第120号
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中国における鉱物資源の開発利用による環境への影響(その3)

2016年 9月30日

陳軍:中国地質大学マルクス主義学院副教授、中国地質大学中国鉱物資源戦略・政策研究センター

博士,主な研究テーマは資源環境経済学

成金華:中国地質大学中国鉱物資源戦略・政策研究センター教授

博士指導教授,主な研究テーマは資源環境経済学

その2よりつづき)

3. 実証検定

3.1 モデルの設定および変数の定義

 本稿では中国30省市区のパネルデータを用いて、動的パネルデータ分析のモデルを設定することによって、鉱物資源の開発利用による環境への影響を考察する。そのために、以下の計量モデルを設定する。

 式中のEPitはt時刻におけるi省の工業汚染指数を表す。EPit-1はその一定期間のラグを設けた数値であり、工業汚染そのものの内生的成長を制御する。ここで説明すべきは、鉱物資源の開発利用と工業汚染物質の排出との間には現実的な関連性があるため、本稿ではまず工業廃水、工業排気、工業SO2、工業煙塵、工業粉塵、工業固形廃棄物、化学的酸素要求量の7種類の汚染物質の排出量について、時系列データによる主成分分析を運用し[24]、中国各省区の2001-2010年の工業汚染指数を算出して(図1を参照)各地域における環境汚染の状況を示し、その対数形式のlnEPitをモデルの被説明変数とした。ここで特に説明すべきは、ある総合汚染排出指標体系を構築し、ある種の客観的な評価方法を運用して全国各省のさまざまな時期における工業汚染の状況を確定することによって、当該指標により環境汚染の全体レベルを最大限に表すことができ、個別の、または複数の独立した環境汚染指数を利用した実証研究では環境汚染全体の状況を提示できないという不足を補い、改善することができた。当然ながら、工業汚染はさらに遮光、騒音、放射能汚染等のタイプに分けられるが、必要とされる基礎データが足りないため、本稿ではこれら要素による作用を考慮しない。しかし、このことによって、算出される汚染排出指数が下方に偏り、実際の環境汚染は本稿の汚染排出指数より大きいという現象が生じる。また、当然ながら、本稿において工業汚染指数を計算する際は、地域間の汚染物質流動による地域環境品質への影響を考慮していない。

図1

図1 2001-2010年の中国各地の工業汚染指数

Fig.1 Industrial pollution indexes of the provinces in China from 2001 to 2010

 Mmit、EmitおよびNmitはそれぞれ、i省におけるt年の金属鉱物、エネルギー鉱物および非金属鉱物の生産状況を表す。統計当局が各地域における各種金属および非金属鉱物資源消費量を公開していないため、最終消費の視点から鉱物資源の開発利用に関するデータを取得するのは難しい。しかしながら、本稿で検討の対象とする時期は中国が工業化、都市化を急速に推進する重要な段階であり、経済が急速に成長し、鉱産物市場が急激に発達して需要が旺盛な要となる時期でもある。この時期には、強力なインフラ建設と要素市場の拡大によって、鉱産物の生産レベルが向上し、使用範囲が拡大された。市場ニーズの旺盛な銑鉄、石炭およびセメントの三大鉱産物が経済発展を支える基本的な生産手段となり、その生産量と消費量において、金属、エネルギーおよび非金属鉱物資源の開発利用の全体的な状況がかなりのレベルで反映されている。このため、本稿では銑鉄生産量、石炭消費量およびセメント生産量を金属、エネルギーおよび非金属鉱物資源の開発利用状況をはかる指標とし、その対数形式lnMmit、lnEmitおよびlnNmitを説明変数とした。

 Xitは、i省におけるt年の環境影響により生じたその他の説明変数、すなわち、本稿第3部分で述べる産業構造、技術進歩および政府管理等の、鉱物資源の開発利用による環境影響に作用を及ぼす要素を表している。

一般的にいえば、産業構造の形成および変化は地域の分業、生産要素の流動、市場の成長レベルおよび地域間取引等の要素により影響されるため、本稿ではGDPに占める第2次産業のシェア、市場化レベル(本稿の市場化指数は樊綱の研究に由来する。2010年のデータについては補外法により修正した)、貨物輸送量等の指標の積項をもって産業構造を評価する指標として利用し、対数を取ったものをlnINditとして記した。また、FDIおよびR&Dはそれぞれ技術のスピルオーバーおよび内的イノベーションの2つの面から経済成長における技術進歩レベルに影響を及ぼすため、一部の成熟した生産技術が市場取引によって生産プロセスに投入され、技術革新レベルの向上を推し進めた。このため、FDI、R&Dおよび技術市場取引額の3つの積項をもって技術進歩を評価する指標として選択し、対数を取ったものをlnTecitとして記した。このほか、政府管理作用の発揮いかんについては、主に環境汚染対策に対する政府の行動ならびにそれによる資源利用および環境改善の成果に体現される。このため、本稿では、工業汚染対策の投資完了額を政府の環境対策に対する努力レベルの指数として選択し、環境関連の突発的事件の回数、工業排水の基準達成排出量、「三廃」(廃水、固体廃棄物、排ガスの総称)総合利用製品生産高をもって政府の環境管理成果を評価する指標として選択し、かつ、この4つの指標の積項の対数によって政府の環境管理状況を表すものとし、対数を取ったものをlnGovitとして記した。また、εは誤差項である。このうち、環境関連の突発的事件の回数指標は政府の環境管理効果に関する逆向き指標であり、政府の環境管理が厳しくなれば、一般的にはこの指標の値は相対的に小さくなる。このため、本稿ではデータの整理および計算を行う際に、この逆数を政府の環境管理レベルを計る変数とした。

 本稿に含まれる変数は多い上に、いくつかの地域では特定年度の個別の指標データが欠失しているため、期間選択のスパンを2001-2010年とした。また、チベット、香港、マカオ、台湾とそれ以外の中国本土の省区との間には比較可能性がないため、本稿では観測サンプル選択の際に以上の省区を除外した。本稿で取り上げる各指標データは主に、「中国環境統計年鑑」、「中国統計年鑑」ならびに中国諮訊行(China InfoBank)の中国大学財経データベース(中国高校財経数拠庫)、中宏統計データベース(中宏統計数拠庫)、国研ネット・データベース(国研網数拠庫)に由来する。個別指標を欠失したデータについては、加重平均法により修正した。また、データ中の分散不均一性を解消するために、データ分析の際に、各変数のデータについて対数処理を行った。このほか、本稿ではLLC単位根検定を採用して、変数の安定性について考察した。すべての変数は安定性検定に合格している。

その4へつづく)

参考文献

[24] 喬峰, 姚倹. 時系列データによる主成分分析の経済発展描写における応用[J]. 数理統計・管理, 2003,(3):1-5. [Qiao Feng, Yao Jian.The Application of Time Series Analysis and All-around PCA in the Economic Dynamic Description[J]. Application of Statistics and Management, 2003,(3):1-5.]

※本稿は陳軍;成金華「中国鉱産資源開発利用的環境影響」(『中国人口·資源与環境』第25巻第3期、2015年,pp.111-119)を『中国人口·資源与環境』編集部の許可を得て日本語訳・転 載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司