砕屑岩小惑星の粒状体力学モデリングとシミュレーションについて(その3)
2016年 8月 8日
( その2よりつづき)
3 小惑星探査における粒状体力学モデリングの主要な問題点
現在の小惑星粒状体モデルの文献は全て、主に小惑星そのものを尺度にした力学特性であり、小惑星探査活動中の着陸、採取、離陸などの行動面への関係性が薄いのが実情である。さ らに探査活動の研究においては [66-58] 一般的に微小重力下での小惑星表面の粒子物質の運動しか考慮されておらず、小惑星全体の重力場環境を含めた研究が少ないため、探 査活動が小惑星全体にどのような影響を与えているかを知る研究成果が見当たらない。しかしながら、これらの研究は砕屑岩小惑星を探査する上では必要不可欠なのである [69] 。本 節では小惑星探査活動中の粒状体モデリングの応用と、主要な問題点につき分析を行い論述する。
3.1 小惑星粒状体モデルの応用
3.1.1 小惑星への着陸と帰還
現在、小惑星の地質構成、表面強度、質量分布など性質に関する知識は未だ非常に乏しい状況にあり、小惑星探査活動を計画するにあたっては、相応しい着陸点に関する情報を把握するのは困難を極めるため、安 全な着陸のためにはさまざまな局面で臨機応変に状況をコントロールすることが求められる。さらに重力が非常に弱いため、探査機は簡単に弾かれ観測対象から離れてしまうため、ア ンカーシステムの設計も重要な要素である。着陸と機体を地面へ固定させるプロセスは、小惑星表面の宇宙風化層へ少なからず影響を与え、ひいては小惑星内部への振動も引き起こすため、探査任務には常に危険が伴う。し かしながら、その点では、小惑星粒状体モデルは着陸装置と着陸性能に対しシミュレーションを行うことが可能であり、探査機の安全な着陸と帰還のため必要なパラメーターと基礎理論を提供することができる。
3.1.2 小惑星サンプル採取
小惑星のサンプル採取プロセスは、小惑星探査任務の成功か否かを判断するほどの重要なポイントであり、極めて大きな不確実性を有している。地球の地表面でのシミュレーションでさえ、空 間構造の力学特性を反映することはできず、ましてや小惑星全体を含む規模ともなれば、そのテストを行うことなど不可能である。それゆえ小惑星粒状体モデルを利用し、サ ンプル採取プロセスに関し全ての系統に及ぶシミュレーションを行い、予測可能な非常事態を見極め、対策を講じ、サンプル採取区域と採取方法を導き出す必要がある。
3.1.3 小惑星に与える影響や変化
探査活動は往々にして小惑星の性質に一定の影響を与えるが、その変化や影響の程度は変えることが可能である。例えば小惑星防御理論で取り上げられている計画構想は、ヤ ルコフスキー効果を利用し小惑星の運行軌道を変えるものであり、言い換えれば、小惑星の表面の性質を変化させることにより目的を達成するという構想である。探査活動中に同計画の実験を実施することができるため、小 惑星の運行軌道を一定以上変化させた状況と、小惑星粒状体モデルを比較することによって、小惑星の物理性質への理解が深まり、シミュレーションモデルのパラメーターもさらに改善させることができる。つまり、今 後の小惑星防御任務の基礎を打ち出すことが可能となるのである。
3.2 解決すべき主要課題
3.2.1 粒状体粒子接触モデル
砕屑岩小惑星は大量の粒子で構成されており、粒子間で接触力、摩擦力、及び重力の相互作用が起きるため、その力学を研究するにあたり、まず接触モデルによる分析を行う必要がある。一 般的な状況下で形成された砕屑岩小惑星の破片(とりわけ大きな破片の場合)が標準的な球状になるのは不可能であり、その形状と球体が受ける力の差は大きく、最終的な結果に大きな影響を与える。そ れゆえ小惑星砕屑岩の運動状態をできるだけ実際の状態に近づけるため、シミュレーション時に非球体で構成される粒子(例えば多面体)の接触モデルと数値モデリング方法を考慮する必要がある。実際、操 作中に多面体粒状体要素の計算と、接触点捜索を行うこと、また大容量の粒子群に対し実用的なシミュレーションを行うことが大変難しい状況であることを考慮すると、より現実的なアルゴリズムになるよう、今後、一 層の研究が必要であると言えよう。
3.2.2 重力場における不規則な破片の精密モデル
小惑星及びその他の破片は一般的に不規則な形状であり、重力場の変化も複雑である。そのため、これらの特徴から導き出される複雑な力学環境が、砕屑岩の形成と運行にどのように影響するのか、ま た探査機にどのように影響するのかを綿密に考慮する必要がある。さらに高精度の不規則な破片の重力場を説明するモデルを作成し、多くの破片間の重力、接触力、衝突力が相互にどのように作用し影響を与えるのか、ま た外力の作用により小惑星の形状と構成はどのように変化するのか、今後とも研究を続けていく必要がある。現在、一部の科学者はすでに双多面体重力場の数値積分方法 [70] を編み出しているが、そ の処理効率と接触作用上にはまだ不十分な部分があり、砕屑岩モデルとして応用するためには今後、改善改良する必要がある。
3.2.3 粒子材料の性質により得られるもの
小惑星粒状体力接触モデルにおいて必要となる粒子材料に関連するパラメーター(例えばヤング率、ポアソン比、剛性率など)は全て往々にして得難いものであるが、モデリング・シ ミュレーションの信頼性を保証するためには、実験に対し比較・検証を行う必要がある。実験の際に小惑星物理観測データと似ている物体(例えば花崗岩、氷塊など)を利用し、静力学実験、衝突実験、崩壊実験、光 弾性実験などで量に関連した測量を行うことにより、その粒子流動力学の動きと、シミュレート結果を比較・分析することが可能になり、結 果的にシミュレーションモデルおよびパラメーターをより優れたものにすることができる。
4 まとめと展望
小惑星粒状体力学モデルの多くの学術研究を融合させることで、モデリングを実際の現象に近づけることができ、小惑星探査任務において重要、かつ指導的役割を担うことができる。本 稿では粒状体力学の発展状況をまとめ、現在、常用されている様々なモデリングに対する分析を行った。また、砕屑岩小惑星モデリング分野における国内外の現状、及び発展状況について要約し、小 惑星探査プロジェクトへの応用分析を行うとともに、現時点で、解決すべき主要な問題点をいくつか示した。小惑星探査の発展は、この先数十年の内に、宇宙航空研究の主軸となるであろう。現在、科 学技術大国はすでに小惑星サンプルリターン計画を提示している。例えば、JAXAのHayabusa2号(2014年発射計画)、NASAのOSIRIS-Rex探査機(2016年発射計画)、E SAのMarcoPolo-R(2022年発射計画)等が挙げられる。科学技術大国の一つである中国が、小惑星探査や太陽系科学探査などの分野において、今後とも発展を遂げていくことは間違いない。小 惑星粒状体力学モデルを打ち立てることは、小惑星探査任務の実行性を示すための基礎であり、またその応用範囲は広く、当研究には大きな前途が開かれていると言えよう。
(おわり)
参考文献
66 Zhao ZJ, Zhao JD, Liu H. Development of a landing mechanism for asteroids with soft surface. International Journal of Aerospace Engineering, 2013, 2013. Article ID 873135. DOI:10.1155/2013/873135
67 Zhao ZJ, Zhao JD, Liu H. Landing dynamic and key parameter estimations of a landing mechanism to asteroid with soft surface. International Journal of Aeronautical and Space Sciences, 2013, 14(3):237-246
68 凌道盛,蒋祝金,鐘世英等. 着陸器足垫沖撃模擬月壤的数值分析. 浙江大学学報(工学版), 2013, 47(7):1171-1177 (Ling Daosheng, Jiang Zhujin, Zhong Shiying, et al. Numerical study on impact of lunar lander footpad against simulant lunar soil. Journal of Zhejiang University (Engineering Science), 2013, 47(7):1171-1177(in Chinese))
69 Go´mez LR, Turner AM, van Hecke M, et al. Shocks near jamming. Physical Review Letters, 2012, 108(5):058001
70 Fahnestock EG. The full two-body-problem: Simulation, analysis, and application to the dynamics, characteristics, and evolution of binary asteroid systems.[PhD Thesis]. Michigan: University of Michigan. 2009
※本稿は張韻、李俊峰「砕石堆小行星的散体動力学建模与倣真方法綜述」(『力学学報』第47卷第1期、2015年1月,pp.1-7)を『力学学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記 事提供:同方知網(北京)技術有限公司