第116号
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ナノ材料の食品包装における応用および安全性評価(その2)

2016年 5月19日 楊竜平、章建浩、黄明明、厳文静(南京農業大学)

その1よりつづき)

1.4 ナノZnO

 ナノZnOは紫外線( λ ≤368 nm)照射によって励起状態になるワイドバンドギャップ半導体の一種で、高い光触媒活性を持つ。無機金属酸化物であるZnOは、廉価、無毒、便利、高い生体適合性などの特徴を持ち、有毒有機汚染物の光触媒分解、太陽電池などの分野ですでに幅広く応用されている。ナノ TiO2と比べると、ZnOはより高い光触媒活性と量子収量を持ち、応用の将来性が極めて高い高活性光触媒の一つと見られている。

 毛桂潔[23]らはナノZnOの紫外線ブロック効果を利用し、効果的にPVAフィルムの引張破断伸度、保持率を高めた。李亜娜[24]らは、ナノZnOがHDPEの結晶度を大幅に高め、複合フィルムのバリア性を強めることを発見した。ナノZnOによる変性後のポリマーは、 その力学的性質、紫外吸收性、抗菌性などの面でいずれも大きな向上が見られた。日本の学者Sawai[25]らは、酸化亜鉛粉末が簡単な接触により大腸菌と黄色ブドウ球菌を顕著に抑制できることを発見した。高艶玲[26]らは研究により、自然光・室温条件下で、ナノ変性ポリオレフィン複合材料が枯草菌に対して高い抗菌作用を持ち、その抗菌率が最高で99.99%に達することを発見した。さらに、大腸菌、枯草菌、黄色ブドウ球菌など様々な種類の菌に対して抑制効果があることを発見した。現在、酸化亜鉛の抗菌メカニズムには主に、接触吸着メカニズム、金属イオン溶出メカニズム、光触媒メカニズムがある。このうち、金属イオン溶出メカニズムと光触媒メカニズムは最も中心的なものだ。

 上述の研究から、ナノ酸化亜鉛は大腸菌や黄色ブドウ球菌などの細菌に対して高い抗菌効果を持つことが明らかになった。ただし、細菌と真菌の細胞構成は大きく異なるため、カビ、酵母など真菌に対する抗菌効果についてはさらなる研究が必要だ。

1.5 ナノMMT

 モンモリロナイト(MMT)は天然の粘土鉱物の一種で、特殊な方法でモンモリロナイトを変性させた後、ナノシートの形でポリマーの作用をポリマー中に分散させ、最終的にポリマーナノ複合材料を形成する。ポリマー/層状ケイ酸塩モンモリロナイトナノ複合材料(PLS)は、新しいポリマー基無機ナノ複合材料で、層状粘土鉱物の吸着性、イオン交換性、膨張性といった特徴を利用し、単体あるいはポリマーを鉱物の層間に埋め込むことで得られる。 中国の現在の研究は主にポリマー/モンモリロナイトナノ複合材料の作製と特性評価に集中しており、作製方法は天然土を有機変性後に層間化合する方法を採用している。この種の方法は一部のポリマーにしか適用できないことから、大きな制限が存在する[27]

 PA6/モンモリロナイトナノ複合材料は最も早くモンモリロナイト作製に採用された変性複合材料で[28]、同材料の出現により、研究者のポリマー/粘土ナノ複合材料に対する興味と幅広い研究が引き起こされた。 張英傑[29]らはポリビニルアルコール中にモンモリロナイトを加えることで、PVAの熱性能と弾性率を大きく引き上げ、材料の吸水率、吸水速度と光透過率を引き下げ、高い紫外線ブロック効果を実現した。劉桂超[30]らはナノMMTの含有量がポリビニルアルコール基ナノ複合フィルム包装の性能に与える影響について研究し、PVA結晶形態と複合フィルムの包装性能がナノ材料の含有量に影響を受けることを発見した。姚娜[31]らは常温下におけるナノ含有量のPLLA/MMT、PLLA/DK2 ナノ複合材料バリア性に及ぼす影響について研究した。薛瓊[32]らはエチレン‐ビニルアルコール共重合体(EVOH) /モンモリロナイトナノ複合フィルムを作製し、紫外線を照射すると、フィルムの力学的性質、バリア性が大きく向上すると同時に、複合フィルムの透明性に影響を及ぼさないことを発見した。

2 ナノ複合食品包装材料の安全性評価

 ナノ材料は光、熱、電気などの独特な性質により、食品包装分野で幅広く応用されている。ナノ材料に基づく新型食品包装材料はいたるところで見られ、バイオセーフティ問題を直視・重視せざるを得ない。ナノ材料のスケールの大小、溶解性、化学組成、 表面構造、形状および集合状態などはいずれもその生物学的効果に影響を及ぼす。

 現在はポリマーフィルム、セラミックス、ガラス、紙などの包装材料中におけるナノ粒子の移動に関する研究が比較的少ないが、消費者にとって、食品包装材料におけるナノ粒子の安全問題は常に注目を集める重要な問題である。ナノ材料の安全性は、動物体内の経口毒性試験と体外細胞毒性試験によって実証できる。ナノ粒子の生体に対する毒性は2種類の異なる効果によって示される。1つ目はナノ粒子の構成とは関係なく、ナノ粒子が大量の活性酸素種(ROS)を発生することによるもので、同物質は生体内である程度の毒性を持つ。もう1つは、ナノ粒子の構成と直接関係する。一部の金属、あるいは金属酸化物ナノ粒子が生体内でタンパクと結合すると、タンパク機能の異常をもたらすが、一部のナノ粒子(金属合金、カーボンナノチューブなど)は、直接的あるいは間接的な遺伝毒性を示す[33]。田海嬌[34]らは包装材料中の異なる成分、温度、時間などがナノ銀-ポリエチレン複合包装材料中の銀移動に与える影響について研究した。黄延敏[35]らは異なる鮮度保持材料中のナノAgの移動速度について研究し、ポリエチレン鮮度保持袋はポリプロピレン鮮度保持ボックスと比べてナノ銀の移動量が多く、移動する粒子が小さく、ナノ銀の移動量は浸漬する時間と温度に大きく関係することを発見した。

 現在、国内外の多くの課題グループが、常用されるナノ材料の安全性に関する研究を幅広く展開しているが、実験の結論が一致しているわけではなく、互いに矛盾が生じているケースもあるため、ナノ材料の安全性について今に至るまで明确な結論が出ていない。このほか、ナノ材料が体内に入った後の結果やその作用といった問題も未解决のままだ。このため、ナノ材料が本当に安全かどうかを確定するにはまだ大量の後続研究が必要となる。

3結語

 ナノテクノロジーの急速な発展に伴い、ナノ材料の抗菌作用および鮮度保持を目的とする食品包装への応用が研究の焦点となった。食品および食品包装材料へのナノ材料の影響は以下の通り。ナノ材料は包装材料の力学・熱学的性質、光吸收率などに影響を与える。ナノ材料は微生物の繁殖を効果的に阻止し、商品の保存期間を延長できる。ナノ材料は品質保証期間を延長すると同時に、商品の官能的品質を保つことができる。ナノ材料の安全性はさらなる実証を必要としており、食品包装中のナノ材料の移動の法則および細胞内におけるナノ材料の生物毒性は、今後の研究の焦点となる。

参考文献

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※本稿は楊竜平、章建浩、黄明明、厳文静「納米材料在食品包装中的応用及安全性評価」(『包装工程』2015年第1期)を『包装工程』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網( 北京)技術有限公司