京津冀(北京・天津・河北)地域の大気汚染防止の方法およびロードマップ
2016年 3月31日
彭 応登:博士、北京市環境保護科学研究院 研究員
略歴
1984.7-1986.8 湘潭市環保研究所 助工
1986.9-1989.6 北京市環科院 修士号取得
1989.6-1994.9 北京市環科院 工程師
1994.9-1997.7 北京師範大学 博士号取得
1997.7-2000.2 北京市環科院 高級工程師
2000.3.7-2002.5 北京市環科院 院長助理 研究員
2002.6.7-2009.10 北京市環科院 大気所所長 研究員
2009.11-2011.10 北京市環科院 副総工程師 研究員
2011.11-現在 国家城市環境汚染控制技術研究中心 研究員
1964年6月生まれ。湖南省湘潭市出身。
主に区域環境評価・企画、大気汚染コントロール研究等に従事する。国内外の学術雑誌および学術会議で発表した論文等は60件以上。そのうちSCI収録論文は6件、EI収録論文は5件にのぼる。
1. 北京・天津・河北地域の大気汚染防止の現状
1.1 北京・天津・河北地域の基本情報
北京・天津・河北地域には、北京市、天津市および河北省の11の地級市(保定、廊坊、滄州、秦皇島、唐山、承徳、張家口、衡水、邢台、邯鄲、石家荘)が含まれる。土地面積は21万6千平方キロメートル、人口は1億2千万人。湿地面積は111万1千平方キロメートル、大陸の海岸線の長さは640キロメートル、海域面積は8441平方キロメートル。うち、北京の土地面積は1万6400平方キロメートル、天津の土地面積は1万1900平方キロメートル、河北の土地面積は18万8800平方キロメートルである。2014年の北京の石炭使用量は1820万トン、天津の石炭使用量は3963万トン、河北の石炭使用量は2億6500万トンで、2014年の北京の人口は2152万人、天津の人口は1517万人、河北の人口は7384万人である。2014年の北京の自動車保有台数は559万1千台、天津の自動車保有台数は258万9千台、河北の自動車保有台数は997万台という数字が出ている。
2014年、北京・天津・河北地域で排出された二酸化硫黄は148万8千トン、窒素酸化物は197万1千トンを記録した。うち、北京で排出された二酸化硫黄は7万8900トン、窒素酸化物は15万900トン、天津で排出された二酸化硫黄は21万9800トン、窒素酸化物は30万7800トン、河北で排出された二酸化硫黄は118万9千トン、窒素酸化物は151万2千トンであった。3地域のうち、河北省で排出される二酸化硫黄が占める割合は79.9%、窒素酸化物は76.7%に達している。
1.2 北京・天津・河北地域の大気汚染防止の現状
北京・天津・河北地域は中国において大気汚染が最も深刻な地域であり、 2014年に北京・天津・河北地域で重度汚染が発生した日数は年間の約6分の1を占めた。北京・天津・河北地域の2014年のPM2.5年平均濃度の分布については図1を参照のこと。図1から分かるように、同地域のPM2.5汚染は典型的な南高北低の特徴を示している。
写真1 北京・天津・河北地域の2014年PM2.5年平均濃度分布図
2013年9月10日に中国が「大気汚染防止行動計画」(略称「大気十条」)を実施して以来、 大気汚染防止の取り組みは明らかな効果を上げている。過去3年間の北京・天津・河北地域の主要都市におけるPM2.5年平均濃度については表1を参照のこと。表1から分かるように、北京・天津・河北地域の過去3年間のPM2.5年平均濃度は低下を続けており、都市の大気質には全体的に好転の兆しがみられている。
地域 | 2013年 | 2014年 | 2015年 |
北京 | 89.5 | 85.9 | 80.6 |
天津 | 96 | 83 | 70.0 |
河北 | 108 | 95 | 77.0 |
2. 北京・天津・河北地域の大気汚染防止ロードマップ
2.1 大気汚染防止目標ロードマップ
基準年の大気汚染状況、各種汚染源の排出削減の潜在力、現地の地理的条件・気象条件を総合的に考慮し、地域ごと、期間ごとに大気質の基準達成期限を確定した。北京・天津・河北地域は2015年から2030年にかけ、「3ステップ」の防止戦略と基準達成ロードマップを採用し、2030年までに現行基準に基づき大気質が基本的に基準を達成できるよう取り組む。PM2.5を例にとると、PM2.5の基準超過率が100%以内の都市では、基準達成期限は5年以下、PM2.5基準超過率が100%以上~150%以内の都市では、基準達成期限は10年以下、PM2.5基準超過が150%以上の都市では、基準達成期限が15年以下となる(表2)。
地域 | 都市 | 2015 年のPM2.5 年平均濃度 (マイクログラム/立方メートル) |
年平均濃度の基準超過率(%) | 基準達成期限 |
河北 | 保定 | 107.0 | 206 | 2030年 |
河北 | 邢台 | 101.7 | 191 | 2030年 |
河北 | 衡水 | 99.2 | 183 | 2030年 |
河北 | 邯鄲 | 91.6 | 162 | 2030年 |
河北 | 石家荘 | 87.2 | 149 | 2025年 |
河北 | 廊坊 | 85 | 143 | 2025年 |
河北 | 唐山 | 84.7 | 142 | 2025年 |
北京 | 北京 | 80.6 | 130 | 2025年 |
河北 | 滄州 | 70.3 | 101 | 2025年 |
天津 | 天津 | 70 | 100 | 2020年 |
河北 | 秦皇島 | 47.6 | 36 | 2020年 |
河北 | 承徳 | 41.9 | 20 | 2020年 |
河北 | 張家口 | 34.3 | -2 | すでに基準達成 |
2.2 大気汚染物質排出基準の統一ロードマップ
現在、北京・天津・河北地域の工業汚染、ボイラー汚染、自動車汚染などの汚染源からの排出基準はいずれも統一されていない。北京市の基準には体系計画があり、産業の構造と配置の調整、クリーンエネルギー利用といった方針に基づき制定され、規制水準は全体的に見て世界先進レベルに達している。一方、天津、河北の地方排出基準は系統的でなく、排出基準の厳しさも北京を下回る。これに応じた対策の要求も統一できないため、地域内の汚染源の統一的な監督管理ができない。ゆえに、地域内の大気汚染防止に関する基準・要求を統一する必要がある。
短期間で北京・天津・河北地域の基準を統一することは現実的ではない。計画を統一し、順序立てて推進し、協調を強化し、「3ステップ」の戦略と基準統一ロードマップを通じて、徐々に統一させる必要がある。
第1ステップ(2015 ~2017年)では、特別排出制限値を全面的に適用する。北京・天津・河北の6つの重点都市で、6業種および石炭焚きボイラー施設を対象に、統一的に特別排出制限値を適用する。排出制限値は基準が規定するすべての汚染物質をカバーする。同時に、地方基準を整理し、基準の重なりを減らす。さらに厳しい地方基準を打ち出すには、目標を達成し、現行の基準の潜在力を発掘し、基準の相互関係を調整しなければならない。
第2ステップ(2018~2020年)では、特別排出制限値を北京・天津・河北の全域で適用する。また、これまでの6業種および石炭焚きボイラー施設に加え、適用する業種を適度に拡大する。さらに、ガラス、家具、工業塗装、飲食業など地域的特徴を持つ汚染源に対しては、地方が国家特別排出制限値の規制レベルと同等の地方排出基準を追加制定する。共通業界に対しては、北京・天津・河北地域の基準を率先して統一的に発表する。
第3ステップ(2020年~)では、北京・天津・河北の統一的な排出基準を打ち出し、地域間の違いをなくし、業界ごとに統一基準を適用する(同じ業界は同じ基準、同じ汚染源は同じ対策)。
3. 北京・天津・河北地域の大気汚染防止の主な方法および措置
北京・天津・河北地域の主要都市におけるPM2.5発生源の分析結果については表3を参照のこと。表3から分かるように、自動車、石炭、工業、粉塵などは大気汚染防止の主なターゲットとなっており、北京・天津・河北地域の大気汚染防止の主な方法および措置もPM2.5発生源の分析結果に基づき制定された(表4)。その重点は、総合的な防止力を高め、汚染源から汚染物質の排出を減らすことで、産業構造の調整と改善、産業のモデルチェンジ・アップグレードの推進が含まれる。エネルギー構造の調整の加速、クリーンエネルギーの供給増加、法による厳格な監督管理および地域のモニタリング・警報・緊急時対応体制の構築により、重度汚染に適切に対応していく。
都市 | 主要発生源 | 第二発生源 | 第三発生源 | 第四発生源 |
北京 | 自動車 31% | 石炭 22.4% | 工業 18.1% | 粉塵 14.3% |
天津 | 粉塵 30% | 石炭 27% | 自動車 20% | 工業 17% |
石家荘 | 石炭 28% | 工業 25.2% | 粉塵 22.5% | 自動車 15% |
3地域のうち、河北で排出される大気汚染物質が占める割合は約80%に達している。ゆえに、河北は北京・天津・河北地域の大気汚染防止における最重要課題と言える。
河北で高汚染排出が見られる最大の原因は、そのエネルギー消費構造が極めて不合理であることだ。2014年、河北の総エネルギー消費に占める石炭の割合は89%と、中国平均水準の23%を大きく上回った。天然ガスの供給不足は深刻で、クリーンエネルギーの使用は制限されており、工業および一部民間用の需要を満たせず、石炭中心のエネルギー構造の調整が難しくなっている。
次に、河北の産業構造も極めて不合理である点を指摘したい。「高汚染、高エネルギー消費」業界のエネルギー消費と汚染物質排出が高止まりしている。長い歴史を経て形成された産業構造により、2014年の同省の粗鋼、セメント、板ガラスの生産量はそれぞれ全国1位、5位、1位となっており、鉄鋼業界だけでも省全体の一定規模以上工業企業の総エネルギー消費の51%を占める。鉄鋼、火力発電、建材業界の二酸化硫黄、窒素酸化物排出量はそれぞれ省全体の64%、56%を占める。
不合理なエネルギー消費構造と産業構造に対応するため、河北は今後、まず石炭消費総量を厳しく削減し、石炭削減任務を徐々に各都市に分散させていく。初期は保定、邢台、石家荘、唐山、邯鄲、衡水、廊坊で規制を強める。次に、石炭の代替と集中暖房を推進し、石炭火力発電ユニットの超低排出アップグレード・改造を推し進め、石炭ボイラーと茶浴炉を徐々に淘汰する。産業構造を調整・改善し、産業のモデルチェンジ・アップグレードを推進し、鉄鋼の生産能力を削減し、中実粘土レンガ窯生産企業などを閉鎖・操業停止とする。同時に、石油化学、製薬、表面塗装、印刷などの工業業界のVOCs対策を強化する。
大気汚染防止方法 | 北京・天津・河北地域の防止措置 | 北京の防止措置 | 天津の防止措置 | 河北の防止措置 |
一、総合的な対策を強め、複数の汚染物質の排出を削減する | 総合的な対策を実施し、汚染物質の共同排出削減を強化する。統一的に都市交通管理を計画し、自動車汚染を防ぐ | 汚染源抑制による排出削減プロジェクト、末端の汚染対策による排出削減プロジェクト、自動車の構造調整による排出削減プロジェクト | 総合的な対策を強め、複数の汚染物質の排出を削減する | 工業汚染物質の排出削減。非特定汚染源負荷の対策強化、粉塵汚染の厳格な抑制。移動汚染源の防止強化、自動車汚染の排出削減 |
二、産業構造の調整・改善、産業のモデルチェンジ・アップグレード推進 | 産業構造の調整、地域経済の配置の最適化 | エネルギー構造調整による排出削減プロジェクト | 産業構造の調整・改善、産業のモデルチェンジ・アップグレード推進 | 立ち遅れた生産能力の淘汰加速。産業のモデルチェンジ・アップグレード推進 |
三、エネルギー構造の調整加速、クリーンエネルギーの供給増加 | 石炭消费総量の抑制、エネルギー利用のクリーン化推進 | 産業構造の最適化による排出削減プロジェクト | エネルギー構造の調整加速、クリーンエネルギーの供給増加 | エネルギー構造の調整加速、クリーンエネルギーの供給増加 |
四、法による厳格な監督管理 | 組織・指導を強化し、監督・審査を強める | 都市の詳細化管理による排出削減プロジェクト | 環境の監督管理能力を高め、環境保護に関する法執行を強める | |
五、モニタリング・警報・緊急時対応体制を構築し、重度汚染に適切に対応する | 生態環境建設排出削減プロジェクト、大気の重度汚染緊急時対応排出削減プロジェクト | モニタリング・予測を完備し、重度汚染に適切に対応、緑化・美化プロジェクトを実施、環境の自浄能力を高める | モニタリング・警報・緊急時対応体制を構築し、重度汚染に適切に対応する |