第118号
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極超音速飛行機再突入フォールトトレラント誘導技術概論(その1)

2016年 7月28日

銭佳淞:南京航空航天大学自動化学院

主な研究テーマ:再突入フォールトトレラント誘導・制御

斉瑞雲:南京航空航天大学自動化学院 教授

主な研究テーマ:フォールトトレラント誘導・軌道最適化、故障診断・フォールトトレラント制御

姜斌:南京航空航天大学自動化学院

概要

 極超音速飛行機の研究開発の過程において最も要となる技術の一つ、再突入フォールトトレラント誘導技術について概論する。極超音速飛行機フォールトトレラント誘導の研究の概況を振り返る。極超音速飛行機のアクチュエータやセンサ、構造などの故障によって引き起こされる、空気力学変数を含むシステムの各変数の変化は、既存の再突入誘導軌道ではすでに誘導の要求を満たすことができない。この問題をめぐっては、再突入フォールトトレラント誘導方法の研究が進められ、故障状況における最適再突入軌道の発見が課題となった。いくつかの再突入フォールトトレラント誘導方法を紹介し、将来的な技術発展についても展望する。

[キーワード] 極超音速飛行機、フォールトトレラント誘導、故障

はじめに

 近年、宇宙資源の開発や利用が進むにつれ、迅速かつ安定的にミッションを完了できる地球・宇宙往復システムに対する需要は日増しに切迫したものとなっている。研究によると、地球・宇宙往復の過程において最も厳しい段階は再突入区間である。このため大気再突入の分野は、宇宙応用を幅広く展開するためのカギとみなされ、再突入誘導・制御問題は、航空宇宙分野の研究の焦点となっている[1-2]。極超音速飛行機の再突入区間においては、再突入のための極めて大きな初期的な運動エネルギーと位置エネルギーを備えているという条件の下、飛行機を安定的かつ安全に既定のエネルギー管理区間(TEAM)に誘導しなければならず、同時に、再突入の過程においては、オーバーロードや動圧、熱流量を許された範囲に制限する必要がある。これは極超音速飛行機の再突入区間における誘導設計が直面する主要な挑戦であり、その他の飛行機と異なる際立った特徴である[3]。極超音速飛行機の再突入区間には、遷音速や多段階、非線形、厳しい制約、深刻な不確定性などの特徴がある[4]

 再突入誘導技術は、極超音速飛行機の開発において要となる技であり、中国および各国の学者が再突入誘導技術に対し、すでに大量の研究を行っている。文献[5-6]は、予測・修正アルゴリズムの設計において大量の研究を行い、X-33プラットフォームを通じて飛行試験を行ったものである。文献[7,8]は、再突入する飛行機の動力学モデリングや再突入軌道・誘導則の設計において大量の研究を行ったものである。文献[9-10]は、飛行機誘導・制御の全体的な設計を行い、軌道設計と誘導則設計、姿勢制御装置設計の面からそれぞれ研究したものである。

 再突入区間におけるフォールトトレラント誘導とフォールトトレラント制御は、相互に関係し、相互に影響する。フォールトトレラント制御の面では、文献[11-13]が、極超音速飛行機の再突入姿勢制御系統について、アクチュエータまたはセンサのスタック、ゲインダメージ、ランダムドリフトなどのよくある故障状況の下、ファジー制御や適応制御、ロバスト制御、スライディングモード制御などの理論方法に基づき、多くの種類の故障診断とフォールトトレラント制御のプランを設計し、姿勢制御システムの安全性と信頼性を高めた。

 再突入フォールトトレラント誘導技術は、極超音速飛行機が再突入過程において故障が発生した際、誘導・制御システムに高度なフォールトトレランス能力が備わっていなければならないという課題を解決し、極超音速飛行機の安全で安定的なエネルギー管理区間への到達という必要性を満たすものである。このため再突入区間フォールトトレラント誘導方法の研究は、実際の応用価値を備えると同時に、飛行機の安定性と安全性の向上に対して重要な意義を持っている。

1 極超音速飛行機フォールトトレラント誘導研究の概況

 米国は、極超音速飛行機の開発のスタートが早く、投資も大きい。半世紀余りの発展を経て、NASAはすでに、「DC-XA」「X-33」「X-34」「X-37」「X-40」「X-43」などの実験宇宙飛行機[1]を相次いで開発し、コロンビアやチャレンジャー、ディスカバリーなどの宇宙飛行機はすでに打ち上げと回収に成功している。だが次世代極超音速飛行機の開発においては、安全性などの要となる技術への要求がより高い。現在、各種の機能停止や故障、異常の状況下で、いかに誘導則を改変または軌道を再構築し、極超音速飛行機再突入のフォールトトレラント誘導能力を高めるかの研究が進められている。以下では、再突入フォールトトレラント誘導・制御に関する一部の研究プロジェクトを紹介する。

1. 1 AG&C 計画

 先進誘導・制御(AG&C)[14-15]計画は、マーシャル宇宙飛行センター(MSFC)が1999年4月から2000年10月まで開発を行ったプロジェクトで、米航空宇宙局(NASA)の長期目標を視野に誘導・制御方法を研究することが主要目的とされた。NASAの長期発展計画では、極超音速飛行機の安全性に対してより高い要求が掲げられており、AG&C法は、飛行過程において発生する故障や干渉などの不確定要素に対し、適応能力と再構築ミッションを担うフォールトトレランス能力を備えている必要がある。AG&Cプロジェクトの大部分の飛行試験は、X-33機上で実施された。

1. 2 IAG&C計画

 統合適応誘導・制御(IAG&C)[15]計画は、AG&C計画を土台として、さらなる技術発展と飛行試験を行ったもので、米空軍研究所(AFRL)が筆頭となって研究を主宰し、ボーイング社の「X-40A」が飛行試験プラットフォームとして選ばれた。IAG&Cプロジェクトは、舵面のスタックという故障類型をターゲットとし、制御再構築や誘導再構築、軌道再形成アルゴリズムを開発し、再突入システムの再構築能力の研究に取り組み、飛行機墜落測定実験でアルゴリズムを検証した。

2 故障の類型と故障の影響

2. 1 故障の類型

 再突入飛行システムにおいて発生し得る故障類型には主に以下のいくつかが挙げられる。

(1)アクチュエータの故障。アクチュエータの故障は、制御舵面の故障である。舵面にいったん故障が発生すると、飛行制御システムの各変数に変化が生じ、飛行機の性能に影響を与え、最終的には制御不能を引き起こす。舵面の故障は主に、スタック、飽和、フロート、制御機能損失に分けられる[16]

(2)センサ故障。センサ故障は、変量の検査測定装置に故障が発生し、測定値と実際の値に誤差が生まれる減少である。センサ故障は、スタックと偏差失効、ゲイン失効に分けられ、このうち偏差失効はさらに、定常偏差とドリフト、精度損傷に分けられる[11]

(3)構造故障。構造故障はシステムの故障であり、主に2つの原因から起こる。一つはシステムの変数の変化、もう一つはシステムの状態の変化である。極超音速飛行機のエンジンや機体、主翼、尾翼、舵面など機体の一部が損傷を受けると、飛行機の空気力学特性に大きな変化が発生し、飛行制御系統が正常に稼働しなくなる。実際の飛行における構造故障の大部分は、飛行機の表面の疲労亀裂・腐食による失効によって起こる。

2. 2 故障の影響

 極超音速飛行機に故障が発生すると、揚抗力の空気力学系数が大きく変化し、空気力学のモーメントに偏差が生じ、再突入誘導軌道ともともとの標準軌道との間にズレが生じる。そのため再突入フォールトトレラント誘導研究のカギは、空気力学系数の変化モデルの識別とモデリング、故障情報の誘導ループへの伝達にある。文献[15]は、飛行機「X-40A」に対し、測定した空気力学データに基づき、故障下の揚抗力系数の変化曲線を導き出し、進行曲線を当てはめることによって両者の関係モデルを取得し、故障下の空気力学系数を誘導ループに伝達し、再突入フォールトトレラント誘導を行ったものである。

3 再突入フォールトトレラント誘導技術の概略

 極超音速飛行機にいったん故障が発生すると、再突入過程の設計に対するフォールトトレラント方法が必要となる。文献[13]は、正常な状況における再突入軌道設計と誘導則設計、制御則設計の間の関係を紹介したものである。故障状況下では、この考え方を参考として、誘導ループと姿勢ループからフォールトトレラント方法の研究を行うことができる。このうち軌道設計と誘導設計はオフライン再突入誘導においてそれぞれ考慮されるが、オンライン再突入誘導については、軌道生成と誘導指令が同時に産出されるもので、この過程は直接、誘導ループにおいて考慮される。文献[17]は、誘導ループと姿勢ループの統合フォールトトレラント設計を紹介したもので、このうち姿勢ループ内部でのフォールトトレラント制御設計は、誘導ループに伝達される指令を追跡することを可能とし、誘導ループが正常な誘導ミッションを完了するため、故障を考慮する必要がない。図1は、両ループの結合によるフォールトトレラント誘導・制御の構造フレームワークを示したものである。この図のうち、再突入フォールトトレラント制御(FTC)[18]技術は、姿勢ループから考慮し、残った正常な舵面を利用し、故障によって損失したモーメントを補償し、飛行機に故障前の動力性能を回復させるものである。余った舵面によって提供される補償には限りがあるため、FTCのフォールトトレランス能力には限界があり、小さな故障でのフォールトトレラント制御にしか適しない。故障が大きくその補償が十分でない時には、誘導ループから、より大きなフォールトトレランス能力を持ったフォールトトレラント誘導技術を考慮する必要がある。再突入フォールトトレラント誘導(FTG)[19]技術は、再突入誘導ミッションの目標を改変し、再突入誘導軌道を再び計画するもので、より大きな柔軟性を持ち、より大きな故障下でのフォールトトレランスのニーズに適用される。

図1

図1:誘導・制御統合システムフレームワーク

Fig.1:Framework of integrated guidance and control system

 フォールトトレラント制御技術はこの数十年で、大きく発展し、多くの研究成果を上げてきた。だが再突入フォールトトレラント誘導技術の面での研究は非常に少なく、極超音速飛行機の安全と安定に対して重大な意義を持っている。再突入フォールトトレラント誘導研究は、現実的な応用価値を持っている。

その2へつづく)

主要参考文献:

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[3]張曼『可重復使用運載器預測校正再入制導研究』[D].哈爾濱: 哈爾濱工業大学,2013.

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※本稿は銭佳淞,斉瑞雲,姜斌「高超声速飛行器再入容錯制導技術綜述」(『飛行力学』第33卷第5期、2015年10月,pp.390-394)を『飛行力学』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。
記事提供:同方知網(北京)技術有限公司