京津冀(北京・天津・河北)における大気煙霧排出状況の研究(その1)
2016年 4月12日
姜克雋:中国国家発展改革委員会エネルギー研究所 研究員
専門領域はエネルギー環境システムモデル研究、中国総合環境政策評価モデル(IPAC)の開発主担当。研究領域はエネルギーおよび気候変動政策に関連するシナリオモデルが中心。既存研究のもと、国際政策決定プロセスや国際モデル研究にも関与。
1.背景
経済の急速な発展と都市化建設の推進に伴い、大気汚染は中国東部地域で日増しに激化し、すでに中国経済と社会の持続的発展を制約するボトルネックとなっている。諸外国と比べると、中国の大気汚染は高濃度粒子状物質汚染がその突出した特徴であり、大気の煙霧(スモッグ)現象が中国の多くの地域で頻繁に発生している。このうち、京津冀(北京市・天津市・河北省)地域、長江デルタ、珠江デルタといった地域の大気汚染は最も深刻となっている。煙霧の原因はPM2.5濃度が高すぎ、一定の気象条件下で累積して視程が下がる。広い範囲の重度汚染問題は中国が全国で新たな「環境大気の質の基準」および評価方法の実施後に経験した深刻な汚染の過程であり、中国の都市部における大気の質の基準達成と大気汚染対策に大きな課題を突きつけている。
環境保護部(省)が発表した2013年上半期の全国環境の質状況報告によると、74の重点都市で大気の質が基準を超えた平均日数の割合は45.2%で、うち軽度汚染25.4%、中度汚染9.5%、重度汚染7.5%、厳重汚染2.8%となった。74都市のPM2.5濃度の範囲は24ug/m3-172ug/m3の間で、年平均値の2級基準35ug/m3で評価すると、基準を満たしたのは4都市のみに留まり、新たな環境大気の質基準下で都市の大気の質を基準に満たすには、「任重くして道遠し」となりそうだ。
1年近くの醸成を経て、2013年9月、国家大気汚染防止行動計画が国務院より正式に発表され、大気汚染防止措置十条(略称「国十条」)が打ち出され、2017年までに全国の地級市およびそれ以上の都市の可吸入粒子状物質(PM10)濃度を2012年比で10%以上下げることを要求、京津冀、長江デルタ、珠江デルタといった地域の微小粒子状物質(PM2.5)濃度をそれぞれ25%、20%、15%前後下げることを要求した。「国十条」が全面的に実施されれば、今後数年の大気の質はどう変わるのかなど、「国十条」では向こう5年以内の国と地方政府の大気の質の改善に向けた行動計画を明確に示しており、政策決定者が大きな関心を寄せる問題となっている。
この他、「国十条」の実施によって中国都市部の大気の質が全面的に基準値を満たすわけではない。京津冀地域を例にすると、主な都市のPM2.5平均濃度は普遍的に80-120ug/m3の間となっており、25%下がったところで、35ug/m3という基準までは依然大きな開きがある。主な都市が全面的に国家基準ないし世界保健機関の基準達成までの道のりは未だ明確になっていない。
中国政府は大気の質の改善の面では、石炭火力発電所に排煙脱硫設備の設置を義務付け、厳格な自動車排ガス基準を設けるなど、様々な取り組みを進めているが、これらの末端制御措置では依然経済と化石燃料消費の急速な増加の影響を相殺するに足りない。1990年比で、中国の2010年の単位当たりGDPのPM2.5排出強度は80%下がったが、PM2.5 の排出総量は反対にやや増加している。「第11次五カ年計画」期、全国の燃料消費量は44%増加し、鉄とセメントの生産量はそれぞれ74%と76%増加している。
電力部門が脱硫して2010年に削減したSO2排出量が1750万トンに達し、それが2005年全国のSO2排出総量の54%に達したところで、他の部門のSO2排出量は急速に伸びており、2010年全国のSO2排出総量は2005年比でたった11%しか減っていない。
こうして見ると、都市部のPM2.5数値が基準を満たすための根本的課題は、経済成長方式とエネルギー消費の転換ということになる。都市は如何に経済発展方式の転換を加速させ、化石燃料消費量増加の空間を圧縮させ、汚染物質排出量の持続的かつ大幅な削減を実現させ、PM2.5濃度を新大気の質基準の要求にもっていくのか、これは現情勢下において答えを急ぎ導く必要のある問題である。
この問いに答えるべく、本研究は排出源の解析をベースに、エネルギー活動を主とする総合評価モデル研究未来産業構造とエネルギー構造の調整方法を分析する。京津冀の主な都市の基準値達成に必要な排出量削減およびその排出削減方法を分析し、都市の大気の質のPM2.5濃度の基準値到達へのロードマップと政策提言を行うものである。
2.研究方法の枠組み
2.1 全体的枠組み
- 対象省のモデル指標を構築し、2030年の対象省(四川、陝西、湖北、および江蘇に対する簡易分析)のエネルギーと排出状況を分析可能とする省モデルを形成する。これは本研究の主な作業内容でもある。
- 全国エネルギー状況分析に基づき、京津冀の発展可能性を分析する。
エネルギーモデルを拡大し、PM2.5とPM10関連のその他の排出源に組み入れる。主に工業生産プロセスにおける排出、炊事活動による排出、農業活動による排出、逸散排出等を含む。 - 対象省の政策と行動を定量化し、IPAC-AIM/技術モデルに入力、2017年、2020年、および2030年のエネルギーと排出状況を分析する。
- 現有の研究を基に、一次排出源の排出量削減需要と対比し、到達可能な濃度水準を推計する。
- 政策提言を提示する。
2.2 モデル方法
IPAC-AIM/技術モデルの目的は、エネルギーサービスおよびその設備の現状と未来の発展を詳細に描写し、エネルギー消費プロセスのシミュレーションを行うこと。未来における様々な状況下の各種末端エネルギー部門の種類別のエネルギー需要量を計算し、CO2の排出量を割り出す。この重要な役割は異なる技術対策の技術導入と温室効果ガス削減の影響を評価することである。
IPAC-AIM/技術モデルは最小コスト法を採用して分析を行う。つまり設定した各種最小コストの技術が選択されエネルギーサービスが提供される。モデルでは線形計画法を採用し、モデルが複雑なエネルギープロセスを分析できるようにさせ、単独の技術ではなく工芸システムの観点から分析を行う。モデルの分析において、各種指標の設定は異なる基準と方法を採用することを可能とし、分析範囲の拡大を図る。例えば、技術運営プロセスにおける各種投入は技術運営のコストを構成しているが、こうした投入は異なる状況に基づき行うことができ、エネルギー投資や原料投資、労働力投資等他の投資を含み、技術コストの分析をより実際の状況に近づける。
IPAC-AIM/技術モデルの技術選択基準は比較的簡単で、分析結論を比較的容易に理解することができ、使用者に受けられることが可能となり、よりよい形で政策決定支持プロセスをサポートすることができる。
2.3状況定義
三省・市の未来の排出を分析するため、ここでは一つの政策状況を重点的に分析し、すでに大気の煙霧、低炭素発展、エネルギー発展政策を公表した三省・市に組み入れる。今後の経済社会、エネルギー発展の状況に基づき、未来のエネルギー需要量およびエネルギー生産活動を得る。同時に、各種排出削減措置を考慮し、脱硫、脱硝酸、除塵設備およびその他の排出源の排出削減措置等、様々な源の一次排出量を得る。
未来の濃度を分析した上で、さらに取り組むべき政策を分析し、政策の強化を図る。
政策状況と比べ、政策状況強化の目標は2025年から2030年前後の大気の質がWHO二級基準に、2030年から2040年に一級基準に達しているかを分析することだ。ここでの一次排出源の排出分析を基に、WHOの一級大気基準など今後仮により厳格な基準達成を実現する場合、エネルギーシステムの排出は措置でコントロール可能である。一方で、その他の源の排出コントロールは比較的困難で、将来厳格な基準で大気汚染の排出削減をする任務はエネルギーシステムに重点が置かれることになる。こうした状況下で、末端エネルギーのクリーン化やエネルギー加工転換のクリーン化を含め、エネルギー構造のクリーン化をさらに考慮する。
(その2へつづく)