第118号
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固体推進薬における燃焼触媒の研究の進展(その3)

2016年 7月29日

王 雅楽:中北大学理学院

主な研究テーマ:推進薬における燃焼触媒の研究

衛 芝賢:中北大学理学院 教授、博士課程教授

主な研究テーマ:触媒化学及びプロセスの研究

康 麗:中北大学理学院

その2よりつづき)

5 新型炭素材料による燃焼触媒

 触媒に使用できる炭素材料には、グラファイト、カーボンブラック(CB)、フラーレン(C60)、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNTs)などがある。グラファイトは工程潤滑剤と燃焼安定剤として、CB、炭素繊維、C60、CNTsは燃焼触媒として使用される。趙鳳起ら[58]はRDX-CMDB推進薬の燃焼触媒活性に対して異なる炭素物質の研究を行い、フラーレン煤(FS)>CB>C60であることを発見した。炭素物資の作用メカニズムは以下の通りである。炭素層には金属鉛、銅などの触媒床が集結しており、金属の凝固作用を遮断している。またアルデビド、NO、NO2などの気体の漏れを抑制することができるため、凝縮相で十分に反応させ触媒作用を補助することが可能となる。

 同時に、炭素はNO、NO2、PbOなどの物資の高効率還元剤でもある[59]

5.1 カーボンブラック

 カーボンブラックは一種の無定形炭素であり、炭素、天然ガス、重油、燃料油などがあり、空気が不足する条件下での不完全燃焼や熱分解時に得られる産物である。表面積が非常に大きく、吸着性と触媒性を有している。

 カーボンブラックは比較的早くから推進薬の炭素物資として使用されており、金属類の触媒と複合使用することにより効果が増す。例えば、Kajiyamaら[60]はCuOと複合させると、硝酸アンモニウム(AN)に対し優れた触媒効果を発揮することを発見した。趙鳳起ら[27-29]はビスマス塩、少量のCB、銅塩を複合させると、ビラジカル系推進薬に有益な触媒効果を発揮することを発見した。趙鳳起ら[61]はエネルギー含有ナノ有機鉛塩n-ONPPを研究し、n-ONPPとn-PAC複合、あるいはn-ONPPとCB複合が2~6MPa下で燃焼速度を大幅に上昇させる(例えば4 MPa下では、燃焼速度の上昇率はそれぞれ103%、105%となる)ことを発見した。またn-ONPP、n-PAC、CBを複合させると中低圧(2~6MPa)下での燃焼速度が大幅に上昇し、8~16MPaと4~12MPaという中高圧下では拠点燃焼が引き起こされることも発見した。

5.2 フラーレン

 フラーレン(C60)は炭素原子から単純に形成された安定した分子により形成されたものであり、一種の人工合成された炭素の異形体である。12個の正五辺形と20個の正六辺形で組み合された球体であり、燃焼時に炭素原子のケージ状の結合が破壊され高いエネルギーが生成されるため推進薬のエネルギーを高めることができる[59]

 Hanら[62]はフラーレンのRDX/AP-CMDB推進薬燃焼性能の影響を研究し、FS、C60、CBを複合添加するとNGの分解が大幅に向上し、FSがNC、RDX、AP分解速度を0.5%上昇させることを発見した。

5.3 炭素繊維

 炭素繊維は炭素含有量が95%以上であり、片状石墨微結晶などの有機繊維に沿って繊維軸を重ね炭化及び石墨化処理により微結晶したグラファイト材料である。炭素繊維は“外柔内剛”で、質量はアルミニウムより軽いが、強度は鉄鋼より高い。耐腐食、高弾性という特製があり、軍事需要と民間需要の双方において重視されている材料である。

 Lobanovら[63]は炭素繊維(短繊維、3~5mm)とアルミニウム粉末のAP複合推進薬の燃焼速度に対する影響を研究し、炭素繊維の効果がアルミニウム粉末の含有量に伴い、増加した後減少することを発見した。趙鳳起ら[64]は炭素繊維がRDX/AP/HTPB複合変態ビラジカル推進薬の熱分解性能に与える影響を研究し、一般的に放熱ピークが低ければ低いほど燃焼速度は上昇するので、炭素繊維はRDXの分解ピーク温度を215.2℃まで下げられることを発見した。また、AP分解ピーク温度は344.6℃まで下がり、HTPB分解ピーク温度が187.5℃まで下がることも発見した。

5.4 カーボンナノチューブ

 カーボンナノチューブ(CNTs)はマルチアパーチャの一次元ナノクラス材料であり、グラファイト結合の管壁、ナノクラスの孔を有しており、表面積が大きく機械強度の高い優れた熱学性能と電気学性能を有している。優れた熱伝導材料であるだけでなく、優れた担体でもある[65-66]。そのため、直接燃焼触媒として使用することができるだけでなく、触媒の担体として使用することもできる。CNTs上で適用している固体推進薬にナノ触媒の負荷をかける研究は、まだ初歩段階である。その製作と応用は燃焼触媒の発展傾向の一つとなっている。

 於憲峰ら[67]はCNTsをヘキサニトロキサアザイソウルチタン(CL-20)に加え、CNTsの投入量の増加に伴い、CL-20の分解ピーク温度及び放熱量は徐々に低下した。李暁東ら[68]はCNTs、Fe2O3/CNTsとFe・Cu/CNTsのアンモニウムジニトロアミド(AND)に対する燃焼性能と熱分解の影響を研究し、この三種類の触媒は全てANDの燃焼速度を上昇させ、単位面積当たりの圧力指数を低下させることを発見した。このうち、CNTsの触媒効果が最も優れていた。Renら[69]はマイクロエマルションによりPbO/CuO/CNTsを合成した。当該新型ナノ触媒はRDXの分解に優れており、分解温度を14.1℃低下させることが可能である。趙鳳起ら[70]は液相化学沈殿法を採用し、Bi2O3/CNTsを作製した。当該複合物は推進薬の燃焼速度を74.4%上昇させ、16~22MPsでは推進薬の単位面積当たりの圧力指数を0.7834から0.4307に低下させることが可能である。

 炭素材料本体も燃焼触媒とすることが可能であり、他の金属、金属酸化物及び金属化合物触媒と複合使用すると触媒効果を高めることができる。両者を複合使用することにより、協同作用が引き起こされ触媒効果が高まる。炭素材料は触媒効果を補助する効果を有している。炭素繊維とカーボンナノチューブの構成は燃焼過程において熱量の伝達を引き起こす。本項に提示したように、今後は触媒と炭素材料を複合合成し、触媒効果のより優れた燃焼触媒を得ることが期待されている。

6 燃焼触媒剤研究の応用に関する量化計算

 量子化学は量子力学の原理を用いた原子、分子、結晶の電子層構造、化学結合理論、分子間の相互力、化学反応メカニズム、スペクトル、波動スペクトル、電子エネルギースペクトル、無機/有機化合物、生体高分子と各種機能材料の構成と性能関係の科学技術研究である[71]。量子化学計算を通じて触媒メカニズムを研究すると、物質の構成ならびに性質の予測と説明を行うことが可能となるため[71,75-76]、燃焼触媒の合成と応用研究に対する重要な指導が可能となる。

 Zhouら[72]は密度汎関数理論(DFT)を採用し、Mg表面のニトロアミン類固体推進薬の主要成分であるニトロ基化合物NH2NO2の吸着と分解メカニズムに対する研究を行った。李疎芬ら[74]はC60のRDX-CMDB推進薬における触媒メカニズムを研究し、AM1法を通して(Gauss94量化ソフトウェアに含まれるAustin模型Iは、一種の反経験的な量子化法である)空間構成及び分子軌道からC60の結合能力を分析し、燃焼面上におけるPbxC60の活性中心触媒メカニズムを提示し、C60及びFSがCBの触媒効果より優れている理由を示した。またC60及びFSが燃焼ガスにおけるNOx含有量を低下させ、大気汚染を減少できることも示した。Laiら[75]はベンゾイミダゾールデュアルコアフェロセン誘導体を合成し、DET法を採用して構成に対する量子化を実行するとともに、その分子前線軌道数値と電気化学性質の関係を研究し、目標産物の電子転移メカニズムを説明した。謝五喜ら[76]はWhiteの最小自由エネルギー経路計算法を採用し、CL-20を含む3、3-ビスアジドメチルメチルオキセタン-テトラヒドロフラン複合推進薬(BAMO-THF推進薬)のエネルギーレベルに対する理論計算を行い、AP、AI粉末と触媒含有量の当該調合推進薬エネルギー特性に対する研究を行った。計算結果によって、AP、AI粉末の含有量の低下とCL-20の含有量の増加に伴い、推進薬の比推力も増加することが確認された。

 高エネルギー化合物は火薬や推進薬として用いられるため、運用の量子化が数多く報道されている。例えば、張興高[71]はHyperChem7.0量子化学ソフトを使用して半経験的量子化学法を採用し、ジアミノアゾ二酸化フラザン(DAOAF)とジニトロ酸化アゾビスフラザンの分子構成に対して理論計算を行い、原子帯電、静電位、結合の長さ、結合エネルギーの当該化合物感度との関係性、分子総エネルギーと分子軌道エネルギーの当該化合物熱安定性との関係性、生産エンタルピーの大きさから当該化合物に含まれるエネルギー量を研究した。上述の文献から、量子化を用いると予測とともに燃焼触媒の構成を計算できるため、構成デ-タからその特徴(エネルギー、感度、熱安定性など)を予測し、燃焼触媒の合成と応用の指導が可能となると推定される。

7 結論と展望

(1)金属複合酸化物、金属有機化合物と新型炭素材料触媒の研究から、複合触媒は同種の単一触媒及び混合触媒より触媒効果が高いと言える。その要因として以下の3つが挙げられる。①複合触媒における同種の触媒成分は協同触媒作用を引き起こす[17,22,27-29]。あるいは、そのうち一種類が他の数種類に対する補助触媒[26]となるので、大幅に触媒効果が高まる。②触媒には顕著な選択性を有しているため、触媒の種類によって触媒反応も異なる。③推進薬は多構成要素の複合体系であるため燃焼過程における同種反応が共存し、複合触媒の多種類成分はそれぞれ推進薬における異なる反応及び燃焼産物間の反応に分けられる[62]

(2)金属、金属酸化物、金属複合酸化物と新型炭素材料触媒の研究はナノ材料研究を主要なものとしており、ナノサイズの燃焼触媒は対応する通常の触媒よりも高い化学活性を有し、触媒効果もより優れている。しかし、これらの触媒はエネルギーを含まないため、触媒のエネルギーに損失を与えてしまう。このため、対応するエネルギー含有触媒を合成することが必要であると言える。

(3)エネルギー含有燃焼触媒は高い触媒活性を有しているだけでなく、触媒のエネルギー損失も避けることができる。触媒メカニズムから考えると、エネルギーを含んでいることと、ナノ触媒であるということの2つの利点があると言える。高エネルギーで不活性のエネルギー含有触媒の需要をどのように満たしていくかが問題となっている。

(4)生態環境保護は現代社会発展の課題であるため、環境に優しく触媒活性の高い金属を燃焼触媒活性構成要素として設計することが将来の発展の重要な要素となる。

(5)今後は量子化を利用して燃焼触媒の予測や合成指導及び応用研究を強化していく必要がある。まず合成触媒の構成を設計し、エネルギーなどの状況に応じて量子化を行い、構成デ-タを通してその性能や特徴(エネルギー、感度、熱安定性など)を予測し、触媒の合成と研究をより安全で信頼できるものにしていくことが可能となる。

 上述からまとめると、量化計算理論の指導下で、エコで不活性のエネルギー含有触媒を合成することが、今後の燃焼触媒の重要な発展傾向であると言える。

(おわり)

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※本稿は王雅楽、衛芝賢、康麗「固体推進剤用燃焼催化剤的研究進展」(『含能材料』第23卷第1期、2015年,pp.89-98)を『含能材料』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。
記事提供:同方知網(北京)技術有限公司