中国の国土空間開発・保護局面の最適配置理論の革新と「十三五」計画の対応戦略(その3)
2016年 3月29日
(その2よりつづき)
4 系統性——地域統治体系の整備、統治能力近代化の推進
国土空間開発保護局面の最適配置の分野では、中国の地域統治の能力と方式は遅れており、地域統治体系も整備が進んでいない。それが顕著に表れているのが、(1)発展戦略が頻繁に変わり、長 期的な計画や目標の導入を欠いている。(2)空間計画体系が不整備で、システムの整合や分業の協調を欠いている。(3)地域政策が断片化し、トップダウンの設計と統一的な使用を欠いている。「十三五」計 画が統治能力近代化水準の向上と地域統治体系の整備に努める過程で、系統性の設計は、計画と政策決定の科学性を保障するカギとなっている。「十三五」計画の提案に関して党中央が提出した若干の要求においては、3 つの明確な要点が選ばれ、初期的な分析がなされている。系統的な計画を欠けば、「革新、協調、緑色、開放、共有」の5つの新たな発展理念の全面的な実施は困難となる。
4.1 「第2子政策」の地域への影響
「第2子政策」は、中共中央第18期中央委員会第5回全体会議の公報と「十三五」計画の提案で社会に最も高い関心を引き起こした要点である [34] 。だが地域発展と国土空間配置の角度から見ると、「第2子政策」は系統的な統一配置を欠いており、二つの際立った問題につながりかねない。
中国各省の人口自然出生率は差異が大きく、経済発展水準の遅れた省の人口出生率の方がむしろ高いという状況が見られる。2000年以来の各省の人口出生率を見ると、一 人当たりGDPが最も少ない5省の人口出生率は全国平均水準の1.5倍に達している。人口総規模の成長率が全国平均水準を超えていれば、こ れらの未発達地区が一人当たりの収入を倍増させる目標を実現するのはさらに難しくなる。
これと同時に、これらの未発達地区は往々にして資源環境収容力が脆弱な地域でもあり、人口の増加は人口と用地との間の矛盾を激化し、貧 しい地区ほど資源環境の収容超過が深刻化するといった事態を引き起こしかねない。収容超過の激化は、より多くの人の生活が災害の脅威を受けること、生存の基本的な資源供給が保障されにくくなることを意味している。
4.2 未発達地区の革新駆動の弱点
「十三五」期間は、中国が革新駆動を実現する重要な転換段階となる。改革開放からこれまで、中国経済の発展と小康社会の建設は、資源環境を代価として進み、改革開放の強大な動力の推進の下で発展してきた。< 改革は市場メカニズムを始動し、開放はグローバル経済体系への融合を後押しした。これからの経済発展と近代化のプロセスは、革新駆動の効果にかかったものと言える。過去30年余りにわたって、国 力が全体として急速に高まると同時に、地域発展の格差は明らかに拡大し、中国の健全な持続可能協調発展に影響をもたらす主要な問題の一つとなってきた [35] 。
「十三五」計画の提案が提出した「協調発展」や「共有発展」には、格差を縮小し繁栄を共有するという理念が盛り込まれている。だが大まかな分析でわかる通り(表2)、中国の東部・中部・西 部の3大地帯の間の科学技術革新水準の差は、現状の経済発展水準の差を上回っている。このうちR&D人員の密度や国内特許出願受理件数などの科学技術革新能力を示す重要指標では、東部地区のリードが、経 済水準と一人当たり収入の水準のリードの幅を大きく超えていることがわかる。このように未発達地が新時期において近代化を実現するための最大の弱みは革新能力の不足と深刻な遅れであり、未 発達地区が革新駆動転換実施のスタート地点において遅れを取っているという状況をいかに転換するかが、中央・地方政府が系統的な計画と全体の協調を通じて解決しなければならない難題となっている。さもなければ、現 在の革新能力の格差によって、東部・中部・西部の発展水準の格差はこれからも拡大し続けるものとみられる。
表2 中国東部・中部・西部地帯の経済発展と科学技術革新水準の比較(2013年)
出典:「2014年中国統計年鑑」に基づいて計算
注:東部は沿岸12省市区(台湾・香港・マカオを含まず)港澳)、西部は内蒙古・寧夏・新疆・甘粛・青海・西藏・雲南・貴州の8省区、そ のほかの10省区市は中部地区とする(従来西部に区画されてきた陜西・四川・重慶は中部とする)
4.3 地域均衡原理の展開
中国はすでに、都市・農村発展一体化や地域発展一体化の推進、機能区分局面下での協調発展の段階に入っており、都市・農村の間、異なる機能区の間、沿 岸と内陸地区との間で差別化された特色ある分業協力発展が可能となっている。その前提の一つは、異なる地域の人々の生活の質と生活福祉の均衡が地域間で取れていることである。
だが産業チェーン上の付加価値が異なり、異なる機能を負う際の経済収益に巨大な差が存在しているため、国民生活の質がもしも、現行の収入と分配の体制の下での地域の分業収益に完全に頼っているとすれば、基 礎産業に従事する比率の高い地域ほど貧しくなり、公益性の高い事業に多くかかわっている地域ほど貧しいという状況が生まれかねない。
地域の局面が非均衡状態に入れば、地域発展は極めて不安定となり、機能の分業と特色の差異化発展の方式は崩れてしまう。基礎産業(食糧など)と生態産品(水資源など)の不足は、経 済社会体系に極めて大きな影響、大災害といってもいいような破壊をもたらし得る。そのためリスクを回避し安定を保つことは、社会の番人と言うべき政府が対応しなければならない現実となっている。分配段階と移転・補 償などの支払方式を通じて都市・農村間や異なる機能区間の発展利益の均衡と人々の生活の質の均衡を実現する基本原理を研究する必要がある。と りわけ国民生活の質の差の縮小を実現することに絞った総合的な政策を打ち出すことは、地域の均衡を保障する前提となる。そのうち基本公共サービスの均等化は最低ラインとなる。より複雑な命題は、社 会的利益と生態への利益を通じていかに合理的に経済化を実現し、経済格差を補い、総合的な利益の均衡をはかるかということである。
このような考え方を踏まえて、筆者は、主体機能区を支えとして実現される8年前に構築した地域均衡モデルを補充し、国民生活の質をパラメーターとして加えた。国民生活の質の水準の均等化は、目 標関数とすることもできるし、制約条件の関数とすることもできる。
式中の記号は次を表す。Di、Djはそれぞれ、地域iとjの総合発展状態の一人当たりの水準値である。Pi、Pjはそれぞれ現地の人口総量を指す。m=1, 2, 3。Di1、Dj1は経済発展利益。D i2、Dj2は社会発展利益。Di3、Dj3は生態環境利益。D’i、D’jはそれぞれ地域iとjの国民生活の質の一人当たりの水準値。Di1’、Dj1’は経済発展利益。Δlは第2次分配、r iとrjは物価指数。Rは地域iとjの和集合。地域発展の空間均衡を求める過程においては、総合的な受益(∑E)の最大化を実現する必要があり、これは、這地域Rがいかに区分されるかにかかわるだけでなく、時 間tの値とも関係している。
5 結論
戦略性を備えたトップダウンの統一計画と焦点を絞った統治体系の枠組を際立たせ、目標志向の主導と問題志向とが融合した計画・政策体系の設計を強調し、制 約性のある法規と政策のツールと差別化された発展モデルや審査指標の運用を強化し、上から下への機能の位置付けの要求と異なる機能区間の収益の均衡に配慮し、政 府のツールや手段と市場メカニズムの結合した実施手段を運用することは、中国が「十三五」計画から出発し、国土空間の開発保護局面の最適配置理論を革新し、政 策決定への応用へと転化させていく主な方向性を示している。「十三五」計画は、国土空間と地域発展の対応戦略にもかかわるものであり、国土空間の開発保護戦略局面のさらなる整備を進め、双方向の開放と2つ目の「 大局」の戦略要求に適応し、戦略局面から経済社会と資源環境の関連内容とも結びつけ、中国の国土空間開発保護の長期的な戦略の形を向上させていく必要がある。
主体機能区の位置付けと資源環境収容力の制約を際立たせ、習近平総書記が「最後まで貫徹すべき」とするような計画の青写真として主体機能区計画図を打ち立て、各 機能区の庶民の利益均衡を手引きとした政策体系を整え、人と自然とが調和した美しい故郷を建設することをよしとする実績観を形成しなければならない。異なる空間レベルの都市化と貧困扶助・貧 困脱却の高精度の策略を際立たせ、発展のモデルや経路、審査基準などを現地の特性と総体要求に適応させることを重点とする必要がある。国土空間の開発保護の戦略制定においては、「主体機能区」の 図を一貫すべき拠り所として、地域発展の総体戦略を構築しなければならない。新型都市化や新農村建設などを今後の建設方針とし、西部開発や東北振興、京津冀(北京・天津・河北)共同発展、長 江ベルトの建設などを重点任務とし、「十三五」計画の地域統治体系を共同で構築する必要がある。
(おわり)
※本記事は「中国科学院院刊」より許可を得て翻訳・転載したものである。
出典:http://www.bulletin.cas.cn/ch/reader/create_pdf.aspx?file_no=20160101
参考文献:
34 楊偉民. 関于 “十三五” 規劃要研究的十箇重大問題. 新重慶, 2015, (6): 23-24.
35 陸大道. 地理学関于城鎮化領域的研究内容框架. 地理科学, 2013, (8) : 897-901.