生、唐燦 中国地質環境監測院(国土資源部地質災害応急技術指導中心)/趙魯強、田華 中国気象局公共気象服務中心
(その1よりつづき)
2 技術・方法
ここ10年で、地質災害の気象警報の科学技術研究は絶えず深化し、警報の技術・業務の水準は向上し、警報情報の発布手段はさらに充実し、警報情報サービスのカバー範囲は拡大し、市民と専門家の双方による地質災害モニタリング警報の事業体系と積極的で有効な警報応答体制の構築が進められ、地質災害の防止事業は力強く推進された。
2.1 基礎情報
地質災害気象警報モデルの構築と応用サービスの基礎情報には、1/50万環境地質調査資料、1/50万地質図空間データベース、2020県(市)の1/10万地質災害調査データ、450県(市)の1/5万地質災害詳細調査データ、94県(市)の地質災害リスク一斉調査データなどがある。これらのデータは、地質災害頻発区の範囲や山崩れ・地滑り・土石流の27万カ所の事例などにかかわるものである。また毎年増水期に地質災害の潜在リスクが高まる約1万カ所の検査・緊急調査の新たなデータも含まれる。
2.2 モニタリングネットワーク体系
国土部門は、村幹部と中軸となる人々を主体とした35万人からなる市民によるモニタリング・防止隊を形成し、気象部門は、4万5千カ所の気象情報サービスステーションと60万人近くの気象情報員隊を設立し、「県(区)」「郷(鎮)」「村」「組」の4級からなる市民モニタリング・防止体系をほぼ形成した。地質災害の多発・頻発エリアの住民は、自らによる識別・モニタリング・警報・防止・救助の能力をほぼ身につけ、社会の自己救済と相互救済、応急処置の能力を高めた。
地質災害の潜在リスクが深刻な地区(区域)を選び、多数の地質災害モニタリング警報研究エリアを設けた。リアルタイムのモニタリング、データ収集、伝送、収集、分析、警報の機能が一体となった全自動専門モニタリング警報システムが初期的な完成を見た[5-9]。当警報指標が警報等級に達すると、専門モニタリング警報システムは、警報エリアの市民モニタリング・防止人員とその他の関連人員に警戒情報を自動で通達し、市民モニタリング・防止人員は警報呼応プロセスにのっとって相応の措置を取り、パトロール強化や警報報告、緊急撤退の準備をし、必要な時には自発的に危険を避けるものとされた。このシステムは、良好な防災・減災効果を上げ、模範と推進の役割を果たした。
例えば四川省雅安市の桑樹坡では、降水と土壌浸透のモニタリング事業が行われた(図5)。2003年8月23日から25日までの降水過程は、複数の地質災害を引き起こし死傷者を生む典型的な降水過程だった。8月19日15時の含水量をバックグラウンド値とし、8月23日と24日、25日の降水過程をそれぞれ96h、120h、144hの含水量とすると、4地層での記録の曲線は、累計降水量の増加に従って斜面の岩石・土壌の含水量が急劇に増加することを示すものとなった。第一層と第二層は過飽和状態となった。また含水量の急劇な増加は、降水開始の時間から約20時間遅れた121h、つまり24日15時を過ぎて始まった。各地層の含水量のピークは151hに訪れ、地滑りが局地的に集中して起こった時間(26日0時、153h)に近接していた。
図5四川雅安桑樹坡モニタリング試験点の各地層の含水量の経時変化曲線[6]
単体地質災害のモニタリングの面では、中国ではすでに、マルチパラメータによる単体地滑り専門モニタリングポイント7477カ所、山崩れモニタリングポイント2882カ所、泥石流溝モニタリングポイント1523本が設けられ、重大地質災害の発生進展状況が24時間態勢でモニタリングされている。雨量のモニタリングの面では、国家級雨量観測ステーションが2419カ所、地域の自動観測ステーションが3万9千カ所、次世代ドップラー・レーダーが158基、軌道上の気象衛星が8基設けられ、降水などの気象情報のモニタリングと予報に有効な保障を与えている。
2.3 警報モデル模式
ここ10年来、各級の地質災害警報業務を支える機関や研究所などは、難題の共同克服を通じて、幅広い分析研究[11-17]を展開し、警報予報理論やモデル、精密水準、業務システム建設などの分野で急速な進展を実現し、理論的な土台と多様な技術方法を備えた警報業務体系を形成し、その研究成果は警報業務の中に幅広く応用され、着実に普及されている(表1)。
気象要素に基づく地域の地質災害警報予報方法は大きく3つに分類される。「隠式統計予報法」「顕式統計予報法」「動力予報法」である[3]。
隠式統計警報モデル(臨界降水判断法)。臨界降水判断法は、隠式統計警報とも呼ばれる。地質環境地域の違いに応じて、引き起こされる地質災害の臨界雨量は異なる。これはまた地質環境要素の働きが降水量のパラメーターに体現されると言うこともできる。これに基づいて構築された臨界降水判断モデルは、2003年から2007年までの各級の地質災害気象警報業務の中で幅広く採用された[2-5]。同モデルは、一つまたは一種類のパラメーター(臨界降水量)だけにかかわるため、普及しやすい。
顕式統計警報モデル。同モデルは、地質環境の変化や降水パラメーターなどの多くの要素を加重して考慮し、警報の根拠とするモデルであり[10-12]、「第二世代警報予報方法」とも呼ばれ、2008年から国家級警報の中で臨界降水判断法とともに使用され、省級警報へも少しずつ推進されている。同モデルは、地質環境の変化や降水パラメーターなどの多くの要素が総合的に考慮され、警報の精密度と業務効率が大きく高められた。
表1 2003-2012年地質災害警報技術水準比較
対比時間 | 2003年 | 2012年 |
警報理論 | 国内外の既存研究の調査研究 | 地質災害の地域警報理論 |
警報モデル | 臨界降水判断法(第一世代) | 臨界降水判断法(第一世代)の発展と改善 顕式統計警報モデル(第二代) 複数モデルによる並行演算 |
空間精度 | 1/600万精度、空間精度は60km | 1/100万精度、空間精度は10km 地域または局地頻発区の空間精度は5km |
地質災害サンプル ・パラメーター |
700カ所余りの災害ポイント パラメーター:災害ポイントの数 |
20万カ所の災害ポイント パラメーター:災害の回数、規模、ボリュームなど |
降水モニタリングステーション ・パラメーター |
中国2500カ所の観測点 24時間の実況雨量 |
中国3万9千カ所の観測点 1時間毎の実況雨量 |
試験区研究 | 1カ所 四川雅安 |
30カ所余り 四川雅安、三峡ダム区、雲南新平、福建徳化など |
警報サービス | 増水期は毎日1回警報 | 増水期は毎日1回警報 局地では3時間・6時間ごとの短期警報 緊急状況下では随時警報 |
動力予報モデル。モニタリング警報試験区や試験場、単体の斜面エリアで、動力予報法に基づく第三世代の警報モデルを模索・応用するものである。地質体の降水過程における固液相の合力と研究対象自身の動力変化過程を考慮することで、予報結果の確実性が高まる。
また地区に応じた地質環境の特点や降水による地質災害のモデル分析など、標的をしぼった警報モデルは多元化な発展をたどっている。例えば雲南や四川などの地域の警報モデルでは、地震と降水の共同作用が特に配慮されている。浙江や福建などの地域の警報モデルでは、台風と暴雨の共同作用が特に考慮されている。青海や新彊などの地域の警報モデルでは、氷雪の凍結・融解と降水の共同作用に関心が払われている。政府と社会各界のニーズに応じて、地質災害の危険(発生の可能性)警報はすでに、地質災害リスク(危害の可能性)警報へと発展しつつある。
警報の精度水準は高まり続けている(表1)。統計サンプルは絶えず拡充され、国家級警報の地質災害統計サンプルは、2003年の700カ所から2012年の20万8千カ所へと拡大し、建設された総計3万9千カ所の自動気象観測所を通じて、時間さらには分刻みの実況降水データの取得が可能となっている。時空精度も向上を続けている。2003年、国家級地質災害気象警報には1/600万精度の地質図が採用され、空間精度60kmの毎日1回の警報が実現された。2012年には、警報には1/100万地質図空間データベースが採用され、空間精度10kmの毎日1回の警報が実現された。地域または局地の頻発区では空間精度5kmの6時間ごと・3時間ごとの細かい警報が可能となり、緊急の必要性がある場合には随時の警報ができるようになった。
2.4 警報情報の発布
地質災害気象警報プロダクトは、国土資源・気象部門によって共同で発行され、警報等級が黄色か橙色、赤色に達すると、公共メディアを通じて一般市民と各級政府、関連部門に発布される。情報発布のルートはここ10年で、初のテレビやラジオなどのメディアに限られたものから、突発公共事件警報プラットフォームやインターネット、電子ディスプレイ、ショートメール、微信(WeChat)、微博(Weibo)などの多くの新たな手段を用いたものへと変わり、発布の対象は、一般市民や各級党委・政府、関連部門、地質災害頻発区やリスクポイントの防災責任者や監視者などへと広がった。情報発布のカバーする範囲は絶えず拡大し、地質災害頻発区では、脅威を受けるエリアで監視と防止を担う一般人員をほぼ覆うようになっている。このほか国土資源・気象部門は国家新聞出版広電総局と共同で、緊急放送系統を利用した地質災害警報と緊急情報の発布の試行を進め、情報の即時伝達の体制を構築し、警報情報発布のスピードを高めている。
2.5 警報への呼応
警報への呼応とは、地質災害気象警報情報の発布後、政府関連部門や警報区内の群衆が警報ランクに応じて地質災害防御呼応措置を取ることを指す。警報ランクの違いに応じて防災・減災対策を取ることが求められ、黄色警報は「引き続き注意し、変化を記録する」、橙色警報は「監視を強化し、防止を準備する」、赤色警報は「緊急対応を取り、すばやく処置する」とされ、警報区内の地質災害の緊急対応のターゲット性が高められている。
現段階における地質災害警報の多くは注意喚起作用が中心で、警報対応策は多くが措置の提案という形で警報区範囲内の主管部門と群衆に参考を与えるものであり、地質災害気象警報等級とこれに呼応した行動との間には絶対的な対応関係はない。だが国家と地方はすでに、実際の状況に適合した対策措置を初期的に形成しており、防災と減災を可能とすると同時に、過度の反応による不必要な資源浪費と社会的パニックを回避するものとなっている。地質災害気象警報と防災減災の10年来の実践を通じて、警報への呼応は、当初の防災知識や減災意識の向上から、各級の政府と社会の科学的な意思決定を指導し、自発的な災害の防止や回避を促すものに変わっている。
(その3へつづく)
本稿は中国地質環境監測院の許可を得て日本語訳・転載したものである。
出典:http://zgdzzhyfz.paperopen.com/oa/pdfdow.aspx?Sid=150101
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