第118号
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肥満症の薬物治療の進展(その2)

2016年 7月22日

崔家玉:北京大学薬学院薬事管理・臨床薬学部

研究テーマ: 薬学的ケアと合理的な薬品使用

謝暁慧:北京大学薬学院薬事管理・臨床薬学部准教授、修士生指導教員

研究テーマ: 薬学的ケアと合理的な薬品使用、非感染性疾患管理

その1よりつづき)

4 現在 FDAに承認されている治療薬

 FDAに承認された投与期間によって2種類に分けることができる。12週間(3カ月)を境とし、投与期間が12週間以上の薬を長期治療薬、長期使用の安全性と有效性データが不足していることから投与期間が12週間未満のものを短期治療薬としている。表2および表3を参照のこと。

表2 米FDAに承認された肥満の長期治療薬
一般名 商品名および規格 生産企業 承認時期 投与量
オルリスタット  Xenical(120mg) Genentech 1999 120mgtid
Alli(60mg) GlaxoSmithKline 2007 60mgtid
ロルカセリン Belviq(10mg) Arena Pharmaceuticals 2012.6 10mgbid
フェンテルミン・
トピラマート徐放性
カプセル  
Qsymia(3.75mg/23mg Vivus 2012.7 3.75mg/23mgqd
(開始用量)
7.5mg/46mg     7.5mg/46mg·d-1
(推奨用量)
11.25mg/69mg 15mg/92mg)     15mg/92mg·d-1
(高用量)
ブプロピオン・ナルトレキソン徐放剤 Contrave(8mg/90mg) TAKEDA PHARMS USA 2014.9 2tabletsqid
(高用量)
リラグルチド Saxenda Novo Nordisk 2014.12 3.0mg·d-1
表3 米FDAに承認された肥満の短期治療薬
一般名 商品名および規格 承認時期 投与量 作用
メカニズム
副作用
フェンテルミン
(phentermine)
Adipex-P
(37.5mg)
Phentermine Hydrochloride
(30mg; 37.5mg)
Suprenza
(15mg; 30mg; 37.5mg)
1959 30~37.5mg·d-1 アドレナリン作動性食欲抑制剤 血圧上昇、動悸、頻脈、心筋虚血、頭痛、不眠症、不安症、多動、めまい、陶酔感、精神異常、口渇、味覚異常、下痢、便秘
アンフェプラモン(diethylpropion) Tenuate
(75mg)
1959 75mg·d-1 アドレナリン作動性食欲抑制剤 同上
ベンズフェタミン(benzphetamine) Didrex
(50mg)
1960 25~50mgtid アドレナリン作動性食欲抑制剤 同上
フェンジメトラジン(phendimetrazine)

Bontril PDM
(35mg)
Phendimetrazine Tartrate
(35mg;105mg)

1959 17.5~70mgtid
105mg•d-1
アドレナリン作動性食欲抑制剤 同上

4.1 長期治療薬

4.1.1 オルリスタット(orlistat)

 オルリスタットは効果が高く、選択性が高く、効果が長続きし、可逆的な胃腸リパーゼ阻害薬である。ストレプトマイシンから生成された天然のリパーゼ阻害薬lipstatinを合成した誘導体で,膵臓と胃腸中のカルボキシルエステラーゼとホスホリパーゼA2の活性を阻害し、胃腸における食物脂肪の加水分解を遅くし、摂取した脂肪の25%~30%の加水分解と吸收を減らすことができる[18]。4年にわたる二重盲検法、ランダム化比較臨床試験の結果、治療1年目には体重のリバウンドが見られたが、4年後には実験群の体重が5.8kg、対照群の体重が3.0kgそれぞれ減少したほか、耐糖能異常の患者が糖尿病を発症する可能性が37.3%減少し、糖尿病患者も体重の減少によって血糖のコントロールがしやすくなり、また血中脂質低下の効果が見られた[19-20]

 オルリスタットの最も一般的な副作用は胃腸の不快感(油性便、排便回数の増加、鼓腸など)で、軽度の場合が多く、治療期間が長くなるにつれて緩和されることから、投薬を停止する必要はない。2010年にはFDAがオルリスタットの説明書を修正し、補充説明として、投薬中に少数ながら肝臓損傷の症例が見られたとしている[8]。オルリスタットを長期的に使用すると、脂肪の吸收が減少するため、親油性の薬の吸收が減少し、脂溶性のビタミン(ビタミン A, D, E, K)が欠乏する恐れがあることから、ビタミンを補充する必要がある。このほか、いくつかの薬物との相互作用にも注意が必要だ。例えばビタミンKの吸収が減少した場合、ワルファリンの用量を調整する必要がある。治療濃度域が狭い薬と併用する場合は、薬の濃度を密接にモニタリングしなければならない。このような薬の相互作用は、別々に服用することで避けることができる[21]

4.1.2 ロルカセリン(lorcaserin)

 ロルカセリンは選択的5-HT2C受容体アゴニストの一種である。5-HT2C受容体は中枢神経系の中にのみ存在し、心臓弁膜上の5-HT2B受容体が活性化するのを防ぐことで、心臓弁膜の損傷を防ぐ[22]。3つのランダム化比較・二重盲検法試験(BLOOM、BLOSSOM、BLOOMDM)によりロルカセリンの安全性と有效性を評価した結果、使用1年後のロルカセリン群は対照群と比べて体重が3.6kg多く減少した。また実験群の患者の空腹時血糖値、インスリン、総コレステロール、低比重リポタンパクコレステロール、中性脂肪の水準はいずれも統計学的に有意な改善が見られた。よく見られる副作用は頭痛、めまい、便秘、疲労、口渇などである。臨床実験では実験群と対照群の心臓弁膜損傷に顕著な違いが見られなかったが、ロルカセリンの投与期間中は密接なモニタリングが必要とされる[23-25]

 ロルカセリンとその他のセロトニン作動薬を併用する際、セロトニン症候群の発症リスクが高まる可能性がある。うっ血性心不全の患者もロルカセリンを慎重に使用すべきだ。また、潜在的な中毒リスクにも注意する必要がある。

4.1.3 フェンテルミン・トピラマート徐放性カプセル(controlled-release phentermine/topiramate)

 フェンテルミンは主にノルエピネフリンとドーパミンの神経伝達を強めることによって食欲を抑える作用を発揮する。トピラマートは抗てんかん薬で、減量に関するメカニズムは現在のところまだ明らかになっていないが、様々な形で食欲を減らし、満腹感を増やす。両者は複方製剤として使用する場合、単独で肥満あるいはてんかんの治療で使用するよりも用量が少ない。妊娠中の女性がトピラマートを服用すると新生児の口唇口蓋裂発症リスクが増加する恐れがあることから、生殖能力のある女性は治療開始前に妊娠検査で陰性であることを確認しなければならず、治療開始後も毎月検査をする必要がある[26-27]

4.1.4 ブプロピオン・ナルトレキソン複方制剤(extended-release bupropion/naltrexone)

 ブプロピオンはドーパミンとノルエピネフリン再取り込み阻害薬で、抑うつ症の治療や禁煙に使われる[28]。ナルトレキソンはアルコール依存症やアヘン依存症の治療に用いられる。両者は共に視床下部(食欲中枢)に作用し、食物の摂取を減らす。3回にわたるIII期臨床試験で治療効果を評価したところ、プラセボと比べて、服用から1年後、体重が平で4~5kg多く減少した。良く見られる副作用は吐き気、頭痛、便秘、めまい、嘔吐および口渇である[29-31]

4.1.5 リラグルチド (liraglutide)

 リラグルチドはグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体アゴニストであり、2009年6月と2010年1月にそれぞれ欧州医薬品庁(EMEA)とFDAによって欧州と米国における血糖降下薬としての発売が承認された。2011年10月9日には中国で正式に発売され、成人の2型糖尿病の治療に用いられている。2014年12月にFDAによって肥満と過体重治療への使用が承認された。リラグルチドは視床下部(食欲中枢)に作用し、視床下部の満腹信号を増やし、空腹信号を減らすことで食欲を減退させ、カロリー摂取を減らすことができる[32]。過体重と肥満治療におけるリラグルチドの用量は3.0mg、糖尿病治療における用量は1.2mgあるいは1.8mg。良く見られる副作用は吐き気、胃腸の症状[33-34]

4.2 短期治療薬

 短期治療薬とは、長期使用の安全性に関するデータが不足していることから、FDAによって投与期間が12週間を超えてはならないとされた薬を指す。肥満は一種の慢性疾患であり、長期的な管理が必要だ。投薬停止後にリバウンドしやすく、また乱用の恐れと副作用(中枢神経刺激、高血圧、心拍加速など)があるため、短期治療薬は臨床での使用に限りがあり、欧州ではすべて市場から撤退した。現在承認されている4種類の短期治療薬はいずれもアドレナリン作動性食欲抑制剤で、2015年1月に発表された米国の肥満の薬物治療に関するガイドラインにはフェンテルミンとアンフェプラモンしか含まれていない。うちフェンテルミンは米国で処方量が最大の減量薬となっている。

5 過体重あるいは肥満に伴うその他の合併症が見られる場合の薬物治療

 アメリカ内分泌学会は2015年1月15日、初の「肥満の薬物治療に関する臨床ガイドライン」を発表し、その他の合併症を持つ過体重あるいは肥満患者に対して薬物治療を行う場合、できるだけ体重を増やさない薬物を選ぶよう提案した。表4を参照のこと[5]

表4 過体重あるいは肥満に伴うその他の合併症が見られる場合の薬物選択
合併症 体重を減らす薬物 体重に影響が無い薬物 体重を増やす薬物
2型糖尿病 メトホルミン
GLP-1 受容体アゴニスト
ナトリウム-グルコース
共輸送-2(SGLT-2) 阻害薬
プラムリンチド
DDPP-4 阻害薬
α-グルコシダーゼ阻害薬
インスリン
スルホニル尿素類
メグリチニド類
チアゾリジンジオン類
抑うつ症 フルオキセチン
セルトラリン
ブプロピオン
ミプラミン
タロプラム
スシタロプラム
パロキセチン
アミトリプチリン
ミルタザピン
ノルトリプチリン
ベンラファクシン
デュロキセチン
てんかん トピラマート
フェルバメート
ゾニサミド
ラモトリジン
レベチラセタム
VPA
ガバペンチン
カルバマゼピン
高血圧   アンジオテンシン変換酵素
阻害薬
アンジオテンシンⅡ受容体
拮抗薬
カルシウムチャネル遮断薬
β受容体遮断薬の一部(アテノロ
ール、メトプロロール、プロプラ
ノロール)
α2 受容体拮抗薬の一部

6 まとめと展望

 減量薬の幅広い応用を制限する主な原因は、その安全性だ。すでに市場から撤退した薬がもたらした深刻な影響は、今でも人々に恐怖を与えており、ダイエット効果にも限りがある。ゆえに、薬物治療は今もなお肥満症治療の補助的な手段でしかなく、医療専門家のサポートの下、ライフスタイルを改善することこそが、過体重および肥満治療の第一の選択肢となっている。

 肥満は一種の慢性病であり、永久的な減量効果のある薬は存在せず、長期的な服用によってしか体重を維持することができない。また、メカニズムの異なる減量薬を併用し、治療効果を高め、各自の副作用を減らすことも未来の発展方向となっている。

 現在FDAが承認している5種類の長期治療薬と4種類の短期治療薬のうち、中国と欧州で使用できるのはオルリスタットのみである。過体重と肥満患者がますます増える一方で、投薬のニーズが満たされておらず、減量薬の市場は依然として非常に大きい。肥満メカニズムに対する研究が深まるに伴い、新たな薬剤標的が発見され、より安全で効果的な減量薬が開発・使用されるようになるであろう[35]

(おわり)

参考文献

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※本稿は崔家玉;謝暁慧「肥胖症的薬物治療進展」(『中国新薬雑誌』第25卷 第2期、2016年,pp.163-169)を『中国新薬雑誌』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。 記事提供:同方知網(北京)技術有限公司