第118号
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貴州に誕生した第四次産業の時代

2016年 7月25日 (中国総合研究交流センター編集部/『CKRM』編集部)

自然の恵みがもたらす産業構造

 豊かな自然と伝統的文化に彩られた貴州省。貴重な観光資源に中国内外から人気が高い。人口は3500万人ほど。中国内陸の南部に位置し、面積は日本全土の半分程度、気候は比較的温暖だ。

 貴州都市部は、高い経済発展をしてきた中国他省の各都市に比べ、緩やかな発展をしてきた。「ところが・・・」である。いま貴州省の産業が、地殻変動がおこったように大きく変わってきている。

 貴州省の省都、貴陽市。中国全土の都市別GDPランキングで77位の経済規模だ(2016年1月発表、国家統計局2015年度統計より)。省都クラスの都市としては低位だ。また、同 統計100位以内に貴州省からは遵義市が98位でランキングされている。一人あたりGDP比較ではないので単純比較はできないが、他省の省都クラス都市に比べ低いGDP順位であることがわかるだろう。しかし、こ の両市の前年比GDP成長率に目をむけると、それぞれ12%、14.6%と、なんと全国1位と2位の成長力を発揮しているのである。

 この要因は何か、なぜ自然豊かな貴州の産業が伸びているのか、非常に興味深い貴州新産業に着目したい。

グリーンとクリーンが育む最新テクノロジー

 2011年末頃より「貴安新区」構想が立ち上がった。これは貴州省貴陽市と安順市にまたがった区画に設置された「国家級」の区域である。日本の「国家戦略特区」のような扱いと考えても良い。

 総面積1795平方メートルの貴安新区は、単なる工場集積地ではない。学校、病院、その他多くの行政サービスも含めた広域生活都市概念だ。企業は税制優遇、対外輸出入関税優遇措置なども受けられる。2 013年にはスマフォのOEM製造で有名なフォックスコン(台湾鴻海科技集団)の進出が決まった。2016年には新区だけで500億元のGDP(貴州省全体の5%)となる見込みだ。

 また、インターネット関連の最先端産業であるクラウドコンピューティングデータベースセンター(以下、クラウドセンターと記載)が貴安新区に設置されたことは特徴的だ。中国三大携帯電話通信会社、す なわち中国電信、中国移動、中国聯通の各社がそれぞれクラウドセンターを貴安新区に設置した。実は膨大なデータ処理や保存データの堅牢性のためには、安定している自然環境が必要とされる。穏やかな自然、地 形の安定性、新区として整備された通信回線の安定性などが評価され、貴安新区は中国内屈指のクラウドセンターのメッカとなった。

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写真1 貴州省貴陽市にある中国最大のデータベースセンターのあるビッグデータ広場(写真提供:『CKRM』)

サイバー、宇宙、そして人

 貴州には、サイバー空間だけでなく宇宙空間への取り組みも登場してきた。

 貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州。中国科学院国家天文台が建設をすすめている電波望遠鏡がある。「500メートル球面電波望遠鏡」FASTは、今年2016年に完成予定だ。8 年がかりでの完成を待つFASTは、これまで世界最大であった直径305メートルのアレシボ(プエルトリコ)天文台を上回る。F ASTはこれからの世界レベルでの宇宙産業を支えるための情報収集に強い力を発揮していくだろう。

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写真2 貴州省黔南ブイ族ミャオ族自治州に建設中の500メートル球面電波望遠鏡(FAST)(写真提供:CTP Photo)

 貴州新産業の発展の裏には国家主導の強みが見られる。そしてこの時、私達が避けられない課題がある。一歩間違えれば、サイバー空間も、宇 宙空間も経済ビジネス上の産業競争ではなく軍事的競争の場になることもあるということだ。また同時に、産業ノベーションは軍事産業によって発生してきたという歴史的事実もある。突き詰めれば、テ クノロジーは使い方次第で私達人類にとって友人にも敵にもなっていくだろう。だから、サイバー空間、宇宙空間の産業が発展する貴州には、様々な意味でこれから世界が着目していくことになる。


※本稿は『CKRM』Vol.03(2016年4月)「貴州に誕生した第四次産業の時代」(pp.082-085)に掲載されている。