第119号
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砕屑岩小惑星の粒状体力学モデリングとシミュレーションについて(その2)

2016年 8月 4日

張韻:清華大学宇宙航空学院

李俊峰:清華大学宇宙航空学院 教授

主な研究テーマ:飛行動力学と制御

その1よりつづき)

2 砕屑岩小惑星の粒状体力学モデリング

 砕屑岩小惑星は粒状体力学モデルの一つであり、主に平衡、衝突、摩擦、非弾性衝突などの伝統的な力学プロセスを踏襲している点でマクロ的な力学特性に類似している。さ らに砕屑岩小惑星の粒子間には万有引力が存在しており、我々が粒状体力学を研究する際には、粒状体と重力N体の双方の問題を総合的に考慮する必要がある。

2.1 多体問題

 多体問題とはN(>2)を天体の質点とし、これらの天体が万有引力で相互作用し合う中、それぞれどのように運動するのかを研究する分野である。この分野では、N >2の天体から成る系に対しては未だ解明されていない部分が多いため、コンピューターによる数値モデリングを用い、天体と天体運行システムをモデリングしシミュレートする方法しかない。現在、こ の方面の研究は比較的成熟しており、すでにいくつかの常用アルゴリズムが存在する。例えば:leap-frog法(leapfrog integrator) [47] 、数値積分(force polynomials integrator) [48] 、Ahmad--Cohen領域法 [49-50] 、ルンゲ=クッタ法(Runge-Kuttaalgorithm)及びその発展手法(例えばRKP,RKNなど) [51] 、さらにシンプレティック法(Symplectic algorithm) [52-53] 、ハミルトン法(Hermite algorithm) [54-55] などである。これら複数の数値モデリング手法の比較研究を行ったところ、以下の点を知ることができた:leap-frog法は簡単に実施でき、エネルギー保存則を導き出すことが可能だが、短 時間で交錯する問題を処理する際には積分誤差が発生してしまうため、細かいタイムステップで極力誤差を減少させる必要がある;数値積分法はタイムステップを正しく選択した場合、比 較的長い時間エネルギー保存則を維持することができる。しかし数値積分法は大きな貯蔵空間を必要とし、消耗する時間も長く、通常N<100の状況下で用いられる程度である;Ahmad--C ohen領域法は数値積分法をベースに確立された手法であり、近距離引力作用と遠距離引力作用を分けて計算する際に採用される。計算効率が数値積分法より格段に高く、精度が失われることもないため、N ∼1000の状況を処理することが可能である;ルンゲ=クッタ法は精度は高いが、多粒子多体問題に対しては長期積分がエネルギー保存則を維持することができず、軌 道誤差がかなりの速度で発生する;シンプレティック法は確実にHamilton系に基づく幾何学的拘束安定化を維持することが可能で、エネルギーを損失することなく、エネルギー保存則を維持できる。しかし、効 率面でケプラー運動による軌道をモデリングすることができず、さらにタイムステップが変化する中では積分計算を行うことが難しいため、衝 突シミュレーションが含まれるシステムには相応しくない;ハミルトン法は効率が高く、構造もシンプルであるが、計算精度が他の計算法に劣る。これらのアルゴリズムはそれぞれ異なる長所を有しているが、そのまま、砕 屑岩小惑星のシミュレーションに用いることはできないため、粒状体力学の数値モデリングとリンクさせ、アルゴリズムを改良する必要がある。

2.2 粒状体--多体モデリングの整合性

 ここ数年のことであるが、海外の一部の科学者は多体問題の数値積分法とDEMを結びつけ、砕屑岩小惑星のシミュレーションのための数値モデリング手法を開発した。Richardson [56] らは硬い球状タイプの離散要素法を用い、さらに四段陽的公式を採用し重力積分を行い、木星の潮汐力作用下における砕屑岩小惑星の状況を、247個の球体組成としてモデリングし研究した。こ の研究をベースに、Leinhardtら [57] はleap-frog法N-bodyプロセスコードを用い、衝突と球体の軌道を計算し調べ、アルゴリズム効率をより高めることに成功した。さ らにこの手法を用い二つの砕屑岩小惑星が低速で衝突するプロセスをシミュレートし、そのシミュレーション数値は103以上となっている。またその後も、この手法を用いた関連研究を多く発表している。そ してRichardson氏 [56] はこの方法を採用し砕屑岩小惑星の旋回角度とその形状の関係をシミュレートしている。さらにWalsh氏 [59] などは同様のモデルを採用し、ヤルコフルスキー効果の下で、高速旋回時に赤道から一定形状の砕屑岩小惑星が発射された場合の現象をシミュレートし、数値データと結論を得ることに成功した:これは即ち、も し発射された物質が衝突によりエネルギーの散逸を発生した場合には、その元の衛星に吸い寄せられ二重惑星を形成するという研究結果である。LeinhardtとStewart [60] はSPH法(smoothed particle hydrodynamics)と、そのモデルを結びつけ、砕屑岩小惑星の異なる衝突速度と角度、及 び異なるサイズの小惑星の衝突結果を比較研究している。

 しかし硬い球状タイプでのモデリングでは、本質的に、密度の高い粒子の動きをシミュレートするのには適しておらず、粒子物質の集合体(即ち砕屑岩小惑星)をシミュレートする際には、実 際の多くの球状体が衝突する状況を想定する必要がある。ただ、これらの仮説は粒子物質の表面が変形することを考慮に入れておらず、複雑接触現象が発生する粒子流を処理する手法としては相応しくない。さ らに硬い球状モデルは比較的高い積分効率(タイムステップを自由粒子相応時間とする)を有するとは言え、砕屑岩のモデリングにおいてはシミュレートの程度にせよ、アルゴリズムの安定性にせよ、い ずれも一定の不足があると言わざるを得ない。しかしながら、柔らかい球状モデルはこれらの不足を補うことが可能である。柔 らかい球状モデルの効率性は硬い球状モデル(タイムステップは変形時間の1/50とする)には劣るが、多くの球体衝突と変形が起こり得る状況を解決することができるため、近年、小 惑星研究の分野で応用が進められている [62-63] 。Schwartz [64] らは柔らかい球状モデルの接触力をベースに、その上に粘合力を加味し実験検証を行なっている。その実験結果と数値モデリング結果は比較的合致したものとなっている。Yu [65] らは柔らかい球状モデルを用い、小惑星Apophisが地球に接近した際に、潮汐力作用下において、地表面の宇宙風化層がどのような動きをするかをシミュレートし、重 要なメカニズムを提示することに成功している。こうして、柔らかい球状モデルは小惑星構成のシミュレーションと宇宙風化層の研究に新たな力を注ぎ込んだが、球 体のモデルでは宇宙空間に存在する様々な形の粒子を正確に説明することはできず、アルゴリズムの効率性も粒子物質数値モデリングのネックとなっている(重力場の積分後はさらに複雑になる)。したがって、シ ミュレーションの効率性を高めることと、大容量の粒子をモデリングしていくことこそが、今後、その解決が待たれる課題であると言える。

その3へつづく)

参考文献

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 ※本稿は張韻、李俊峰「砕石堆小行星的散体動力学建模与倣真方法綜述」(『力学学報』第47卷第1期、2015年1月,pp.1-7)を『力学学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記 事提供:同方知網(北京)技術有限公司