第113号
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中国における地質災害気象警報の実践(その3)

2016年 2月29日 劉伝正、劉艶輝、温銘生、唐燦 中国地質環境監測院(国土資源部地質災害応急技術指導中心)/趙魯強、田華 中国気象局公共気象服務中心

その2よりつづき)

3 警報の成果

 地質災害気象警報のスタートから10年来、地域住民の防災意識と減災知識は大きく高まり、地質災害防止の管理体系と保障措置はより規範的なものとなり、幅広い人民大衆の生命財産の安全が有効に保障された。

3.1 防災意識の日増しの増強

 地質環境は変化するものであり、地質災害には潜伏性や突発性などの特徴がある。中国の地形は複雑で多様であり、地質災害のリスクを徹底的に調査して完全に防止するというのは現実的ではない。このため公民の防災減災意識を樹立し、災害避難の能力を増強することは、地質災害の防止に成功するための有効な手段の一つとなり、地質災害の防止事業は社会的な事業としての重みを増している。

 降水という状況において、とりわけ大暴雨の情報がある中で、一般大衆の避難を組織することはしばしば理解を得られず、情緒的な反対に遭うこともある。「警報は正確だったが深刻な死傷者が出る」といった教訓も時に発生する。近年、宣伝・研修事業の進展につれ、一般市民の防災・減災意識は絶えず高まり、防災・減災事業への無理解は積極的で自発的な協力へと変わり、一部の地区の住民はさらに、警報がなくても、現地の降水情報に基づいて自覚的に避難できるようになっている。

3.2 防災知識の顕著な拡大

 各級国土資源・気象部門は、テレビやインターネット、ラジオ、特別教育活動、防災減災知識の宣伝、研修・訓練などの方式で、地質災害の警報予報と防止知識を普及させ、一般市民の地質災害防止と緊急避難の能力を着実に高めてきた。統計によると、2003年から2012年までに中国の庶民への地質災害知識普及率は30%高まり、農村や山間部の住民の普及率は60%以上に達した。各地を比べると、地質災害の発生の少ない地区での普及率は比較的低く、四川や陜西、福建などの地質災害のしばしば発生する省での普及率は比較的高い。

 都市住民と農村住民の間の防災知識の普及率の差は大きく縮小し、農村の防災減災知識は明らかに高まり、浙江や江西、湖北、陜西などの省の農村住民の防災減災知識普及率はすでに都市住民を超えている。注意すべき点は、防災減災知識の普及率の高い人が18歳から60歳に集中していることで、高齢者や女性、児童は依然として地質災害の危害を受けやすいグループとなっている。

3.3 管理体系の基本形成

 2003年に国務院が発布した「地質災害防止条例」は、地質災害予報制度を確立するものとなった。2011年の「地質災害防止事業の強化に関する国務院の決定」は、モニタリング・警報体系の建設を要求し、質災害防止の責任主体が地方政府にあることを明確化した。「十一五」(第11次5カ年計画、2006-2010)と「十二五」(第12次5カ年計画、2011-2015)における国家地質災害防止計画は、地質災害のモニタリング・警報体系建設の任務と建設措置、非建設措置について具体的な手配を行い、気象・水文・地質モニタリング体系を合理的に敷設し、観測の盲点を取り除いた。

3.4 保障措置を徐々に実現

 国家レベルと各省級、それ以下の各級政府はいずれも、国家の地質災害防止事業の総体配置に基づき、その地区の実際の状況を考慮し、モニタリング・警報の機関や人員、経費、設備などを着実に整備・改善し、地質災害気象警報・予報事業の順調な進展を保障した。今日、地質災害警報事業はすでに、防災減災事業に不可欠な重要なポイントとなっている。

3.5 研修・訓練の常態化を実現

 様々な種類の研修や宣伝、集中講義、現場での演習、宣伝材料、問い合わせ、携帯ショートメールの送信、宣伝映像の放送などの方式を通じて、各級部門の関連責任者や地質災害モニタリング責任者、地質災害の脅威を受ける市民、建設現場の人員などに対する宣伝教育を行った。地質災害気象警報・予報に従事する各級の科学技術・管理人員に対し、延べ5000人近くの地質災害気象警報・予報の専門技術研修を行い、テレビやインターネット、新聞、雑誌、携帯電話などのメディアを通じて地質災害気象警報・予報の知識普及を展開した。国土・気象両部門は中国全土で8万回近い研修を組織し、研修を受けた人は1200万人に達した。様々な規模の地質災害緊急訓練を2万回近く行い、参加者は累計100万人に達した。

3.6 防災・減災の成果が顕在化

 地質災害気象警報・予報の実践からは、調査や検査、市民による監視・防止、緊急訓練、宣伝・研修などと結びつけることで、地質災害の防止・制御能力が大きく高まり、市民の生命財産の安全保障に大きな作用が発揮されることがわかっている。とりわけここ数年は、地質災害予報の成功例と死傷者の回避人数がますます増加している。2010年以来、中国では合計5101件の地質災害の予報が成功し、17万人が緊急避難措置を受け、大量の人員の死傷が回避された(図6)[18]

 警報による減災の成功例は年々増加している。例えば2010年8月13日の四川清平の特大山津波・土石流災害の危険回避成功、2012年8月17日の四川彭州竜門山鎮の群発性土石流の回避成功、2012年9月7日の雲南彝良地震区の二次災害の有効な防止、2007年8月17日の湖南東南部での群発性地質災害の回避成功、2003年8月28日の陜西寧陜県の地質災害の警報とすばやい回避の成功などが挙げられる。これらの災害の防止成功は、1千万人の命を救っただけでなく、地質災害防止の良好な波及効果を社会に形成したと言える。

図6

図6 2003-2012年中国の地質災害回避件数と避難者数

4 結論

 中国大陸部の展開する地質災害気象警報・予報事業は、地域の降水型地質災害の防災・減災のカギとなる。10年にわたって続けられてきた科学研究と実践は、警報の作動メカニズムや技術方法、成果などの面で大きな効果を上げ、警報事業の科学化と規範化が進み、中国の地質災害防止事業は有効に推進・促進された。

(1)協力と連動、深度の共有を特徴とした作動メカニズムがほぼ形成された。地質災害気象警報業務サービスは、国土資源部と中国気象局によって組織・実施され、部門の強みが十分に発揮され、情報共有が実現された。警報空間の区域とサイズに応じて、「国家級」「省級」「市県級」に分かれた警報運行管理方式が取られ、業務の運行が有効に保障された。

(2)科学技術によって率いられ、市民と専門家が結合した警報体系が初期的に形成された。一方では、国内外の先進的な科学研究の成果が吸収され、警報モデルが革新された。もう一方では、中国大陸部の地質災害防災・減災の現状と国情が十分に考慮され、専門的なモニタリングと市民による監視・防止が緊密に結合され、モニタリング・警報体系が初期的に形成された。

(3)政府が主導し、民間の参加する警報の成果が日増しに明らかとなっている。10年の発展を通じて、一般市民の防災意識は日増しに高まり、減災知識は着実に拡大し、管理体系は基本的に形成され、保障措置の実現も進み、研修・訓練の常態化も実現され、防災・減災の効果は明らかに高まっている。

 中国大陸部では、地質環境・条件が複雑で、地質災害の発生に影響する極端な降水や地震、洪水、冠水などの不利な要素が長期にわたって存在し、都市化や工業化、農業近代化のプロセスにおける人々の建設活動も激しく、その地質災害には強い潜伏性や突発性、破壊性が見られ、警報予報の難度は高い。地質災害警報能力と国民経済社会発展の安全ニーズの差はまだ大きく、地質災害気象警報・予報事業は、体制・メカニズムの建設やモニタリング・警報インフラの建設、警報技術方法体系などの面でさらなる整備が必要と言える。

(おわり)


本稿は中国地質環境監測院の許可を得て日本語訳・転載したものである。
出典:http://zgdzzhyfz.paperopen.com/oa/pdfdow.aspx?Sid=150101


[18]中華人民共和国国土資源部.中国国土資源公報(2008-2012)[R].