第119号
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四足歩行ロボットの発展の現状および今後の展望(その2)

2016年 8月31日

孟 健:山東大学控制科学・工程学院博士研究員

研究領域:四足歩行ロボットの制御システム。

劉 進長:中華人共和国科技部ハイテク研究発展センター

栄 学文:山東大学控制科学・工程学院

李 貽斌:山東大学控制科学・工程学院教授

研究領域:ロボット技術、スマート制御理論およびコンピュータ制御システム。

その1よりつづき)

2 四足歩行ロボットの重要技術

 四足歩行ロボットの発展は、さまざまな技術支援から切り離すことはできない。現時点で、四足歩行ロボットの性能と密接に関係する技術は、以下のとおりである。

2.1 高強度機構設計技術

 四足歩行ロボットは一歩移動するたびに重心の上下移動があり、接地時には足先に巨大な衝撃を受け、ピーク値は常に起立状態の数倍から数十倍に達するため、強固な機構がロボットの正常運行の基本的な保証となる。能動的または受動的な緩衝方法によって衝撃を緩和できるとはいえ、運搬目的のロボットにとって、高強度の機構は極めて重要になる。

2.2 広帯域幅アクチュエータ設計技術

 四足歩行ロボットの各関節はいずれもアクチュエータによって駆動されるため、ロボットの動態性能は相当程度、アクチュエータの帯域幅に依存する。特に、ロボットが疾走および跳躍する際は、各アクチュエータによる高速運動が必要となるため、帯域幅が不足するとロボットは跳躍を実現できず、動態安定性さえ維持できなくなるかもしれない。現在、高性能な四足歩行ロボットはすべて油圧駆動方式を採用しているため、帯域幅の広さや出力の大きさ、運動の精確さ等の油圧駆動の長所により、ロボットの動態性能が保証できる。

2.3 高エネルギー密度動力源の製造技術

 動力源はロボットが室外で無線運行する際に必須となる部分であり、出力が大きく軽量な動力源によってロボットの自重を効果的に低減し、機構強度への要求を引き下げ、ロボットの動態性能と負荷能力を向上させられるため、出力密度の向上は極めて重要である。現在、小型ロボットではリチウム電池が、大型ロボットでは内燃機関が動力源としてよく採用されている。

2.4 騒音抑制技術

 ロボットは運行過程でさまざまな騒音を生じる。例えば、コンピュータのファンやアクチュエータ、減速機、エンジン、ラジエーター等のいずれも騒音を発するが、騒音が大きすぎると不快であるばかりでなく、ロボットの実用範囲に制約を与える。このため、消音機を増加し、防音を行う等、騒音軽減策を講じる必要がある。

2.5フレキシビリティ制御技術

 現在、ますます多くのロボットでフレキシビリティ制御技術が採用されつつある。伝統的な位置制御と異なり、フレキシビリティ制御技術の特徴は、各関節が外力に伴う変化によって変位を生じることができる点にあり、微小な変位偏差による出力の大幅な変化を回避できるため、物体を挟んだり、接地時の足先の衝撃を緩和したりする等、外部物体との交互接触に適している。フレキシビリティ実現の方式は受動的緩衝と能動的緩衝に分けられる。受動的緩衝では一般的に機構の変形を利用して外力への順応を実現するが、能動的緩衝は動力制御方法による能動的計画に基づく。能動的緩衝はセンサーやアクチュエータの帯域幅に対する要求が高いが、より機敏な制御が可能である。

2.6 自動平衡制御技術

 四足歩行ロボットは歩行時に支柱となる脚の数が少なく、安定に関する余裕が低い等の特徴があるため、平衡維持が制御システムの基本的なミッションとなる。質量と慣性力を考慮するか否かに基づき、四足歩行ロボットの平衡判定基準は静態的安定性と動態的安定性に分けられる。一般的な静態的安定性の判定基準にはSSM[17]、ESM[18]、NESM[19]、CESM[20]、TESM[20]およびSAL[21]等があるが、ロボットの運動速度への要求が高まるにつれて静態的安定性判定基準は要求を満たすのが難しくなるため、MP[22-24]、DSM[25]およびLAR[26]等の動態的安定性判定基準が主導的地位を占める。

2.7 複雑な地形における歩行状態の計画方法

 歩行状態の計画は四足歩行ロボットの運動制御における核心であり、四足歩行ロボットの障害物乗り越え能力や移動速度に対して重要な役割を果たす。現在の歩行状態計画方法には、中枢パターン発生器[27](Central Pattern Generator)による制御方法とモデルに基づく制御方法がある。中枢パターン発生器は生物の運動メカニズムに対してシミュレーションを行い、微分方程式を用いて相互抑制を行う際にニューロンで発生される周期的振動をシミュレートすることで、各関節の周期運動を制御する。モデルに基づく制御方法では、ロボットの運動学的および動力学的モデルを構築した後に、地形情報に基づいて各関節の運動を計画することで、ロボットの運動を実現する。

2.8 目標の識別および障害物回避方法

 四足歩行ロボットが自律歩行を行う際には周囲の目標を識別し、ナビゲーターと障害物を区別することで人間への追従と自動的な障害物回避を実現する必要がある[28]。正確でリアルタイムに識別する能力は、ロボットの安定的かつ安全な自律歩行を可能にする。よく用いられるセンサーにはCCDイメージセンサ、レーザーレーダー等がある。

2.9 ポジショニングおよびナビゲーション技術

 ポジショニングおよびナビゲーション技術の利用によって四足歩行ロボットは自律的ナビゲーションを実現でき、地図上の指定された目標ポイントをゴールに、ロボットの自律的計画によって移動ミッションを全うできる[29]。四足歩行ロボットの自律的ナビゲーションは、伝統的な移動型ロボットの自律的ナビゲーションに近似しており、タイヤ式のような走行距離計は存在しないが、歩行計の使用により代替できる。

3 四足歩行ロボットの発展傾向

 一部の四足歩行ロボットはすでに驚異的な指標を実現している。理論および技術の進歩に伴い、四足歩行ロボットの性能はさらに向上するだろう。

3.1 移動速度の向上

 米国Boston Dynamics社の開発したロボットCheetahは2012年初めに29km/hという速度記録を達成し、世界最速の歩行型ロボットとなった。このロボットの最新記録はすでに45.5km/hに達しており、ヒトの100m世界記録を上回っている。アクチュエータの帯域幅を向上させ、脚部の回転慣性を減らし、動力源の効率を高めることができれば、ロボットの運動はより速くなり、さらなるスピードを実現できるだろう。

3.2 負荷能力の向上

 四足歩行ロボットは運搬任務の実施に利用することができ、また汎用性のある移動プラットフォームを構成することができる。例えば、BigDogは負荷154kgの状況で、LS3は負荷181kgの状況で歩行できる。機構の改善や出力の向上、制御アルゴリズムの改善等によって、ロボットの負荷能力をさらに高め、実用モデルへとレベルアップできるだろう。

3.3 地形適応力の向上

 現在の四足歩行ロボットはすでに相当の地形適応能力を有し、山地や低木林での歩行が可能であり、倒れた樹木を乗り越えることさえできるが、動物と比べると機敏さに欠ける。例えば、ネコは疾走中に自身の身長の数倍もある高台を飛び越えられ、イヌは壁面を駆け上ってパルクールの動作を行うことができる。研究者の努力によって、四足歩行ロボットもそう遠くない将来にこれらの能力を持ち、凌駕できるものと予想する。

3.4 航続時間の向上

 地形適応能力において、歩行型ロボットはタイヤ式ロボットより優れているが、往々にしてより多くのエネルギー消費を必要とする。米国コーネル大学のRangerは30時間49分間の航続運行による65kmの歩行に成功し、歩行型ロボットの航続記録を更新した。ロボットの受動関節を増やすことで、重心の上下移動の範囲を減らせば、歩行型ロボットのエネルギー効率を高め、航続時間を延長することができる。

3.5 さらに自然な環境センシング

 センシング技術の進歩に伴い、四足歩行ロボットはさらに全面的な環境センシング能力を持つようになり、より複雑な環境で通過可能エリアを自律的に判断してナビゲーション任務を完遂できるようになり、視覚や聴覚を通じて人類や自然とのインタラクション能力を向上させることができる。

3.6 駆動技術のバイオニクス化

 伝統的なエア駆動、電気駆動および油圧駆動方式は工業実用において良好な効果を発揮してきたが、体積が大きく、速度が遅く、出力密度が低い等の欠点によりロボット性能の向上が制限されてきた。そこで、ロボット領域に新たな駆動技術を導入し、ボトルネックを打破する必要が生じている。人工筋肉はバイオニクスに基づくアクチュエータであり、モーターやギア等の複雑な装置を必要とせず、材料の内部構造の改変によって伸縮、湾曲、緊締または膨張を実現し、体積が小さく軽量で、高性能なフレキシブルアクチュエータとなりうる。このほか、新たに開発された変形可能材料、例えば炭素窒素2Dナノチップ電極材料やグラフェン、液体金属等もロボットに応用できる。新しい駆動技術の使用によって四足歩行ロボットの出力重量比が大幅に高まり、動態性能が向上するだろう。

3.7 動態型自己再構成可能機構

 モジュール型自己再構成可能機構はいくつかの独立した機電モジュールにより構成される。各モジュール間にはインターフェースがあり、隣り合ったモジュール同士の移動によって配置の変更を実現し、システムにおいては同一のモジュールを使用してさまざまな種類の配置を構成することで多様な運動形式を実現し、変形によって足の長さを変えられるだけでなく、四足・二足の切り替え、ひいては他の構造との柔軟な切り替えが可能となる。自己再構成可能ロボットは現在、手動組立が必要な静態型自己再構成可能ロボットから、自動組立が可能な動態型自己再構成可能ロボットへと発展しつつある。

3.8 制御可能な発育機構

 制御可能な発育機構によって、自己再構成可能ロボットよりフレキシブルな変形機構を持つことができるようになり、自己修復さえ可能になる。米国MITはこの領域において初歩的な模索を行って先進的な変形材料を開発し、溶解したロウ溶解液中にポリウレタンフォームを放置し、ロウの溶解と凝固によって材料の変形と自己修復を実現した。現時点では四足歩行ロボットに応用可能なほど成熟した技術は存在しないが、将来的には制御可能な特殊材料を使用して、自己成長できる四足歩行ロボット本体を製造することも可能になるだろう。

4 結論

 四足歩行ロボットは、数十年の発展を経ていくつかの喜ばしい成果を上げているが、動物と比べると運動のフレキシビリティの面でなお大きな隔たりがあるため、バイオニクスの視点から新型の駆動方式および構造方式の研究を続け、制御方法を改善し、環境適応能力を向上させる必要がある。四足歩行ロボットの優位性はすでに顕在化しつつあるため、将来的には幅広い分野での応用が期待される。

(その2へつづく)

参考文献

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※本稿は孟健、劉進長、栄学文、李貽斌「四足機器人発展現状与展望」(『科技導報』第33巻第21期、2015年11月,pp.59-63)を『科技導報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司