第117号
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医療ロボット技術の発展概要(その2)

2016年 6月28日

倪自強:北京航空航天大学ロボット研究所 博士課程

1985年生まれ、主な研究分野は医療ロボット。

王田苗:北京航空航天大学ロボット研究所 教授

1960年生まれ、博士、教授、博士生指導教官。主な研究分野は医療ロボット、超小型ロボット。

劉達:北京航空航天大学ロボット研究所 准教授

1979年生まれ、博士、准教授。主な研究分野は医療ロボット。

その1よりつづき)

1.5 義肢・外骨格ロボット

 Rheo(写真5a、アイスランド、Össur社)は大腿切断あるいは膝関節離断の患者に適用される。体重125kg以下の患者が使用可能。内 部のマイクロプロセッサが最大1000回/sのペースで足の運動信号をリアルタイムで検出し、地形への適応力もきわめて高い [16] 。C-leg(写真5b、ドイツ、Otto Bock社)フレームは、炭 素繊維材料で作られ、内部のマイクロプロセッサがひざを曲げる際の動特性と安定性を自動的に調節する。使 用者はスポーツを行うこともできる [15] 。i-limb(写真5c、英国、Touch Bionics社)は義手で、24種類のグリップパターンを実行でき、親指を自動的に回転させ、その他の指と共に複雑な動作を行うこともできる。指 の負荷は320N、手首の負荷は900N。R eWalk(写真5d、米国、ArgoMedical Technologies 社)は2014年に米国食品医薬品局の認証を取得した外骨格補助ロボットで、使 用者の立ち座りや歩行、階 段の上り下りといった日常の動作を助ける。内臓電源で1日の基本的な運動を維持でき、身長1.6~1.9m、体重100kg以下の患者が使用可能。

 新型材料とマイクロプロセッサの発展に伴い、義肢・外骨架ロボットのサイズはますます小さくなり、負荷容量が向上し、機能がより豊かになりつつある [15]

写真5

写真5 義肢と外骨格ロボット

1.6 補助・リハビリロボット

 補助ロボットは、動作に不自由を感じる、あるいは運動能力を喪失した人が、食事や入浴・トイレなど、日常の基本的な活動を行うのを助けるために設計された。

 Handy1(写真6a、英国、Rehab Robotics社)は1987 年に開発され、最も早く商業化された補助ロボット。H andy1の運動部分は5つの自由度を持つCyber310マニピュレータとホルダーからなり、使用者の飲食、髭剃り、歯磨き、絵画、ゲームといった簡単な日常動作を助けることができる。また、使 用者のニーズに合わせて機能のカスタマイズと調整も可能 [17] 。さらに機能が整ったものとしては、iARM(写真6b、オランダ、EXACT Dynamic)が挙げられる。その末端は手の指型のホルダーで、ロ ボット全体を電動車いすに設置する。使 用者はレバーを使ってマニピュレータの運動を制御できる。移動プラットフォームにより、iARMの機能は拡大し、使用者は多くの日常的な動作を一人で行うことができる。 

 補助ロボットの研究の難しさは、メカニズムの設計にある。日常生活における複雑で変化の多い機能のニーズを満たし、患者それぞれの身体の状況に合わせて、異なる機能をカスタマイズすることは、研 究者が解決しなければならない重要な問題だ。

 脳卒中、外傷性脳損傷、脊髄損傷の患者は往々にして、程度が異なる機能障害が生じ、回復が難しいが、神経可塑性の原理に基づくトレーニングの繰り返しにより、患 者の脳運動機能の可塑性を最大化することができる。機能的な漸近的行動療法を通じ、患者が再び運動技能を取り戻すのを助けることができる。リハビリロボットは患者の回復を効果的に支援することが可能だ。M yoPro(写真6c、米国、Myomo社)は、脳卒中、筋萎縮性側索硬化症、脳と脊髄の損傷、その他の神経筋障害の患者のために設計された、ウェアラブルな筋電上肢リハビリロボットだ。使 用者の身体の信号を運動信号としてフィードバックし、障害のある部分を動かし続けることで、回復の目的を果たす。Lokomat(写真6d、スイス、Hocoma社)は下肢の回復に用いられる。ロ ボット歩行矯正器、重量支持システム、トレッドミルからなり、事前にプログラム設定した生理歩行パラメータに基づき患者の下肢の運動をガイドし、回復を助ける。

写真6

写真6 補助・リハビリロボット

 MyoProとLokomatはそれぞれアクティブとパッシブのトレーニング・リハビリ方法を採用し、患者の機能回復を実現する。これは現在のリハビリロボット研究の主な方向性となっている。患 者によって障害の程度が異なり、また同じ患者でも回復段階によって必要なトレーニングが異なるため、ロボットがカスタマイズ化されたトレーニングプランを自動的に制定することは、解決が待たれる重要な問題だ。

1.7 病院サービスロボット

 病院サービスロボットには、遠隔医療ロボット、物品輸送ロボット、薬局サービスロボットの3種類がある。

 米国のiRobot社とInTouch社が共同開発した遠隔医療ロボットRP-VITA(写真7a)は2013年、米国食品医薬品局の認証を取得した。RP-VITAは自主ナビゲーション機能を持ち、遠 隔地からの指令に基づき自主的な運動や障害物回避、エレベーターの乗り降りなどができる。

 現時点ですでに多くの物品輸送ロボット(Helpmate、Hospi、TUG、Swisslogなど)が商用化され、病院で使用されている。これらの機能は基本的に同じで、自主的なルート計画、障 害物回避、充電、物品輸送などの機能を持つ [18-19] 。TUG(写真7b、米国、Aethon社)を例にとると、これはレーザー距離計を使って障害物を回避し、ワイヤレス通信を使ってエレベーターに乗り、血 液、薬品、手術用品などを運ぶ。

写真7

写真7 病院サービスロボット

 バーコード、二次元コード、無線周波数識別技術が成熟するにつれ、薬局のデジタル化のレベルも絶えず高まっている。これにより、ロボットが薬局で働く上での効率や正確度も保障され、薬 局ロボットがより普及しやすくなった [20]

1.8 カプセルロボット

 カプセルロボットは胃腸に入り込み、検査や治療を行うことのできるスマートな超小型ツールで、体内検査と治療技術の新たな飛躍と言える。CoreTemp(米国、HQ 社)は最も早く米国食品医薬品局の認証を取得したカプセルロボットで、ワイヤレス通信によって体温のリアルタイムモニタリングと記録を行い、すでに応用開始から20年あまりが経つ [21] 。P illCam(イスラエル、Given Imaging社)は2001年に米国食品医薬品局の認証を取得した。そ の最新システムは14フレーム/秒の速度で高解像度カラー画像を発送することができる。世 界で25万人あまりの患者が使用しており、現在最も幅広く使用されているカプセルロボットだ。NaviCam(中国、安 翰光電技術公司)は2013年に国家食品薬品監督管理局の医療器械登録証を取得し、現 在国内の10軒あまりの病院で使用されている。N aviCamは巡航カプセル内視鏡制御システムと定位カプセル内視鏡システムからなり、磁気技術により体内におけるカプセルの全方位コントロールを実現する。中 国金山公司が開発したカプセルロボットはMEMS技術を採用しており、医師はロボットの姿勢をコントロールし、疑わしい病巣を様々な角度から観察できるほか、病変組織のサンプルを収集し、薬 を投与することもできる。

 現在商用化されているカプセルロボットは、その用途が診断と検査に限られている。カプセルロボットを手術・治療に活用することが、現在の研究の主な方向性となっている。

その3へつづく)

参考文献

[15] DELLON B,MATSUOKA Y. Prosthetics,exoskeletons,and rehabilitation [grand challenges of robotics][J].Robotics & Automation Magazine,IEEE,2007,14(1):30-34.

[16] CHITRAGARI G,MAHLER D B,SUMPIO B J,et al. Prosthetic options available for the diabetic lower limb amputee[J]. Clinics in Podiatric Medicine and Surgery,2014,3 1(1):173-185.

[17] TOPPING M. An overview of the development of Handy 1,a rehabilitation robot to assist the severely disabled[J].Journal of Intelligent and Robotic Systems,2 002,34(3):253-263.

[18] SILVA J B,SANTOS C,SEQUEIRA J. Developing a timed navigation architecture for hospital delivery robots[C]// Bioengineering (ENBENG) ,2013 IEEE 3rd Portuguese Meeting in,Feb 20-23,2013,Braga,Portugal.USA:IEEE,2013:1-4.

[19] OZKILA G,FAN Z,DAWIDS S,et al. Service robots for hospitals : A case study of transportation tasks in a hospital[C]// Automation and Logistics,2009. ICAL '09.IEEE International Conference on , Aug 5-7 , 2009 ,Shenyang,China. USA:IEEE,2009:289-294.

[20] BARRETT M,OBORN E,ORLIKOWSKI W J,et al. Reconfiguring boundary relations:Robotic innovations in pharmacy work[J]. Organization Science,2012,23(5):1448-1466.

[21] JESSICA E M,LEWIS S S. Small changes in ambient temperature cause large changes in 3,4-Methylenedioxymethamphetamine (MDMA)- induced serotonin neurotoxicity and core body temperature in the rat[J]. The Journal of Neuroscience,1998,18(13):5086-5094.

 ※本稿は倪自強、王田苗、劉達「医療機器人技術発展総述」『機械工程学報』第51卷 第13期、2015年7月,pp.45-52)を『機械工程学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記 事提供:同方知網(北京)技術有限公司